曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0101 10月3日

 

 

 

 皇国軍に軍事行動の予兆ありとの報告が、あの国で政務を行う行政官から伝えられたのは、穏やかな昼下がりのことだった。

 

 驚きはなかった。

 俺は前々から皇国の怪しい動き自体は掴んでいた。

 『魔王の後継者』を姫騎士は許せない。

 国家の安全保障に絡む重大リスク、と言われたらそうだと納得するしかないしね。

 

 もちろん俺としては止めたい。

 子どもは関係ないじゃん、なんて思うわけだが、それはソルト王室とかいう漁師の孫としての感覚だ。

 

 国家元首として間違ってる自覚はある。

 魔王ノートと似たような存在が産まれるリスクを後世に残すリスクは承知している。

 

 でも嫌なものは嫌だ。

 受け入れられるわけもないし。

 

 俺はそういう自分が割と大好きで改善しようとも思わないので……ね?

 

 しかし、じゃあどうするのかという問題があった。最悪な事態にならないように皇国の軍勢に合流し、裏で魔族をフォローするーーなんてことも考えたのだが。

 

 自慢だが俺は多くの権威を持つ。

 

 俺が動けば中立的な各国も魔族攻撃に参加してしまう。魔族VS人類なんて事態を齎してしまうのは目に見えていた。

 

 だから聖王として。

 俺は事態を傍観するしかなかった。

 俺は……無力だった。

 

 

ーー聖歴0101 10月14日ーーーー

 

 

 

「……あなた、何してるんですか……」

 

「お、ごほん、わたしは旅の神官で、義によって助太刀しに参りました」

 

 

 ま、変装すればセーフなんだけどね。

 俺が人類側につくことは許されない。

 

 だからこそ魔族側についたのだ。

 変装した俺は、魔国に密入国していた。

 

 こうなることは予期していたので前々から、まとまった時間が取れるように手を打っておいたし、密入国の準備はしていた。

 

 王様だけどギリセーフ。

 

 聖王、そして連合王国国王。

 そういう立場は少しお休みして。

 今の俺はただの神官長。

 何の柵もない流浪のヒーラーである。

 

 ちなみにレーヘンはいない。あの子はその……殺しは上手いけど、無力化とか制圧はちょっと苦手だからね。

 それに万が一にも人類に攻撃をするなんてさせるわけにはいかない。

 

 というわけで魔族の集落を適当にふらついていたのだが……文明的に言えば未熟も良いところだ。

 

 ソルト王宮のある都や、暫定首都とは見劣りがするちっぽけな都市。それこそが新生魔都ライフルである。

 

 場所は旧魔王城から少し離れた場所にあるが……そこそこの賑わいがある田舎の小都市だった。

 

 ただこの都市はほぼほぼライフズくんが単身で開拓し、発展させたらしい。

 単独で? ってちょっとびっくりするんだけどね。とんでもない大偉業である。

 

 元々は不毛の荒野でしかなかったからね?

 かつて魔王と戦うために通過した地域だし、かつてこの一帯に都市なんてものは存在しなかったことは確認済みなんだが……。

 

 一代、しかもほぼ一人の手でここまで都市を大きくしたってのは偉大なことである。

 

 

「あの不毛の荒野を……これが魔王ライフズの手腕ですかぁ、素晴らしいですね」

 

「……あなたは……」

 

 

 ちなみにライフズくんは、四天王の紅一点を護衛につけた上でなにやら新技術の啓蒙の真っ最中らしく、市場をフラフラしていた。

 

 その姿に魔王らしさなんてものはない。

 

 でもその気持ちはわかる、俺も今、聖王らしさなんてものはないからね!

 

 

「すみません、みなさん……、そちらの方、少し良いですね?」

 

 

 というわけで誰にも気が付かれず、見事に魔王ライフズの御前に辿り着いた俺は、そのまま彼に引っ張られるように物陰に連れ込まれていた。

 

 

「……ほんと何してるんですか? あなた自分の立場わかってるんですか⁉︎」

 

「ライフズくん。ここまで来た以上、そんなこと言ってもなんの意味があるんだい」

 

「……それあなたがいう立場じゃないですよね」

 

 

 ま、気持ちはわかるんだけどね。

 俺も逆の立場なら強く嗜めただろう。

 

 ちなみに強い語調で詰め寄ってくる少年の瞳には隠しきれない喜びがある。この窮地に兄貴分()が助けに来てくれたことが本当に嬉しいのだろう。

 

 そこに罪悪感と心配が入り混じって。

 なんとも言えない表情を浮かべた彼は、やがて力なく項垂れていた。

 

 

「すみません、僕のためにこんなご迷惑を」

 

「純粋に人類のことを思って、だよ。ここで余計な諍いの種が産まれるのを見逃すなんて国民に対しての背信だからね」

 

「……そうなんですか?」

 

「そうなんだ。遺恨の種なんて後世に残すわけにはいかないんだから。仮にも人類の盟主として動かないわけにはいかないだろ?」

 

 

 俺は弟分の前で最高にカッコつけた。

 ま、嘘は言ってないんだけどね。

 

 魔族に与したっていうより、戦いで余計な死傷者が出ないように動いたっていうのが大きいんだし。

 

 怪我はともかく死人が出たら遺恨が残る。

 それは人類も魔族も変わりはない。

 そうなれば将来的な災いとなる。

 

 最悪本格的な戦闘に及んだとして、死人が出るような事態だけは避けねばならない。

 魔族にも、人類にも、だ。

 

 と、俺は理論武装を済ませている。

 

 

「なら感謝を。あなたの存在は僕らにとっては百人力なんですから」

 

「それなら俺も感謝を。君のおかげで俺たちは本当に助かっているんだからさ」

 

 

 というわけで俺はライフズくんのお墨付きを得て、謎の不審者から魔王さまのお客人に成り上がるのだった。

 

 

ーーーーーー

 

 

 新生魔王城。

 それはお城というより単なる屋敷である。

 少なくとも暫定首都の屋敷とは比較にならない小さな住居の中にはーー魔王軍の幹部が勢揃いしていた。

 

 魔王妃ベストールを含めた魔王軍四天王にレニヒさんが、ね? 要は結婚式に乗り込んできたメンバーである。

 

 

「皇国から軍勢がくる……悲報ですね……」

 

「それよりライフズ……陛下、その方は?」

 

 

 ま、真っ先に皇国が動いたという情報を共有する必要があるんだけどね。時間的にそれほど余裕があるわけではない。

 ……レニヒさんもいなかったからね。皇国が動いたって情報を伝えることも出来なかったのだ。

 

 が。

 魔王の間に謎の男がいる、となれば四天王の皆さまとしても大変気になるようなのだ。しかもなんかライフズくんと非常に距離が近いからね?

 

 

「この人は助っ人です! 皇国襲来の情報を伝えてくれた恩人で、古い友人の一人です」

 

「いや、そうじゃなくて名前とかあるでしょ」

 

 

 ライフズくんは俺をかなり重用するつもりらしく、あれよあれよといううちに魔王軍幹部と顔合わせさせられていた。

 

 

「別にあんたの命令なら従いますけど……いきなり名前も知らない相手に従えってのは横暴が過ぎない?」

 

「そうだね、ごめん。僕の顔に免じて今回だけはわがままを聞いてほしい」

 

 

 ちなみに立場としては魔王の代理役。

 今回の戦闘の全権と指揮を任されている。

 

 元魔王妃ベストールを始めとしたライフズくんの側近メンバー。彼らは現在の魔王軍の中では最精鋭らしい。

 

 ……結婚式の時にボコボコにした面子なんだけどね。あれから少し鍛えたようだが、姫騎士と戦うにはまだ役者不足と言った感じだった。

 

 彼らの力を借りて、姫騎士の部隊の足止めはできそうにないというか……余計な犠牲が出るだけで終わるなぁ……。

 

 

「名前は言えないんだ、僕が止めているので」

 

「……もしや聖剣守の生き残り、か?」

 

「ノーコメントでお願いします」

 

 

 ま、もちろん名前は出せない。

 俺は正体を誤魔化している。

 

 ちなみに変装術として声帯を少し弄ってるので声は全然違っていて、喋るくらいなら問題なくできる。

 

 幸いなことにこの世界には『聖剣守の一族』とかいう魔族に味方しても問題ない高貴な血筋が存在するからね。俺は一瞬だけ聖剣守の一族になっていた。

 

 

「……わたしの恋人は魔族の女性でしたから……彼女の夢のためにもあなた方に力を貸させてください」

 

「……わかったわよ、でもライフズの命令だから、勘違いしないでよね!」

 

 

 もちろん他にも理由は用意する。

 そう、俺には魔族の恋人がいたのだ!

 名前はルーテシア。

 

 ちなみに実は魔族で、妹が一人いるお姉ちゃん、そんな処女で一途で純真だけど、エッチにはノリノリなオタクに優しいギャルである。

 

 ま、その妹さんはこの世に産まれ落ちるかは定かではないんだけどね。俺はライフズくんと……妙に距離が近いベストールさんの姿をチラッと見た。

 

 新ヒロインなんていらないのかもしれない。少なくともベストールさんは明らかにライフズくんのことを意識していて、ワンチャンあるなって雰囲気が露骨に滲んでいた。

 

 

「……どうしたのじゃ?」

 

「いいえ、ただ微笑ましいだけです。……お幸せにね?」

 

 

 悩みや苦悩を隣で支えてくれる、ライフズくんのヒロイン。魔王妃はそれに相応しい想いを持った女性だ。俺は可愛い弟分の幸福を祈るあまり、怪しまれると理解してなお、そう語りかけてしまうのだった。

 

 

ーー聖歴0101 10月16日ーーーー

 

 

 姫騎士の、いや、皇国の動きは早かった。

 政権中枢に情報源があるから俺はギリギリ間に合ったし。そんな俺からのリークで魔王軍は迎撃態勢を取ることができていたが……。

 

 

「ま、張子の虎というかあの軍は見せ札です。攻撃しなきゃ何もして来ませんね」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 

 姫騎士はいわゆる首斬り戦術を取るつもりらしい。率いる軍勢を見せ札にしつつ、魔王の後継者の首を狙うーーというとこまでリークされている。

 

 その軍勢も積極的な攻勢を仕掛けてくるつもりはないそうだ。……もちろん攻撃されたら反撃はしてくるわけだが。

 

 そしてそれとは別軸で魔法使いさんが動くのは間違いない。

 

 皇国の軍隊の対応のために魔王軍を動かせば、万が一の事態は起こり得るし。

 そうでなくとも、魔法でまとめて一網打尽にされてしまう。

 

 つまり。

 

 

「でも正気なの⁈ 部隊を表に出さない? ……あなた、まさか裏切り者なんじゃ……」

 

「あっちにやる気はないからですよ」

 

 

 なんか、すごく怪しんできている四天王の紅一点。その探るような眼差しは、俺の一挙一動を決して見逃さないと言っているようなものだった……が、俺は本当に魔族の味方なので、一切気負うことなく過ごしている。

 

 まともにやりあうべきではない。

 魔王の臨時の補佐官に任命され、魔王軍の指揮を任せられた俺はそれを強く主張していた。

 

 魔王軍は魔族共々徹底して逃げを打つべきなのだ。

 

 という話は既にライフズくんにも行っており、この都市の市民はすでに後方に退避している。

 

 後方といってもろくな都市はないんだけどね? いわゆる旧魔都と呼ばれるあたりに一時的に逃げ込んでもらっていた。

 

 

「そして魔法使いバックルは必ず来ます。そして彼は……大軍に非常に有効な魔法を開発しています。軍勢なんてものは的にしかならない」

 

「え、そうなんだ……ごめんなさい、裏切り者とか言ったことは謝るわ」

 

 

 いい子なんだよなぁ。

 顔を隠した謎の男にこんなこと言われたからって素直に信じるのは、ちょっと性根が素直過ぎないかなと思わなくもないんだけどね。

 

 『裏切り者』なんて、怪しい人物の前でわざわざいう必要あるのかって話よ。

 普通内心で秘めた上で、表面上は友好的に近寄るでしょ?

 

 

「……しっかり警戒するのがあなたの仕事でしょう、話の裏を疑いなさい。ライフズくんが騙されてたらどうするんですか?」

 

「あいつを騙せるのに、あたしらを騙せないわけがないでしょ、あんた何いってんのよ」

 

 

 世間的には俺は天才将軍扱いされているが……実際のところ指揮能力自体は並だ。

 勇者レーヘンとかいう最強の大駒。

 そしてどんな傷でも癒せる回復技能。

 その二つに下駄を履いてるだけで、そこまで優秀ってほどではない。

 

 そんな俺でも別格の天才扱いされるのが魔王軍だった。ライフズくんが全権を預けた意味を、俺は正しく理解していた。

 

 

「それにあんたがその気になればあたしらなんて一捻りでしょ?」

 

 

 もしかしてバレた⁈

 いや、それはないな。

 立ち振る舞いで実力を見抜かれただけかな。

 だから俺は一切動じることはなく。

 

 

「それでそれで? 他にも何かあるんでしょ? 教えてよ」

 

「それに魔王ライフズは魔王軍残党との戦いの片手間でこの都市をここまで大きくしました、つまり簡単に再建できます」

 

 

 まあともかく。

 姫騎士ワイスの部隊による強襲。

 そして、魔法使いさんの横槍。

 そんなものまともに戦おうとするから問題なのだ。徹底して逃げ続け、ろくに反撃をしない。

 

 ……ここだけの話、この都市はライフズくんがたった一年で作り上げたものだ。

 なら、最悪捨てても問題ない。

 また一から作り直せるからね。

 

 

「それに、魔族は人類と戦う意図はないというアピールにも使えますしね? そうなると魔族と交易をして利益を得たい国家に大義名分を与えられます」

 

「ほへー、そうなのねぇ……」

 

 

 そんなものより、今代の魔王は徹底した非戦主義者という風評を得た方が後のためになる。

 魔族との交易は莫大な富を生み出す。

 おこぼれに与りたい国は当然多い。

  

 ただ、魔王への恐怖は根深く、魔王の後継者という威光に怯える多くの国家は手を出せないでいた。

 

 でも皇国に攻められても、碌に反撃もしないなんて事実が広まったなら。

 魔王はどこまでも超穏健派だと証明できたなら。この情勢は一気にひっくり返る。

 

 魔王ライフズの治世の間は大丈夫。

 そう印象つけて仕舞えばいい。

 

 そうなれば都市の再建も早く済むし。

 多くの国家との交易も再開する。

 

 この都市を賭金にしてもお釣りが出る。

 

 

「問題がないわけではありません。魔王軍は人類から舐められますからね」

 

 

 国家の威信を損ねる、というのは基本的には多くのマイナスを生む。

 しかし、今の魔国はその威信が高すぎる。

 みたいな話を俺は四天王の紅一点にあれこれと伝えていた。

 

 ……半分以上がそれっぽいだけの屁理屈なんだけどね……。

 

 

「それはそれで問題じゃないの、あたしらはともかくライフズはすごいやつなのよ!」

 

「そこら辺は魔王さまに、姫騎士相手に無双してもらって元を取ります」

 

 

 俺の作戦はこうだ!

 

 足手纏いにすぎない魔族はあれこれ理由をつけて戦闘に参加させず。

 魔王ライフズくん+ベストールさんに、姫騎士+魔法使いさんを相手取ってもらうのだ。

 

 これが一番犠牲が少なく済む。

 四天王のみんなには悪いけどね……姫騎士も魔法使いさんも俺みたいな軟弱者ではない。

 敵の命を奪うことに抵抗ないからね

 

 ちなみに俺は遠距離から回復魔法を飛ばすのがお仕事だ。今回の事変は単なる小競り合いで終わらせる。

 

 死者ゼロ、可能なら怪我人もゼロ。

 そうやって幕を引くというのは、俺とライフズくんの目的であった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 つまり、戦いは大将同士の一騎打ちになるということだった。

 姫騎士ワイスと魔王ライフズの戦いは一方的なものだった。

 

 ライフズくんは強い。

 千の技術を修めた、そんな異名は伊達ではない。姫騎士の剛腕を巧みに受け流し、一方的な状況を作り上げていた。

 

 正確にいうと怪我一つさせないように立ち回り、姫騎士を疲労させるーーいわゆる舐めプしていたのである。

 

 そこに魔法使いバックルが加わったのは、戦いの序盤でのことだ。

 姫騎士の劣勢っぷりに思わず加勢したようだ。……魔王軍に一切の動きがなかったってのも大きいんだろうけどね。

 

 

「す、すごい、ライフズにベストールさま。勇者パーティーのあの二人と渡り合ってるなんて⁉︎」

 

「あなた方は魔王ライフズの本当の実力を知らないんですよ」

 

 

 ま、魔法使いさんが合流して来た時にちょっと揉めたんだけどね? 

 流石に二対一は危ないと、戦場に駆けつけようとする四天王勢を俺はなんとか押し留め。

 

 話を通してあった魔王妃ベストールとの二対二で戦うことになったのだが……それでも互角以上に渡り合っているのだ。

 

 いや、本当にお荷物だからね。

 いい子達だし、自尊心が低いライフズくんのメンタルケアの一翼を担ってるのは間違いないし、善良なんだけどね?

 俺としてもこの短時間で好きになったし。

 

 ただあのレベルの戦いに参加したらこう、足を引っ張ることしかできないし。

 死んだら死んだで勇者パーティー内で遺恨が残るのは確実。

 

 

「あの子は強い、だからベストールさんも加われば、勇者パーティーの二人を殺さないように立ち回れる」

 

「……でも神官長ゾーニッヒよりは弱いし……勇者レーヘンには手を足も出ないんでしょ?」

 

「ゾーニッヒとは互角ですよ」

 

 

 ともかく。

 勇者パーティー二名による攻撃を、ライフズくん達は互角以上に凌いでいる。

 姫騎士の剛腕をいなし、敵の腕力を活かして投げ飛ばし。

 いつの間にか合流した魔法使いさんの魔法を、ベストールさんが受け流しているのだ。

 

 激闘だった。

 人類、いや、世界で六指に入る実力者たちの激闘。魔法と魔法、腕力と技術がぶつかり合う闘い。しかも互いの技術を見知った関係なのだ。

 

 ライフズくんと姫騎士。

 バックルさんと魔王妃。

 

 自分が隣にいないことへの嫉妬。

 仲間を攻撃する苦渋。

 裏切られたことへの怨嗟。

 傷つけたことへの後悔。

 

 怨恨が入り混じった死闘は、だからこそ終わりというものが見通せない。体力、気力が続く限りいつまでも繰り返される戦い。

 

 それを終わらせたのは、文字通り部外者の動きだ。

 

 皇国軍から一人の男が焦った様子で駆けつけて何かを報告したのだ。

 

 

「え、あれはなんていってるの?」

 

「ルクリスが動いたそうです。これで今回の件は終わりますよ」

 

 

 『ルクリスが動いた』。

 その一報で闘いは終わりを告げた。

 

 今の世界には四つの大きな国家が存在する。

 

 連合王国、モルセーユ王国。

 皇国、そしてルクリス王国。

 

 そのうち連合王国とモルセーユ王国は、中立的な立場を維持しており。

 

 皇国とルクリスは覇権を競い合うライバル関係にある。皇国が見せた大きな隙を、かの国は決して見逃さなかったのだ。

 

 軍事侵攻。

 人類同士での醜い争い。

 彼らは皇国の領土の一部を支配下に置いた。

 

 姫騎士は決断を迫られていた。 

 祖国を取るか、個人的な感情を取るか。

 

 そうして姫騎士はライフズくんに何かを伝え。そのまま軍勢諸共撤収することを選択し。

 

 魔法使いさんもその場から立ち去った。

 

 そんな光景に、窮地は去ったと歓喜に湧く魔王軍の中で……俺は苦悩していた。

 

 姫さまには悪いことをした。

 俺は魔国にやってくるより前に、ルクリスを訪れておりーーそこで皇国が軍事行動する旨を伝えていた。

 

 こうなることは計画のうちだった。

 

 皇国軍を撤退させるためには、これが一番手っ取り早かったのだ。

 

 今、魔族との間に遺恨は残せない。

 でも姫騎士は多分、引けない。

 

 だから人類VS魔族の絶滅戦争ではなく、人類VS人類による覇権競争、という形に情勢を転化させる。

 

 皇国はルクリスと睨み合うことになり、軍事行動を起こせなくなる。

 もちろん最悪の事態にならないように手は打ってある。両国には連合王国から多額の資金が流れ込んでいるからね。

 

 最悪、将来的に戦争は起きるかもしれないが……ルール無用の絶滅戦争にはならない。

 

 こういう手段しか思いつかなかった。

 

 俺は無力だった。仲間に負担を背負わせて、人類内での遺恨を生み出す、そんな選択肢しか思いつかなかったのだ。

 

 もちろん皇国には連合王国から多額の資金を投入して、しっかり補填はするつもりなのだが……。

 

 

 

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