曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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今回も掲示板会ではありません


聖歴0101 5月8日

 

 

 

 モルセーユ王国。

 

 それは大大陸において最初に解放された国家の名前である。

 人類連合暫定首都一帯に存在した小国は今では連合王国に次ぐ巨大国家に成り上がっていた。

 

 経済的な復興著しい暫定首都近郊。

 大大陸最大の都市は莫大な富を生み出す。

 

 魔王軍との戦いの心臓部として、絶えず支援を受けたことで、今でも連合王国とは経済的な結びつきは強く。

 多くの旧支配者階級を受け入れ、パルチザンリーダー達と折衝が繰り返された結果、政治的にも非常に重要な地位を得ている?

 

 経済力という意味でも政治力という意味でも、大大陸屈指。

 だからこそ政治的な振る舞いをしない、というのが国王の選んだ選択だった。

 

 それはソルト王室と似たようなものなのかもしれない。

 政治的主導権を得るなんて身の丈に合わない。

 だからあえて距離を置いた。

 

 他国と敵対しないようにあくまで中立を維持する。

 

 社交界のホストにして。

 連合会議の議長。

 

 俺は海を渡って、そんな王国を訪問し。

 政治の重鎮にまで上り詰めた元パルチザンリーダーと会談に及んでいた。連合王国二代目国王ゾーニッヒ、初めての外遊であった。

 

 

「あの子は元気にしておりますか?」

 

「ええ、大変優秀な方ですからね。王子は」

 

 

 俺とレーヘンの結婚式。

 その警備主任を任されたのは、そんな議長の次男である。つまりモルセーユの王子様だね。

 しかし……テロが起きてしまった以上は責任を取らねばならない。

 

 これで犯人の一人でも捕らえられたら面目も立ったのだろうけど。

 ライフズくん一派は完全に逃げ延び。

 過激派の一人は勇者さまが仕留め。

 その片割れは見事に逃げ延びている。

 

 これは流石に責任問題となるわけだ。

 

 ただ俺としては、今回の結婚式は魔族の襲撃を誘発させるための囮扱いだったわけで。

 そのせいでキャリアを失うというのは良心の呵責がすごいわけ。というわけで王子はほとぼりが冷めるまでは連合王国との外交官としてキャリアを積んでもらうことになっている。

 

 ちなみに先日、ソルト宮殿にやってきたのが件の王子さまだったりする。

 

 自慢だが連合王国は大国だ。

 そんな国家への連絡役なんて相当の貴人でなければ務まらない名誉あるお仕事。今回の来訪もそんな王子から要請があったためにやってきたくらいだしね。

 

 

「……感謝いたします、ゾーニッヒ陛下」

 

「正直に言いますと、俺はあの事件が起きる前提で結婚式を開きました。だから責任を取るべきなのは俺でしょう?」

 

 

 正直は必ずしも美徳ではない。

 国家間の関係なら尚更だ。

 しかし俺はあえてそういう言葉を口にした。

 

 あえていうならモルセーユという国を非難の槍玉にさせたくないし。

 今回のテロは想定していた、ということにして民衆の不安を抑え込む意図もある。

 

 あと、貸しだね。

 モルセーユの大失態に連合王国側からフォローを入れるという貸し。

 

 そういうことを頭に入れつつ。

 お話ししてたんだけどね。

 

 

「……陛下に少しお耳に入れたい話がありまして」

 

 

 元パルチザンリーダーな国王陛下は深刻な顔でとある情報について伝えてきたのだ。

 

 

「……なるほど、ベストールと呼ばれる魔族が魔王の妻であったと」

 

「信憑性は低いのですが、厄介なのは市民や一部軍人、それに幾つかの高官までもがそれを信じてしまってることなのです」

 

 

 社交ではとある噂が語られていた。

 曰く、魔王ライフズの恋人であるベストールは前代の魔王の妃であり。

 彼との間に男児を産んでいると。

 

 ベストールさんって魔王妃その人なの⁈

 あの人現場で動いてたよな、身体張りすぎじゃんか……。

 俺は思わず唖然としてしまう訳なんだが。

 

 ま、信憑性はないに等しい。

 だって具体的な根拠はないからね。

 そんなタレコミがあったってだけだし。

 

 

「市民の耳に入るところまで……ですか。随分と急に広まりましたね?」

 

「ええ、本当に厄介な話です」

 

 

 しかもそんな話はかなり拡散されているそうだ。今では市民の耳にも届いているとか。

 

 魔族といえど穏健派と過激派の存在があることはある程度の権力があれば耳にするものだ。

 

 現在人類に攻撃を繰り返しているのは魔王軍残党であり。穏健派はそれを止めようとしている。

 

 そんな内情は、結婚式会場で突如出現した魔族を討伐して回った彼らの行動から見て取れる。

 

 穏健派はあの魔王の部下ではない。

 特にその頂点、新なる魔王ライフズは勇者パーティーとして魔族と戦ってきた英雄だ。

 

 人類を攻撃する意図はないのでは?

 

 みたいな話は俺とレーヘンの結婚式後、彼に護られた人々から少しずつ語られ始められたそうなのだが……そんな和解ムードは今回のリークで一気に消し飛んでいた。

 

 

「ま、所詮は噂ですが……もしそれが真実なら非常に困ったことになります、誰もがあなたのように冷静ではありませんからね、ゾーニッヒ陛下」

 

「突き上げとか起きてるんですか?」

 

「ええ、我が国の内部でも魔王ライフズ討つべし、なんて声が上がっております。軍部や官僚達の間からさえ」

 

 

 魔王軍への恨みは根深い。 

 そりゃ当たり前だ。ある日突然攻撃を開始し、人類国家の悉くを滅ぼした存在なのだ。

 

 彼らの王であった魔王は憎悪の的だ。 

 末端や尖兵ではなく、明確な意思を持って人類を滅ぼしにかかった怨敵。

 

 その妻、その息子。

 それは魔王亡き後に怨嗟の的になるのは仕方ないことだと思う。

 

 個人的には、根っこは悪いやつではないんだけどね。悪いことを散々やらかしたのは事実だしね。

 

 というか言えよと思わなくもない。

 

 生き返る俺に子どもをお願いしますの一言を言ってたら俺だって前々から手を尽くしてたし、色々対応できたのにさぁー。

 俺は魔王の評価をかなり下げた。

 

 

「もし仮に噂が事実だとして、ただ一つ忘れてはならないことはリークしたのは間違いなく過激派だということでしょうね」

 

 

 俺は基本的には共生派。

 そんなこと知っても別に怒りとかは感じないし……そもそも俺は魔王ともまあ、友達だからね? 恨みとかはそんなにない。

 

 というわけでなんとかベストールさんとその子どもに累が及ばないように言葉を尽くした。

 

 

「魔王の嫁と子どもは恐らくですが穏健派寄りの存在ってことです。魔王城での闘いでの情報提供もありますから」

 

 

 実際問題、これは人類とライフズくん一派をぶつけ合わせたい過激派の陰謀なのは間違いない。

 

 そういえばライフズくんから聞いたんだ……レーヘンが仕留めた四天王は魔王崇拝者だったらしい。

 

 だから魔王の息子を危険に晒すようなことは許されない。その存在を知らしめることなんてしなかった。

 

 たとえ敵対しても一線は守った。

 

 しかし……ーーはおそらくレーヘンへの恨みで動いてる一派である。 

 その目的には魔族の復権なんてものはない。

 だから、平然と身内を売ってるわけだ。

 

 勇者への復讐のために魔族を使い潰す。

 人類と魔族を敵対させた上で。

 混乱に乗じてレーヘンを狙う。

 

 

「過激派の目的は人類への報復、こちらを最優先に対処するべきだと思いますけどね」

 

「ふむ……おっしゃる通りですなぁ」

 

 

 そんな目的にわざわざ乗る必要はないというか。

 優先順位があるって話だ。

 そしてそんなこと国王陛下も理解している。

 

 俺のこういう発言を求めていたのだろう。 

 あのゾーニッヒは優先順位を考えろって言ってたぞ、と。過激な意見に走る部下を統制するために。

 

 

「まあ、当国は中立な立場を維持するつもりですので」

 

「それで十分だと思います」

 

 

 モルセーユは中立策を取る。

 でもその言葉に俺はほっとしていた。

 もしここで魔王戦争のように魔族絶許ムーブは人類の悲願、と過激な政策を受け入れられたらいくら俺でもどうしようとなくなるからね。

 

 

「それはさておき、聖王位の叙勲、おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

 

 とまぁ、優先順位からすれば『ベストールさんは魔王妃なんて噂』を最優先に話すべきなんだが。

 本日のそもそもの議題はそうではない。

 

 今回の会談は、俺が聖王を継承する件についての話だ。俺の元に話が来た時点で根回しは終えていたらしく、あれから一月で聖王位を授与するという話は纏まった。

 

 

「些か役不足と見做すものもいらっしゃられるようですが」

 

「そうなんですか? 俺の祖母は驚きのあまり失神してしまったのですよ、大変名誉なことですからね」

 

 

 ちなみに俺の祖母は、『聖王』を継ぐことになったことにびっくりして倒れた。

 上の世代ほど、聖王家の名前の重みを理解している。孫があの初代勇者と同じ称号を得られたことに現実味が無さすぎるようだった。

 

 

「そういえばソルト王国の王太后さまは、海女だそうですが……その親世代に関することは一切が不明だとか」

 

「ええ、まあそうですね」

 

「……どこぞの貴人だったなんてことはあり得る、ということですね?」

 

 

 まあそう言われたらね?

 100%庶民だ、とはいえない。

 

 ソルトは戸籍がしっかり残る大国とは違って、初期の方ほどそういうのが雑だった。

 

 俺の祖母も戸籍はしっかりしてないし。

 

 俺の母は雑貨屋の看板娘で。

 俺の祖母は海女なんだけど。

 その親世代、祖父母の代にもしかしたら貴人がいたかもしれないと言われて否定する言葉はない。

 どういう人なのかろくな記録がないからね。

 

 

「……まあ、そうですね」

 

「それにあの怪力……あれはまさに皇国の剛腕でしょうに……」

 

 

 なぜこんな話をしたのか?

 俺はあんまりよく分かってなかったんだがここまで話されれば内容を察することもできる。

 つまり、俺は本当に聖王家や皇国の血を継いでる可能性があるのでは? という話だ。

 

 もちろんそんなことはない。

 

 俺と姫さまーー皇国に代々伝わる剛腕という形質は理屈が全く違う。

 俺のリミッター外しは技術も用いられている。

 筋肉だけでなく、肘、膝、筋に相当負担をかけて。

 瞬間的に人間離れしたパワーを生み出している。

 

 姫さまみたいにえいって腕を振るったら敵が吹き飛ぶような生粋の剛腕とは何もかもが異なるし。

 

 確かに辺境国家のど田舎に、もしかしたら聖王家の血筋の方がやってきて、突然漁師を始めた……無理があるけど、その可能性がゼロとはいえない。

 

 

「…………」

 

「いえ、わかっております。申し訳ない、少し冷静さを欠きました」

 

 

 でもそんな理屈が通るなら、その辺の庶民だって実は高貴な人だなんて言い張れるからね?

 

 しかし、そんなこと元パルチザンリーダーもよくわかっている。

 彼は敢えてそう言っているのだ。

 

 俺は実際に聖王家の血筋であるーーそんな風説が噂として出回らせ、ライフズくんの正当性を奪おうとしている。

 

 

「表沙汰にするつもりがないことは理解しています。しかし、わかるものはわかってしまうこともご理解していただきたいのです」

 

「……そうですか……」

 

 

 だから明確に否定するべきではない。

 俺は愛想笑いで誤魔化すしかなかった。

 

 わざわざそんなデマを捏造するくらい、聖剣を奪われることへの恐怖があるのだ。

 

 この情勢で聖剣を魔王に奪われるかもしれないという恐怖を悪戯に強めるべきではないのだから。

 

 

 

ーー聖歴0100 5月9日ーーーー

 

 

 

 王子と国王というのは立場が違う。

 王子時代でもギリアウトだが、国家元首がフラフラするなんて許されるわけがない。

 

 なんてことはいくら俺でもわかっている。

 しかし俺もソルト王室メンバー相応の庶民派だ。常に護衛がいるなんて息が詰まってしまう。こっそり抜け出したくなるのは当たり前な話。

 

 そして俺はそれができる男だった。

 自慢だけど勇者パーティーメンバーだし。

 気配を殺し、護衛の目を盗み。

 こっそり抜け出すなんてお茶の子さいさい。

 

 というわけで、パルチザンリーダーとの会談を終えた次の日、俺は一人で暫定首都の中でのんびりふらついていた。

 

 ちなみに今回の出張にレーヘンはついてきていない。

 だから珍しく一人での行動になる。

 

 だから気楽にお散歩を楽しんでたわけなんだが。復興は早々に済んだとはいえ、そこで経済成長が止まるわけではない。

 暫定首都の活気は陰る様子はなかった。

 

 街を歩く人々に、賑わう市場。

 レーヘンと買い食いをした露天広場。

 そんな思い出深い街中なんだが。

 

 そこには魔族への警戒を謳うのぼりがちらほらと目に入った。

 魔王の遺児の存在、国家上層部だけでなく、既に市民の耳に届くくらいに噂として広まっているというのは真実なのだろう。

 

 道理でライフズくんが来ないわけだ。

 普段なら間違いなく顔を出すタイミングで……彼は来なかったからね。

 

 多分ベストールさんは自分の首を差し出すつもりなのだろうなぁ。

 で、ライフズくんはそれを死に物狂いで止めていると見た。

 

 ああいう場面で自己犠牲選べる人は他の場面でも身を削ってしまうものだからね。真実がどうあれ、自分の命で決着がつくならと死を選んでしまう。

 

 となると彼がこっちに来るのは困難だ。

 

 困ったなぁ……。

 ライフズくんと噂が出回ったことで起きる政治情勢の変化について話し合いなりしときたいんだけど、と、思ってるまさにそんな時だった。

 

 

「お久しぶりですね、元気にしてましたか、レニヒさん」

 

「……ゾーニッヒさま……何もかもあなたの手のひらの上というわけですか」

 

 

 俺は街中でレニヒさんと遭遇するのだった。

 

 彼女は前々から人類に潜伏してるスパイである。四天王ヤムルの副官でもあったし。結婚式の時にも魔王軍一派に同行していた。手引きやらなんやらを手伝ったのだろう。

 

 

「それで、そちらの状況はどうですか?」

 

 

 何か勘違いされてるのは明らかだった。偶然再会しただけなんだけどね……。以前、逃亡経路にぽっと出で鉢合わせたことが意識の深いとこに刻まれてるのだろう。

 

 ……ちょうどいいので俺は彼女に色々尋ねることにするのだった。

 

 というわけで近場の路地裏に連れ込み。

 俺たちはこそこそと情報交換を行う。

 

 

「ベストールさま、そして若さまのことが広まってしまいましたから、その対応に苦慮しているところです」

 

「噂は真実ということで宜しいのですね?」

 

「はい、そうです。政略結婚であり、嫌っていらっしゃるご様子ですが、それでも魔王の妻でありますし、魔王との子でもあります」

 

 

 厄介なことに噂は真実だった。

 ベストールさんは魔王の妃であり、実際に一児を産んでいるそうだ。

 ま、既婚なことと子持ちなことはライフズくんから聞いてたんだけどね。彼を脳破壊した情報の一つだ。

 

 いや、別に恋愛感情があるわけではないんだけど、親しい女性が実はバツイチでシングルマザーというのは、ね?

 その上そんな相手と『本当は交際してるんだろ!』とか元カノに嫉妬丸出しに責められると反応に困ってしまうそう。

 

 裏切ったことを詰られるのは当然だけど。

 全く見当違いな内容で来られるから反応に困るし。

 後々、なんか気まずい雰囲気になるとか。

 

 

「それは大変そうですね……」

 

「はい、幾つかの国家と交易ルートを開いたのですが……それも半分以上は潰れていますし。ベストールさまも自分の首があれば、この事態が収まると思っているらしく」

 

 

 レニヒさんは全ての情報を教えてくれていた。

 その中には明らかに国家機密と思われる内容まで暴露してくるのだ。

 

 ま、彼女のことを治療したことで、頼っていい人と思われたのだろうが……なんていうか不安になる。

 最初に優しくするなんて詐欺の典型的な手口だ。

 たった一回助けられたからって、ここまで信頼してしまうのは、レニヒさんの性根があまりに素直だってことを意味している。

 

 いきなりこんな信頼されると逆に裏切らなくなるから、そういう手口だっていうなら脱帽ものなんだけどね。

 裏切るつもりなんて元々ないけど。

 

 

「自己犠牲ですか……」

 

「昔からその気はありましたが、代償を使ったことで己の命の価値を低く見積もられてるご様子で……」

 

「……そ、そうなんだ……」

 

「申し訳ございません。しかしベストールさまのフォローのためにとはいえ、ゾーニッヒさまの慈悲について明かすことはできませんから」

 

 

 ま、ともかく。

 予想通り、彼女は己の身柄を人類に引き渡そうとしておりーー周囲の者達の手で制止されてるらしい。

 実際ワープ使える彼女は目を離せば出頭してしまう。

 ほぼつきっきりで、監査役が傍にいるそうで。

 ライフズくんも一切の余裕がないらしい。

 

 

「それでわたしが代理として情報収集をしております」

 

「なるほど……では一つ。人類連合は魔王の妻より、魔王の息子の方を遥かに危険視していると、報告してもらえますか?」

 

 

 というわけでまずは魔王妃の自己犠牲をなんとかする一つの情報を用意した。

 

 単純明快な答えなんだが……魔王妃が自己犠牲したとして、その意義は少ない。魔王の息子が生きてるほうが問題なんだよね。

 

 ここだけの話なんだが、魔王は皇国の血を継いでいる。

 つまり彼の怪力は血筋に所以している。

 

 魔族の人間より強大な肉体に怪力という素質。そこに聖剣守の技術を兼ね備えた結果、最強の存在と呼ばれるようになった。

 

 そしてライフズくんは聖剣守の一族。

 多くの技術を有している。

 

 つまりこれは機密だが、魔王みたいな存在って再生産され得るのだ。

 ベストールさんが死んだところで意味はない。

 

 

「魔王ノートの怪力は血筋に所以していますからね、お子さんも赤子とは思えぬくらいの腕力があるのでしょう?」

 

「……そうなのですか? というかなんで、そのことを……」

 

「蛇の道は蛇ですよ」

 

 

 ま、レニヒさんは知らなかったようだが……。

 魔王妃さんはそんなことわかってるはず。

 なのに自己犠牲しようとするとは相当視野が狭くなっているなぁ。

 

 我が子を想う親心か、他に何かあるのか。

 ほんと、こんな母子について触れなかった魔王はさぁ……。

 

 

「……あいつは本当に……」

 

「あいつ、ですか?」

 

「すみません、なんでもありませんよ」

 

 

 俺は思わずため息を吐くのだった。

 

 

 

 

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