今日も胸がいっぱい、や!   作:つヴぁるnet

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16500文字だってよwwww


天使ィ!!

 

 

天軍(あまくさ)(つるぎ)ィィ!」

 

 

海賊船から飛び降りながらイッカク娘の額に叩き下ろし、衝撃波で海面を揺らす。

 

後から気付いたことだがこの技、どうやら巨大な生物に対してかなり効果があるようで、その辺をミカエラさんと確認したところ図体が大きいほど聖属性をぶつけれる量が多くなり、それが高濃度になると敵の精神を焼き切ることが可能になるらしい。そうすると聖属性特有の昇天状態を与えれるようだ。

 

俺の場合は人間の身で放つ借り物の聖属性なので発現するのは擬似的な昇天状態なのだが、それでもこの技を受ければ昏倒させるくらいには追い込める。なるほど確かに。

 

ヘルゴンド大陸にいた巨竜娘が天軍の剱を受けても絶命するのではなく、昏倒するのはこういった属性効果と天使特有の聖素を利用した昇天付与に繋げれるからこそか。こりゃ納得だ。

 

ならば、巨大な体格のイッカク娘も…

 

 

「がぁ、ふぅ…!あへぇ…ぅえぇぇ…」

 

 

ぶつけられた天軍の剱によって全身に高濃度な聖属性が神経を焼き、半端な昇天効果を受けてイッカク娘は片目半開きになってしまう。

 

そのためオッホアイを交えたひどい顔だ。

 

これにはマルタも思わず、振りかぶる予定だった拳が脇元で止まってしまう。

 

大海の覇者の姿?これが?

 

 

 

「あー、えと…やっちまえ!マルタ」

 

「お、おう!」

 

 

マルタは海面を足場のように立つと、ググッと全身に力を入れ直し、握りしめた拳にエネルギーを溜める。

 

そしてオッホアイ状態のイッカク娘の顎下にスカイアッパーをお見舞いした。

 

大海に良い音が響き渡る。

 

 

 

「あ、やっべ、落ちるぅ!」

 

 

まあそれはともかくだ、俺は聖素を解除したことで緩やかな落下状態が本来の落下速度になってしまい、そのままバシャーン!と海の中に落ちてしまった。

 

 

「げふっ。てか冷てぇ!」

 

 

今日は海が荒れてないから良かったけど、聖素を纏ってないジャスティスカスタムがそこそこ重いのでちゃんと泳がないとそのまま海底に落ちてしまう。あと春の海はまだ冷たい。

 

早く離脱しようと足をバタバタさせてなんとか浮こうとしていたら、頭の上にコツンと何か落ちてきた。ボニーの浮き輪だった。ただし海中に押し込まれてしまう。オボボボこの海深い。

 

 

「お嬢、何やっているんですか…」

 

「うぅぅぅ、そんなつもりは無いのじゃ…」

 

 

助けたくて放り投げたのは分かるが運悪く頭にヒットしてしまい、俺に追い討ちをかけたみたいでアシェルから呆れ半分で責められていた。

 

すると海中から誰かが接近してくる。

 

 

「まったく、仕方ない奴だ」

 

「むぐぐっ!?」

 

 

浮き輪の一撃にて海中に押し込められていた俺をギュッと抱きしめて助け出してくれたのはマンタ娘のマルタ。

 

抱きしめてくれる彼女を見上げれば、海中で広げた大きなヒレに差し掛かる太陽の日差しは幻想的で、また海面を揺らす水色と青色のコントラストがマルタの世界を彩らせていた。とても綺麗だ。

 

 

「ぷはぁ!ふぅぅー、助かったぞマルタ」

 

「んっ…おい、胸の中でモゾモゾするな。このまま海中に引き摺り込んで襲いたくなるだろ」

 

 

やっべ、おっぱいがいっぱいでつい身を任せて溺れそうになってしまった。海でも溺れて、胸でも溺れるとか器用なことになりそう。

 

 

「イッカク娘なら私一人でも倒せた敵だ。そう飛び込まなくても良かったぞ、エリーカ」

 

「マルタが強いのは知ってるさ。でも大怪獣バトル始まる前に倒しておきたかったんだよ。船も有限だからな」

 

「ふん、その時は皆で泳げば良いだろ」

 

「夜の海とか考えたくねーよ」

 

「やれやれ、陸の生き物は不自由だな」

 

「俺からすればここはアウェーだよ!天使でもキチィわ!つーか夜の海は凍えるわ!」

 

 

さて、このまま長く海の中にいると俺も凍えてしまうのでマルタに戻ることを伝えるとマンタ娘の跳躍力によって海面からバシャーン!と勢いよく脱出し、そのまま船の上にストンと着地して降ろしてもらった。

 

すると海水でびしょ濡れな俺を見たルミエが軽くため息を吐き、コンコンと杖を甲板に叩くと魔法で生成した真水がバシャーンと真上から降り注ぎ、身体の海水を洗い落としてくれる。

 

すると流れるように足元に魔法陣が召喚されるとそこから一気に熱風が巻き起こり身体中の水が弾かれた。服も髪も乾いている。

 

魔法って便利だな。

 

 

「ありがとう、ルミエ」

 

「まったく、イッカク娘に攻撃を届かせるため船から飛び出るとは少し張り切りすぎだ」

 

「巨大生物が本格的に暴れると船が危ないから封殺しようと判断したまで。海にはマルタもいるし不安はなかったぞ」

 

「それでびしょびしょになって風邪など引かれたら()()()使()の二の舞だな」

 

「…っと!そうだった!早く戻らねぇとティルが俺達のマスコットじゃなくなる」

 

「今頃()()()揉みくちゃだ。戻ってやれ」

 

「おう」

 

 

俺は甲板を蹴るように駆けり、ルミエを置いて先に部屋に戻る。

 

天使のため、その足取り早く。

 

 

 

 

 

 

「妬いているのか?」

 

「…なに?」

 

「アレほどの人間だ。さぞかし周りから人気なんだろう。想像に容易い」

 

「……別に、関係無い…」

 

「そうかい。でも海中でエリーカを救出する際に抱きしめてしまったが…まあ理解したぞ。アレは確かに言語化できないナニカ。まあ抽象的に言えば【凄み】とやらを秘めているな。そりゃ誰も放ってはおかないだろう」

 

「……私は誇り高き智天使だ。今は堕天し尽くした身だが、智天使だった者としてその力を頼りにされてる以上は……」

 

「……そのためにプライドが高いのは良いことだな。私も理解する」

 

 

 

そしてマンタ娘は再び海中に戻る。

 

甲板に一人智天使は取り残されて…

 

 

 

……エリーカ…

 

 

__あのワイティエルのように許されるなら少しくらいは分けて欲しい。

 

でも智天使たるもの誇りを忘れない。

そうでなくてはならないから……

 

 

想いを心に閉まって、冷たく。

 

ホルミエルは甲板を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、コイツ、力強いっ!」

 

「エリーカが引き込まれていきます……ああ、これから捕食されてしまうんですね…」

 

「洒落になんねぇよ」

 

「…ぅぅ、あったかい……これが、いい…」

 

 

2000年間氷付けにされていたとは思えないほどに力がある天使、その名はジェネシックヴァルキリー。聖魔大戦時代を戦っていた最古参の天使兵である。もうこの時点でカッコいい。

 

 

さてこの天使、前日のモンストロから追加で渡された氷付けの贈り物の正体である。

 

僅かに感じる聖素のお陰で氷付けの中にいる者が天使であることは理解したのだが、しかしまさか2000年前に存在していた最古参の天使で、しかもレオタードで氷付けのまま生きていたとかいう生命力に度肝抜かれた。

 

しかし現在は2000年分の氷付けによって心身ともに凍えて苦しんでいる。そのためティルを湯たんぽ代わりにブチ込んでいたが、それでも人肌ではこの凍えは抑えられないようで、そもそも堕天したての天使を芯の底から温めるには聖素を使うことが最適らしいのだが、同じ天使のルミエやティルよりも俺の聖素の方が良いらしい。

 

そのためイッカク娘が現れるまでは俺がジェネシックヴァルキリーの手を握って聖素を流して温めていた。

 

ただ途中イッカク娘が現れたので臨時としてティルを湯たんぽ代わりに放り込んだけど、それでも俺の聖素が良いのか、魘されながら見えないところに手を伸ばして求めていた始末。

 

でだ、何故俺ことエリーカの聖素の方が良いのかをルミエに尋ねたところ、どうやら天使が兼ね備える聖素の本質は裁きを司る性質として秘めており、特に戦闘兵として最高クラスにある智天使(ケルビム)の聖素では温めるとかの属性に向いてない。

 

それなら大天使(アーク)のティルの方が良いかと言われたら別にそうでもなく、むしろイリアスの贔屓によって雑に戦闘力が高くなってしまったのでティルの聖素ではヴァルキリーを温めるのは難しいだとか。人肌だけなら湯たんぽとしては最高なんだけどね。ふかふかで柔らかいし。冬場とか抱きしめると暖かい。

 

なので、もし聖素で温めるならトリニティとかの戦闘型の天使ではない、サポート特化の天使種ならまだ可能性はあったが残念、ここには都合の良くそんな天使は存在しない。

 

では残された聖素の使い手は?

 

 

はい、俺ことエリーカ・エコーズ。

 

 

産まれながらにして天使達に祝福されながら外側から聖素を得てきた俺の性質はトリニティ種の柔らかさに近いようで、日毎を通して確立させてきたその性質は裁きを掌る天使とは違う。

 

故に持ち合わせている聖素が柔らかだからこそ高濃度にできる技術があるとか。

 

それが天軍の剱を扱える理由らしい。

 

まあそんな感じに俺の聖素は柔らかで、優しくて、暖かいとのこと。

 

これには撫でられ好きのティルも肯定してたのでたしかな話しなんだろう。

 

まさかのナデポ属性。

天使に特攻とか随分と贅沢だな。

 

 

で、だ。

 

俺は今、引き込まれている。

 

全身レオタードな天使のお姉さんに。

 

なにこのシチュエーション。

 

 

 

「普通なら湯たんぽの役割りはティルだるるるぉぉぉ??てか何しれっと脱出してんだよ!」

 

「もう私は遠慮します…」

 

 

ミカエラさんとの修行の成果によってそこそこ巧みに扱えていた聖素だが、光の勇者になったことで更に洗練された結果として最古参の天使にすら惹かれて病まない聖素になった。

 

お陰で半分布団に飲み込まれた俺は。

 

いや、元々この寝床は来客用として与えられた俺のベットなんだけさ、こんな形で取り戻したくないよね?離してくれない?無理そう?

 

 

「これ、あたたかい……いい…とても…」

 

「これ、ひんやり冷たい。あと力強い」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「ちょ、このまま寝るなし!ぁ、ぐぇっ!」

 

「ティルはお腹空きました。ボニーと一緒にアシェルさんからおやつを強請ってきます」

 

「おい、こら、見捨てんな!」

 

「先程いきなりぶち込まれた仕返しです」

 

「いやいやいや!アレはイッカク娘が現れたからであってな?大怪獣バトル始まる前に封殺したくてティルに臨時を頼んだだけだからな?好きで放り込んだ訳じゃないからな??」

 

「でもそちらの天使さんはエリーカにしかご対処願えないので、しばらく任せます」

 

「ああー、コイツぅ!」

 

 

そうしてティルは部屋から居なくなり、俺はこのヴァルキリーと二人になった。しかも布団の中に引き込まれてギュッとされている。ちょっと苦しい。体勢変えないと吐きそうになる。

 

 

 

「俺は天使専用の湯たんぽじゃねーっての…」

 

 

ティルの自由奔放マスコットパワーにため息付きながら俺はモゾモゾと器用に身体の方向を入れ替える。そうして凍えて眠っているヴァルキリーと向き合った。振り解こうと思えば力づくでどうにかなるけどこの天使の寝息を穏やかにしてやらなければならないのは確か。

 

 

「まあこうしたのは俺達が原因だよな…」

 

 

ルミエが魔法でヴァルキリーの氷付けを解凍したのは良いが、薄らと目を覚まして意識を取り戻した段階で急激に襲う寒さと凍えに苦しめられていたので、急いでティルとルミエで乱れる聖素を抑えて芯から温めてやった夜。

 

ただルミエが俺一人で聖素を送り込んで温めた方が良いと判断し、そのため昨日は俺の使っていた寝床にヴァルキリーを寝かせ、俺は椅子に座ってヴァルキリーの手を握りしめながら一夜を明かした。正直眠い。まあ先ほど海水に飛び込んで目を覚ませれたけれど、現在は寝床に蜻蛉返りである。

 

全身レオタードのお姉さん天使と一緒に。

身体柔らけぇ。てか細。鼠蹊部細っ!

 

 

「しかし本当に冷たいな。ここまで冷えてる天使は初めてだな…」

 

 

堕天してしまった故に痛覚を知った。

 

そうなれば凍えて苦しむことを身体が覚えてしまう。その結末がこの状態だ。

 

むしろこの状態で凍死してないのが天使兵としての強さで、同時に死ねない辛さもある。

 

高い生命力が苦痛の中で生かしてる。

 

なんとかしてあげるべきだろう。

 

この状況に諦めた俺はコチラからもヴァルキリーを抱きしめると、互いの聖素を循環させることで寒さに溺れぬよう全身から流し込み、震える彼女の背中を手のひらで支えてむしろグッとコチラに引き寄せる。

 

 

 

「んぅ……すぅ……すぅ……」

 

「ふぁー、ねむい……てか、寝不足や…」

 

 

いつの間にか解かれていた両腕。

 

それは安心し切った証。

 

けれどまだ介抱は必要だろうと考えて人肌を押し付ける。まぁレオタードに服越しだけど、でも聖素と聖素を繋ぎ合わせてるから、まぁ似たようなもんだろう。

 

そうやって寝不足だったことを思い出しながらイッカク娘との戦闘による疲労を後押しに俺もこのまま眠りつくことにした。

 

 

なに、すぐに起きるから……今はちょっとだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前案外、寝相悪いんだな」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

 

 

どうもエリーカです。

 

起きたら夕方でした。

 

あと彼女に蹴り落とされた事で起きました。

 

びっくりしたわ。

 

あんなに引っ付いてたのに、充分に温まったら寝相変えれるくらいには回復して、それで寝床から蹴落としてしまうとか中々なわんぱく天使で驚いたわ。

 

 

 

「あー、体はどうだ?」

 

「まだ少し寒いけど、解凍されたばかりの時よりはマシになったわ」

 

「そりゃ良かった。俺も湯たんぽ代わりになった甲斐があったさ」

 

「そ、それは!その…忘てくれると助かるわ」

 

 

白い肌がほんのりと赤くなる。

 

どうやら俺を寝床に引き込んだことは覚えているらしい。あと蹴落としたことも。

 

 

「けれど惑いの中でも感じてたわ…あなたがずっと私の手を握りしめてくれたのよね?お陰で凍え切らずに済んだわ。でも不思議ね?人間が天使と同じように聖素を扱えるなんて」

 

「聖属性に関しては職業によって人間でも使えるけど、俺の場合は初出が許してくれてんだ」

 

「そうなのね。でもそんな貴方の聖素はとても暖かで柔らかだった。だから伝わったわ。貴方は天使に優しい人間なのね、ふふっ…」

 

「生まれながら天使達にたんもりと祝福されているからな。あと俺の先駆者(フィサリス)達が天使を助ける物好き達でね。ならば息子の俺もと考えての…まぁ、そんな感じだな。あ、天使は好きだよ?みんな綺麗で優しいし」

 

「邪気一つ感じられないわね。純粋な想い…」

 

「えっ、そうか?いやこれでも天使の大きな胸に煩悩垂れ流してるぞ?周りにそういう天使とか多いし。なんやったら天使に限らずトンベリだったり、スライムだったり、最近は大海の覇者だったり、もう、胸がいっぱい、や!」

 

「そ、そう………まあ、欲求に素直な男性ならそれはそれで正常かしら?」

 

「ちょいと性癖歪んだがな!がははは!」

 

 

エンリカはおっぱいがいっぱいなロリ天使も蔓延っている…と、言うより俺の周りになんか集まっているんだよな。

 

まあ前世ではよく近所のちびっ子達と遊んでいたし、それが今も続いてる感じなんだろう。

 

ただ人生二週目でロリ巨乳を味付けにこうなるとは全く思わなんだ。

 

まじでこの世界なんなんや??

 

 

 

「そういや名前聞いてないな。俺の名前はエリーカ・エコーズた。隠れ里エンリカで生まれしフィサリス演劇団の息子だ」

 

「私の名前はジェサイア。聖魔大戦で戦っていたちょっと名の売れたヴァルキリー。よろしくねエリーカ」

 

 

ヴァルキリー特有の冷たさを感じさせる印象とは正反対に、朗らかに自己紹介してくれたジェネシックヴァルキリーのジェサイア。

 

どこか跳ねっ返りを見え隠れさせている感じが社交性の高さを思わせて、そして未だに手を離すことはなかった。

 

会話できるくらいには回復したがそれでもまだ寒いらしい。

 

なのでしばらくニギニギしながら情報を交換しあった。

 

 

 

 

 

それからしばらくして。

 

 

 

 

「じゃあ頼んだぞ、ティル」

 

「本当はもっとエリーカと旅をしたかったのですが、それは全て終わった時にまた…」

 

「エリーカ、ありがとうね」

 

「しっかり療養しろよ、ジェサイア」

 

 

ティルはハーピーの羽を真上に掲げる。

 

するとティルを先陣にジェサイアの姿もおさかな海賊団の船から消えた。

 

ジェサイアを療養させるため、ティルには伝達役の大天使(アークエンジェル)らしくエンリカに連れて行ってもらったのだ。

 

次合流するときはあの大陸にたどり着いてからだろう。

 

 

 

「さて、二人になっちまったな?ルミエ」

 

「!……そ、そうだな」

 

 

 

少しだけ静かになった甲板の上。

 

それでも海賊船は進む、目的地まで。

 

 

「まぁルミエは最強だからな。戦力的には心配してないさ。俺たちは引き続き目指そう」

 

「ああ、そうだなエリーカ………任せてくれ」

 

 

??

どうしたんだろうか?

 

なんか歯切れの悪さを感じる。

 

何処か不安要素でもあるのか?

 

そりゃティルも大戦力だから抜けたことに関しては戦力の大幅ダウンだけど、でもルミエならティルの20倍以上の強さを持っているか道中は大丈夫だと思うが。

 

 

 

私は、少しずるいかもな…

 

「え?」

 

 

 

そう言ってルミエは奥に消えていく。

 

本当にどうしたんだ??

 

 

 

「エリーカ、ちょっと手伝ってほしい」

 

「ん?ああ、わかった。すぐ行く」

 

 

アシェルに呼ばれて甲板を後にする。

 

生活力の低い海賊団の手伝いだな。

 

つまり家事ってこと。

 

さて頑張り__

 

 

 

 

「まぁ待ちぃや、(あん)ちゃん」

 

「??…なんだミンクか、どうした?」

 

「なに、とてもええ事やで。すぐ終わるけん話ぃ聞いていきぃな」

 

「んー……まぁいい、わかった」

 

 

なんか行商人マーメイドに捕まった。

 

少しニマニマと笑っている。

 

なんだなんだ?

 

まぁいい、さて一体なんの話かな。

 

 

 

 

……え?アクセサリー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二年前の出来事だった。

 

天界はとある存在によって破壊された。

 

地に落ち、天使も落ち、何もかも堕ちた。

 

堕天した天使に助かる術はない。

 

天界から落下しても尚、なんとか地上で生き残った天使も馴れない土の味に身を裂き、苦しみながらも届きもしない声を女神に届かせようと絶望し、とうとう朽ちる時を知った。

 

精製物ではなく、生物らしく死ぬ。

 

それは感謝するべきことか、それとも苦痛に怯えるべきことか、判断のつかない恐怖にいた。

 

しかし、とある天使にはその終わりが訪れることは無かった。光の剱が天使を救ったから。

 

 

 

「…」

 

 

人間よりも何倍も生き、その体に内包する力は人間の何百倍もあり、その体を精製する聖素は他天使の何十倍も秘めてある。

 

それはホルミエル。

戦闘タイプの天使兵の最高クラス。

 

智天使(ケルビム)の名は伊達じゃない。

 

 

 

「……」

 

 

だが、ルミエとして名を授かった彼女の心は智天使相応の強さを見せず、海賊船の側面に用意された小舟に一人ポツンと座っていた。

 

戦闘以外、船でやることは特に無い。

 

必要とあらば魔法で手助けはするが、夜になったおさかな海賊団は静かで、また活発になるのは日が登ったころ。それまではルミエに出番はない。だから認識阻害魔法を使って誰にも見つからず一人小舟に座っていた。今は誰にも邪魔されたくないから。しばらく一人でいたい。

 

 

 

「………わたし、は」

 

 

 

__思ってしまったんだ。

 

 

エリーカという青年に可愛がれられ、どこでも愛されて、マスコットのように愛くるしい姿と表情を見せるのはワイティエル。

 

そしてティルという名前を授かった大天使は聖魔大戦時代に名を馳せたジェネシックヴァルキリーをエンリカまで連れて去った。

 

そうして二人きりになった。

 

エリーカとルミエの二人だけ。

 

 

だから___ホッとしてしまった。

 

 

ああ、良くない感情だ。

 

嫉妬心から始まった……醜さだ。

 

 

 

「ティル…わたし、は………いや…情けないな…」

 

 

 

遠くから見ていたんだ。

 

可愛がられている同士を。

 

隠れ里でも、陸でも、海でも、どんな場所でもその愛らしさを武器にしながらも、しかし本心を持って青年に甘えている。

 

しかしそれができる素直さがティルという天使の長所であることをルミエは知っているから納得する。納得してしまう。そして思う。

 

 

__私にはできない。

 

この身は元より智天使として階級を授かり、それ相応の力を秘めた最高クラスの戦闘天使兵。

 

その格式を損なえない責任感。

 

 

それから___プライド。

 

ああ___主な原因は、後者だ。

 

 

プライドが邪魔して、言えないから。

 

 

エリーカ・エコーズという青年は天使の隠れ里で生まれた故に天使がどのような存在かを学んでいる。

 

階級に分けられた強さも、役割も、原初の天使ミカエラという熾天使から学んでいた。

 

それはエリーカが天使のことを良く知りたいと言ったからである。

 

だからルミエにとって、第二階級という誇り高き地位にいた元智天使として、エリーカに対して情け無い姿を、またその名にそぐわない弱さやお粗末さを見せれない………いや、見せたくないんだ。

 

この旅路、その力を頼りにしたくホルミエルたる己を頼ってくれたエリーカを失望させたくない想いがルミエにあるからだ。

 

 

 

「わたしは智天使だ……だから……だから…」

 

 

エリーカ・エコーズのことは天使達にとって永久までに祝福されるべき人間とそう決められている。

 

何せ、この者は迷えし天使が住まう隠れ里エンリカで祝福されながら生まれ、成人になるのと同時に次は青年が地に落ちた迷えし天使を助けようと土を踏みしめ、天使のために尽力する愛しき人よ。ならばその善行溢れた慈しみに応えずして何が天使だろうか。

 

だからルミエはエンリカに住まう天使達とエリーカ・エコーズのために天使を忘れんとする。

 

たとえ堕天してしまった今でも、元智天使のレッテルであろうとも、けれど天界にいた己はそうであったという追憶は地上でも健在でなくてはならない

 

彼のための責任感。

彼のための使命感。

 

 

故の____もどかしさ。

 

 

 

「ティル…私も君のように素直になれる、そんな天使ならば…こうも囚われないだろうか…」

 

 

エンリカに向かってしまった同士の姿と素直さを思い出しながら呟く。

 

声は小舟の中で収められる。

認識阻害魔法はそれだけ万能。

 

だから誰もこの慰めを拾うことなど…

 

 

 

 

 

「あ、いたいた。ここに居たか、ルミエ」

 

 

「!!??」

 

 

 

 

しかしそれを突破するイレギュラーなんだ。

 

この者は、天使に対してそういう奴だ。

 

 

「エ、エリーカ??…どうしてここに?」

 

「いや、なんかほんのりと聖素を感じたから確認しに来てみた。まあこの船に残っている天使はルミエだけだから、そうかなーって感じさ」

 

 

エリーカは師匠の関係もあって魔法に関する知識はあまり無い方だが、しかし感覚派な戦士タイプとしてはかなり優れており、そのため聖素の香りだけを頼りにルミエの認識阻害魔法を超えて現れた。

 

そんな彼にルミエは驚いて目を見開き、そしてエリーカはそんなルミエの隣になんてことなく座って、小舟から夜空を見上げる。

 

 

「光の届く大陸から離れると本当に暗いな」

 

「そ、そうだな……月と星だけが頼りだ」

 

「まあエンリカも夜は暗いけどな。でも光の多い街々とは違って星の数が多く見られる。なら船旅も悪く無いな。唐突なモンストロのような歓迎は勘弁願いたいけど」

 

「あれは大きなもんむすだったな。下界の…いや、海にはあのような存在が蔓延っているのか。なかなかに逞しいな」

 

「マルタを見たらわかる。外海ってそういうところなんだろう。静かに過ごしてたい俺には息苦しいや」

 

「む?そうなのか?エリーカはもっと活発的な人生を望んでいると思っていたぞ」

 

「メリハリが大事なんだよ。陽気の下で伸び伸びとしていて、けれどたまには溜め込みすぎた酸素を活発に発散できるような、そんな余生が良い。そこでフィサリス演劇団は打って付けだよ。てか元よりあの旅団はセカンドライフを求めた元冒険者によって構成れた演劇団だ。全盛期の30%程度しか体が動かない者達の武術や芸当でも、村や街の外に出ない者たちにとって冒険者だった者達の業物は輝かしい過去の栄光の追憶体験。ならそれで充分すぎるさ」

 

 

フィサリス演劇団、元冒険者の集い。

 

中には猛者と言える者達が集っている。

 

現在はエリーカの父にして元竜騎士のハルトマンを筆頭に手練れが揃っている。

 

そのため街々でお披露目される演劇は武器を握りしめた者がない住人達、また死線を知らない者達にとってそれは過激に映り、しかし同時に本職だった者達の様々な武芸が目の前に、人々を刺激する。

 

時には道楽を通り越して、見ていた若者達に憧れを与えるほど、フィサリス演劇団は影響力が高かい。

 

例えば数日前のナタリアポートで行われたエリーカのトークショーも、観客400人を超えた中で、声を響かせる音響魔法も使わずにその肺活量と声量だけで20分間をノンストップで喋り続けていた。それは冒険者として培った能力の高さの表れであり、それに気づいた観客達も少なからずいる。フィサリス演劇団とはそれ相応に集われた元冒険者達の証明である。

 

そのようにして素敵なセカンドライフをあの場所で送りながら、街々を巡っている。

 

もちろん緊急事態を除いてハーピーの羽を使わずに若き頃に歩き馴れた大体を進みながら、通ったことのある場所を懐かしみながら、時折小さな村や行商人達に対してフィサリス演劇団は娯楽の一つとして演劇を行い、楽しませる。

 

だからエリーカはこのメリハリある演劇団を素敵に思っている。

 

春と夏を活発に。

 

秋と冬を静寂に。

 

季節を通してエンリカを行き来する旅団を。

 

エリーカは愛してやまない。

 

 

「いつか俺も、この旅と役割にピリオドを打てたのなら、本格的に演劇団に参加してさ、それで体に酸素を求めたくなったらエンリカに帰って陽気を受け止め、冬になったら温かいスープを飲みながら薪を割って夜は天使達と暖かに過ごして、そしてまた旅立ちたいな」

 

 

想像するだけで素敵だ。

 

なにせ前世はなんとも言い難い終わり方をしていた。生きてる間も疑いたくなる額を納税しながら目的も無く惰性気味に生きてきた。

 

この世界では金の代わりに、命を搾取されるような過酷極まった異世界転生物語。

 

正直生まれ次第ではクソゲーである。

エリーカにとってそういう印象だ。

 

でもこの世界は嫌いじゃない。

 

生まれた以上の諦めもあるが、同時に前世にはない不自由さと不便さの中で巡り会える愛おしさが胸をいっぱいにさせてくれる。

 

だからこれも悪くないと思って、今を全力に生きている。

 

そしてエンリカで生まれたエリーカの意味を考えて、今こうしてハインリヒの願いを受け止めながら外海という人間にはあまりにも厳しすぎる環境下に海路を置く。

 

自殺行為、ここにあり。

 

だが、不安はさほど無い。

 

何故なら…

 

 

「ルミエがいるから怖くないよ。だからピリオドまで辿り着けるって思っているんだ」

 

「エリーカ……… っ、と、当然だ!私は天界にいた頃は智天使として猛威を奮っていた第二階級の誇り高き戦闘天使だ。エリーカの目指すピリオドくらい余裕で辿り着けよう。必ずこの役割を果たさんとして」

 

 

ああ、そうとも。

 

自分はそれ程の天使だ。

だからこのためにいるんだ。

 

永久(とこしえ)に祝福されんとする青年のために私達はこの者の天使である。

 

 

ああ、そうだ、忘れるな。

 

そういうことだと。忘れるな。

 

だからルミエはそうエリーカの前で新たに心中でも約束する。

 

嫉妬心から湧き出てしまった女々しさを踏み越えて彼女は飲み込む。

 

 

無論、まだ僅かに甘えたくなってしまう。

 

 

中々無い二人きりのチャンスだ。

 

ティルという天使のように自分も距離が縮まるならとプライドも忘れてこの瞬間の卑しさに身を任せたくなる。

 

 

でもそれ以上にこの青年のために力を尽くしたくて胸がいっぱいだから。

 

だから、それを幸せとしたい。

 

なに、不満はない。

この者のために頼られたこの力を尽くす。

 

それは人間を導いてきた天使として本能であるのだから。

 

 

 

 

でも、青年はそれを許さなかった。

懐から何かを取り出した事によって。

 

「あ、それとルミエ__君にこれをあげるよ」

 

「!…こ、これ、は?」

 

「実は行商人のミン……じゃなてナタリアポートにいた行商人から購入しててな。それでルミエにプレゼントしようかなと思って…ね?」

 

「わ、わたし…!?そ、それは、急だな…」

 

「あー、いや…まぁ、その、さ」

 

 

エリーカはすこし歯切れ悪くしながら後頭をカリカリと掻いて苦笑いする。

 

でもそのために用意したアクセサリーを思い出して白状する。

 

 

「ルミエにはさ、あまりこう、なんというか…時間らしい時間というか、その…何かしてあげた事が多くなくてさ…」

 

「!」

 

 

エリーカは理解していた。

 

他の天使達に比べてルミエにはあまりこのような施しをしたことが無い。

 

無論、言うほどの施しを欲してない本人の性格とプライドを尊重した結果でもあるが、けれどエリーカはルミエの寂しさを理解していた。

 

近所の子供達に好かれ慣れている故の経験量が地上の先駆者としてルミエの気持ちを拾う。

 

 

 

「例えばトリンとは紅茶を買いに行ったり、リセスとは筋トレしたり、コルクやメイルとは料理やお菓子作りで楽しんだり、他天使兵達とも楽しく談笑したり、あとティルは撫で回したりと他の子とのコミニケーションは多い。でもその中でルミエには何かしたことがそう多くない。だからちょっと…寂しがらせたかなー?とか思ったり?」

 

「!!……ば、バカもの!わ、私はティルのように寂しがり屋ではない。そのような気遣いは不要……その、あまり気にするな…」

 

 

 

___嘘だ。

 

 

エリーカとはもっと仲良くなれたら。

そう思ったことは、少なからずある。

 

 

でも智天使のレッテルが己を惑わせる。

 

だから数歩後ろから見守る立ち位置にいることでエンリカで和やかに賑わう青年と天使達の平穏を幸福としていた。

 

それはそれで好きなんだ。

幸せな光景というのは。

 

 

「そうだな…ルミエは誇り高き天使だから寂しさなんてのは見せない。君はそうさ」

 

「ああ……そうだ。私は天界の智天使として誇り高き第二階級の天使だった。堕天してもその心は忘れてない」

 

「うん。だから頼りにしたんだ。今回はヘルゴンド大陸の時とは打って変わってとても大変になるから俺はルミエの力を欲しがった。一緒に来てくれて感謝しているよ。でもだからこそだ」

 

 

 

__これを受け取って欲しいな。

 

 

 

「!!!」

 

 

 

エリーカは布を広げてルミエの前に出す。

 

そこにはエメラルドが嵌め込まれた装飾。

 

一般市民が喜ぶようなアクセサリーだ。

 

 

「エリーカ…」

 

「受け取ってルミエ。俺は君にプレゼントしたくて買ったんだ。それとも…ダメかい?」

 

 

そう言って苦笑いするエリーカ。

 

そのプライドを知ってるからか、少し後ろ気味に気持ちを乗せて、誤魔化すように苦笑う。

 

 

 

__受け取らない選択は無い。

 

 

「私で……良いのか?」

 

「え?」

 

「私で…良いのか?もっと、ティルとか__」

 

「ルミエが良い。ルミエだからコレなんだよ」

 

「!」

 

 

劣等感は吐き出される前に、青年は肯定を許させない。君だって素敵であることを伝える。

 

 

「ルミエをカラーリングした黄色と白には翠緑色が合う。そしてこのエメラルドカラーはルミエに対しての信頼と感謝の証でもある。俺はルミエに渡したいんだ」

 

 

そう良いながらエリーカはルミエの僅かに震えていたような手を取り、エメラルドのアクセサリーを手に乗せる。

 

強引だけどこの判断で間違ってない。

 

ある意味()()の長い彼だからこその判断がここにあった。

 

そんなルミエは手に乗せられたアクセサリーに目を奪われて、同時に抑えきれない揺れる心にも戸惑い、けれど胸いっぱいに広がる心地よさに満たされていく。

 

それはエリーカという青年によってある日の失落から守られた暖かさを思い出したから。

 

 

ああ、そういえば__この手で強引に引き寄せられてしまったんだったか。

 

それを思い出したルミエは内心、呆れを交えながら笑ってしまい、そして二年経ってもその色合いに変わらないエリーカを目の前にして、穏やかに笑う。

 

 

「ふふ…相変わらず。君は天使をなんだと思っているんだい?」

 

「凄い存在。でも天使はそれだけ。今は地上を知り始めた生き物だ。ならば俺の方が詳しいよ」

 

「なるほど…ルシフィナ様を理解する。確かにエリーカは先駆者を理由に生意気な人間だ。そうだな。この場で初めて言うが、二年前のあの瞬間もこの者は人間の癖に随分と…なんて想っていたんだよ」

 

「まあ、そうだろうな。下等生物の人間が高貴な天使を守る構図なんてのはそりゃあ屈辱に近い感情を得るもんさ。俺が天使側ならそう思っている筈だよ。人間の癖に、ってな」

 

 

人間と天使。

 

明らかに違う生き物だ。

 

力関係で言えば、比べるすら烏滸がましい。

 

だから【勇者】という職業がある。

 

下剋上を果たさんとする勇気ある者者と。

 

しかし、土の味を知った天使は…

 

 

「でも、今思えば…とても嬉しかったんだ」

 

「え?」

 

「君に抱きしめられながら助けられたあの瞬間は『何故?』と繰り返したが、けれどエンリカで君と過ごしながら得てきた刻は色濃く染まる。小さなこの体はエリーカによって抱きしめられたお陰ですごく心強く安心で、それは君で良かったと思っている。私は嬉しかった…エリーカ」

 

「!」

 

 

思ったよりも、素直さは引き出された。

 

もちろん、その時のプライドも忘れてないと牽制しながら、でも代わりに誠意と感謝を示すことでエリーカに想いを伝える。

 

とても嬉しかった瞬間でもあるんだと。

 

 

 

「付けてみたが、似合って…いるか?」

 

「ああ。良いカラーリングだよ」

 

 

金色に靡く髪に嵌められたアクセサリー。

 

厳密に髪留めだ。

 

エメラルドが嵌め込まれた、少しだけお高く付いたアクセサリー。

 

でもとあるお節介な行商人が割り引いてお財布に優しくしてくれた。

 

なのでそのお節介に感謝しながら、頬をほんのりと赤く染めながら髪を撫でて感情を誤魔化す天使を目の前にしてエリーカは微笑む。

 

 

 

「…………私はズルい、天使さ」

 

 

一度吐き出た素直さは止まらない。

 

エリーカは「何が?」と聞き返えす。

 

 

「ティルがエンリカに戻ったことで、私はエリーカと二人きりに、なれたと…」

 

 

智天使としてのプライドと誇りが座っている姿勢を正していたが、しかし今はちょこんと座った素直になりきれなかった体の小さな天使として青年に独白する。それは見え隠れする甘え。

 

それをエリーカは理解し、耳をたむける。

 

 

「エリーカの目的のため、戦力は過剰でもあった方がいいのに…でもティルが………そ、そうさ、ティルが悪いんだ…!エリーカのことをエンリカの外にいてもあんな風に!っ…私だって…今回の旅で少しでも仲を深めたいと思って…でも、私は智天使で…相応の役割があって…抱えているプライドのためにも誇りと、想いがあって…で、でも…エリーカなら許してくれる…かな、って…」

 

 

吐き切って、止まらなくて、でも吐き出したことを後悔して、けれどエリーカはそれでも受け止めてくれる人だと知ってるから、不器用ながらも全てを乗せて言い切った。

 

だからエリーカはそれを嬉しく思う。

 

 

「そうか。ルミエはそう思っていたのか」

 

「う、ん…」

 

「ごめんね。ルミエを寂しくさせたいつもりは無かったんだ。君は強い子だって勝手に思っていたからさ」

 

「っ、エリーカは、わるくない…こんな風になる私が…情けないだけ…」

 

「違うよ。皆そうなる時もある。営みの中でそう仕組まれている。俺だって沢山あるから。人間よりも強い天使達に甘えてる。それをルミエだからなんて関係ない。それに強さで言ったらトリンだってとんだ甘えん坊だろ?トンベリとかいうとんでもなく強いもんむすなのに、頭を撫でられて嬉しがる」

 

「!……ふふ、そうだな。そういえばかの者は珍しいくらいの甘えたがりやだったな…」

 

「ああ。だから智天使だとか、大天使だとか、俺は気にしないよ。土の味を知った世界で誰も孤高に生きられる訳じゃないから。俺はそれを知ってるから。だからルミエの気持ちを聞いた時にホッとしたし、嬉しかったし、この者はなんて誇り高い天使なんだろうと思ったんだ」

 

「エリーカ…」

 

「だから必要なら甘えても良いさ。俺だって甘えているんだから。君たち天使という存在に」

 

「……そう、なんだな」

 

「ああ。例えそれが難しくても俺はルミエを軽蔑なんてしない。素直な君達を喜ぶし、同時にプライドを持って臨んでくれる君達に感謝をしているし、俺はどちらも欲張って喜ぶ。そのくらいに満たしがあるんだから」

 

「君は本当に欲張りだな」

 

隣人(となりびと)を自分自身のように愛せよ』って言葉があるくらいだ。実行するにはかなり難しいし、面映くて堪らない言葉だけど、でも俺は幼い頃から祝福してくれた君達天使を隣人のように感じている。だからルミエ」

 

 

エリーカはルミエのフードを脱がせて、その眼を見る。すると感情に揺れる智天使の眼は青年の姿を見て離さない。目を奪われる。

 

何せそれはまるで、悩める小さな子供のためにゆっくりと寄り添うお兄さんのようだから、子供のように悩めていたルミエの心に触れる。

 

そこに年齢や種族なんてのは関係ない。

 

ただ知っている者が、知らない者のために先駆者たらしめているだけ。

 

エリーカはそれができる人間。

 

そしてルミエはこれから知る天使。

 

 

「今日からしばらくは二人だけ。ならばこの(よすが)を愛さずにして刻と生きる人間であるものか」

 

 

そしてエリーカはルミエの頭に手を置く。

 

潮風を払うように優しく撫でる。

 

サラサラの白金色(しらがねいろ)の髪が指と指の間をすり抜け、むしろエリーカの手指を愛しく包むように歓迎している。

 

 

「おいで、ルミエ。今なら特等席だ」

 

「……っ〜〜!」

 

 

手放した杖はコツンと横たわる。

 

そうして近所の優しいお兄さんに駆け寄る子供のように飛び込んで、その中に埋める。

 

 

 

「ぁ……」

 

 

 

ああ、ダメだ。

 

これは、ダメだ。

 

ダメになってしまう。

 

語彙力が失われてしまう程の幸福。

 

これはオキシトシン…ハグだったか?

 

とんでもない幸福感に満たされる。

 

故になるほど、とルミエは理解する。

 

ティル達はこんなにも多幸福に巡られて仕方なかったのか。そりゃ甘えたくもなる。

 

だが同時に恐ろしくもなる。

 

この青年の内側___智天使だったからこそ一瞬だけど駆け巡った感覚に脳が訴える。

 

確かに、エリーカの内側に何かある。

言語化するなら【凄み】とやらだ。

 

これは、なんなのか?

わからない。何もわからない。

 

 

でも本能で分かる。

これは悪いことではない。

 

この【凄み】があるからこそ上位種族たる私達はエリーカに心を寄せれて、安心するんだ。

 

 

 

「ルミエは柔らかいなぁ…」

 

「んっ…エリーカ…………もっと…」

 

 

2回りほど小さな天使。

 

抱きしめるには幸せなサイズだ。

 

何より柔らかで、ふかふかである。

 

エリーカもこの良さを楽しみ、ルミエも久方ぶりに感じた幸福感に身を預けてしまえば、もうどうなっても良いほどに脳が痺れて仕方ない。

 

思わず二人揃って吐息が溢れる。

 

誰かに甘えれるとはこんなにも幸せなのか。

 

もし今も天界の天使として己がそうあったら絶対に味わえなかった幸せだ。堕天したからこそ堕落した快感は、これまで耐えに耐えて乾いていた心によく染み渡る。

 

 

 

「………ぁっ、これは……思ったほど…に…」

 

 

しばらくこの幸福感に身を任せていると不意にこぼしたエリーカの言葉が耳に入る。

 

 

なんだろうか?ルミエは顔を上げる。

 

 

よく見ると何かに耐えてるようだ。

 

 

「や、この聖素、凄い……ちょ……ぁふぅ…

 

「エリーカ?」

 

 

あんなにも受け止める側で、智天使だろうと先駆者たらしめていたような彼だったが、しかし今は恍惚気味だ。

 

なるほど___その表情を悟ったルミエは恍惚気味だった脳を少しだけ切り変える。

 

 

「そうか。強くなりすぎたことで内包する聖素が馴染みやすくなって、それで私の聖素がエリーカの精神を愛撫してたのか…」

 

「あー、やべぇ…でも、ふへへへへぇ…ルミエぇぇ、おまえほんとうにめちゃくちゃ柔らかいなぁ…ティルよりもふかふかぁ……んんッー…!」

 

 

この心地よさを離さないとばかりにエリーカはティルをギュッと抱きしめる。

 

それでも優しく頭を撫でたり、髪の毛を梳かすようにしたりとルミエを甘やかさんとする目的は違えてない。

 

しかしそれすらも上回ってくる多幸福感はエリーカの理性を半分奪っていた。完全に奪われてないのは聖属性と昇天状態に強いお陰だろう。

 

 

「まったく……もう、エリーカ」

 

「ぎゅぅぅぅぅぅ……じゅるる。ずぼぼぼォォ」

 

「こら!吸うな!てかなんだその効果音!?」

 

「あー、天使吸い…良き良き…ぐへへへ」

 

 

猫吸いならぬ天使吸い。

お陰でエリーカはキマっていた。

 

 

 

「はぁぁぁ、まったく…」

 

 

甘える時間はそう長く続かなかった。

 

でも、充分に授かったし、想いも告げれた。

 

それに今日だけではない。

 

しばらくは二人だけの旅。

 

なら今日のような時間は次もある。

 

それをアドバンテージに考えて。

 

 

 

「エリーカ」

 

「……ふぇ…?」

 

 

辛うじてある意識が反応する。

 

その間にルミエは認識阻害魔法を重ね掛けて強度を上げ、二人だけの空間を確保する。

 

 

これで___誰にも邪魔されない。

 

 

 

「ジェネシックヴァルキリーの聖素を循環させていたことでエリーカ自身も相当に聖素を溜めすぎてるな」

 

「ふぇ…?ぁ、るみ、え??」

 

 

 

そう言ってエリーカの胸元に魔法を込めた指を突きつけると無抵抗に後ろに倒れた。

 

指で突かれた事でわずかに痺れた。

命に別状は無い。でもちょっと動けない。

 

 

すると、しゅるしゅると擦れる衣類の音。

 

それは合図なんだとエリーカは悟る。

 

思わず、唾液を奥に飲み込んだ。

 

 

 

「さぁ、久しぶりに私が寵愛しよう。なに、エリーカは身を任せだけで良い……たくさん満たしてやるからな」

 

 

「ぁ、ぁ、ぁ…」

 

 

 

 

目を奪われて仕方ない光景。

 

興奮が止まず、欲望に聳り立つ。

 

その認識が最後、天使から寵愛を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おっぱいで、いっぱいでした(エリーカ談)

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 






おおきなおっぱいがいっぱいなのでおおきなおっぱいのルミエがいっぱいってことでむねいっぱいのおっぱいしたね。よくあるよくある。


【エリーカ】
天使のこと好き過ぎるし、天使の脳を焼いちゃうけど、天使のために近所の優しいお兄さんムーブで甘やかしちまうスパダリエリーカくぅんでしたが、それはともかくおっぱいには勝てなかった。あと光の勇者になっただけあって聖素を溜めやすくなったのでこれから寵愛(意味深)が増えそう。まあええやろコイツなら。


【ルミエ】
ツン属性がデレると良いよね!っていう古から伝わりしムーブでエリーカの庇護欲を刺激したし、持ち前の聖素でエリーカを狂わせたけど、素直になったお陰でエリーカとの距離も縮まりご満悦。ただしそれはエリーカと二人きりの時だけで、エンリカにいる時はいつも通りの振る舞いだろう。代わりに聖素を溜めた時のエリーカの()処理の回数は増えたらしい。あと貰ったアクセサリーは一生の宝物である。ティルが羨ましそうにほっぺぷくーしてた。


【ジェサイア】
聖魔大戦時代のヴァルキリー。氷付けから解放されたが2000年分の氷付けによってひどく凍えていたのでエリーカを布団の中に引き摺り込んで湯たんぽ代わりに体調を整えていた。肩を借りながらも歩けるまで回復するとティルと共にエンリカに向かい、そこで療養することになったがルシフィナとミカエラの姿を見て卒倒した。ですよねー。あと装備は失っているので全身レオタードのみの姿である。天使って丈夫。


【ミンク】
下手な天使よりもキューピッドしてたマーメイド界のMVP。でもコイツのせいで今回16500文字も書くことになったわ。少しは手加減しろ。でもゼニ投げの方は手加減しなくても良いゾ。


【イッカク娘】
オ ッ ホ ア イ



じゃぁな。
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