曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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聖歴0101 11月20日

 

 

 

 魔都襲撃事件から一ヶ月が経過していた。 

 

 人類と魔族の対立は急速に鈍りつつある。

 

 それより皇国とルクリスの対立こそ、目下の問題と見做されており、魔王の後継者への危機意識は人類連合上層部の中からさえ薄れつつあった。

 

 魔王軍が逃げの一手しか取らなかったのは大きかった。あれで一気に、魔族への危機意識は薄れたからね?

 

 それにもう一つ、魔族への敵意が薄れた理由こそ過激派の殲滅が完了したと言う報告だった。

 

 魔王軍残党の最後の一人エットゥロ。

 彼女が確保されたことは魔王軍が大々的に報告をされ、全世界に広く知れ渡っている。

 

 ちなみに魔王を蘇らせたと言う件は無かったことにした。

 

 魔王を蘇らせたというのはヤバいからだ。

 もうできないなんて言われたところで、意味はない。魔王への恐怖は人類に深く刻まれたトラウマで。

 13歳の女の子といえど、厳罰が処されるのは間違いないからね。

 

 なので過激派は魔王を復活させようとしたものの失敗し、呆気なく捕らえられた。

 と言うことになっている。

 

 さて、問題なのは彼女の帰属だ。

 

 主犯とされた魔族は殺害され。

 残されたのはまだ13歳の女の子。

 

 情状酌量の余地は多分にある。実際テロ事件を起こしたものの被害はゼロだしね。

 

 死人も怪我人も出ていない。

 それに魔族に騙されていただけ。

 本人は強く反省しており、テロなんて二度と起こさないだろう。

 

 となると厳罰に処するって話にもなり辛いんだが……そこに関しては人類連合としても問題視はしていない。

 

 ただどこが引き取るかと言う話が持ち上がっていた。

 

 大事なのは本人の意思なんだが。

 その話し合いをする必要がある。

 と言うわけで俺は魔王一行の皆さまと非公式(公式)に会うことにしていた。

 

 

「久しぶりですね、聖王ゾーニッヒ」

 

「うん、久しぶりだね魔王ライフズ」

 

 

 公的に言えば半年ぶり。

 顔を合わせて話すのは一年半ぶりになる。

 

 非公式だと昨日普通に駄弁ってたけどね。

 ちなみに今日の会談で話し合われる問題の落とし所や最終的な結論は既に出ていた。

 

 

「おっ、お初にお目にかかる、聖王ゾーニッヒ陛下」

 

「久しぶりですね、ベストールさん」

 

 

 ちなみに魔王妃だと、魔王の妻として戦争の責任を背負わされる流れになる可能性があるので名前だけしか呼ばない、という配慮をしっかり見せたのだが。

 

 魔王妃ベストールはガチガチに緊張していた。以前の彼女とは程遠い、蛇に睨まれたような態度。

 

 ま、彼女視点だと最後に会った時に殺されかかったわけだからね? 怯えられるのは仕方ないし、負の感情とかは抱かないんだが。

 

 

「……ベストール、大丈夫だよ?」

 

「……すまんライフズ、臆された」

 

 

 そんな小さな手をライフズくんがそっと握りしめると。それだけで彼女の震えは治った。

 

 

「さて、今回の要件は新生魔王軍が保護した少女なのじゃがーー」

 

 

ーーーーーー

 

 

 そうして始まった会談は特に問題もなく終わった。ちなみにエットゥロちゃんは今のところは魔国で過ごすことになっていた。

 ……ベストールさんの庇護下で生活することを本人が望んでいるそうだ。

 

 ま、保護されてすぐに答えなんて出せるわけがないからね? 今の彼女に必要なのはのびのびと過ごせる環境と時間だ。

 最終的な結論を出すのは随分先でいい。

 

 彼女はまだ13歳。やりたいことや将来の夢なんて幾らでも思いつくわけで。そうなった時に問題が起きないように今のうちからあれこれ手を打っておく必要があるのだ。

 

 ちなみに今回の話し合いの舞台は毎度の如く人類連合首都ーーではなくルクリス。四大国の一角にして、魔国との密貿易で現在の地位を築き上げた親魔族国家。

 

 公的に言えば俺の今回の訪問は皇国への軍事行動を起こしたこの国に圧を与えること、と言うことになる。

 

 ま、俺からスピカ姫に、姫騎士の動きを伝えたわけだし。何かしらの制裁を行う、みたいな話にはならないんだけどね?

 

 政治の実権を握りつつあるスピカ姫から、これ以上の領土拡張はしないという確約を得る代わりに、その話はそこで終わらせるということになっていた。

 

 軍事行動は良くないんだけど、ね。

 『皇国は他国に進軍するくらい余裕があるのですから、少しくらい土地を頂いてもよろしいでしょう?』なんて主張が、ね?

 

 復興真っ最中に勝手に人類を次の戦争に巻き込もうとした皇国への恨み節は、ルクリスだけのものではない。

 

 特に復興が遅れてる地域からすると非常に遺恨が残ると言うか。軍事に金かけるならその分、うちの地域を支援してくれよ! 

 となってるわけで。

 

 私情抜きにして、ルクリスに制裁を加えるのは現実的ではなく、色々と見逃す必要があるのだ。政治の世界って難しいんだよね……。

 

 そして、この後俺たちは皇国に向かい、姫騎士に勝手に軍事侵攻したことを咎めない代わりに、領土問題に人類連合は口を出さないと伝えに行くことになってるわけだが。

 

 まあ、それはさておき。

 

 

「おつかれさま、あなた」

 

「ほぼ知り合い相手だから疲れてはないさ」

 

 

 今回の訪問には、勇者レーヘンも同行している。流石に折衝の場には参加しなかったんだけど、貴賓室の中で待っていた彼女は廊下を歩く俺の気配を察し、貴賓室前の廊下で俺を出迎えていた。

 

 ちなみに彼女はお妃様として折衝とかができないわけではないんだけどね?

 

 ライフズくんの脳破壊問題があるのだ。

 そろそろ彼の心の傷も癒えつつあるんだが、前予告もなく話し合い席に同席させるのは、ちょっとね。

 

 

「だよねー。……せっかくだしボクもライフズくんとの遊びに行こうかな〜! 最近全然会ってないし」

 

 

 勇者パーティーの錬成士にして、彼女の幼馴染でもあるライフズくん。

 

 魔王となり、人間世界を裏切った扱いされてる少年に対して、この言いようは流石の勇者さまだ。以前までと全く変わらぬノリで遊びに行こうとするのは間違いなく美徳なんだけどね?

 

 

「なんかベストールさんといい感じなんでしょ? ワイスも新しい恋見つけたし、ライフズくんもそろそろ身を固めるようにアドバイスしよっかな!」

 

「……それだけはやめてあげて……」

 

 

 彼は未だにレーヘンの事が好きだった。恋愛感情は消えておらず、めちゃくちゃ引きずっている。

 

 そもそも一番最初に失踪した理由はBSSの脳破壊の苦しみから逃げるためだったという重症具合だ。

 

 しかし当の勇者さまは幼馴染が胸に秘めた思いをこれっぽっちも理解しておらず、良心の呵責とかなくそんな戯言を口にしてしまうのだ。

 

 

「なんでだよー、結婚生活って素敵なんだよって教えてあげなきゃだよ?」

 

「いや、ほら、ね?」

 

 

 ま、もう少しだけ時間があれば乗り越えられそうではあるんだけどね?

 

 BSSからそろそろ二年が経過している。色んなことが起きた結果、彼のメンタルは強靭に磨き上げられている。

 新しい出会いとかもあったし。

 

 ただレーヘンのやろうとしている事は心の瘡蓋をひっぺがすに等しい。

 

 でも勝手に彼の内心を打ち明けるのは、ね? もう少し待てば言えるようになる筈だから、もう少しだけ、ね? と秘密を胸に秘めた俺は全力で勇者さまを止めるのだった。

 

 

「あー、でもベストールさんって魔王のお嫁さんだったんだし、なんか仲悪かったっぽいし……これ地雷かもね」

 

「それを指摘するのもあんまり良くないかもな」

 

 

 なんて軽口をしていたのだが、冷静に考えるとライフズくんって何度も何度も寝取られ経験あるんだよね。

 

 幼馴染の女の子が他の男に猛アプローチをかけてる姿に苦悩し。

 その後できた恋人の過去の男性遍歴聞かされてショックを受けた男の子。

 

 さらにその後仲良くなったヒロインも、悪い人ではないんだけど……子持ちのシンママだったわけで……。

 

 …………。

 

 

「……今ルーテシアのこと思い出してたでしょ」

 

「し、仕方ないだろ?」

 

「なにがしかたないだよー!最近おとなしくなったから安心してたけどさー、神官長はボクと結婚してるんだよ? 他の女に思い馳せるなんてどーいうつもりだよ‼︎」

 

 

 と、物思いに耽ろうとして俺の頬を掴んで、強引に目線を合わせた勇者さま。

 彼女は頬を膨らませて俺に不満を口にしていた。ルーテシア計画は完全に凍結されているし、流石に結婚した以上はあんまり思い返す機会もないんだけどね?

 

 そもそも浮気とかではない。

 俺のヒロインってわけじゃないんだし。

 

 そしてレーヘンは俺の内心をかなり正確に把握した上で、こうして不満を口にしていた。

 

 ……ちなみに本気ではない。

 こう言う不満を口にしてるーー風にちょっかいをかけて来ているだけだ。

 

 本気で不機嫌な時は頰なんて膨らまさないからね? これは『ボク、怒ってるんだけど』というアピールに過ぎない。

 

 勇者さまはニヤっと笑って。

 

 

「……ええっと、何記してるんです?」

 

「いえ、大変仲睦まじいなと」

 

 

 そんな夫婦の戯れていた廊下で。

 いつの間にかレニヒさんはいた。

 

 彼女はメモ帳に何かをカキカキと記している。どう考えても俺たちの会話を記録しているのは明らかだった。

 

 レーヘンもすっと真顔になっている。

 外行きの仮面を付け替え、礼儀正しい勇者ムーブを今更ながらに行いだすと時すでに遅し。

 

 

「申し訳ありません、ボクも少し気を抜いてしまいました」

 

「いえ、お気になさらず。あの勇者レーヘンも血の通った生き物なのだと知って少し驚いてしまっただけです」

 

 

 と言うわけで彼女との会話は唐突にスタートしたわけなんだが……。

 レニヒさんの態度にはレーヘンへの怯えがあった。

 

 俺とは高頻度で遭遇してるけど。

 レーヘンと最後に会ったのってヤムルさん殺した時だっけ? 

 

 

「そ、そーいえばライフズくんってどんな感じなんです? そっちでうまくやってけそうかな? ボク心配なんですよ」

 

「……ライフズさまは大変素晴らしい方です」

 

 

 もちろん勇者さまもそれは自覚していた。

 困ったように目線を揺らしつつ、共通の話題ーーライフズくんについて切り出したのだ。

 

 

「あの方のご両親を殺した魔族の娘であるわたしにも慈悲深く接してくださいますからね」

 

「ちょっとタイムで」

 

 

 が。

 帰ってきたのはドッチボール。

 

 レーヘンはこそこそと顔を近づけてきた。

 気持ちはわかる、俺もできればタイムしたかった。世間体のせいでできなかっただけでね。

 

 えっ、レニヒさんのご両親ってライフズくんのご両親の仇なの?

 と一瞬びっくりしたけど、彼女はヴェルニカの娘だから、まあ、そうなるわけだ。

 

 

「……ねぇねぇ、あなた、ボクにはちょっと荷が重いというかさ、あちこちに地雷が埋まりすぎじゃない?」

 

「仕方ないだろ、この前まで殺し合いしてたんだぞ俺たち」

 

 

 ちなみに話題が血腥すぎることと。

 自分への怯え。

 二つの要素について話してるんだろう。

 

 俺も今では魔族とは仲良くしてるけど、二年前はばっちばちで絶滅戦争してたわけなんだが。

 

 今回の突然の情報開示は、ライフズくんを擁護するためなのだろう。

 

 レーヘンの言葉を彼への皮肉と受け取ったのかな? ま、こういう京言葉は上流階級のあるあるだし。

 

 ライフズくんは客観的にいえば人類を裏切り魔王になった男だから悪く言われがちだったりする。

 

 で、そう言うこと言われたと思って、彼自身も多くのものを奪われてきた被害者だよ、と言い返した感じだろう。

 

 

「……ね、神官長が会話を主導して? ボク相槌とガヤやるから、そっちは任せて」

 

 

 なんかさも困難を互いな力で乗り越えようーー的な言動をするレーヘンであるが、負担の割合比率がおかしいんだよね。

 

 ま、仕方ない、レーヘンは剣の天才で偉大な勇者だが、その精神性は田舎の小娘。

 コミュ力も高いし、必要なら和やかな会話も社交辞令もしっかり行えるんだが。

 

 今回はちょっと条件が悪い。

 

 

「なら、安心しました。ライフズくんが上手くやってるか夫婦共々心配していましたから」

 

「……そうでしたか。偉大なるゾーニッヒはそう言うお方ですから、その奥方もそう言うお方なのは当然の話でした。申し訳ございません」

 

 

 と言うわけで会話は俺が引き継いだ。

 

 一応俺はある程度顔馴染みだからね。

 向こうも俺の穏健派っぷりは理解していた。露骨に緊張の糸を緩めている。

 

 ちなみに意訳すると『これはライフズくんへの皮肉とかそういうわけじゃないんだよ?』という言動だ。

 

 

「へへ、よくわかってるじゃないですかぁ。そうです、ボクはこの人と同じこと考えてますからね!」

 

「魔王さまは大変お元気でございますよ? 先日の事件でも怪我を負うこともなく、多くの武功を立てていましたから」

 

「……ええ、でしょうね」

 

 

 ま、それでもレーヘンへの怯えは消えなかったんだけどね……。

 勇者レーヘンの武勇は恐怖を齎してしまう。

 こればっかりは仕方ない。

 

 ちなみにレニヒさんは俺の変装には気が付かなかったらしい。もしかして気がついたの紅一点さんだけなのかな? 

 

 そして彼女は誰にも秘密を漏らさなかった。俺は紅一点さんへの評価をぐーんと上げたわけなんだが。

 

 

「あ、神官長……じゃなかった、聖王陛下に、レニヒに……レーヘン……」

 

「あ、ライフズくん、おひさー」

 

 

 ライフズくんが姿を現したのだ。

 その傍にはベストールさんの姿もあった。

 

 

「う、うん、えっと、その……」

 

「ちょっとどうしたのさー、ボクと君の仲じゃん? そんな緊張する必要ないんだよ⁇ 別に斬ったりしないからね? やるならもうやってるんだしさ」

 

 

 ライフズくんの態度は異様だった。

 ……まだ完治してない心の傷が、幼馴染と再会したことで一気に開かれつつあるのだろう。

 『僕が先に好きだったのに』

 そんな苦しみが彼の脳を軋ませて。

 

 

「じゃ、僕はその、用事があるから!」

 

「……ライフズ?」

 

 

 そのまま逃げ出そうとした少年の、虚空を彷徨う指先をそっと掴んだのはーー隣に寄り添うベストールさんだった。

 

 それはまさしくメインヒロインとしか言いようがない姿だった。ライフズくんに寄り添い、共に支え合う献身的な振る舞い。

 俺は過ちを悟らざるを得なかった。

 理想のヒロイン像がそこにあったのだ。

 

 彼女のそんな態度に、ライフズくんは瞳を瞑り、彼女の手を握り返しながら大きく深呼吸をし。

 

 

「……レーヘン、少しいいかな、言いたいことがあるんだ」

 

「え? まあ構わないけど、なになに?」

 

 

 そしてその言葉を口にした。

 

 

ーーーーーー

 

 おそらく告白するのだろう。

 魔王討伐からずっと先送りにしてきた愛の言葉。それは恋を終わらせるためのものだ。

 

 だけど流石に人前でそんなことはできない。と言うわけで俺とベストールさんにレニヒさんは貴賓室に入った二人を部屋の外で待っている。

 

 

「すみません、助かりました。あの子は恋に区切りをつけた方がいいですから」

 

「……よい、妾はライフズには何度も救われておるからな? これくらいするのは当然だ」

 

 

 めちゃくちゃファインプレーをしたベストールさんなんだが。

 彼女の顔にはなんともいえない苦悩の色が滲み出ていた。彼女は多分、ライフズくんに惚れているけど。初恋の相手レーヘンへの嫉妬ではない。

 

 罪悪感や苦悩だ。

 

 おそらくライフズくんの人生を大きく歪めてしまった、とか悩んでいるのだろう。魔王になることに決めた少年はそれ故に多くのものを失っている。地位に名誉、幼馴染と過ごせる筈だった時間、とかね。

 

 そこまで尽くしてくれた相手に、自分勝手に想いを伝えていいのか? そもそも自分に愛を伝える資格があるのか?

 

 とか色々悩んでいると見た。

 

 その辺は魔王戦争時期のライフズくんとそっくりなんだよなぁ……。自分のなすべき債務を他の誰かに背負わせ自己犠牲させたと思い、苦悩する姿は本当によく似ていた。

 

 

「あなた達はそっくりですね、戦争時期のライフズくんと瓜二つですよ、ベストールさん」

 

 

 俺が彼女に言葉を告げられる機会は少ない。

 ライフズくんやレニヒさんのようにこっそり会ってるわけではないからね?

 

 だから俺はアドバイスを送ることにした。

 

 

「恋を叶えるのに資格なんて必要ありませんし、今のライフズくんに必要なのは寄り添ってくれる存在ですよ? 申し訳なく思って距離を置くのは自己満足でしょう」

 

「……妾の心まで読み解くとか、流石の聖王陛下じゃのう……」

 

 

 ま、俺が特別敏感ってより。

 ベストールさんがそれだけ色々筒抜けってだけなんだけどね……。

 

 

「じゃが、妾は魔王の妻であった……止めなければならなかったし、それができなかった以上は償わねばならなかった……」

 

「魔王は止まりませんでした、いいや彼自身、憎悪を止められなかった。あなたが頑張れば止められたと思うのは自惚れですよ?」

 

 

 そして俺の言葉に、ベストールさんは弱音を吐き始めた。

 感情全て読まれてると勘違いしたから、胸の内に秘めた想いを遠慮なしに語り始めたのだ。

 

 だから俺はそんな彼女の弱音にマジレスした。

 

 

「あなたは知らないかもしれませんが、あなた以外にも、ノートと親しい人はいました。でも止められなかったんです。何を言っても彼は聞く耳を持たなかった。文字通り死ぬまでね」

 

 

 魔王ノートだって馬鹿ではない。

 妹がそれを望んでないなんて知っていたわけで。それでも復讐に狂ったのは……文字通り怒りに飲まれたから。

 というか誰かの言葉で止まるなら、最愛の妹の言葉で止まった筈だ。

 

 魔王の妹さんがいたらこう言うだろう。

 ベストールさんは悪くないよってね。

 

 兄のせいで苦しむ人を見たら、きっとあの人は苦しむからね。

 だから俺は、そう言った。

 

 

「あなた一人の責任ではない、そもそも人間はそんな万能ではありません。できないことはできない。なのに全てを背負いこもうなんて言うのは傲慢な話ですよ?」

 

 

 それに、それをいうなら、俺がもう少し頑張ってヒーラーとしての名声を高めていたら。

 世界に広く名を知れるくらいの男だったら。

 誰もが『病気といえば神官長』と思うくらいの知名度があったなら。

 

 父さんと釣りなんて行かないで、家族と過ごす時間を捧げ、自意識を得た直後くらいからひたすら医学に没頭し多くの病気の治療法を確立していたら。

 

 魔法使いさんの家族は死なずに済んだ。

 俺が拉致の標的になったからだ。

 

 魔王の妹は治せたわけで。

 彼があそこまで狂うことはなかったわけで。

 戦争で多くの犠牲が出ることは無かった。

 

 だから俺に責任はあるのか?

 

 俺はそうは思わない。自分の力でこの世の全ての問題を解決できるなんて考えるのは傲慢な話だ。

 

 できないものはできない。

 失敗するときは失敗する。

 能力や知識、経験が足りずに間違える。

 

 でも人間はそう言う生き物なのだ。

 

 

「だから気にし過ぎないでください? あなたがそんな顔をしていると……こっちも申し訳ない気持ちになるんですから」

 

 

 俺はちょっと、自嘲するように笑った。

 

 ……ちょっと無責任と言えなくもないんだけどね。でも俺はこう言う自分が割と好きなので、一切改善するつもりはなく。しれっと自己正当化するためにもベストールにもあれこれ甘言を囁くのだった。

 

 

 

 

 

 

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