曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0101 5月21日

 

 

 

 その日は人類連合首都にて。

 加盟国の会議が行われていた。

 

 『魔王の後継者』の一報が入ったことで、緊急の話し合いの場が設けられたのである。各国首脳陣が集まった錚々たる会議。その雰囲気は『魔王ライフズ』の出現時とは明らかに温度差がある。

 

 人類連合内部は一気に右傾化していた。

 

 魔王軍の弱体化は周知の事実だった。

 魔王軍はもはや人類には勝てない。

 

 だからこそ人類は魔族への警戒心を緩めていた。

 戦後の復興と覇権競争なんてものを意識したのは、この平和は暫く続くという確信があったからだ。

 

 でも、『魔王の後継者』の情報でそんな前提は破壊されていた。

 

 数十年後、数百年後。

 魔王の後継者が成長したらどうなるのか?

 また、戦争を引き起こすのでは?

 敵にいたずらに時間を与えるべきではないのでは?

 

 『敵からのリーク、信憑性には疑問が残る』みたいな話も、魔王ライフズからの弁明がないだろうという反論されてしまうくらいだし。

 

 俺も優先順位でまずは過激派を狙うべき、なんて話を広めたのだがあまり意味はなかった。

 

 それは警戒感の違いだった。

 魔王軍残党は……弱い。

 彼らは神出鬼没の非対称戦を繰り返してるわけだが、それでも精々が小さな事件を起こすのが関の山。人類の存亡の危機なんて事態は起こせない。

 

 魔王は違う。

 魔王は単独で世界を滅ぼせる実力がある。

 

 今代には俺やレーヘンがいた。

 でも次の代はどうなるのか?

 

 そんな言葉に俺は返す言葉がなかった。

 魔族融和派でありライフズくんと通じている俺としては、できるだけ穏健的な解決を目指したかったのだが。

 俺にできることはなく。

 

 それと同時に、そんな魔王の雛を庇護下に置くライフズくんへの警戒は人類連合内部で急速に広がっており、それまでは人類への敵意は薄いと見られていた彼も、今では名実ともに人類の裏切り者と見做されていた。

 

 

「まずいことになってきたな、ライフズのバカへの敵意もかなり燃え上がってるからよ、暗殺みたいな話も囁かれてるんだ」

 

 

 会議場での本会議の後、俺は魔法使いさんと個人的な面談を行なっていた。手狭な部屋の中にいるのは俺と魔法使いさんだけ。

 

 会議中はタカ派としての顔を見せていた魔法使いさんも、今は憂鬱そうにため息を吐いている。

 

 旧魔法国跡地にて魔法の教育を行っている彼も、最近は足繁く人類連合首都に足を運んでおり、人類連合重鎮としての振る舞いにも慣れているようだ。

 

 ちなみに彼は魔族への敵意を隠さないため、多くの過激派と接近しているのだが……。それでもライフズくんへの情を未だ失っておらず、好感度も高いままだ。『バカ』だとか『愚か』と貶しつつも、善意を利用された被害者と認知している。

 

 

「止めた方がいいでしょう、返り討ちにされるだけですし」

 

「いや、あのバカは騙されてるだけだろ? ゾニ坊の言いたいことはわかるけどよぉ、もっとこう、なんていうかなぁ、言い方があるじゃん?」

 

「言い方が悪かったのは謝りますけど、成功するならライフズくんの暗殺も辞さないみたいに、俺が思ってる的な言い方はやめてくれません? 心配してますし止めようとも思ってますからね?」

 

 

 俺はじとっと魔法使いさんを見つめた。

 勇者パーティーで一二を争う魔族嫌悪者。

 そんな男のまるで自分より過激な意見を聞かされてびっくりしたような振る舞いに俺の方がびっくりしてしまう。

 

 

「わかってる、わかってる、冗談だって」

 

「もー、この人は本当にさー」

 

 

 ……ま、今のは軽いジョークである。

 俺も魔法使いさんとよく絡むようになったから、こういう軽口をよく叩かれるようになっていた。

 心の距離もかなり近づいていた。

 

 

「実際説得するならこういう方向の方が効きますよ? どうせバックルさんのことだから、周囲の蛆を焼き討ちにするべきだ、とか言ったんでしょ?」

 

「いや、流石にそこまでは言ってねぇから。子ども世代は関係ないしな」

 

 

 ちなみに暗殺者なんて送り込んでも意味はないのは事実だ。ライフズくんは千の技術を修めた天才だからね。しかも錬成士というどんな状況でも武器を生み出す技術まである。

 だから、そんなことしても相手を刺激するだけ。

 今は手を出すべきではないーー的な理屈は、一切の情抜きで正しい。

 

 

「……ベストールさんが魔王妃だそうですね」

 

「……ま、それはいいんだ、俺は別にあいつが人類への攻撃に加担したとは思ってねぇしな……ライフズもそこまで抜けてねぇだろ」

 

「……でしょうね」

 

 

 なんて会話を挟みつつ。俺は探るように切り出したんだが……魔法使いさんはしっかりと感情と理性の分別はつくタイプだった。

 かつての教え子が魔王の妃だったーーそんな話を聞かされても、彼は裏切られたとは思わなかったようだ。

 

 政略結婚とか色々あるのだろうとしっかり分析している。もしかしたら人類に味方していたのでは、とも。

 

 

「……そういえば確かに妊娠してたが、あの時の子か」

 

 

 そこに誤解や勘違いはない。

 彼にとっての恨みは二つ。

 妻子が誘拐された直後、自分の身柄を魔族が求めるなかでーー家族ではなく自分を助けた事。

 

 そして現在。

 大切な仲間であるライフズくんを巻き込んで、彼の名誉や名声、人間関係の全てを捨てさせた上で魔族の庇護をさせてる点だ。

 

 

「正直、魔王の後継者についてどう思ってます?」

 

「……たとえ魔王の子どもだろうとガキは狙えねぇよ、絶対にな。……だが、だからと言ってこの問題を放置もできねぇのが悩ましいんだよな、あいつらが納得しないだろ? 将来の不安を思えば、な」

 

 

 魔王の子ども。

 彼は知らないけど、その能力は継承可能だ。

 人類の警戒は正しい。

 

 

「ま、そっちはなんとでもなりますよ」

 

「はー、大きく出たな、ゾニ坊」

 

 

 でも実際なんとかする手段は存在する。

 だから俺は心置きなく強い言葉を口にした。

 

 いや、まあ魔王の厄介な点ってその知性の高さでもあるからね。

 ぶっちゃけ他の魔族と一緒で、聖剣直撃させれば死ぬことに変わりはないんだし。

 

 ……まあ,見て避けるんだけどね。

 

 ただ人類の魔族への排斥はーー恐怖に起因している。あんな戦争を繰り返されることが怖いからここまで過激化している。

 じゃ、俺が何をできるのかと言えば安心感をもたらす事ぐらいなのだろう。

 

 

「レーヘンも俺も強くなってますし……ここだけの話ですけど、実は俺、犠牲を少しでも減らすためにかなり苦慮してたんですよ? やろうと思えばもっと早く決着をつけられましたし」

 

「はぇー、人類最高の将軍は伊達じゃないってか」

 

 

 もちろん口から出まかせである。

 なんか、色々と何か勘違いされてる節があるんだけど……。

 

 俺って割と流れに身を任せつつ、勇者さまの勘を元にしてあれこれ手を打ってただけなんだよね。

 ほぼ場当たり的な選択しかしてない。

 知略なんてたいして高くないわけだが。

 

 

「それにスタートが最悪でしたからね、小大陸の小国以外が全て滅びた状況からひっくり返せたんです。各国の余力がある状態ならもっと楽に渡り合えましたって」

 

 

 そもそも、勇者レーヘンの冒険譚は人類が追い詰められた極限状況からスタートしていた。あそこまで情勢が悪化した上で逆転勝利できたのだから。なんてことを口にしたのだ。

 

 

「……あー、それは姫様にはいうなよ」

 

「でも事実です、聖剣持ちの勇者の出現を待って頂ければ、人類の被害は遥かに少なくすみました。……魔法使いさんのご家族に関しては……関係はなかったと思いますが……」

 

 

 単独の戦力には限界がある。

 兵士や市民を一人一人倒していくなんてとんでもない時間が必要だ。守りを固め、辺境に隠れ、正面戦闘などせずひたすらに逃げ続ける。

 魔族残党が今やってるそんな戦法を使われれば、いかに魔王といえども大陸の制圧には時間がかかったはずだ。

 

 ……そういう意味で人類の戦力をまとめ、魔王と真正面からぶつかったことは、勇者レーヘンの英雄譚視点でいえば大ポカといえる。

 

 当時としては仕方ないんだけどね?

 下手な後知恵であれこれいってるだけだし。

 

 

「もちろん当時としては仕方なかったわけですし、別に誰が悪いというわけではないですけどね? その失敗……ごほん、経験を生かせば次の戦いは余裕があるという話で」

 

「むむむ……耳が痛いですわね……」

 

 

 でも、この恐怖による排斥を少しでも抑えるため、俺はあえて、心を鬼にして、そんな言葉を口にしていた。

 

 だから、悪く言えば勇者の冒険譚はひたすら巻くしかなく。

 だからこそ勇者さまが肉体的な全盛期を迎える前にその英雄譚は幕を閉じた。

 

 つまり魔王が敵になったとして、しっかり準備してたらこんなに苦労しなかった。しかもその苦労は犠牲を限りなく低くするために払われたものだった。

 

 だから魔王といえどそこまで警戒する必要はない。

 と俺はアピールしたわけ。

 

 8割でまかせである。

 

 

「……でも皆様がお話ししてるからのこのこやってきたわたくしに責任がないとは言いませんが、こそこそとわたくしの悪口おっしゃるのは、もやもやしてしまいますの、神官長……ごほん、聖王陛下さま?」

 

「はい、ごめんなさい、姫さま」

 

「いや、姫さまが悪いって言いたいわけじゃないから、な? ゾニ坊はみんなの恐怖を拭い去ろうとして、な?」

 

 

 ちなみに姫騎士ワイスはノックもせずに部屋に入ってきた上に、俺の隣の椅子によいしょと腰を下ろしている。

 だから俺は慌ててフォローを入れたわけなんだが。

 どういう話をしていたのか、姫さまはしっかり理解していた。

 

 

「もー、わかっております、バックルさま。そんなあわあわなさらずとも……わたくしがそんなこと言われて曇るとでも?」

 

「……強くなったなぁ、姫さま」

 

 

 俺と魔法使いさんが会話してるからと、フラフラやってきた姫さまもまた魔王の後継者への対策会議への出席メンバーである。

 

 姫さまは穏健派のリーダー……ということになっているが、もちろん穏健派内部でも『魔王の後継者』の排除は前提だ。

 子どもは攻撃できない魔法使いさんとは違い、それがどれだけのリスクなのか、会議中に強く訴えてきた一人なんだが……。

 

 俺の発言を聞いた姫さまはケロッとした顔をしている。

 

 彼女も可愛い妹分が自己犠牲してたーーなんて前提がなければ、こんな話をさらっと受けきれられるタフな女だった。

 

 

「だって、わたくしだけでなくわたくしが信頼していた周囲のものたちも、この判断が間違ってるとは言わなかったですもの。なら、悔やむなんて彼らへの背任でしょう?」

 

「おっしゃる通りです、本当に……姫さま、強くなられましたね……」

 

 

 俺も思わず魔法使いさんと同じような態度を取ってしまう。そうだよ? 姫さまに責任なんてないからね? 

 当時としては真っ当で合理的な判断をしただけ。

 

 そこに問題があったなんていうのは、姫騎士の政治的決断に影響を与えた部下や相談役への難癖に等しい。

 

 あれは相手が悪かった。

 

 それを自分から言えるようになんて……。

 俺はとても感慨深かった。

 

 

「もー、二人してわたくしのこと弄らないでもらえませんか! そりゃ昔はその……クヨクヨして無かったとは言いませんけど、わたくしそこまでメンヘラではありませんでしたわよ?」

 

「……ごほん、それはともかく。そもそも聖王国が油断しすぎていたんですよね。彼らは魔王の実力を低く見積もっていた。国軍の力でなんとかなると考えるくらいに」

 

 

 ま、ともかく。

 俺は話を戻した。

 

 聖剣守の一族も、魔族の怪しい動きへの対応で集まったし。聖王家もそういう報告は耳にしていたそうだ。

 でもそんなことせず、次代の勇者が産まれるまで逃げ隠れていればよかったのだ。そして勇者が産まれた後にサポートを全力で行えばよかった。

 

 聖王国の国軍や、聖剣守の一族という優秀な人員が勇者さまのサポートについていたら、俺たちの戦いはもっと楽に進めることができた。

 

 少なくともネッテルシー上陸作戦は楽に戦えた。 

 あそこまでの犠牲は出なかった。

 

 

「魔王には聖剣を使うしかない、それが一番被害が少ないのです。それを前提に人類連合内で対処法を定めておけば、次の戦いで被害はそこまででないでしょう」

 

 

 ちなみに聖剣守や聖王国の動きは、こうなることを見越して、調査してたとかではなく、かつて行った魔王の戦闘情報の調査の中で自然と手に入れた知識である。

 

 

「……どこでそんなことお知りになったので?」

 

「蛇の道は蛇……ってことですけど、戦場跡地を見た上での推測ですよ」

 

「……最近、神官長さまは色々と隠さなくなられましたね……いや、いい意味でですわよ? わたくしも絆が深まっていく実感があってすごく嬉しいですし」

 

 

 なわけないんだけどね。

 戦場跡地を見ただけでそんな推測できるわけないからね? 

 常識的に考えれば適当にホラ吹いてるとしか思えない妄言だが……俺は妙に信頼を集めているらしく、なぜかこんな与太話を信じられていた。

 

 

「……まあ、色々と隠してることはありますよ? 皆さんにもいえず墓に持ってく内容なんて沢山ありますから」

 

「むむむ、でもそれを言っていただけるのは、信頼の表れだと思いますのよ? わたくしもいえないことは沢山ありますから」

 

 

 全部故人から聞いただけなんだけど。

 でもそんなことは頼れる仲間にも言えなかった。

 

 亡霊の声を聞けるって知られたら、多くの人が故人の言葉を聞きたがるのは間違いない。

 姫さまだってそうだ。

 

 魔族との戦争で多くの人が、大切な人を無くしてきている。

 その声を聞きたいと願う人も多い。

 

 でも亡霊ってのは故人ではない。

 死の直前に焼きついた残留思念。

 当然死の恐怖や痛みや苦痛でおかしくなってる亡霊も多い。

 

 そんな方々の声を聞いたら……あらぬ憎悪に取り憑かれてしまうこともある。

 

 だから俺は隠していた。

 ま、レーヘンにはバレてんだけどね?

 

 

「…………」

 

「……違いますわよ、バックルさま? 既婚男性しかも妹分の旦那を口説いたとか言い寄ったとかそういうわけではありませんの。複雑な目で見ないでくださいまし」

 

「いや、まあ、うん……ほら、前科がな?」

 

「なかったことにした過去を今更掘り返さないでくださいまし‼︎」

 

 

 というわけで、もし次の代で魔王が産まれてもしっかりと戦う準備をしておけば大丈夫だよ、という文書を新聞に寄稿するつもりだ。

 これで少しは新なる魔王という恐怖は鈍るはず。

 

 これが俺にできる精一杯。

 すまないライフズくん、あとは託した。

 俺は内心でそう呟くのだった。

 

 

 

ーー聖歴0100 5月31日ーーーー

 

 

 というわけで俺は新聞にあれこれ寄稿したんだが、効果はそこそこ大きかった。

 

 自慢だけど俺の名声はレーヘンに次ぐ。

 だからこそ、多くの市民にとって安堵を齎すのだ。

 『神官長は大丈夫と言っていた』、と。

 

 あとちょっと悪い例として名を出した聖王家の皆さまには少し泥を被ってもらったわけなんだけどね? 一応亡霊の皆さまには許可をとってきたので許してもらいたい。かなりのフォローは入れたしね?

 

 ……もちろんそれでも恐怖を感じる層がいなくなったわけではないんだけどね? 他にも魔王への憎悪を抑えられない人々もいるから『即時に魔王の後継者を討つべし』みたいな声は残っている。

 

 でも憎悪はやっぱりどうしようもない。

 魔王が散々やらかしたのは事実だからね。

 親の罪の清算を子に求めるのはよくないことなんだけど……大切な人を害されたことのない俺の言葉は羽のように軽い。

 

 何かいう資格なんてないからね。

 

 

「……神官長、新聞読みました、本当に助かりました」

 

「いいの、いいの。……そっちの調子はどうだい?」

 

 

 さて、そんなある日のことだった。  

 過激派の意見が随分と鈍ってきて、俺もこれでしばらく出張しないですむなぁとか考えていた夕方。

 

 可愛い弟分がまたやってきたのだ。

 

 

「レニヒにあれこれ教えてくれたの神官長ですよね?」

 

「……彼女がそう言ったのかな?」

 

「いえ、なんとか推測しただけです。助かりました。ベストールも随分と落ち着いているようでもう無茶なことはしないと思います」

 

 

 その顔には疲れがある。

 目を離したらワープして人類に出頭しようとする女を監視するのに相当神経を削ったのだろうか? ただすっきりとした表情は苦難を乗り越えた男の表情といえるものだった。

 

 

「今回の噂はどういう対応するつもりなの?」

 

「噂を否定するつもりはないです。変に嘘ついた後で真実が露見した場合、関係が致命的になりますからね」

 

 

 ちなみに魔王の後継者をどうするのか。

 みたいな話はする必要がないのでスキップした。

 お互い『魔王の子どもだからって産まれたことに罪はない』という見解で共通してるしね。

 

 俺たちは理解度が高い。

 だから守るし庇うしフォローする。

 いちいち言葉にせずとも通じ合っている。

 

 

「それに信頼は積み上げるものでしょ? コツコツやってくつもりです」

 

「動きがあったら連絡するけど、俺にできるのはそれくらいだよ?」

 

「それだけで十分です。その……神官長は妻とか家族を最優先にするべきなんですからね」

 

 

 俺は少しだけびっくりした。

 ライフズくんが、俺のお嫁さんについて言及するのはこれが初めてだったから。普段なら脳破壊の苦しみに呻いていたというのに。

 

 

「……もしかして、ベストールさんって代償の件を勘違いしてる?」

 

「それもレニヒに聞きました? そうですね、ベストール自身寿命が短くなってると勘違いしてて……」

 

 

 ちなみに俺のいいくるめ技術はあの頃より遥かに跳ね上がっているのもあるけど。子どものころから絶対に治らないと吹き込まれていた聖剣の代償と、魔法使いのパワーアップ技術としての代償魔法。

 

 その重さは違うのだ。

 

 だから俺が治したという話をすんなり受け入れたようなのだが……。

 ともかく。

 

 ライフズくんは寿命が削れた(と勘違いしてる)魔王妃への説得のために勇者レーヘンの名前を出したんだろう。

 寿命を削りきったけど生き長らえた人はいると。

 そのために向き合った。

 

 自分のためには向き合えないけど……誰かのためならば心の傷とも向き合えるのがライフズくんの美徳だ。

 

 

「……苦労をかけたね、本当にごめんね?」

 

「えっ、どうしたんですか、突然⁈」

 

 

 そうして直視したことでBSSの苦しみが少しずつ癒えてきているようなのだ。……俺は過ちを悟らざるを得なかった。

 最初からこういうアプローチをしていれば、彼はきっと幼馴染のことを乗り越えられた。

 

 変に時間を置くのではなく、苦しみを乗り越えるための理由を与えるべきだったのだ。誰かのためにこそ頑張れる、そんなライフズくんの美德をよく知っていたくせに、俺はすっかり失念していたのだ。

 

 

「ライフズくんには言えない事情が色々とあるんだ。ただ謝罪させてほしい」

 

「……そうなんですか。でもそれなら僕も散々助けられていますよ」

 

「それくらいするのは当たり前なんだよ……身から出た錆でもあるんだからさ……いや、忘れてくれ」

 

 

 でもそんなこと言えないからね。

 誤魔化すしかなかったけど。

 俺は割と本気でやらかしたなって思ったのだ。

 

 

 

 

 

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