曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者 作:さらみパスタ
聖王位の戴冠。
その儀式は厳かに行われていた。
礼服に袖を通した俺は、皇国の女帝に冠を被せられていた。
聖王の称号は血筋で受け継がれる。
俺の子どもも、孫にも。
王家が続く限りに。
その祝賀には俺の父や祖父母も駆けつけており、感涙の涙を流している。漁師の孫であった俺がここまでの地位を得られるなんて子どもの頃は考えてだっていなかったのだろうなぁ。
なーんてぼんやりしてるうちに式典は恙なく行われ。
俺は無事、聖王になるのだった。
ちなみにそれを用意したのは皇国の生き残りの姫である姫騎士である。
人類連合の首脳が出席した式典はそこそこ大きな、というかもしかしたら歴史に刻まれるくらいに重要なイベントになったわけなんだが……予想通りに魔王軍過激派からの攻撃はなかった。
一応俺も、厳重な警備を行おうとする人々に今回は大丈夫じゃない? と報告を入れたんだけどね。
それでも念には念をと厳重な警備は行われていた。万が一はあってはならないのはその通りだった。
勇者レーヘンの結婚式に続いて、今回も魔族のテロを起こしてしまうなんて人類連合のメンツをボロボロにしてしまうからね。
汚名返上のためにも警戒し過ぎるくらいにしていたのは仕方ないのだろう。
ちなみにワイス姫が俺に冠を被せる役割を任せられたのも、素手でも十分敵を撃退できる武勇を買われたというのも理由の一つである。
「これで名実ともに人類の盟主ですわね、ゾーニッヒ聖王陛下」
「やめてくださいよ、そんなの前の聖王家の話でしょ。実権なんて何もないじゃないですか」
「もー、揶揄い甲斐がない殿方ですこと。わたくしばっかいじってくるくせに、自分の番には動じないのはずるいと思いますの」
姫さまは悪戯っ子のように微笑んだ。
一応敵襲を警戒していた反動で気が抜けたのだろう。
魔王討伐後からよく見られるいつもの笑顔。
ちなみに聖王というのは魔王の対として作り出された称号だ。人類の頂点として非常に権威ある称号ではあるんだけどね。
聖王にあるのは名誉だけ。
他国に干渉する権利なんて存在しない。
特別な特権なんてものもない。
ただかっこいいってだけだ。
それでも聖王の名は漁師の孫にはあまりに重い……んだけど、勇者レーヘンの夫の地位よりは軽いから、俺はそこまで緊張はしていなかった。
人類の盟主? 仮にそうだったとして。世界を救い、全ての人類に尊敬されている勇者さまよりは立場が下だしね。
「わわわ、じ、人類の盟主〜っ⁈」
「もー冗談ですのに、びっくりしすぎですわよ?」
「……姫さまはそれで満足なのか?」
と要望のあったので俺は心底びっくりしたーー的な態度でリテイクをして。
姫さまは満足そうに首を振り。
そんな光景を目にした魔法使いさんは呆れたように突っ込む。それもまたいつも通りの態度だ。
魔王戦後によく話すようになって、一気に親しくなった歳上の友人のいつもの言動。
ちなみに彼も警備役として眼を光らせてくれていたし。
お弟子さん達を引き連れて魔法防御なる講義みたいなこともしていた。
「ま、ともかく。ゾニ坊も姫さまもお疲れさん……、何事もなく終わって良かったなぁ」
「ま、いざとなったらボクが神官長のこともみんなのことも、しっかり守ったからなんの問題もないんだけどね!」
さて、そんな俺たちに言葉を向けるのは魔法使いさんとーーレーヘンだ。
今回の外遊は勇者レーヘンも同行していたというか。聖王妃としての初めての公務なんだが、当然のようにその傍には聖剣が携えられている。
勇者さまの武装を咎めるものはいない。
俺も一応メイスは不携帯だったんだが……それが許されるくらいに特別なのがレーヘンなわけ。
「ほんと、このまま平和が続けばいいのにね!」
「でもレーヘン、この方の目が届く小大陸は平和でしょうに」
それはともかく。
今回は俺にとって大事な式典なのに、王の妃が参加しないわけにはいかないからね。
本来なら練習として小さな公務を挟んだりするんだろうが……時勢とか色々あった結果、いきなり歴史的な舞台に立たされたレーヘンなんだが、意外と器用にやりこなしていた。
「……そういえば一応聞いとくけど、レーヘンの嬢ちゃん的にはあの二人の距離感はいいのか?」
「え? そりゃ夫の友人関係にあれこれ口を出すのはね? 浮気は許さないけど、単なる友達に嫉妬なんてしないよ?」
ちなみにレーヘンは俺がワイスに一切の恋愛感情を持ってないことを理解しており、こういう馴れ馴れしい会話に嫉妬する様子はない。
「……その割には……」
「ほんとデリカシーがないですわねぇ、バックルさまは。その過去は無かったことにしましたのー! 掘り返さないでくださいまし」
以前までのーー俺へのハニトラを繰り返していた頃の態度とはまるで違っている、と言いたいのだろうが。
よくいえば正妻の余裕ってやつだろう。
「魔法使いさん、心配してくれてありがとうね。でも大丈夫! 不満がある時はしっかり言ってるからさ!」
「それは良かったよ」
ちなみに魔法使いさんも姫騎士を弄るためにそんなこと言ったのではなく。娘のように思っているレーヘンが何かしらの不満を抱えてないか心配になったのだ。
俺と姫さまは魔王戦後に真の絆が芽生え、心の距離が一気に近づいたからね。俺も以前より遥かに仲がいい自覚はある。
「……ん? 不満とかもうあるのか?」
「そりゃね? 神官長ボクに全然愚痴とか言ってくれないんだよね〜、『レーヘンに聞かせて負担かけるのも申し訳ないし』って公園で石に向かって語っててさ、この前もさぁ〜」
「まぁまぁそれはいけませんわね、神官長さまは本当に鈍くて女心を全く理解してないとこありますものねぇ」
だから姫さまは公然と軽口を叩くのだ。
訳知り顔で紡がれるディスり。
一応、仲はいいしこういう弄り自体は俺としては楽しいんだけどね。本当にあの頃からは考えられない関係だが。
「…………」
「その件はなかったことになっておりますの」
「いや、今のは姫さまが自爆しただけじゃん」
「うるさいですわね、聖王陛下のお腹真っ黒ムーブでわたくしに失言させたに違いないですの、つまりわたくしは被害者」
それ故にやらかすことはある。
調子に乗ってぺちゃくちゃ口を動かしていたから。
先に言ったハニトラに一切気づいていなかった俺への揶揄=封印した過去をひけらかしているに等しい。
そして無意識にやらかし、そのことを指摘された姫さまはお顔真っ赤に他責し始めてるのだった。
「にしてもレーヘンは随分と典礼にも慣れていましたねぇ?」
「昔からイメトレはしっかりしてたからね!」
「なるほど通りで立派な王妃姿だったわけです……わたくし涙を抑えるのに必死でしたのよ?」
勇者パーティーメンバーは硬い絆に結ばれており、その仲はかなりいい。顔を合わせたら歓談に耽るし、雑談に熱中してしまうくらいには。
というわけで俺たちは取り留めのない会話に勤しんでいたわけなのだが。
「そうそう、ワイスおめでとう! リバースくんはいい子だからね! 昔から姫さまを支えてたし……ちょっと似てるとこあるからさ」
「旦那さんと同じことおっしゃられるのね」
そんな会話の中でふと。
近くに迫った姫騎士ワイスの結婚について、勇者さまは話題に触れていた。
……新しい恋を見つけられた。
というわけではないっぽいんだよね、姫騎士。
いまだに魔王になってしまったライフズくんへの未練はあるし、彼を誑かした魔王妃ベストールへの嫉妬もある。
「それでこの腹黒鬼畜の聖王陛下と、わたくしのリバースのどこが似ていますの?」
「いや、この人じゃなくてボクとだよ。昔っから身近の王子さまに憧れてるとことか、ずっと隣で支えてたとことか……まあ、他にも色々と」
「ええ……そうですわね……」
ただ仲間たちとの楽しい会話で、そんな深刻な話はしたくないから。意図してすっとぼけようとした姫さまなのだが。
勇者レーヘンの追求は何より鋭い。
或いは、彼女が秘めていた苦悩を見切っていたのか、誤魔化し無用と会話を強引に軌道修正していた。
「……そうですわね、こんな機会でもないとこんな話はできませんものね……ねぇ、神官長さま、あなたはどうやって割り切ったのです?」
「俺と姫さまは話が少し違いますから」
そして姫さまは俺には死別した交際相手がおり、そんな相手に操を守っていたが、レーヘンからの猛アプローチに絆されて、ついに結婚することになったーーみたいな勘違いをしているのだ。
だから姫さまは、普段のお茶らけっぷりが嘘のようなシリアスモードでそんな質問を口にしてくるのだ。
本気の目だった。
理想の女の子を諦め、勇者さまを選んだのと同じとまでは言えないんだけどね? 流石に妄想上の非実在系ヒロインと、肉体関係まで持ってた彼氏は話の次元が違う。
だから流石に『姫さまの気持ちがわかるよ』なんていうことはできない。そのあたりの分別は付く。
しかし俺にだって恥はある。
『実は全部妄想上の存在なんだ』なんていえない。今の距離感でそんなこと言ったら一生笑い物にされるし。
この空気でそんなこと言ったら、『時と場を弁えずくだらない冗談を言った』と評価が著しく下がるだけだからね。
死別した妻に操を守り続けているスーパーモテモテ学園理事長なバックルさんに見守られる中で。
「ただ嫌ってはいないし、結婚することへの拒否感もないのでしょ? それが答えなんだと思いますよ」
「ええ、それは間違いありませんわね、あの子はずっとわたくしを支えてくれていたのです。他の男に入れ込んでる間もずっと……」
俺は脳細胞をスパークさせ、比較的マシな言葉を口にした。
ワイス姫はライフズくんへの未練はある。でも同時にずっと隣で支え続けてくれた相手に絆される気持ちもあるのも確かなのだ。
で、姫さまの場合は二人の男の間で揺れているからこそ、より苦悩してると思うんだよね。できればライフズくんとしっかり話し合うのがベストなんだけど……今の情勢的にそんなの無理だろうし。
だから時間を置くしかない。
リバースくんは姫さまが割り切れていないことを理解した上で、結婚を受け入れたんだろうし。
「……ああ、なるほど。あなたも同じ気持ちなのですね、聖王さま……ふふ、少しだけ嬉しく思います」
恋なんて叶わないことの方が多いものなのだから……とかいいたいけど、俺はなんとも言えない顔をするのであった。
流石にね妄想の中での理想の女の子への恋は真っ当な恋愛経験に入れちゃいけない自覚はあるからな!
ーー聖歴0101 9月12日ーーーー
レーヘンは式典を終えた次の日。
仲間たちとの交流に勤しんでいたのだが……そのまま姫騎士と女子会をすることになったそうだ。
立場もあって以前ほど頻繁にあってないから、積もる話もあるのだろう。
勇者レーヘンと姫騎士ワイス。
二人は姉妹のように仲がいいからね。
男がいては話しにくい内容もあるだろうし。
というわけで、少しの間単独行動をするチャンスを得た俺は毎度の如く独断行動に打って出ていた。
書き置きを残した上で変装をし、警備の抜け目を縫うように外出していたのである。
ちなみにライフズくんは忙しいようで、しばらく会えないみたいな報告が、この都市を訪れた最初の日にあった。
彼は今魔国の開拓の陣頭指揮をとっているそうだが、ルクリスとの密貿易は予想以上に大きな取引になったそうで。
土地の開発やら何やらに忙しいとか。
「や、レニヒさん。元気してる?」
「聖王戴冠おめでとうございます、偉大なるゾーニッヒさま」
というわけで俺は魔族のスパイ、レニヒさんの元を訪れていた。ライフズくんが忙しい時は彼女が暫定首都にやってくるからね。
「今回はどのようなご用件なのでしょうか? 心臓に悪いので先に本題を教えてくださるとありがたいのですが……」
「いや、今回はその……ライフズくんの恋愛事情ってどうなってるのか聞いていい?」
ただ彼女はどこか緊張していたから、こう、場を盛り上げるためにそんな質問をしていた。
ほら、ワイス姫の結婚について教えとかないといけないんだけどさ……せっかく幼馴染BSSの傷が癒えかけているのに。
元カノ(未練あり)の結婚話で脳破壊が悪化するリスクがあるからね。
「……ライフズさまは、四天王の紅一点、夜魔ボルティレスから好意を抱かれています」
あと、なんか勘違いされてるっぽいし……俺は前々から聞きたかった内容を直球で尋ねたんだが。
その甲斐もあって重要な内容と勘違いしたらしく、レニヒさんは魔王軍の内部機密を赤裸々に語り出した。
おそらく先日俺が首を絞めた魔族かな?
四天王というには少し未熟なとこがあるタイプで、好意を寄せつつついツンツンしては反省会をしてるそうだ。
「それとここ最近はベストールさまとの距離がかなり近くなっていますね。自己犠牲に走りがちなベストールさまの説得の影響が大きいのでしょう」
「なるほどね、ありがとう。実はワイス姫に結婚の話があってね、ライフズくんは大丈夫かなって心配していたんだ」
ま、これくらいでいいかな。
聞きたいことは聞けたわけだし。
というわけでなぜ恋愛事情について聞いたのか種明かしを口にする。
「……よかった……」
開口一番。
レニヒさんは小さくそう呟いた。
「申し訳ございません。良かったと思ってしまいました」
「スピカ姫あたりとの婚約についての話と思ったのかな?」
あー、俺の態度からライフズくんと誰かを政略結婚させるーーみたいな話だと思ったのかな?
ちなみにレニヒさんはルクリスとの交易について知っているbyライフズくんのリーク。
だから秘密を明かしても問題ない。
ただ魔王軍とルクリス間のやり取りは密貿易。表沙汰にできる関係ではないので、婚姻同盟みたいな話にはなりにくいんだけどね。
「……はい、偉大なるゾーニッヒさま。婚姻同盟を結ぶ、などの話が出るのかと思っていましたから」
「ということはそういう話には否定的なんですか」
「はい。ベストールさまには、ライフズさまのようなお方が必要ですから!」
聞きたいことは聞けたから、と思っていたけど。
俺はもしかしたら、かなり重要な機密を手に入れたのかもしれない。
「あの方はベストールさまを本当に大切にしてくださっておりますし……ここだけの話、ベストールさまも少しづつ惹かれているようなのです」
「そうですか……少しホッとしました」
やはり、フラグは立っていたのか。
でも気持ちはわかる。自分が死ななければならないって時に、それをどうにかしようとしてくれた相手だからね。
ノートのやつは控えめに言って、あんまりいい夫ではなかったようだし。そこにライフズくんの善性がすぅーっと効いたんだろうなぁ。
「……これも運命ってやつなんでしょうねぇ……」
ノートとライフズくんはおそらく従兄弟。
なんていうか奇妙な縁もあるもんなんだなぁ。
俺は訳知り顔で頷いた。
「それでは二人の未来を守るためにも本題を言わせてもらいますね」
「……はい、お願いします」
ま、こんな話はジャブなんだけどね。
本当に申し訳ないんだけどね。
でも本題切り出したら、こんな悠長なおしゃべりなんてしてくれないから。
「皇国が軍事行動を起こす素振りがあるから気をつけてください」
「……は?」
レーヘンの勘にも反応ありなので、疑念はほぼ確信に近いんだけどね。
人類連合の上層部は今、少しピリついている。
魔王の後継者問題に、魔王ライフズ問題。
魔王軍残党問題に、人類間の対立。
戦後から一年半と少し。
人類は多くの問題を抱えていた。
それは連合会議の議決権を持つ姫騎士ワイスも魔法使いバックルだって同じだ。なのに最近の彼らはあまりに変わらなさ過ぎるのだ。
もう少しピリつくものじゃん?
今の情勢は少し緊迫している。
気を抜いていたらその緊張やらが態度に出てしまう。
なのにあそこまで隠れている=隠してるということになる。
俺はほんの少しの違和感を覚えていて。
レーヘンの言葉も相まって、人を使って少し探らせたところ……どうやら皇国は復興と同時進行で軍事力の増強に勤しんでいるらしい。
狙いは魔族だ。
姫騎士ワイスはいわゆる穏健派のリーダーだ。魔族との関係も融和できるなら融和すべしと考えるタイプの派閥を率いるだけあり、彼女も立場上は融和的なスタンスをとっている。
ただ……その前提として、魔王の後継者の排除がある。
俺の寄稿の影響で、人類圏において魔族への警戒感は緩やかに薄れつつあるわけだが。
だからこそ、それ以前の空気とのギャップに反発した魔族に恨みを持つ層が過激な手段に及ぶ可能性が高くなっているし。
ワイスはそれを利用して、危険な存在の排除に動く可能性は高い。
……多分ね?
「……すみません、助かります」
「……それと同時にバックルさんも別軸で動く可能性は大きいってのも注意しておくように」
そして、魔法使いさんは過激派ではあるが子どもは別という価値観を持っていて。姫騎士一派の動きに呼応して動く可能性がある。
どちらが先に行動をするのか。
俺もずっと大大陸で睨みを利かせられるならいいんだけど……流石にそうも言ってられないからね。
だからこれが俺にできる精一杯。
緊急性の高い情報を報告するため、慌てた様子で立ち去ったレニヒさんの背中に俺はエールを送るのだった。