曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0101 6月8日

 

 

 

 俺は連合王国に帰還していた。

 

 君臨すれど統治せず、そんなソルト王室。

 国王の仕事というのは極めて少ない。

 

 ま、俺の場合は外交やらで色々と忙しくしてるわけなんだが……逆にいえば国王がそんなことやれるくらいに基本業務が少ないってことである。

 

 ま、それは今の情勢が情勢だから許されてるってのはあるだろうけどね。

 『魔王の後継者』問題に揺れる人類連合。

 新たな争いの火種を消すために駆けずり回るのは仕方ないことだ。

 

 玉座を空けがちな国王に不満を述べずただ支える、そんな理解ある臣下に恵まれた俺は、ついでに余暇を楽しんでいた。

 

 余暇って言っても小一時間程度なんだけどね。

 愚痴を言いたくなることはあるのだ。

 俺だって人間だ、負の感情を抱くことはあるし、それを吐き出したくもなる。

 

 魔王の件は俺としては相当思うところがあった。一応俺も、政略結婚的な感じで結婚を受け入れたわけなんだけどね?

 

 それでも妻とか、子どもは最優先で守らなければならない的な感覚はある。

 

 ……いや、まあソルト王室は代々恋愛結婚で結ばれてきた家系だから、その辺りの感覚は一般庶民のものに近いというのもあるんだろうけど。

 

 ともかく。

 妻と子どものことも考えず、妹の死への怒りから暴挙に及んだ魔王の行動というのは、俺からすれば相当受け入れ難いものなのだ。

 

 でもいかに結婚したとはいえ、レーヘンにこういう愚痴を吐くのは申し訳ない。

 

 確かに彼女はそういう時に寄り添って聞き役に徹してくれる美徳があるけど……愚痴を好き好んで聞きたい人がいるわけない。

 

 ただでさえ、苦悩する姫騎士に寄り添ってるのだから。あまり負担はかけたくない。

 

 というわけで。

 俺は帰宅前にそういう負の感情を発散する必要があったのだ。

 

 というわけで俺は供回りも連れずに、竜に乗って地元を疾走し。ソルト宮殿から少し離れたところにある森の中の小さな河畔に辿り着いた。

 

 綺麗な花が咲き乱れる川のほとりに、意味深に石が積まれたスペースがある。

 

 ちなみに特に意味はない。

 

 子どもの頃から風景が綺麗だからよく足を運んでいた空間で……よく理想の女の子について妄想をしていた場所でもある。

 流石に理想のヒロインを妄想してる時の声とか人に聞かれたら社会的に死ぬからね。

 

 愛竜に乗って散歩をした帰りに寄ることが多かった思い出の地。四年ぶりに立ち寄ったそこは一切の開発はされておらず、昔のままの姿を見せている。

 

 兄さんか父さんのどちらかの配慮なんだろう。

 

 俺が帰ってきた時に、全てが変わってたらびっくりするからーーこういう思い出の地だけは残しておいてくれたのだ。

 

 今冷静に考えるとこれ多分誰かの私有地っぽいんだけどね? 子どもの頃は自然に咲いてて綺麗だなぁとか思ってたけど……。

 

 

「ノートは本当にクズだよ、嫁と子どもがいるのに、妹のことしか頭にないじゃん? 結婚したんだからさぁ、嫁さんはまあともかく、子どもは大切にしないとダメだろ」

 

 

 まあともかく。

 そんな思い出の地にて。俺は転がる石に向け愚痴を吐いていた。

 

 感情を吐き出すというのは、メンタルをリセットする上で大事なことだ。

 一人で抱え込んでいたら、ずっと胸の奥に溜まってしまうからね?

 

 というわけで一通りの愚痴を吐き。

 感情をスッキリさせた俺は。

 

 

「むむ、何してたの、あなた……まさか、ルーテシアの……」

 

「違う違う、ちょっとストレス発散してただけだから、ね?」

 

 

 帰宅した俺を出迎えた勇者レーヘン。

 じとーっとした眼差しを俺に向け、ぐいと服を掴んだ少女には不満の色がある。

 

 

「別に好きな人の愚痴なら聞きたいくらいなんだけどなぁー、変に自己解決されるよりよっぽどマシなんだけどなぁー」

 

「ごめん、悪かったって、次はお前に聞いてもらうことにするから、な?」

 

 

 俺は全てを見通していた勇者レーヘンからお気持ち表明されてしまうのだった。そして暫くの間、彼女のご機嫌取りに従事することになるのである。

 

 

ーー聖歴0100 8月16日ーーーー

 

 

 幸運なことに世界は平和に包まれていた。

 魔王の後継者の存在がリークされてなお、表面上は平和な日々が続いていたのである。

 

 ま、表面上は、なんだけどね。

 

 さて、それはさておき。

 連合王国の国王を継承して半年。

 俺はある問題に直面していた。

 

 聖王位継承問題である。

 

 とはいえ、何かしらの問題が起きてるわけではないとは明言をしておく。

 

 ただ単に忙しいだけだ。

 聖王位の授与は、書類上だけで行われるものではない。

 

 然るべき式典を大々的に行い。

 そして戴冠、ということになる。

 

 場所はもちろん人類連合の中心。

 暫定首都のいつもの会場である。

 勇者レーヘンの結婚式から半年、俺はまたこの場所を使うことになっていたのである。

 

 

「はぁ、おめでとうございます!」

 

「半分くらいライフズくんのおかげだよ、いや皮肉じゃなくてね?」

 

 

 と言うわけでその打ち合わせというか、前準備としてまた人類連合の会議に参加した日の夕方。ライフズくんがふらりと部屋を訪れていた。

 

 まーた、そんなことやるのかのと思わなくもないんだが……先日テロを起こされた人類連合からすると早急に他の行事を取り仕切り、汚名返上したいのだろう。

 

 流石に勇者さまの結婚式とは比較にならないくらいに小規模なんだけどね?

 

 

「まー、僕に子孫なんてできないと思いますけどね、ははは……後世のことはそっちの血筋に託しますね」

 

「もー、まだ若いんだから。どっかの魔法使いさんみたいに枯れたことは言わないの」

 

 

 ライフズくんは乾いた笑いを浮かべている。

 俺の聖王位の戴冠は人類を裏切った聖王の子孫への警戒に所以している。

 

 そして彼は俺の言葉でそれを察していて。

 情けない笑顔を浮かべそうぼやいたのだ。

 

 ま、これってライフズくんへの警戒よりその子孫への警戒が強いんだが。

 それってつまりライフズくんなら子孫を残せると確信されてるってわけで。

 

 本人からすれば『そんなわけないよ、僕全然モテないんだよ? 末代になるの確定なことをバカにしてる⁈』と言いたくなったのだろう。

 

 

「でも君だってその気になれば恋人なんていくらでも作れるだろ?」

 

「神官長は自分の魅力を自覚して欲しいんですよね、作れるけど作らなかったあなたとは違うんですー、普通の人はそんな恋人なんてボンボンできないんですよ!」

 

 

 ただ先に言っておくがライフズくんはモテるタイプの男の子だ。表だったファンは少ないが、裏では彼に好意を持つ存在は多くいた、と思われる。

 

 彼は作れるけど作らなかったとか言ってるけど、それはライフズくんも同じだ。

 

 幼馴染の女の子に一途だっただけ。

 なんなら理想の女の子の製造なんて考えていた俺よりよっぽど魅力的なのだ。

 

 俺が女の子だったら意識したと思うしね。

 

 ただ色々とあったから、彼は自分の男としての自信を喪失してるだけで……。

 

 

「はぁー、ずっと好きだった幼馴染が兄貴分と結婚した上に、尽くしてくれた恋人を一方的に捨てた僕がどうしたらモテると思うんだよー」

 

 

 でも彼はBSS経験者。

 なのにこう言う軽口を叩けるくらいには、メンタルが回復しつつあるのだ。

 

 そしてそれは間違いなく、魔王妃ベストールのおかげでもあった。本人からすればそんなつもりはないのだろうけど……ライフズくんは彼女のおかげで心の傷を急速に癒しつつある。

 

 かなりいい傾向だ。

 吹っ切れるのは時間の問題だろう。

 

 俺は少し安心していた。

 とあるニュースをもしかして耳にしてるかなって少し不安だったんだが、この様子ならその話を耳にしても大丈夫だろうしね。

 

 ま、それはともかく。

 ただこれはもしかしてベストールさんとワンチャンあるかもしれない。俺は理想の女の子の製造計画を中断していた。

 

 もちろん、計画中断には他の理由もあるのだけど……。

 

 

「冗談はそれくらいにしておいて、多分過激派の動きはないと思います」

 

「だろうね、今は静観するべき時勢だ」

 

「神官長のおかげで随分マシになりましたけど、魔族嫌悪の声は強まってますから」

 

 

 さて、勇者の結婚式には劣るものの次の大きなイベントは人類に敵対的な勢力からすれば実に狙い目と言えるわけだが。

 

 ……おそらく敵の攻撃はない。

 

 魔王軍残党からすると、今は人類とライフズくん一行の対立が深まるのを待つべき場面。

 余計なことはしない。

 

 

「力が及ばず申し訳なく思うよ」

 

「いやいや、本当に助かってますからね? 人類連合に攻撃されるかなって戦々恐々してたんですから!」

 

「でもリスクはまだ消えていないよ?」

 

「はい、それはわかってます」

 

 

 一応俺の寄稿で魔族脅威論は和らげることはできたんだが……そもそも魔族の恨み自体が無くなったわけではない。

 魔王への憎悪に燃える思想家はロビー活動を繰り返し行なっているし。国家元首クラスにも魔王への憎悪を抑えられない層はいる。

 

 それこそ、生命エネルギーを無駄遣いしない最大の理由であった。

 近いうちに戦争が起きるかもしれない。そんな機運は未だ消えていない。

 

 

「まーできることは本当にないんだ。俺に彼らを悪くいう資格はないからね……」

 

「……あの、神官長」

 

 

 でも俺はそう言う層への説得をしたことは一度もない。何も失ったことのない俺の言葉は軽いからね……。身内を失った方に復讐心を捨てろなんて偉そうなこと言えるわけがない。

 

 ライフズくんには本当に申し訳ないんだけどね。ここで変にわかったこと言われても逆効果でしかないから、静観するしかなかった。

 

 

「……前から思ってたんですけど、その……もしかして、魔王と何かしらの……関係でもあったんですか?」

 

 

 俺は思わずライフズくんの顔を見た。

 

 

「なわけないじゃん、俺はソルト王国を離れたことがないんだぜ? ……ただ俺は大切な人を失ったことがないからって話さ。そんな苦しみとか知らないからさ、偉そうなことは言えないし説得力もないだろ? 本当にこれだけさ」

 

「……そうですね……すみません……聞かなかったことにしてください」

 

 

 そして一笑に付すのだった。

 

 誤魔化すことも考えたが……へんに誤解される恐れもあるからね、俺はしっかりと詳しい事情を説明したのだった。

 

 実際魔王と知り合いなのは事実だけど。

 

 でもそう考えると両親殺されて故郷を滅ぼされたのに、魔族と和解を選べるライフズくんの性根は素晴らしいと言える。

 

 

「……それをいうなら僕にもありませんよね、彼らを悪くいう資格は」

 

「ライフズくんはあるんじゃない? ご両親の仇である魔王、その身内への恨みだって捨てるわけだろ?」

 

「……悪いのは魔王であって、その奥さんとか子ども……家族じゃないですからね」

 

「本当にそうだね」

 

 

 

 その言葉には同意するしかなかった。

 ま、すでに愚痴という形で不満を吐き出してるので、そんなライフズくんの態度に釣られて不満を吐き出すことはないんだけどね?

 

 俺はなんともいえない顔で同意するのだった。

 

 

「それで、神官長に相談したいことがあるんです、ルクリスのスピカ姫についてご存知ですか?」

 

 

 そんな言葉に俺は一週間前のことを思い出していた。

 

 

 

ーー聖歴0101 7月15日ーーーー

 

 

 その日俺は皇国を訪れていた。

 ちょっとした外遊である。

 連合王国と皇国は縁が深い。

 

 うちの官僚の一部を皇国に斡旋したことに端を発した外交関係は未だ切れることはなく続いている。悪くいえば影響力が根深く残っている、と言えるのかもしれない。

 

 皇国の復興はかなり進んでいた。

 

 周辺の小国の生き残り達をどんどん自国民として受け入れ、人員を確保し、復興を加速させているのだ。

 

 それは皇国という由緒正しい家柄と、魔王戦争で名を馳せた姫騎士の影響力に起因しているのだろう。

 

 

「姫さまに聞きましたよ、マルテも勢力に組み込んだとか」

 

「あらあら、おほほ、耳が早いのですね」

 

 

 勇者パーティー3番手の知名度。

 それに穏健派リーダーという立ち位置に。

 魔王の後継者への恐怖心も影響している。

 

 弱い勢力のもの達は、この荒れた世界を乗り切るために勇者パーティーメンバーの庇護下に逃げ込もうというのだ。

 

 もしかしたら姫さまとしても、連合王国の影響力が強くなるからこそ、復興が遅れがちな地域を取り込む方向に舵を切ったのかもしれない。

 

 すでに毒饅頭を平らげた以上は、一個も二個も大した問題ではないから、と。

 

 

「聖王陛下には一切の疑いはありませんわよ? ただ国家の意向というものは国主の手綱を振り切るものですもの」

 

「いえいえ、国家の運営というのはそういうものですからね? 別に泥を塗られたとかは思ってませんよ」

 

「それは良かった、ちなみにこれが言い訳のお手紙ですの、ぜひ受け取ってください、一生懸命書いたので」

 

 

 なんて考えたことは姫さまからすれば、見え見えだったのだろう。彼女は速攻で言い訳じみた言葉を口にしていた。

 ただそれは正鵠を得ていた。

 

 確かに俺、というかソルト王家は連合王国の国政にあまり首を突っ込まない。俺への信頼=連合王国への信頼ではないのだ。

 というわけで俺は別に不快感なんか感じてないんだが……姫さまはかなりの長さのお手紙を俺に手渡してきたのだ。

 

 

「……いらないんですけどね」

 

「わたくし一生懸命書いたのに?」

 

 

 ちなみに、彼女がこういうふざけたことを言ってくる時は、これからのお話は非公式、仲間としてのお話をしましょうという意思表示だ。

 

 

「……でもそれだけ多くの組織を引き入れて大丈夫ですか?」

 

「問題やらリスクやらはありますが……今は飲み込むべきですからね」

 

 

 ま、姫さまが大丈夫というなら問題ないだろう。

 いざとなれば手を貸すけどね。

 俺たちは仲間なんだから。

 

 

「……そういえばわたくし、リバースと結婚することになりそうですの」

 

「おめでとうございます。あの子は誰よりもあなたを支え続けていましたからね」

 

「むー、驚く顔が見れるかなと思ってましたのに……この情報もまさか漏れておりました?」

 

「いえいえ、全然初耳ですよ」

 

 

 とかふんわり考えていた俺はそんな爆弾発言を告げられるのだった。

 一切の前振りがなかったから本当にビビっていた。

 

 いや、まあ皇国の姫であるワイスは血を残す義務があると言われたらその通りだ。周囲からの突き上げも強いとは思ってたしね。

 

 そしてこう言う時に否定的な発言をするのはよくない。俺は全肯定した。実際リバースくんは悪い子ではないからね。

 

 

「ま、ともかく肯定的に受け取ってくださる方が身近にいて、本当に助かります」

 

「できることがあれば、言ってください」

 

「では、少しお願いがございまして、スピカのことなのですけど、少し探りを入れて欲しいのです」

 

 

 ま、ともかく。

 というわけで俺は姫騎士ワイスのお願いもあって、彼女の元婚約者の実家にも外遊することになったのである。

 

 

 

ーー聖歴0100 7月22日ーーーー

 

 

 ルクリス王国。

 その国家の復興もかなり早く進んでいた。

 ちなみにこっちにも連合王国は支援をしている。

 俺がお気持ち表明したってのも大きいんだけどね。

 

 土着した技術者の故郷であり、将来的に揉める可能性が大きいので、今のうちに資金援助なりをしっかりすることで恩を売った方がいいーーみたいな建前もあるけど、一番は個人的な貸しもあるからだ。

 

 

「随分と復興が進んでいますね、スピカ姫」

 

「はい、幸運にも恵まれ、ついにここまで国を復興させることができています!」

 

 

 さて、そんなルクリス王国も復興に出遅れたグループの一つであったが……奇跡的なV字回復を果たし、覇権競争に名乗りを上げていた。

 

 明らかにおかしい。

 ワイス姫は俺に探りを入れてくるようなお願いをしていたのだ。

 ちなみにうちの援助だけでここまで復興を加速することはできないとは明言しておく。

 

 彼らがこんなに早く復興を進めた理由。

 それこそ魔王国との密貿易にある。

 

 魔国は技術に乏しい。

 だからこそ、ライフズくんは第一次産業ーー地下資源の採掘なんてことに手を出しているそうだ。

 過酷な肉体労働は、身体能力に優れる魔族との相性がバッチリだった。

 

 そうして産出した資源をこっそりルクリスに運び。ルクリスは地下資源を加工して輸出する。

 

 もちろん資源の値段は格安だ。

 悪く言えば足元見られてるわけだが……。

 

 

「これも全てはゾーニッヒさまのお慈悲のおかげでございます」

 

「いえいえ、ルクリス国民の不断の努力の賜物ですよ」

 

 

 それ自体はいいんだよね。

 何か俺は隠れ魔族融和派。

 ばりっばりでライフズくんと内通してるからね。

 

 だからこの件は握り潰すつもりなんだが……問題はルクリス王国は皇太子を魔族に殺されているという点であった。

 

 ……魔王の御曹司の存在を知って何かしらの動きを見せるのでは? そんな警戒もあったから、姫さまの言葉に渡りに船と言った感じでこうして様子を見にきたのである。

 

 

「それはさておき……ここだけの話なのですが、わたしはライフズさまとも仲良くやっていきたいと思っています」

 

「平和は大事ですからね、スピカ姫」

 

 

 どうやらスピカ姫は俺がこの国を訪問した理由をしっかり見抜いているようなのだ。姫さまに頼まれたこと。そしてその裏に隠れたライフズくんとの繋がりも。

 

 ……ま、彼女も一応支配者階級。

 優秀な観察眼を持っているようだ。

 

 ま、問題はないというか、俺は結構な社会的信用を所持しており、多少密告された程度じゃ何の問題も起きないわけなんだが。

 

 

「魔族は警戒するにあたらない、でしたっけ? ゾーニッヒさまの寄稿も目にしました。わたしも同じ考えです」

 

 

 真正面から見つめたスピカ姫の瞳。

 そこに怨嗟の色は薄かった。

 

 

「あまり人に言うのは良くないですよ?」

 

「ゾーニッヒさまになら構わないでしょう? ふふ、二人っきりの秘密ですね」

 

 

 ま、それだけではないのだろう。

 ルクリスの復興のためには魔族からの資材は必須。

 復興を取るか、個人的な恨みを取るか。

 スピカ姫は前者だった。

 

 

「……わたしは未婚を貫くつもりです。この判断はあくまでわたしの独断ということにしておけば、いつか秘密が露見しても問題が起きないでしょう?」

 

「……そうですか、聞かなかったことにしておきます」

 

 

 スピカ姫への好感度がぐーんとあがった。

 めっちゃいい子じゃん!

 俺はつい、ニコニコしてしまう。

 何かあれば庇ってあげなきゃだな。

 俺は胸の中でそう誓うのだった。

 

 

「ぜーんぶ、ゾーニッヒさまのお陰ですよ」

 

 

ーー聖歴0100 8月16日ーーーー

 

 

 というわけで俺は先日のことをライフズくんに話していた。

 もちろんワイスの結婚については言わないけど。

 スピカ姫との会話については一部を濁して語っていた。

 

 

「という感じだったよ」

 

「流石ですね、僕が何かいうより前に動いてるとは……でも助かりました。一応、ベストール共々、スピカ姫に頭を下げたのですが好意的に受け取ってもらえたようですね」

 

 

 ま、ライフズくんはしっかり礼儀を果たしたらしく。

 古い王家だからそれが政略結婚であると理解してもらえたらしい。

 

 

「ま、あくまでそう仰ってただけですけど……今はリスクはやむなしと思ってます。取引量自体は減らすつもりですが……」

 

 

 魔王の御曹司という存在は大きな地雷だ。

 軽挙に及ぶわけにはいかない、そう思うライフズくんの気持ちはわかるんだけどね……。

 

 

「ま、スピカ姫は信頼していいと思うよ?」

 

「……本気で言ってますか?」

 

「うん、あの子はそういう子は大丈夫だからね」

 

 

 それにルクリスが覇権を狙うならば、魔王国との密貿易は必須だ。

 国益を思えば、ライフズくん達との取引は打ち切れない。だからここは信頼を寄せるべきなのだ。

 

 

「……はい、僕は神官長を信じます」

 

 

 ま、これは腹の中を見せてくれた同志であるお姫さまへのフォローって感じかな。それに魔王国からしてもルクリスという融和的な国が大国に育つ意義は大きいしね。

 

 だから俺は二つの国が仲良くできるよう。

 あれこれと手を打つのであった。

 

 

 

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