曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0101 1月7日

 

 

 

 薄暗い地下通路は静寂に包まれているとは言えなかった。

 地上は相当の騒ぎになってるようで、騒音のような音は地下通路にまで響いている。悲鳴のようなものは聞こえないから民衆達の方でも怪我人の数は少ないのだろう。

 

 勇者レーヘンの結婚式に起きたテロ。

 事件自体は特に怪我人もなく制圧できたのだが、逃走した犯人への追跡に多くの兵が動員されている。

 

 それに自慢だが俺はVIPだ。

 そんな存在がいなくなったら行方を捜索されるのは当たり前だし。

 魔法使いさんや姫騎士も優秀だ。

 

 ライフズくん一派の逃走経路を割り出すことにそれらの時間はかからない。彼らが逃げ込んだ地下道に兵が押し寄せてくるのは時間の問題だった。

 

 正直、俺がここにやってきたのは判断ミスなのかもしれない。

 

 でも俺としては姫騎士や魔法使いさんが、ライフズくんの友人を殺害することで、仲間内で怨恨が生まれるのだけは避けたいという焦りがあったから……。

 

 人は過ちを犯すものだ。

 大事なのはしっかり反省し次に活かすこと。

 

 

 

「……ふむ、逃げられましたか……」

 

 

 ま、それはともかく。

 だからこそ俺は困っていた。

 

 ライフズくんは地下道から逃げ延びていた。空間転移という秘術による撤退は、魔法技能を持たぬ俺では追跡不可能。というわけで晴れやかな気持ちで帰還することができたんだけどね。

 

 全員が逃げたなら問題なかった。

 しかし転移の魔法で、逃走に成功したのはライフズくんと戦闘職の三人のみ。

 

 ベストールさんとレニヒさん。

 二人はこの場に残されている。

 

 そしてその片割れは崩れるように倒れたのだ。

 

 仲間を連れての離脱。

 そんなことできるなら最初からやれという話であり。ここまで温存した=相当のリスクがあるってことなのだろう。

 

 

「…………」

 

「レニヒさん、危ないですから刃物は取り上げますよ」

 

「……ぁ……」

 

 

 そして唯一、意識も失わず残されたレニヒさんはガクガクと震えつつ、手にした刃物を己の方に向けている。緊張しすぎなのか、他に理由があるのか。

 

 ともかく俺はナイフを取り上げて。

 

 

「……あー、なるほど、代償法ですね」

 

 

 倒れたベストールさんの様子を伺う。

 細かく診察する必要はなかった。

 彼女の生命力は明らかに削れていた。

 

 確か彼女のワープの許容人数は自分を含めて2人ほど。

 なのに4人を一気に飛ばした。

 

 だからだろう。

 聖剣を使ったレーヘンのように。

 彼女の器が削り取られているのだ。

 

 確か代償魔法ってやつだっけ。

 俺は勉強して学んだ魔法についての知識を記憶の奥から取り出す。寿命を対価に限界以上の力を引き出す禁断の技術のことだ。

 

 ただ……そのコストはかなり重いようだ。

 レーヘンは20年分で魔王さえ消し飛ばす光を放つというのに。

 彼女の命は枯渇しかけている。

 

 だから立っていることもできず崩れ落ちた。

 すでに意識は絶えていて、その顔面は蒼白だった。

 

 もしかして彼女としても予想外だったのかもしれない。ここで自分一人が残ることで何かしらの交渉をするとか色々考えていたのかもしれない。

 

 ……流石にこれは仕方ないな。

 人命に勝るものはない。

 

 ライフズくんも、最悪、自分の利敵が露見したとしても目の前の誰かの命を助けて欲しいと願うはずだし。

 俺はベストールさんの寿命の補填をした。

 

 

「……な、なにを?」

 

「他の方には話さないでくださいよ?」

 

 

 レニヒさんは俺が行商人さんの治療をしたことを視認していたけど、流石にね?

 

 そしてここまできたらせっかくなのでベストールさんの古傷ーーお腹を刺された跡とかもまとめて治療しておく。

 

 ついでに目撃者の治療もだ。

 

 

「彼女の意識は少ししたら戻るでしょう。ですがそろそろワイスとバックルさん、二人がここに辿り着きます。俺も時間を稼ぎますが……彼女を抱えて移動できますか? 意識を取り戻すまで隠れて、その後ワープで撤収してください」

 

「……は、はい……なんでですか?」

 

 

 治されたこと、治療されたこと。

 そして今の発言。

 

 レニヒさんは俺が敵ではないことをはっきり理解したようで、少し呆然としているけど。彼女が思わず漏らした疑問にわざわざ答える必要はない。

 

 

「それと彼女の代償は補填しておきました、意識が戻った後に何かおっしゃられるかもしれませんが、そのフォローをお願いします」

 

「え、あ、わかりました」

 

 

 ま、代償の補填については仕方ない。

 魔王のような強大な存在がいない以上は、緊急時に明かしてもまあ、仕方ないしね。

 

 

「最後に、繰り返しになりますが今回のことは内緒ですよ? 誰にも言わないでください。ライフズくんにもね?」

 

「……このご恩は忘れません、ゾーニッヒさま。以前助けていただいた件も……本当にありがとうございます」

 

「怪我人を治すのはヒーラーの義務ですよ。さあ、行きなさい、転ばないように気をつけて、ね?」

 

 

 本当はライフズくんには言っていいわけだけど……できる限り俺と彼の関係については隠したほうがいい。

 今回は俺が利敵したってだけ。

 ライフズくんを巻き込む必要はない。

 

 時間がないことはレニヒさんもわかっていた。

 だから余計な問答に時間をかけることもなく、彼女は手早く倒れ伏した行商人を背負うと地下道の先に駆けていった。

 

 

 まず大前提として俺の価値観は共生派。

 魔族と敵対するつもりはないし、仲良くできるならそれに越したことはないと考えている。

 

 個人的な感情抜きに親人間派である魔王と余計な対立をする意義はないからね。そんな俺にとってベストールさんの身柄は……すごく困ることになるのだ。

 

 捕らえた上で彼女と交渉する。

 なんてことも脳裏をよぎるんだけど。

 

 そもそも彼女達は立場上は敵なので『見つからないように隠れた上であとあと俺の屋敷に来てくれ』なんて言っても、逃げられるし。

 

 捕えるなんてことも無理。

 

 俺は自慢だけどVIPだ。

 地上に戻ったら速攻追いかけてきた護衛の兵士に囲まれるからね。

 こっそり匿うことは不可能だ。

 

 間違いなく、姫騎士と賢者さんも俺の行方を追っているし。

 

 じゃ、二人を確保したことを公開した上で手元に置くかってのも難しい。

 

 残念ながら今の人類連合の主観だとベストールさんは人類に攻撃してきた連中の一派でしかない。

 

 そんな魔族を捕まえたらどうなるかなんて言うまでもないだろう。

 

 人質なんて抱えたらその処遇を巡って、人類内の穏健派と過激派の対立の火種を生みかねない。

 

 俺の権力なら強権で押し通し保護することはできるが……流石に連合王国の風聞も悪くするし。

 その場合、『神官長にまで迷惑をかけやがった』と、仲間や、俺に好意的な感情を持つたくさんの人々にも魔族憎悪が強まる。

 

 やっぱ確保するのはデメリットの方が多い。

 となるとここは自力で逃げてもらうのがベスト。

 

 え? ならこの二人から何かしらの話が漏れるかもしれないって? 

 

 その場合は魔族の言うことで全部デマってことにすればいいだけだ。現在の人類はそういう最低限の信頼関係さえない。

 

 なんて大義名分を秒で編みだし。

 俺は魔族の皆さんを逃した。

 後悔と反省もしていない。

 俺は間違ったことはしていないと確信していた。

 

 

「……っ、神官長さま⁉︎」

 

「すみません、姫さま、魔法使いさん。逃げられました。ワープを使われたので追いかける必要もありません。帰りましょう」

 

 

 姫騎士ワイスと魔法使いさんがやってきたのは、それからすぐのことだった。

 俺はライフズくん御一行には逃げられたということにして、二人を連れて一旦結婚式会場に戻ることにするのだった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 というわけで新郎新婦の控室に帰ってきた俺は、レーヘンと一緒に待機していた。魔法使いさんと姫さまは他にやることがあるそうで既に部屋を立ち去っている。

 

 転移魔法を使って、敵がどこに逃げたのかの割り出しをする、とか。諸々とやることがあるらしい。

 俺としても手伝おうかなと思ってんだけど。

 ここは勇者さまのフォローが最優先。

 

 一応俺は夫だからね。  

 妻は何より優先されるべきなのだ。

 

 一応怪我人がいないかだけ確認したが、予想通り精々が打撲程度の被害しか出ていないらしい。まあ亡霊との戦闘はめちゃくちゃ一方的だったから、恐怖や不安も感じ難かったようで。

 

 パニックによる群衆雪崩のようなものも起きていなかったのは不幸中の幸いだった。

 

 今回の結婚式の準備設営、警備などは人類連合の担当ということになっている。

 

 全てを俺が指揮する必要なんてないし。

 そんなことは俺には無理である。

 

 周囲にやたらと高評価され、やることなすこと全て計画通りの完璧超人と思われている節がある俺だが、普通にできないことは多い。

 

 今回だってやらかしたしな!

 でも仕方ないんだ、人間だもの。

 判断ミスもあれば、やらかすこともある。

 

 

「ということで、御二方には少しお色直しをしていただいた後に、順次、式を再開して欲しいとのことです」

 

「なるほど、人類連合はそういう決断を下しましたか……」

 

「大丈夫だよ、多分敵は来ないからね!」

 

 

 そんな俺たちの元に担当者の方がやってきて、そんな要望を口にしたのは帰還の少し後のことだった。

 

 勇者レーヘンの結婚式は、非常に重要な式典だ。

 魔王討伐一年を祝うような盛大なお祭りでもあった。

 

 怪我人はろくにいなかった上に、即座に治療されたこと。

 そしてここでイベントを延期するというのは魔族の攻撃に敗北したと見られかねない。

 

 逆に敵は全て撃退、魔族を返り討ちにし。

 その興奮が冷めやまぬ中で結婚式を行う。

 

 魔族やテロとの戦いでの勝利を民衆に知らしめられる。

 

 そんな政治的な理由と相まって。

 結婚式は、途中からやり直すことになった。

 

 ちなみに戦闘が起きたとはいえ、式会場の棄損は大したことはなく。修理修繕、清掃はーー俺がライフズくん一派と戦っていたあたりで完了していたそうなので問題はない。

 

 

「それとゾーニッヒさま、誠に申し訳ございません、『ーー』の捜索は難航しております。ご命令を果たせぬ無能をお許しください」

 

「ま、民衆の数が多すぎるから仕方ないさ、あの中から小柄な女の子を探せって言うのは困難だろうしね」

 

 

 ちなみに、残念ながらテロの主犯の片割れである四天王には逃げられてしまったそうだ。俺が指示を出した護衛の兵士には深々と謝罪されたが……彼らに責任は全くない。

 

 本日の暫定都市にはあまりに多くの人間が押し寄せている。

 大陸各地から集まった人、人、人。

 路地という路地がごった返している。

 この状況で群衆の中に紛れ込んだ一人を探すのは不可能だ。

 

 というか敵の本命は初手で襲ってきた魔族四天王であり。

 そんな男が瞬殺された時点で計画は失敗に終わり。

 逃亡が選択されたと思われる。

 だからこそ亡霊による攻撃はすぐに止んだのだろう。

 

 テロ事件発生直後、事件の混乱の中で逃げ惑う市民に乗じて人混みに隠れられたら、ね……。

 

 

「結婚式の最中、逃げるように街を立ち去ろうとする人がいたら、犯人関係者だと思われるから監視するようにしてくださいね」

 

「はい、必ず犯人を確保してみせます、汚名返上の機会を与えてくださったことを感謝いたします、ゾーニッヒさま」

 

 

 いや捜査は続くんだけどね。

 式典を再開して市民たちをこの都市に引き留め。

 逃げるような素振りを見せる敵を見つけ出す必要がある。

 

 警備担当者は深く頭を下げ。

 そのまま部下に指示を出すために立ち去って行った。

 

 あの人のフォローもしなくちゃなぁ。

 警備担当者はね、貴人を守れたからって許されることはない。

 テロを起こした時点で大失態。

 非難の対象になるのは確実だからね。

 

 

「それで神官長としては犯人が見つかる確率はどんなもんだと思ってるの?」

 

「極めて低いかなぁ……今回も逃げられただろうね」

 

 

 なんてことをぼんやり考えつつ。

 控室に残された俺とレーヘンは、そのままのんびりと言葉を紡ぎ始める。

 

 汚れ一つないウェディングドレスを纏ったままの勇者さまは、相変わらず元気いっぱいだ。一応自分の結婚式で大きなトラブルがあったんだけど……彼女の顔には曇り一つ存在しない。

 

 

「……ちなみに今回の事件について何か思うとこととかある?」

 

「もー、心配しすぎだよ、あなた。ボクはこういうトラブルを乗り越えたっていうのもいい思い出になるタイプだから、大丈夫だよ」

 

 

 今回の事件も彼女にとってはちょっとしたサプライズのようなものでしかない。一応テロ事件が起きたわけなんだけどね? そんなちょっとした問題ってわけではないというのに……メンタルが強いなぁ。

 

 

「それに護られる立場ってのもいいもんだからね、あなたの後ろでお姫さまやれたのは割と結構、ドキドキした!」

 

 

 色々な問題を考慮した結果、勇者レーヘンは今回は亡霊の対処には動いていない。彼女は他の貴人たちと同じように護られる立場だった。

 人類最強の剣士であり、その気になれば第二の魔王として君臨できる勇者であるとはいえその感性はパン屋の娘。

 こういうシチュエーションはツボなのだ。

 

 

「ま、これからもずっと護ってやるさ。お嫁さんなんだからな」

 

「……う、うん、約束だよ?」

 

 

 だから俺はそういうことを口にした。

 きちんと言葉にするのは大切だからね。

 

 しかし頰を赤く染めたレーヘンは、部屋に流れる空気がとても恥ずかしくなってしまったらしく。

 

 

「それにライフズくんもお祝いに来てくれたからね! やっぱ持つものは親友だよね、立場上表向きは遊びに来れないからって、裏で見守ってるなんてさ! ボクもそういうの憧れるよね、変装して裏からサボートするのって浪漫あるし!」

 

「……そ、そうだな……」

 

 

 幼馴染兼親友の男の子について口にした。

 少し早口で、羞恥心を誤魔化すように紡がれるそんな言葉なんだが……

なんていうかその、ね? 

 

 勇者さまは、結局結婚するまで幼馴染の恋心には気がつかなかった。そんな事実に、俺は歯切れ悪い返事を口にしてしまう。

 

 脳破壊されて、白無垢姿を見られない。

 そんなBSS被害者の後遺症なんてこれっぽっちも勘づいていないのだ。本当に無情というかなんというか。

 

 ともかくそんなやり取りをしつつ、準備が整うのを待ち。 

 そうして俺とレーヘンの三度目の結婚式は誓いのキスの直前からやり直されるのであった。

 

 俺たちはそうして結ばれた。

 

 

 

ーー聖歴0101 1月9日ーーーー

 

 

 翌日の夕方のことである。

 結婚式と披露宴、そして市民の前でのパレードなどに及んだ俺たちは日程の全てを終えていた。

 

 あとは祖国に帰るだけ。

 なんだが……せっかくの好機を活かすことができなかった姫さまや魔法使いさんのフォローをする必要があったしね。

 

 というわけで結婚式後は仲間達と過ごした。

 そんな日の夜のことだった。

 

 

「先日はご迷惑をおかけしました、申し訳ございません」

 

「いいのいいの、流石に俺と……勇者パーティー一行だけじゃ敵の駆逐が間に合わなかったかもだからね? 犠牲が出る前に止められたのは君たちの力があったからだよ」

 

 

 ライフズくんは俺の部屋にやってきていた。

 どうやら近隣の民家に仮拠点が存在するらしく。

 機密情報の削除とか、あれこれするとか言い訳して、事件から一日後に再び都市を訪問したらしい。

 

 そんな男の子は開口一番に謝罪してきたのだ。

 

 ライフズくんたちの存在は決して無駄ではなかった。彼らの存在があったから敵の攻撃を短時間で抑え込むことができた。

 だから怪我人の数も少なかった。

 それは間違いなく彼らの功績だ。

 

 

「何言ってるんですか、神官長がいる限り死人なんて出るわけないでしょ? あの場で死者なんて出ませんでしたよ」

 

「俺にだってできないことはある」

 

「はは、ご冗談を」

 

 

 死者の蘇生も、俺と縁深い存在じゃないとできないからね。

 レーヘンとか、あと親兄弟じゃないと。

 見知らぬ他人は蘇生できない。 

 死んでしまえば助けることはできない。

 

 ま、テロは起きたが……被害を抑え込めたことは本当に大きい。

 死人が出ていたと思うとゾッとする。

 ライフズくんが来てくれてよかった。

 そんな本音を俺は口にしたのだが。

 

 

「それはさておき、今回の事件は魔族がやったことですから、本来なら僕らだけで止める必要がありました。むしろ僕らがお礼を言う側です。力を貸して頂きありがとうございます」

 

 

 そんな毎度恒例の謝罪タイムがスタートしてしまうのだ。

 魔族のやらかし=僕のやらかし。

 ライフズくんは頭を下げにわざわざやってきたのだ。

 

 

「そして仲間たちが神官長を攻撃した事について謝罪させてください、お怪我はしてないようですが、本当にすみませんでした」

 

「いいよいいよ、ゆるす」

 

 

 そもそも、今回の件は変に様子を伺おうとして、存在を知覚された俺のやらかしだと思ってるんだけど……そういうことを言うとライフズくんは結構気にするからね。

 

 だから俺は許す、という形で話を終わらせた。

 

 

「寛大なお言葉に感謝します」

 

「そもそも怪我なんてしてないし。あとその堅苦しい口調やめてくれない? なんか爆笑しちゃいそうになるからさ」

 

「いや、ありがとうとごめんなさいはしっかり言わないとダメじゃないですか、神官長」

 

「ごめんなさい、反省しています」

 

 

 ちなみに俺も普通にライフズくんのことを強めに殴ったし、彼の仲間たちのことも攻撃したので彼の理屈で言うなら俺も謝罪するべきなんだけどね。

 というわけで会話に紛れてしれっと謝った。

 

 

「それにしても神官長、また強くなりましたよね。攻撃が重いのなんのって。普通にあ、死んだってなりましたよ」

 

「ああ、守るべきものができたからね」

 

「はぇかっこいいなぁ……はぅ、ぅぅ、頭が……」

 

 

 なんてあれこれ考えつつ言葉を紡いでいたからだろう。俺は反射的にライフズくんの脳にダメージを与えてしまう。

 つまり妻ができた=レーヘンと結婚したってことを婉曲的に表現してしまったからね。遅効性の毒は彼の脳を軋ませた。

 

 

「でもいい子たちだったね、友のために格上にだって挑みに行く、俺は好きだよ? ああいう人を守りたいとも思ってるし」

 

 

 というわけで俺は強引に話題を変えた。

 ライフズくんは、彼の仲間たちが俺に攻撃をしようとしたことに罪悪感を抱いているようだけど、俺は全く気にしていない。

 

 むしろ、好感度は上がったまである。

 

 彼らは俺を格上だと思っていて。

 その上でライフズくんを守るために己の身を挺して敵わぬ相手に戦いに挑んだわけで。そういう気質は普通に好きだ。美徳だと思うし。 

 

 ベストールさんはそんな仲間たちを我が身を犠牲に逃した。

 それも間違いない美徳であった。

 

 

「気持ちのいい人たちじゃないか、友達かい?」

 

「まあ、そんなところです」

 

 

 ライフズくんとしても彼らの好意をこうして口で言われたら気恥ずかしくなってしまうようだ。魔王といっても明確な上下関係というより友人関係って側面が強い。

 

 

「そういえば、ベストールさんの方はどうだった? レニヒさんには余計なことは言わないようにって説得したんだけど」

 

「あー、やっぱり神官長がわざと見逃した感じですよね? 彼女は隠してましたけど。幸運に恵まれて逃げられたとかベストールが偶然転移を発動させたとか報告してましたし」

 

 

 どうやら頑張ってやり過ごした的な話をしてたらしい。明らかに無理があるわけだが……まあ逃げ延びたからセーフってことで深くは追及されなかったそうだ。

 

 

「そうなんだ、ごめん、レニヒさんの前で倒れたベストールさんの治療したから。かなり無茶したみたいで緊急を要してね。だから俺が穏健派なのはバレた」

 

「……そうなんですか」

 

 

 と言うわけで俺は細かな事情を説明するのであった。

 代償の件についてはしっかり説明しておく必要がある。

 また似たような展開になって、同じような自己犠牲する可能性は高いからね。

 

 

「……次はベストールについても気にかけることにします。命を対価にしかけただなんて……」

 

「ただ完璧に治したから安心してくれよ? 後遺症もない。ただ俺がいない時だと問題だから説明したんだ」

 

 

 もちろん細心の注意を払い、勇者レーヘンが代償を払ったと勘違いされた失敗を最大限に生かし。誤解が生じぬように気を払って言葉を紡いだ。

 

 人は過ちを犯すものだ。

 大事なのはしっかり反省し次に活かすこと。

 

 

「……本当にありがとうございます、神官長」

 

「一応知り合いだし、そんな存在が死ぬのは流石にね」

 

 

 だから説得は無事成功し、変な誤解や勘違いが生まれることもなく、俺はフォローすることに成功するのであった。

 

 

 

 

 

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