今日も胸がいっぱい、や!   作:つヴぁるnet

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や!!!!!!!!!!

 

「ミカエラさん、ただいま」

 

「エリーカ、おかえりなさい。無事で戻ってきてくれて何よりよ。その様子だと何か収穫があったようね?」

 

 

約5日間を滞在したレミナから隠れ里エンリカまで戻ってきた俺たち。入り口の天使に出迎えられながら里に帰還を知らせながら今回の旅に着いて来て貰ったメイルとコルクとリセスに解散を命じ、それぞれ別れてから俺はそのままミカエラさんの家に向かう。

 

その途中、トンベリ娘特有の弾丸ライナーの勢いで駆けてきたトリンを受け止めた。お帰りの挨拶と共にしばらくトリンを撫で回してやると尻尾をブンブンと嬉しそうに揺らし、目を細めて撫でられていた。本当に可愛いなコイツ。

 

そうして一通り可愛がって解放するとまた走って奥の方に消えてった。

 

本当に足速いなアイツ。

 

 

「捜索結果を述べるとヘルゴンド大陸にあるレミナに一人だけ天使がいました。しかしそれは元天使でした」

 

「そう……わかったわ」

 

 

報告通り、実はヘルゴンド大陸に一人だけ天使が見つかった。厳密にはレミナの街でしばらく人として偽って生きていたが。

 

どうやらその天使はレミナ付近で元冒険者に拾われたらしく、それで行く宛の無い彼女のために冒険を辞めて切り盛りしていた居酒屋に住み込ませる形で共生していた。

 

それから拾われた天使は店を手伝いながら2年の時を過ごし、しばらくして元冒険者の男性と互いを愛するようになり、そして天使は天使である事を捨てて人間になるとその人と生きることを選んだ。今は結婚までしてお腹に子供までいる。なんとも素敵なラブストーリーだ。めでたいですねぇ。

 

なので俺はヘルゴンド大陸に天使はいなかったということにして、一人の人間の幸せだけを祈ってレミナから撤収した。

 

ちなみにその元天使からヘルゴンド大陸に他の天使がいないか尋ねたところ、数年住み続けた結果としてヘルゴンド大陸に天使は居ないと判断した。聖素は何一つ感じ取れないとまで言ってたので本当にいないらしい。まあそのためか久方ぶりに俺の天軍の剱から放たれた聖素を感じ取って元天使はびっくりしたらしい。

 

なにせ天使と人間の恋愛は天界では御法度であり、そのため連れ戻されて厳しく罰せられると思ってかなり怖かったようだ。

 

しかしレミナの街ではエリーカという人間の冒険者の英雄譚から天軍の剱の正体を聞いて少し安心したらしい。その後は俺とコンタクトを取って誤解を解消した流れだ。なんか怖がらせちゃったな。

 

ま、お幸せにってところだ。

 

 

 

 

さて……本題はここからだな。

 

 

 

「ミカエラさん、天使とは別で結構重要な話があります。良いですか?」

 

「聞かせてちょうだい」

 

 

 

それから俺は全てを話した。

 

ヘルゴンド大陸にある封牢の事。

 

そこにある碑が一つ割れていた事。

 

大罪人、または勇者ハインリヒと話した事。

 

そして混沌の神と名称された異界の者によって封印されていた娘アリスに力を与え、それによって天界は破壊された事。

 

今は北の大陸となった元天界の内部で娘アリスは押さえ込まれているが、いつか抑えが効かなくなるのでエコーズの血を引いてる俺がハインリヒの声を娘アリスに届かせて暴走を止める必要がある事。

 

そのためには俺が元天界の大陸まで行く必要がある事、それらをミカエラさんに告げた。

 

 

 

「随分と大変なことになっているわね…」

 

「世界の危機に直結する可能性がある事象にしろイリアスの声を頼りにしている勇者は頼りにならない。だが、それ以上にエコーズの血を引く俺が行く必要がある。これが結論です」

 

「話は理解できたわ。でもあの大陸は結界が張られていて空からでは入れないわ。行くなら海から入って陸ね。場合によっては私とルシフィナで結界を破壊して空から向かえれるようにしても良いけど…」

 

「娘アリスを抑えている力とやらを阻害してしまう恐れがありますよね?」

 

「ええ。現状からして天界に残されている聖素を力に抑えていると考えるのが普通よ。だから少しでも衝撃を加えると結界が脆くなって危うくなる可能性は充分にあるわ。そのため私やルシフィナが直接手を加えるのは得策じゃない。なのでこれはあくまで最終手段ね。でも…」

 

「?」

 

「大陸と化した元天界がどうなろうとは私には関係ないわ。もし娘アリスがエンリカにいる天使を感知して滅ぼしに来ると言うのなら私が打ち滅ぼす。今ならルシフィナもいる」

 

 

ミカエラさんは地上に迷えし天使を助けるが天界のことはどうでも良い。

 

それは女神を裏切り、天界を離反した者として元の居場所にこだわりはなく、そして新たに与えられたこの隠れ里エンリカで静かに余生を過ごしていたいだけの人。

 

だから俺はミカエラさんの天界に対する冷たさを咎めることはしない。

 

 

ああ、だから。

 

 

 

「俺が行きます。俺がそこにいる天使達もまとめて娘アリスの憎悪も、ハインリヒの願いも、エコーズを元に救い届かせてみせます」

 

 

 

元より()()受けた問題だ。

 

もちろんミカエラさんから助けを受けれるならそれに越したことはないが、でもミカエラさんはあくまで俺の師匠であり、そしてエンリカの里長であり、世界を救うために用意された勇者じゃない。

 

だから覚悟はしている。

 

 

「まったく…エリーカ、勘違いしないで。私は貴方を一人に背負わせようなんて思ってないわ。助けるべきなら助ける」

 

「!」

 

 

と、思ったら、ミカエラさんは切り返す。

 

 

「私は貴方の父ハルトマンを筆頭にフィサリス演劇団から救われたもの。なら私はその恩を返すべく息子エリーカのために力になる。エリーカだけを悩ませたくはないわ」

 

「!」

 

「ごめんなさい。少し言い方が冷たかったわね。確かに天界なんてのは離反した私にとってもうどうでもよい所だけど、でも父から子が継いで今も地上に迷えし同胞(てんし)を助けようとするフィサリス演劇団がまだ私の目の前で先駆者たらんのならば、私はそのエリーカを助けるわ」

 

「ミカエラさん…!」

 

「万が一は私も介入する。戦力が足りないならルシフィナだって引っ張るわ。約束する。でもあの大陸に行くのは冒険に慣れたエリーカからでお願い。ヘルゴンド大陸まで踏破できた冒険者ならばその者が適任よ。私の弟子ならこの程度できるわね?」

 

 

俺は少しだけ誤解していた。

 

ミカエラさんは何処までも俺の事を案じてくれている。それは知っている。愛情に慣れずとも生まれた時から母と共に俺をエンリカで育ててくれて、天使と共に明日を祝福してくれた。

 

それで「エリーカ」と何度もそう名で呼んでくれる優しいミカエラさんを俺は知っている。

 

もちろんフィサリス演劇団の明日だって案じてくれる。本当に優しい人なんだ。

 

 

 

「めちゃくちゃ、心強いッス…」

 

「必要とあらば今まで助けたでしょ?私は貴方の気持ちを蔑ろにしないわ」

 

 

ミカエラさんは身内とエンリカ以外は基本的に放任的だ。来る者も去る者も拒まないスタンスにいるけど居場所となったエンリカの里長である以上それ以外は無関心だと思っていた。

 

しかしミカエラさんは否定はせずに尊重してくれる人であることを再確認できた。故に俺がそうしたいと望んだらミカエラさんは共に考えてくれるし、その時に何を必要とするかを擦り合わせてくれる。そうやって俺の旅先を心配してくれる。

 

まあだから行先で負けないようにと修行は厳しかったけど、でもミカエラさんの気持ちはちゃんと伝わっている。本当に優しい人なんど。

 

だから今回も、建前はエリーカ・エコーズなんだけど、俺がその過程で天使を助けたいとしたらその気持ちを尊重してくれるし、力が必要なら助けになってくれる。

 

ああ、やや誤解していた。

この家を出たら俺一人で考えるって。

 

でもミカエラさんも手を貸してくれる。

 

心強い。なんて心強い師匠だろうか。

 

 

「やべぇ…俺、ミカエラさんのことめちゃくちゃ好きになってしまいそう…」

 

「何バカなこと言ってるの、まったく……さぁ詳しい話はまた明日にしましょう。今は家族にあって帰還を知らせなさい」

 

「あ、まだ父さん達はエンリカにいるんだ」

 

「明後日出発の予定よ。それまでにエリーカが戻って来れるとはあまり思わなかったわね。だから本当に強くなったわ。誇らしいわ」

 

「!、!!」

 

 

 

マジでやべぇ。

 

嬉しくて少し泣きそう。

 

認められて普通に嬉しいもん。

 

 

 

「それと聖素、馴染みすぎているわね」

 

「え?あ、そう?……あ、いや、待って。それってまずい事なのでは??」

 

「もし大罪人ハインリヒの末路を連想してるなら安心して。その程度ならミリも届かないわ。私が言いたいのは聖素を良く使い熟せているわねって話」

 

 

と、微笑むミカエラさんに…

 

 

 

「ふふふっ、そうね。見たところ少しは馴染んでるかしら。でもまだまだヒヨッコだけど」

 

 

 

と、現れたのはその妹さん。

 

 

 

「うわでた」

 

「ルシフィナ、ノックくらいしなさい」

 

「あらそうね、ごめんなさい。あとエリーカ、随分な挨拶ね?あまり生意気だと張り倒すわよ」

 

「それは人間基準か?天使基準か?」

 

「そうね…?どうせなら間にしようかしら」

 

「どのみち死ぬだろ良い加減にしろ」

 

 

 

いつの間にかミカエラさんの家に入ってきてたルシフィナに少し驚く。よく見たらエプロン姿になっている。でも血の返りでエプロンの至る所が真っ赤になっている。何やったんだよこの天使。なにか屠殺でもしたんか?

 

 

 

「普通にキッチンにいたわよ。あとこれでも少しは上達してるわよ」

 

「ほー??ほなら味見したろうか?」

 

「まだ焼いたことないの。今はリーリエさんと包丁の練習中。魔物を屠るのは簡単なのに食材になるとなかなか難しいのね」

 

「それでそんなに血が返るかぁ??つーか食材は動かないからどっちと言えば逆だろ。動かない方が簡単だろうよ」

 

「知らないわよそんなこと。なのでまだ素敵なステーキはお預けよ。それでも味見を望むなら後で来なさい。軽く跨ってあげる。それで幾らでも味見させてあげるから」

 

「ミカエラさん!貴方の妹に殺される!!」

 

「数擦りで天国に逝かせてあげるわ」

 

「それまでは快楽地獄だわボケェ!」

 

「あなた達ねぇ…」

 

 

原初の天使に跨がれるとか冗談じゃない!!ただでさえ下位天使のコルクとかで簡単にコトコトされてしまうのに、そこに上位天使を超えた究極生物に味見されるとかスプーン丸ごと食われるようなもんだろ!?まじでやめろ死ぬ。

 

 

そうして俺は逃げるようにミカエラさんの家を飛び出し、そのまま家族に会いに向かった。

 

やっぱりアイツ色々とこえーわ。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、姉さん。今のエリーカ、なんだか別のナニカが備わってないかしら?」

 

「気づいてたのね、ルシフィナ。確かに一週間前のエリーカとは違って身体に纏う聖素がより洗練されていたわ。過酷な道のりを超えて鍛えられたと思っていたけど、でもそれを助長させる【ソレ】が後押ししてるわね」

 

「もしかして姉さんは分かってのかしら?」

 

「……勇者ハインリヒ」

 

「あら、懐かしい名前ね。でも500年ほど前のそれがどうしたの?」

 

「会ったらしいわ…罪人の封牢で。意識の中での邂逅だけど、幾分か会話をしたみたいよ」

 

「……なるほど。そういうことね。エリーカは気づいているのかしら?」

 

「さてどうだろうかしら。良くも悪くもエリーカは自分の敷居に対して意識が低いから。だから気づいてないと思うわ」

 

「そう……ならやはり跨って色々と分からせてやろうかしら」

 

「やめなさい。死ぬわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……レミナで知ったんだな」

 

 

俺は一週間ぶりに再開した家族に帰還の無事を知らせ、それで父と話をした。

 

 

「エリーカ、オレは…」

 

「あのね?父さん。俺は父さんがレミナでエコーズ家を放棄したことに関しては別にどうでも良いんだ。俺は貴族でありたかった願望とか、街で育ちたかった羨ましさも無く、むしろフィサリス演劇団の子供として生まれ落ち、そしてエンリカで天使達と健やかに育った事を嬉しく思う。だから父さんのルーツはそんなに気にしてないよ。もし後悔とかしてたら出会った母さんに失礼だからぶん殴ってた」

 

「!!……はは…随分と、手厳しいな。でもそうか。まあオレもレミナを出たことはそこまで気にしてない。ただ自分の息子に己のルーツと身分を隠していた事に少しだけ負い目があっただけ。しかし…ああ、その心配はどうやら無いようだな。エリーカはエンリカで生まれた事を喜ばしく思ってくれてる。なら良いんだ。もう()()()()…」

 

「…なぁ、父さん、それなんだけど。俺はどうやらまだエコーズらしい」

 

「……なに?どういう事だ?」

 

「俺さ、後日にはまた旅に出る。それも場合によっては長旅のレベル。しかも途中で死ぬ可能性もある過酷な道のりとして決まっている。しかしそれはエコーズの者として役割を果たす必要が出てきたからだ」

 

「なに!?待てエリーカ。それはなんだ!?っ、まさかレミナで誰かから強要されたのか!?」

 

 

父さんは立ち上がって俺の両肩を掴む。

 

必死になる理由はわかる。

 

エコーズ家は没落して、放棄した。

 

でも血を引いて生きてるなら、幾らでも再興できる。貴族とはそれだけ証になる。

 

だから元貴族だった父さんはレミナに行ったエリーカ・エコーズが何か貴族争いに巻き込まれてしまったと思っている。

 

利権や地位とはそのくらいに面倒だ。

 

そして繁栄期のエコーズ家は墓守の一族としてその名を強く残していた。

 

今はもう必要無い役割だが、それでも利用価値が生まれてしまうなら貴族という身分は良い生き血であり、枷である。

 

だからエコーズ家だった父は心配する。

 

過去から引きずる今を。

 

 

「いや、レミナは関係ないよ。あったとしても父さんが騎士の時代にいた同僚らしき人がエコーズの名を懐かしんでたくらいかな」

 

「!?…そ、そうなのか?」

 

「ああ。なんだったらその同僚さん曰く俺の横顔は父さんと似てるらしい。だから城でハルトマンなのか?と勘違いされた。それでエコーズ家が何なのかとか、当時の父さんの話とかを教えてくれた。元気にしてることは言っといた。そしたらそれは良かったと懐かしんでたよ」

 

「そうか……あの大陸でまだ騎士をしている者がいるのだな。なら…アイツかな?昔から強かったならな。ふっ、懐かしいな…」

 

 

遠くを懐かしむ顔。

 

一瞬だけ、騎士のような鋭い眼を見た。

 

思い出はまだレミナにあるようだ。

 

 

さて、そろそろエコーズとしてこれから始まるエリーカの話を伝えるべきだろう。

 

 

「聞いてくれ、父さん。俺はヘルゴンド大陸で勇者ハインリヒの魂と出会った」

 

「!!??」

 

「エコーズ家の父さんも知ってると思う。墓守だったエコーズ家は勇者ハインリヒを大罪人として扱われたことで役割を放棄した。しかしそれから500年。ハインリヒはエコーズの者が訪れた事を知って頼んできたんだ。俺はそれに応えようと思う」

 

「…何を頼まれたんだ?」

 

「……世界中の天使が、殺される」

 

「なに??」

 

「あまりにも話がかっ飛び過ぎてるからミカエラさんのように理解し得る人にしか説明できなかったけど、でも俺はそれを止めるべきキーマンとして選ばれた。エコーズだから」

 

「っ、エリーカ待ちなさい。もしその話が本当ならば…」

 

「父さん…!」

 

「!」

 

 

俺は声と同時に強く、その眼を見る。

 

ほんの僅かに沸き立つ、聖素と共に。

 

 

 

「俺はエコーズ家の再建とかそんなのは一切考えてない。だって俺はフィサリス演劇団でありたいし、エンリカに住まう天使達の先駆者でもありたい。でもエコーズの血が求めるべき者のために役割を果たそうと騒がしい。それには応えたいと思っている」

 

「エリーカ…」

 

「でも父さん。この使命感がエコーズが原因だとしても、それはこれまでとなんら変わりないんだよ。何故なら今だって父さんがミカエラさん達を助けたように俺も天使を助けたくこの心も体も動かされている。故にエコーズの息子のするべき事がこの先も変わりない。ならばエコーズでありながらも、エリーカとしての原動力を違えないハルトマンの子として……意味果たしたいっ!」

 

「!!」

 

 

 

つまり、ハインリヒを助ける。

 

もちろん、天使も助ける。

 

全てをエリーカ・エコーズに込めてやる。

 

 

そういうことなんだ、この話は。

 

引いてる血筋と共に強欲極まった天使の先駆者は人間の器程度で願いを押し通してみせる。

 

 

でも、果たしてみせる。

 

何故なら俺はエリーカ・エコーズ。

 

天使に祝福されながら生まれし、フィサリス演劇団の団員で、ミカエラの弟子であるから。

 

 

 

「そうか……うん、そうか、エリーカが決めたのならオレは止めない。ならば果たして来い。エコーズに役割を感じた己のために」

 

「ああっ!もちろんだ!」

 

 

 

父さんの事を知れて俺は嬉しく思う。

 

そしてこれからもフィサリス演劇団の団長に変わりない、俺の自慢の父親。

 

俺はそんな父親の子供として、またはエコーズとしての役割を果たしてみせる。

 

そう決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夜の事だ。

 

目の前に、アホがいた。

 

 

 

「で?何この状況?」

 

「わからない?貴方に跨っているところよ」

 

 

いやいやいやいや。

 

まじかよこのダメ天使。

 

は?俺はこれから吸い殺されるのか??

 

これから新たに冒険が始まるというのに??

 

 

 

「まだ何もしてないわ。それともこのまま夜伽でもお望みになるのかしら?」

 

「俺はまだ死にたくないっ!」

 

「別に命を奪うつもりはないわよ」

 

「種族差で死ぬんだよなぁ……てか、マジで夜中に何用だよ??一周回って冷静になったわ」

 

 

まあ、やる事ルシフィナだし??って感情が先行してたお陰で寝込み襲われても正体がルシフィナだと分かって嫌に冷静になった。

 

これがトリンやリセスのような天使種じゃない純粋な上位体のもんむすだったらかなり焦っていたけど。

 

まあどっちも優しいからそこに苦しさはないがそれでも種族差は無視できない。

 

怖いのは誤魔化せないところさん。

 

 

え?天使なら焦らないのかって??

 

……まあ、そうだな。

 

エンリカにいる天使なら全然怖くない。

ロリ巨乳天使に関しては見た目可愛いし。

なんならティルとか布団に潜り込んでくる。

寝ぼけたフリして一緒に寝ようって感じに。

そこに他の天使も便乗してきた寒い冬。

人肌多いお陰で暖かったな。

でと布団の中は、胸でいっぱい、や!

 

ま、そんな訳で天使はあまり怖くはない。

 

俺からすればティル達は近所の可愛い子みたいな感じなので。前世が懐かしい。

 

 

 

あ、でもルシフィナは別な??

 

コイツはデフォルトでやばいが付きまとう。

 

焦んないけど、でも焦るわ。

 

 

 

「そのまま寝てなさい。すぐに終わるわ」

 

「命が?」

 

「お望みなら」

 

「やめてくれよ…」デデドン

 

 

ルシフィナの奇行に理解が追いつかない俺は半分ほど死んだ目になっていると、その間にルシフィナは手のひらに光のエネルギーを纏わせてコチラの胸元に触れ始めた。ほんまにマジで何する気やコイツ??

 

 

「ハインリヒに会ったようね」

 

「ミカエラさんから聞いたのか」

 

「500年前に天使の命を奪える武器をハインリヒに渡したことがあるわ。イリアス様に対する嫌がらせと、興味半分でね」

 

「……待てよ?その時のルシフィナって傷を負ってボロボロだったりする?」

 

「そうね。たしかあの時は姉さんと殺し合った後だったもの。でもその際に天界から一つ魔剣をくすねてやったわね。なにせ天界に反旗を翻す勇者の存在を知ったから、離反と同時に魔剣を奪って、それでそのままハインリヒに渡したわ」

 

 

ああ、なるほど。ハインリヒが言ってた『傷だらけの天使』ってルシフィナのことか。

 

それでミカエラさんとドンパチしながらもついでとばかりにその魔剣とやらを天界から持ち込んでハインリヒに渡したのね。天界からしたらとんだキラーパスだわ。だって人間が天使を斬ってくるなんて思いもしないだろうし。

 

 

「ふーん?なるほど。これはそういう事ね……あら二つも?これは元から?でも確かにエリーカには備わっているわ。ただし現在の地上のイリアス神殿が安定しているとは限らないから……もう、まどろっこしいわね。えい」

 

「ぐえっ!!」

 

 

まるで鍵を開けるようにガチャリと俺の体に纏わりつく聖素をひん曲げた。

 

は、はぁ??

マジで何やったんだ??

 

 

 

「よし、これで良いわ。終わり」

 

「え、え、え……?」

 

 

ひどく困惑する俺。

 

相変わらず何を考えているのか分からん。

 

 

「エリーカの中にある権利を表に引っ張り出してやったわ。これでイリアス神殿なんてところに行かなくても大丈夫よ」

 

「どういう事だ?」

 

「あと聖素を融合させて確立もさせたわ。おめでとうエリーカ。貴方は勇者よ」

 

「いやマジでどういう事だってばよ」

 

 

なんかよく分からんけどルシフィナによって俺の内側にあるモノが表に引っ張り出された。

 

すると身体中にグッと力が駆け巡る。

 

 

「え、え、な、なんだっ!?これっ!!?」

 

 

俺は思わず起き上がる。

 

ただルシフィナに跨られているため上半身だけ起こし、目も鼻の先にはルシフィナ。

 

原初の天使ってだけあってなんだかんだ綺麗なんだよなぁ、この人。

 

よく分からんヤツだけど。

 

まあそれはともかく腹の底から湧き上がる聖素とは別の感覚に戸惑い、次に俺は自分の両手を見る。そこには…

 

 

「視える、視えるぞ…!光の流れがっ!!」

 

「あら、分かるの?ふーん、それ程なのね」

 

「…な、なにを、やった?」

 

「さっき言った通りだわ。貴方の中にある権利を確立させて、そこに聖素を融合させた。その権利とはハインリヒから。聖素は強くなった貴方自身から。お陰で女神じゃない私でも呼び起こすことはできたわね。それにしてはすんなりと馴染んだけど。もしかしてあなた人間じゃないナニカだったりするのかしら?」

 

「俺は人間だ!人間で沢山だ!勝手に人外みたいな扱いするな!…まあ、そのナニカに関して述べるなら俺がエコーズの血を引いてるからだろうな。なにせエコーズは死人の魂が天に昇ろうとするとき、その魂が無事に天に届くように護る墓守の一族。その血が後押ししたんだろ」

 

「役割……そう。私は勇者なんてのはよく分からないわ。でも魔を討とうとする職業であり、それは女神から喜ばれるために使命を背負った力とされる。エリーカの中にあるエコーズが与えているのね。なら分かるわ。私も原初の天使として戦場を叩くのが役割だったもの。明けの明星の一つ名を授かったルシフィナという天使はそうだったから」

 

「俺は俺のすべき範囲を果たす。ルシフィナを参考にはしないからな。てか出来ないし」

 

「ふふふっ、やはり生意気な人間。でも貴方はそうしなさい。人間には人間にしか出来ない情動がある。さぁ。素敵な明日のためにもう眠りなさい、エリーカ」

 

 

そう言ってルシフィナは目と鼻の先にあった俺の頭を胸の中に抱きしめた。

 

 

「むぐっ!?…ル、ル、ルシフィナ??」

 

「おやすみ、エリーカ。私もエンリカに住まう天使として特別に貴方を祝福してあげる」

 

「ぁ……い、しき……が………るし、ふぃ…な…

 

「最後まで呼び捨てなんて、やはり生意気…」

 

 

落ちゆく意識の中。それも原初の天使というこの世で最強だろう上位存在に抱きしめらながら俺は眠りと共に全てを任せてしまう。

 

しかしそこに恐怖心は無く、むしろ大いなる存在の胸の中で眠れる安心感が身体中を(いつく)しんでいるから、緩やかに溢れる寝息は穏やかで、ゆっくりと撫でられる彼女の手は天使のように柔らか。

 

この手のひらが何万年分の破壊と殺戮で染めているなんて思わないほどに、身を委ね切ってしまう。

 

 

 

「可愛い寝顔。まだまだ子供ね、ふふふっ」

 

 

前世に比べればこの世界では既に成人と言っても差し支えな年齢だ。

 

けれど柔らかに見守る天使からすれば全てが子供なんだろう。

 

ああ、でも…

 

 

ルシフィナ……君だって、いつかは……俺と同じ人間になるん、だ……そしたら…君だって、まだ子供の……よう、に……明日を……愛せ、る…

 

「!!!」

 

 

俺はルシフィナに伝えたい事を伝え切って、そうして完全に意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

「………本当に、生意気……」

 

 

 

 

 

そう言って、原初の天使だった人間はゆっくりと青年を床に寝かせる。

 

風邪を引かぬよう布を被せ、最後に無防備な頭と、指と指の間に髪を透かしながら撫でることで安眠であることを望む。

 

そうして人間を目指す天使は音を立てずに部屋を出た。今宵は素敵な夜にならんことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、ぬぬぬ、まさか、人間に、やられてしまう日が来る、なんてな……ぐぬぅぅ…」

 

 

目の前には、人間の何倍も強いとされるもんむすが砂浜に打ちのめされている。身体中に刻まれた聖痕の数々はそれほどに追い込まれた証拠だろう。

 

 

「一年前の借りを返してやったぞ、マンタ娘

 

「ご、ご主人様、すごい…」

 

「本当ですね。エリーカは強くなりました…」

 

 

さて、エンリカから南下すると『レムズ海岸』が広がっている。

 

そこは外海へと広がっており、たまに外海に住まうもんむすが休憩か、または捕食のために顔を出してくる。

 

もし外海のもんむすを見つけた冒険者は一目散に逃げるだろう。

 

なにせ内海の倍以上も(けわ)しいとされる外海の生き物なんかに普通なら勝ち目など無いのだから。

 

しかし天軍の剣として名を馳せた師匠に鍛えられた俺は同時にエコーズの者として周りの人間とは違う。内側に備わりし権限と経験がエリーカ・エコーズという人間を強めたから。あとヘルゴンド大陸を踏破した経験が後押ししてくれるので外海の二文字だけに恐れてやることもない。正面から押し通してやる。

 

 

 

「借り…か。ぐぅ、あの小僧が、随分と…」

 

「強くなっただろ?天使達から与えられし祝福の数々はここまで俺を押し上げてくれた。これもミカエラさんの賜物だな!」

 

「調子に乗りおってからに…まぁいい。それよりも私に勝ったら何か望まんとしていたな?」

 

「ああ、それは__」

 

「よし!ならば私を犯せ!お前のような強い人間の子種なら大歓迎だ!さぁ遠慮するな!」

 

「「!?」」

 

「だぁぁぁぁあぁぁ…」

 

 

とてももんむすらしい倫理観に関心しながらも俺はその場からズルリと崩れ落ちる。

 

後ろで見ていたティルとメイルも「犯せ!」の言葉にギョッとしている。

 

 

「待て待て待て、かっ飛びすぎや。そういう望みじゃねーし。一度話を聞け」

 

「む?」

 

 

それから俺は説明した。

 

これから先、外海に乗り出す予定があり、その海路でマンタ娘に用心棒を頼みたいという話をした。目的地はヘルゴンド大陸の西にある新たな大陸であり、調査を建前に向かいたいと。

 

 

「なるほど、そういうことか」

 

「そう。あのイッカク娘とバチバチにやりあえる程の強さを持ったマンタ娘が一緒なら道中は怖いものは無いだろうってね。なので一年前の借りを返すのと同時にしばらく俺に付き従えって話だ」

 

「ふん。小僧が随分と言いおる…が、私はお前に負けてしまった。なら従おう」

 

「おう。話早くて助かる。んじゃあティル。回復魔法頼んで良いか?マンタ娘も一緒に」

 

「良いのですかエリーカ?」

 

「大海の覇者だ。嘘はつかない」

 

「無論だ。私はこの者に負けた。それで話は決まっている。しかし本当に強くなったな…」

 

「おうよ。もう一方的に犯されないからな」

 

「ではヒールを………え??」

「ご、ご主人様!?」

 

「ん?…ああ、違う!待て待て!誤解だ。アレは犯される直前だっただけや。いやまぁマンタ娘の力強すぎて解けなくてな?それでそのまま食われるところをトリンが包丁ぶん回して助けてくれた。なので寸でのところでマンタ娘には犯されなかった。なので『借りを返す』ってこういうこと」

 

「せっかくの上物を良くもあのトンベリ娘め…しかもザクザクと体に包丁を刺しては視界に捉えれない速さで動いたりと…控えめに言って地上の化け物だなアレは…」

 

「…ヒールかけるのやめて良いですか?」

 

「だーめ。これから外海を渡るためにも彼女の力が必要になるんだ。餅は餅屋ってこと」

 

「むぅ…仕方ないです」

「ご主人様も、私も手当てしますね」

 

「おう。頼むわ、メイル」

 

「深淵のトンベリだけではなく、天使すらも仲間にする男か……ふん、まぁよい。しばらくは暇しなさそうだ」

 

 

借りを返すのと同時に、強敵と対面したことでルシフィナに引き出された力を理解する。

 

イリアス神殿で転職する訳でもなく、俺がエリーカ・エコーズであることが既に条件成立してたので、後はルシフィナのよく分からんすごいなんかでこうなる事が許された。いやなんで?

 

ほんまにアイツが良く分からん。

 

まあそんな姉のミカエラさんも妹さんのことはあまりよく分かってないらしいが。はい。

 

 

でも、確かにこれは強力な職業だ。

 

上級職の【冒険家】も悪くなかったけど、でもここから先は俺自身が強くなければ成立しないエコーズとしての役割。

 

 

だから、ありがたい。

 

ハインリヒから託されたギフト。

 

そして、ここまで培ってきたエリーカ。

 

その二つが祝福してくれた。

 

 

 

___魔を光で討つ者の、役割。

 

 

 

その名は…

 

 

 

 

「まさか___ 光の勇者 になれるとはな」

 

 

 

最上級職としての洗練さ。

 

お陰で体に流れる光すら視える。

 

しかも天軍の剣たる師匠(ミカエラ)から落とし込まれた聖素の活用法が更に巧みになり、またこれまで高濃度な聖属性を編み出してきた技術も光の勇者になれたことで火力もかなり上がっている。なんか急にインフレしたな俺。

 

まぁ、それでも種族は人間のままだけどね。

 

でも貴族かつ天まで魂を運ぶ墓守だったエコーズの血が流れているからか、身体能力も高めに確保できてるし、普通の人間よりはちょい強めな立ち位置だよね。あと生まれつきたんもりと注がれた天使達による祝福。こう考えると後押しの数々があるんだよな俺って。恵まれてる。

 

 

 

「じゃあ、次はコンタクトを取らないとな」

 

「ご主人様?まだ何か?」

 

「ああ。大海の用心棒は確保できたけど、それを渡るための『船』が必要になる。まあ…伝手はあるさ。ちょいと探さないとだけど、でも今年の初めはナタリアポートでフィサリス演劇団は公演すると広告を打ってある。地上の娯楽に飢えてる彼女達から来るだろうな…」

 

「??」

 

「まあここら辺は俺に任せとけ。とりあえず今日はエンリカに戻るぞ。それとマンタ娘はしばらくこの辺りにいるんだよな?」

 

「ああ。この辺でしばらく過ごす。もし出番が来たらまた会いに来ると良い」

 

「わかった………あと、そうだな」

 

「?」

 

 

 

 

俺は少し考えて、マンタ娘に指を刺す。

 

 

 

 

マルタ。名の無い君のことをそう呼ぶ」

 

「!!」

 

 

 

 

心強い仲間を手に入れる。

 

少しずつだが、コマを進めれている。

 

そう感じながらエンリカに戻った。

 

 

 

 

つづく

 

 






はい、人間の身でスノウヘブンに行くので光の勇者にして死なせないようにしました。これもエリーカくぅんが種族人間のクソ雑魚オスくんな下等生物だからね。仕方ないね!

あとルシフィナさんは書いてて楽しいな!
いくら盛っても良い。ただし胸は盛るな。
盛られるならミカエラさんに任せような!


【エリーカ】
聖素(聖属性)を使いこなせる事、また同じ勇者のハインリヒから勇者として認められた事、あとエコーズの血が役割を欲した事、それから原初の天使に認められた人間であるの事、そして人間の鬼門となるヘルゴンド大陸を踏破できるくらいの力が備わっていた事によりエリーカ本人の素質と練度は充分と扱われ、そうして条件が満たされた事を知ったルシフィナが寝込みを襲う形でエリーカの上にダイナミックエントリーィィ!!して女神の真似事をやってみたら見事にエリーカは最上級職の光の勇者になってしまったのでした。ちゃんちゃん。ほんまコイツら…

【マンタ娘】
お馴染み外界の覇者マンタ娘。過去にレムズ海岸で遊んでいたエリーカを見つけては襲いかかり、あと数ミリで子種を奪わんとした所に一緒に遊びに来ていたトンベリ娘のトリンが弾丸ライナーしてくると包丁でグサグサされてしまい、泣く泣く撤退した過去がある。その1年後に今回の話にてエリーカと一騎討ちして敗北した。しばらくエリーカと行動することになった。名前は無かったが『マ』ン『タ』娘から二文字、あとマンタ娘の代名詞であるメイ『ル』シュトロームから文字を取って【マルタ】になった。

【ルシフィナ】
何万年と生きてきた天使がたったの18年しか生きてない人間に子供扱いされちゃったので「本当に生意気。生意気の生意気よ」と繰り返してるが、姉のミカエラはとても上機嫌になっている事を知っている。それはともかく勝手にエリーカを光の勇者にしちゃったのでミカエラから軽率だと怒られて少しだけしょんぼりしているらしい。ちなみに次エリーカに跨った時は本気で襲ってしまおうか考えているらしい。ひぇ…



おまけ

【エリーカ・エコーズのステータス】

= 人間 (エコーズの血筋による補正)=
最大HP 100% 最大MP 90% 最大SP 105%
攻撃力 105% 防御力 100% 魔力 95%
精神力 105% 素早さ 105% 器用さ 100%

= 光の勇者 (天軍仕込みによる補正) =
最大HP 130% 最大MP 130% 最大SP 120%
攻撃力 155% 防御力 120% 魔力 110%
精神力 130% 素早さ 130% 器用さ 100%

=耐性・抵抗=
雷属性 75% 聖属性 50%
闇属性 125% 昇天 75%

=固有アビリティ:天軍の弟子 =
剣を装備可能
物理攻撃に聖属性を付加する
「聖技」を使用可能
「聖技」の威力がアップ
「聖技」の威力が攻撃力に依存
天使が仲間にいる数だけステータスが上がる(最大120%)


次回っ!
お魚海賊団に俺はなる!
(↑過去作の旧タイトル)


じゃあの。
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