曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0099 12月27日

 

 

 

 魔王の足取りが掴めた、情報部は遂に魔王の居住区を発見していた。かつての本拠である『旧魔王城』に撤退していたという確たる証拠を確保したのだ。

 

 魔王城近郊はすぐに制圧され、旧魔王城近くまで容易く向かうことができる。

 

 だからこそ勇者一行が選んだのは追撃。

 

 レーヘンと俺の秘密が露見した以上、悪戯に時間をかけるべきでない。勇者がそう口にしたのだ、長らく彼女の勘に支えられてきた人類連合はその言葉に従った。

 

 綿密な戦略や作戦を立てず。

 少数の供回りと拙速な攻撃が行われる。

 

 勇者一行も最後の戦いに向け、魔国の旧魔王城に向けて移動をしていた。

 

 とはいえ、移動は基本的には移動拠点に任せ、俺たちはその中で最後の休息を取っている。疲れるのは移動拠点を引っ張る竜とかだけ。

 一切の疲労なく目的地にたどり着ける。

 

 だからこそ目的地への移動までの時間はーー最後の仲間達との交流の場でもあった。

 

 そんな勇者レーヘンの英雄譚で、最後に言葉を交わす相手として俺が選ばれたのは大変名誉なことだと思う。

 

 いつものようにノックすることもなく、俺の部屋の中にやってきたレーヘンは、いつものようにベッドに腰掛けだらっとしていた。

 

 

「そーいえば、ボクなりに代償について考えてるんだけどさ……」

 

 

 視力、聴覚、触覚、四肢の感覚、内臓器官、あと寿命をかれこれ百年以上。おそらくだが、対価にしたものは次の対価には選ばれない、みたいな条件があるのだろうか?

 

 聖剣の対価は、最初は寿命20年だった。

 五回振えば、百年ーーそれはちょうど人間の寿命と同じくらいである。

 魔王と四天王は合わせてちょうど5人。

 

 

「ま、つまり神官長がやらかしたってことだよね」

 

「やらかしたのお前だよレーヘン」

 

 

 それが魔王が一枚上手であり、それを受け継がれし男の夢が上回っただけのことだ。俺一人の力ではなく、先人達の叡智により勝利したってことだ。

 

 聖剣の対価についての研究は未だに続いている。ま、初期に行った考察は良い線いっていたと我ながら思う。

 

 対価として支払ったものは、二度と対価に選ばれない。百年分の寿命、五感、肉体機能。

 

 聖剣の仕様についての調査はレーヘンともなんだかんだと行ってきている。ま、資料として渡してもレーヘンにはわからないだろうし、どこに敵の手があるかわからないので。

 俺が口頭でわかりやすく噛み砕いて伝えていた。

 

 

「視力は代償に捧げたから、五感は全部コンプリートだよね、ってことは次は何になると思う?」

 

「資料だと寿命の消費しか記されてないから、ここからは俺の考察になるんだが……」

 

 

 サポートするにも次どういう不具合が起きるのかを想定しておく必要があった。

 

 何せ次の戦いは魔王戦だ。

 聖剣を一度使って、それでおしまいとなるとは思えない。少なくとも二、三発と打ち込む以上、戦闘中に聖剣の対価を補填する必要がでてくる。

 

 こっちも何が失われるか、それをどう回復させるか、とかあれこれ考えとく必要がある。

 

 ちなみに視力が失われた時の方はかなり綿密に話し合いをしており、戦闘後は歩くことなどで補助が必要になるため、これを引いたら戦場で即座に回復させるーーみたいな話はしていた。

 

 それを最後の最後まで残しておけたのは幸運と呼ぶより他にないと思う。

 

 

「寿命百年に、五感ときたら、次は記憶とか、あとは……感情とかだろうな」

 

「つまりあと二回は戦闘中の負担なく使えるってことだね」

 

「ナチュラルに人との関係性をコストにする計算してんじゃねぇよ」

 

 

 レーヘンはしれっとそんな言葉を口にするのだ。この子は全く……俺は思わずため息を吐いてしまう。

 幼馴染くんのこと忘れたらどうすんの?

 いや、人類のためだから仕方ないとはいえ、そういう絆とか大切なものを犠牲にするのは受け入れ難いものがあった。

 

 自慢だけど俺ってロマンチストの甘ちゃん男児。

 そう言うの少し気にしちゃうんだよな。

 俺も先人から受け継いだ夢を忘れたらーーそう思うと夜も眠れないというのに。

 

 

「そこはライフズくんじゃなくて、神官長がボクに忘れられたらっていう場面じゃないの?」

 

「俺のこと忘れただけなら、また新しく仲良くなり直せばいいだけの話だろ。付き合い精々三年くらいだし」

 

「まー、それはそうだけど……そういうことを直接本人に言うのってどうなの⁇ 普通はオブラートに包むもんなんじゃないの?」

 

 

 多分治せるけど、記憶の欠損とか感情の欠落とかって対処したことないからね。万が一ということはあり得る。だからこそ話をしに来たのだろう。

 レーヘンは必要なら記憶を焚べて魔王を討つ。

 それができる勇者さまだった。

 でも今回の件は相手がある。レーヘンだけが支払うわけではないから、前もって謝罪をする必要があった。『あなたのこと忘れるかもしれないから、ごめんなさい』と。

 

 

「だから、それを前もって謝罪しにきたのなら、背中を押してあげるべきかな、とかなり軽く口にしたわけなんだけど?」

 

「それをわざわざ、口に出すやつがいるか! このノーデリ神官長!」

 

 

 レーヘンはそれが心底ご不満のようで口元を尖らせている。これは『だから鈍いお前でもわかるように直接的な言い回しで説明した』なんて言ったならプンスカするのは確定的に明らかだった。

 

 情緒が不安定、もしや魔王との戦いに何かしらの不安でも感じているのか⁇

 俺はまじまじと勇者を見つめるのだが。

 それがすっとぼけられたと思ったのだろう。レーヘンはわぁわぁと騒ぎながら地団駄を踏むのだ。

 その様子は不安定さとはまるで正反対というか、普段通りの気の抜け切った態度であり。

 

 ーーレーヘンは本当にメンタル強いな

 

 俺は心底そう思い知らされた。

 これが勇者の資質というやつなのだろう。

 他のメンバー、俺を含めて全員かなり緊張してるからね? この戦いは文字通り人類の存亡を賭けた最終決戦なのだから。

 

 

 ーー聖歴0099 12日31日ーーーー

 

 

 魔王城での戦闘からちょうど一週間後。

 俺たちは最終決戦を行おうとしていた。

 

 荒野の中にポツンと存在する旧魔都は寂れていた。

 人間の国家とは文化レベルが違っているのだ。背の低い建造物が立ち並ぶ街は、どこかの田舎町であるかのようだった。

 

 そこにはろくな守護兵はいなかった。

 つい先日の魔王城戦とはまるで違って。

 

「地下に何かある可能性もある」

 

 警戒しつつ進軍を続けていた、人類連合の将軍も疑念を抱きながらそんな報告を口にして「そんなことないと思う」という勇者の返事に動揺を見せた。

 

 これが世界を征服しかけたあの魔国の首都なのか? 違和感と疑念が絡む中、しかし事態は進んでいく。

 

 だから敵の攻撃のないまま勇者一行と軍勢は旧魔都の中心部にたどり着いた。

 

 荒野に立つどこか無骨な城もーー技術的にも未熟で、今まで見てきたどの城塞より矮小だった。

 

 旧魔王城、その城門は開かれていた。

 周囲には護衛の兵士たちの姿は全く見えず。

 

 しかし、ここからは勇者一行が先行する事になった。細心の注意を払いながらの前進は徒労に終わった。

 玉座に繋がる階段はなんの仕掛けも施されず、最大限の護衛や下働きのものも存在していない。

 

 それは玉座を守る扉でさえ、開けっぱなしで。

 その奥に佇む魔王は、部屋に入る前から視認できていた。

 

 開門されていた玉座の間に堂々と腰掛けし魔の王。

 なるほど、これはとてつもない存在だ。

 

 

「レーヘン?」

 

「ここは進もう、玉座で戦った方がいい気がする」

 

 

 外から聖剣を撃ち込み続けるという手段も脳裏をよぎったが……レーヘンの勘は何より鋭い。なので、俺たちは真正面からの戦闘を選択したのだ。

 

 二つの大陸をほぼ征服し、歴史上人類を最も追い詰めた強大なる魔族の王。強大な四天王を従えしカリスマ性と、人類を追い込んだ知略は有名だったが。

 最も恐ろしいのは暴力なのだろう。

 

 人間よりはるかに低い文化水準にありながら、人類を存亡の危機に追い込んだーー圧倒的な暴力。

 魔族の王は、王に相応しい力を有していた。

 

 言葉は交えなかった。

 俺たちが魔王の間に乗り込んだと同時に魔王はゆっくりと玉座から立ち上がり。

 

 戦いは無言のうちに始まった。

 

 

 ーー聖歴0100 1月1日ーーーー

 

 

 前魔王討伐からちょうど百年後。

 次なる魔王は死んだ。

 そして。

 俺も死んだ。

 

 いや、魔王は強かったですね。

 本気で化け物というか、四天王最強の男よりよっぽど強かったからね? まあ俺たちも戦闘経験を重ね、その実力を高めていたわけなんだけど。

 

 普通に殺されたわ。

 

 回復の基点である俺を魔王は絶えず意識していた。真っ先に排除するべき存在とでも考えていたのだろう。魔王は執拗に俺を狙っていた。

 時に手痛い反撃を受けるのを省みず、無理をしてでも俺を狙う姿には癒しの秘技への警戒心があった。

 

 そしてそれは間違いだ。

 魔王が真っ先に仕留めるべきだったのはーー勇者レーヘン。聖剣に選ばれ、寿命、五感、記憶、感情を対価に莫大な力を得る少女こそ誰よりも、何よりも潰すべき存在だった。

 

 ま、これもブラフってやつだ。

 魔王からすると、目立たない存在が実はMVPであると知り真っ先に狙ったわけだが……この局面で俺という回復担当役を狙うのは、実は間違いというね。

 最大火力が暴れてる中でヒーラー狙うのはね、その火力にある程度耐えられるのが前提なのよ。

 

 魔王は俺の回復速度では追いつかないくらいに徹底してレーヘンを狙い続け、攻撃回数を少しでも減らし。その上で戦闘不能に追い込んでから、他の仲間達を処理し続けるべきだったのだ。

 

 魔王は無理をして俺を仕留めた。

 敵の攻撃が俺の身体を貫いた刹那、魔王の背から極光が煌めくのを、俺は見ていた。

 レーヘンは俺を守るのではなく、魔王を殺すことを最優先にしていたのだ。

 

 その顔には一切の躊躇いはなかった。

 苦渋の表情を浮かべることもなく、小さく『勝った』とか言ってたからね? まあ絶好の好機を見逃さなかったといえば聞こえもいいけど。

 

 と言うか俺も致命傷ではなかったからね? 

 回復させれば治る傷ではあった。

 

 ま、多分だが俺の回復に手番を使わされてる間に魔王の猛攻で姫騎士やら魔法使いが落とされ。

 そこから勇者を摘み取られるリスクはあったのかな? 

 

 勇者の勘でそれを察知し、迷うことなく即断で俺を犠牲にすることを決めたレーヘンの判断力の高さは流石と言えた。

 

 そして聖剣の輝きに飲まれ、俺は魔王と仲良く死んだ。先程まで殺し合っていたわけだが、死んだ後はノーカン。と言うわけで一緒に勇者に殺された仲間として三途の川まで一緒にいたんだけどね、意外と面白いやつだったよ。

 

 魔王もレーヘンの容赦のなさにはドン引きしてたからね。ほんと魔族に引かれるってどんだけって話よ、俺も世間的には合理主義者扱いされてるけど、判断に一切の情が入らないのは勇者さまの方だから。

 

 最善手選びすぎた結果『人の心がない』と新たな軋轢が生まれて、逆に最善ではなくなるタイプの合理主義者だから。

 

 ま、俺は可能な限り犠牲が出ないようにするから、時間かけすぎて無用な軋轢が生まれる、最適な選択ができない甘ちゃんだから偉そうなことは言えないわけだが。

 そう、俺って実は噂と違って心優しいヒーラーなの。

 

 だから容赦なく俺を殺したレーヘンが、他の仲間達と軋轢が生まれないよういい感じの言い訳を考えてあげるってわけ。

 

 幼馴染くん、姫騎士、魔法使いさん、

 彼らは決して悪人ではない。

 俺とも時にレーヘンの代償の件で対立することはあれど、仲間意識や絆自体は育っている。そんな俺を容赦なく惨殺したなんて、いかにレーヘンといえど悪感情抱かれるからなぁ。

 

 つーかあいつも少しは躊躇えよ、と思わなくはないのだが……俺はぐいと身体を伸ばした。

 

 ここは、移動拠点内部の俺の私室に隠された研究室だ。

 

 いざという時のために俺の体細胞保管しといてよかった。いわゆる残機だ。細胞分裂で身体を疑似構成しといて、生命力補填して。

 死んだ後に気合いで戻ってくることで、決して簡単にできるわけではないがーー死に戻れる。

 

 というかレーヘンに行った死者蘇生魔法はこのちょっとした応用に過ぎない。

 

 本当に何かあった時用に勇者さまの身体も作成済みだったが……どうやら勇者も無事らしいな。なんとなくそんな確信があった。

 

 

「あのさぁ、そこは玄関で僕を待ってるとこじゃないの神官長さぁ」

 

「んー、部屋のノックを鳴らし忘れたのかな? なんかしれっと、音もなく入ってきたけど」

 

「もー今更じゃん」

 

 

 俺の部屋に押し入ってきた勇者はジトっとした眼差しでそう告げていた。

 

 まさか俺を心配して⁈

 と思うのだが、彼女はこちらに目線を向けず、俺の傍ですやすや眠っているーーぽく見えるレーヘンの身体を見ている。

 

 

「よかった、今度はちゃんと服着せてた」

 

「……そこは嘘でも俺を心配してたといえよ」

 

「いや、神官長が復活できるのは知ってたし? 変に嘘つかれるほうが嫌なくせによくいうよね、キミは本当に面倒臭い男だよ」

 

 

 勇者は全く動揺する素振りもなかった。

 傍から俺が生きているという確信があったのだ。

 

 ま、俺の秘密ノート見てるからね。緊急用の蘇生術の存在を前から知っていたのは当たり前なんだけど。

 

 でもここでごめんの一言もないのは流石に少しどうかなって思うんだけど……俺一応殺されてるからね? 生きたまま極光に飲み込まれて全身の細胞焼き焦がされたんだからね?

 レーヘンはそんな俺の眼差しを感じ取ってるはずなのに、じーっと製造された自分の肉体を見つめているばかり。

 

 謝りたいけど素直になれないなら。

 俺があえて口にしてあげる必要とかあるかな?

 

 

「俺はお前に殺されたんだけど、レーヘン」

 

「はいはい、ごめんごめん、それでさ、聞きたいことがあるんだけど」

 

 

 なのに口にするのはあまりに適当な謝罪だった。

 長い付き合い……ってわけではないが濃い付き合いだから、レーヘンは俺に罪悪感なんて殊勝な考え抱いていないことがわかってしまうのだ。

 今彼女は全く別のことに思考を向けている、と。

 

 そしてレーヘンは口火を切った。

 

 

「神官長ってさ、こういう服が好みなの?」

 

「お前がうちの屋敷に泊まってる間に着てた服だぞ、忘れたのか?」

 

 

 もしかしてこいつ俺との記憶が無くなったのかな、と一瞬思ったわけなんだけど。どうやらそんな事はないようだし。

 なら感情かなとも思うのだが、レーヘンって知らない他人の犠牲に関しては割と気にするんだよね。

 犠牲になった見知らぬ兵士を『甦らせられないかな』なんて言うくらいだし。

 

 

「でもその中から神官長が選んだわけでしょ? どういう理由で選んだの?」

 

「適当だよ、適当。大した理由はないんだ」

 

 

 やけに食いついてくるレーヘン。

 ふと嫌な予感が脳裏をよぎり、俺はそそくさと話題を変える事にした。

 

 

「で、代償の方はなんだった?」

 

「……えへへ……内緒」

 

 

 推測だが俺との記憶が対価に選ばれた……が、多分散々俺の生命力吸った関係で記憶が消えなかったのだろうな。正直魂の領分って何が起こるかわからないからね。

 特別な繋がりのおかげで失われた記憶が蘇るなんてよく聞く話だし。

 

 そしてそれを言うのが恥ずかしいのだろう。

 

 ちなみになぜこの服を選んだのか、正確にいうとタンスの一番上にしまってあったーーである。

 他に深い理由なんてあるわけがないだろ。

 最終決戦直前の最後の時間だったんだよ? 何言ってんだよ、と俺は内心で突っ込むのだった。やっぱレーヘンってすごいわ。こいつにとって魔王戦は日常の延長戦上にあったというか。

 特に緊張とかしてなかったんだな、と理解させられた。

 

 これが勇者レーヘン、聖剣に選ばれ魔王を倒し、人類を救った大英雄。

 勇者ってすごい、俺は心底そう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

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