曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者   作:さらみパスタ

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とある書籍からの引用3

 

 

 

 一時は世界を支配しかけた強大なる魔王を、その身を犠牲に討伐した勇者レーヘン。その後の彼女がどうなったのか……それについても『レーヘンの日記帳』にしっかりと記されています。

 

 緩やかに歴史の表舞台から距離を置きつつあった勇者さま。しかし彼女は間違いなく幸せでした。元々はパン屋の娘であった少女は穏やかな日常を過ごすことを尊んでいました。

 

 まして隣には愛する人がいたのですから。

 

 聖歴0100 2月16日。

 魔王討伐を終えた勇者レーヘンは、連合王国への帰還早々、パレードの賑わいが冷めやまぬソルト宮殿にて。

 国王に神官長ゾーニッヒとの婚姻を要求しました。

 

 その場には神官長ゾーニッヒや、錬成師ライフズなどの仲間達。それに連合王国宰相、国内の重要人物が勢揃いした公的な場での告白でした。

 

 その映像は今でも残されており、動画サイトなどで閲覧することもできます。ぜひご閲覧することをお勧めします。

 

 特にゾーニッヒの動揺は目に見えて明らかであり、彼はその公開告白に強く驚いていたことが示されており、レーヘンの日記に記された『抜けてるところがある優しいお兄さん』なんていうゾーニッヒの素顔が信憑性が高いものであることが窺えます。

 

 勇者としての功績への褒美として、王子様との婚約を望む。

 もちろん拒否できるわけがありません。

 

 勇者レーヘンは多くの偉業を成し遂げた英雄です。

 その名声はもはや各国の国家元首を遥かに凌ぐほどでした。国民人気も極めて高い大英雄の欲求を跳ね除けることは、連合王国国王としてもできることではありませんでした。

 

 ですから、今の感覚だと少し疑問を抱く人がいるかもしれませんね。レーヘンの日記を読んだことのある方ならお分かりですが、当時の風説とは裏腹に神官長ゾーニッヒと勇者レーヘンは交際などしていませんでした。

 

 それなのになぜ、先に国王にそんな話をしたのか。

 まずはゾーニッヒに告白するべきでは?

 いくらなんでも強制的に婚約するなんて問題があるのでは? と。

 

 しかし一般市民ならともかく、王族には自由に結婚する権利はないと見做す雰囲気が強かったのは事実です。高貴なる義務の一つ、王子の結婚は個人の意思ではなく、国王の判断のもとに下されるものでした。

 

 よく姫騎士ワイスのロマンスが反例に挙げられますが、彼女は当時としては革新的な価値観の持ち主でした。

 

 先に交際するのではなく、相手の家に話を通し婚約してから深い仲になる。保守的な感性をしていたレーヘンは貴人としてのルールを厳守し、しっかり筋を通したといえます。 

 

 そんな求婚に連合王国国王は快諾しました。

 

 しかし理由は勇者の権威に平伏しただけではありません。

 

 勇者レーヘンはゾーニッヒと大変親しい関係にありました。二人は交際こそしていませんでしたが、日常的に私室に出入りするーー恋人一歩手前のような関係だったことは間違いありません。

 

 互いの理解度も高く、確かな絆を育んだ仲です。

 だからこそ国王からすれば、それは理想的な婚姻でした。

 

 当時を記した資料には、『息子にとってこれ以上ない良縁であった』と国王が発言した記録も残されています。

 

 聖歴0100 2月16日。

 勇者レーヘンは告白したその日のうちに婚約は成され。

 二人は正式な婚約関係に至ります。

 

 そのニュースは瞬く間に世界に広がりました。

 

 しかし最新の研究では市民の驚きは少なかったことがわかっています。

 

 多くの一時資料で記されているように、当時二人の交際はさまざまな場所で噂されていました。逢引している様子を目撃した、とか、私室に頻繁に出入りしている、とか。

 週刊誌にレーヘンは妊娠した、なんて記事が記されるくらいに二人の交際というものは公然の秘密だったのです。

 

 勇者レーヘンは多くの偉業を果たした英雄でした。では、神官長ゾーニッヒがどうだったかというと、彼もまた多くの功績を残した偉人でもありました。

 

 四天王の弱点や行動などの情報の解析。

 四天王を一騎討ちで討伐した。

 魔王戦時の囮役を引き受けた。

 多くの負傷者の治療に尽力した。

 

 人類連合主戦派の盟主であり、人類連合の発起人でもあった彼はレーヘンに次ぐ名声を持っていました。

 

 だから二人の交際はお似合いだと見做されたのです。

 

 それは周囲だけではありません。

 王妃や王太后、そして第一王子。

 祖母、父、母、兄。

 ゾーニッヒの家族、当時の連合王国メンバーの全員が勇者レーヘンに好意的であったことは確実視されています。

 

 王太后に手料理を振る舞って仲良くなった。

 王妃とお喋りをして仲良くなった。

 

 今に続く風習ーー聖王家に嫁に入った婦女は、その日に獲れた一番魚を捌き、国王夫妻にふるまうしきたりを知っていると、あっと驚くシーンも詳細に記されています。

 

 ともあれ。

 勇者レーヘンは人たらしでした。 

 勇者パーティーの中心人物たらしめたその人たらしっぷりは凄まじいもので、出会って数日で非常に親しい関係を築き上げたのです。

 

 彼女の日記の記録は、権威に平伏した他者を都合よく認知する勇者レーヘンの勘違いや、ポジティブな思考だったわけではないことを歴史が証明しています。

 

 しかしそんな穏やかな時間は実はすぐに終わりを告げます。

 

 魔王を討伐した世界には、しかし多くの火種が残っていたのです。

 

 『勇者と神官長の婚前旅行』。

 それは二人の婚約から僅か二週間ほどの日を跨ぎ突如行われました。

 

 『勇者の幼馴染ライフズが失踪したから』、というのが現在の通説ということになっています。

 

 『レーヘンに恋心を抱いていたライフズは、彼女が他の男に言い寄る姿に耐えられず逃げ出すように連合王国から出奔した』、そんな英雄の人間らしさ溢れるエピソードを皮切りに世界の平和は音を立てて崩れていきます。

 

 連合王国を出奔したライフズは、姫騎士を頼りワイセリアに居を移していたのですが。そこで穏健派魔族と親交を持ちまたもや出奔。

 

 歴史の裏で魔王軍残党との戦いに身を投じていきます。

 多くの人が認知する『慈悲の魔王』の英雄譚です。

 

 魔王の敗北を受け入れられない魔王軍残党によるテロを未然に止め続けた、当初はライフルのみに受け継がれたそんな影の英雄譚も、今では誰もが知るものになっています。

 

 皇国地下水道事件。

 魔法学園襲撃。

 或いは結婚式事変。

 

 残念ながらライフズは全ての事件を未然に防ぐことができず、幾つかのテロは実行されてしまいましたが……それでも彼の目指した『人類と魔族の融和』のための努力は決して無駄ではありませんでした。

 

 魔族は最早、脅威ではない。

 当時の人類上層部はそんな判断を下した理由の一つが、事件の犠牲者がいないことでした。当時の魔族はかつての強大さからは考えられぬほどに弱体化しており、だからこそ魔族への追撃より復興が優先されたのです。

 

 さて、ここに一つ異説があるのをご存知ですか?

 

 あの神官長はライフズの動きを支えていたのではないか、と。

 実際、『皇国地下水道事件』の折には近隣に滞在しており、事件直後に皇国を訪問していますし。『魔法学園襲撃事変』の場には勇者レーヘンと神官長ゾーニッヒが鉢合わせ事件解決に尽力しています。

 

 おそらく他にも協力をしていたのでは?

 そんな疑念を持たれるのも当然でしょう。しかし現在、他の懸案における何かしらの協力や支援を示唆する証拠は見つかっておりません。

 

 『夜魔文書』など幾つかの資料で陰で密会を重ねていたーーなどと記されていますが、資料自体の信頼性に難があり。

 新資料の発見を期待されているのが実情です。

 

 そう考えると『勇者レーヘンの新婚旅行』にも違った見方が生まれてきますね? 

 

 歴史学者の間では他にも様々な説が考察されています。

 今回はその例を一つ紹介してみようと思います。

 

 小大陸を支配する連合王国の支配は盤石でした。

 併合した各国は独立を希望することもなく、ソルトの旗を掲げ続けることを選びました。継承権問題や派閥対立なんてものが起きることはなく、それゆえに長らく繁栄を謳歌することになります。

 

 しかし大大陸はそうではありませんでした。

 

 野心を露わにした各国の国家元首。

 覇権競争に国境問題。

 

 現代に続く火種は確かに燻り続けていました。

 

 だから勇者夫婦は混沌を深める政治情勢を危惧し、大大陸を訪れた、そんな説も根深く存在するのです。

 

 特に人類間の対立こそ、神官長が何より憂いたものでした。

 

 戦後一年は魔族残党に悩まされた……というのは決して間違いではありません。しかし彼らの計画の全ては失敗に終わり、人類にろくなダメージを与えることはできなかったとは前述の通りです。

 

 学園襲撃、結婚式事変。これらの事件での死傷者がゼロであることは今更語る必要もないでしょう。

 

 多くの国家元首も魔王軍残党を脅威と見做していなかったことも、多くの資料から明らかになっています。

 

 それは魔王ライフズの戴冠もそうでした。

 人類の裏切り者と扱われることも多い『慈悲の魔王』ですが、当時の国家首脳陣とは顔見知りであり、彼の野心の無さは知られていました。だから最悪なことは起きないーーそんな確信を抱くものも多くいたのです。

 

 しかし魔族の影に隠れるように国家間の対立は緩やかに進みつつありました。魔王という脅威が失われたことで、各国は自国の利益を追求し始め、摩擦が生じ始めていたのです。

 

 勇者レーヘンの結婚式はそんな対立の中で執り行われました。

 

 準備、計画の段階で、各国が自らの覇権を誇示するための政争が繰り返されーー悪く言えば足の引っ張り合いのような醜い争いが行われていたのです。

 

 計三度、結婚式が取り仕切られたのもそんな利害関係があったからだったのです。

 

 これはまさに時代を象徴する愚行でした。

 

 魔族の襲撃があるかもしれない、しかし護衛役として他国の人間が勇者レーヘンの傍を独占するなんて許せないーーそんな理由で護衛の質が落とされるという怠慢が罷り通っていたのです。

 

 幸いにして襲撃自体は容易く撃退できました。

 残された映像は今でも見ることができ、危うげなく襲撃者を返り討ちにするレーヘンやゾーニッヒの姿はしっかりと確認できます。

 

 しかしそれでも襲撃を許したこと。

 そして主賓である新郎新婦に戦わせたことは非常に大きな問題です。国益のために勇者レーヘンの安全を疎かにした、そんな誹りを免れることはできないでしょう。

 

 人類間の溝は確かに深まっていたのです。

 

 

 

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