今日も胸がいっぱい、や!   作:つヴぁるnet

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天使ィ!!!!!

 

 

ミカエラさんとの訓練の成果もあったのか上位存在の戦いは目で追いつけるレベルだ。

 

しかしあの場所に人間程度を投げ込んだら一体どうなるのか?

 

そんなの想像に容易いくらいだ。

 

数時間前まで俺に抱きしめられながら共に眠っていたルミエも智天使を証明するが如く全身に聖素を纏わせて全力で戦っている。アレほどの強さは初めて見た。

 

それに、いつだったか言った。

 

___俺の120倍は強いのでは?

 

 

ああ、まさにそんな感じだ。

 

人間なんかが介入するべき激地ではない。

 

 

 

『エリーカ…』

 

「ハインリヒ……何も届かなかったのか?」

 

『…そうだね。声も、想いも届かなかった』

 

「…」

 

『憎悪に満たされたあの力は他者の声をすらも聞こえなくなる。目の前に現れた天使を殺戮対象としてその身は殺戮衝動に焦がすのみ。そうだね…まるであの時の僕だ』

 

 

懐かしむにはあまりにも辛い記憶。

 

けれど娘の姿を見て重ねる。

 

理解が追いついてしまう。

 

アレは、もう…そうなんだと。

 

 

 

『エリーカ、君には申し訳ないことをしてしまったね。このような極地まで命を賭けてくれたのにこんな結末へと招かせてしまって…』

 

「いや…どのみち時間の問題だったさ。天界の自然化が進めば結界は弱まり、黒塗りのアリスも解き放たれていた。なら少しでも戦力を増強して挑めたこの瞬間は間違いでもない。ただ…ハインリヒの声が娘に届かなかったこの結果が寂しいだけだ…」

 

『そうだね…はは……僕はなんとも、無力な勇者だ…』

 

「……なぁ、こうなってしまった以上は娘の命を穿つ事になるのか?」

 

『……』

 

 

 

ハインリヒから声は返ってこない。

 

それもそうだろう。実の娘だ。

 

今は黒塗りのアリスとして天使殺しの存在と化してしまった成れの果てだが、その命を奪うことでしか止める方法が考えられない。

 

いくら伝説の勇者でも、判断は出来ない。

 

 

 

「…ハインリヒ、俺は地に堕ちた天使達を殺させたくない。彼女達の先駆者としてならんことをエデンにも望まれたから。だから俺は武器を握りしめるよ」

 

 

天使と黒塗りのアリスの激闘により崩壊した建物の瓦礫がアチラ、コチラに飛び散る。

 

一部がこちらに飛んできたため、俺は腰にある木刀を引っ張り出して瓦礫の直撃を逸らす。

 

 

 

「と、言っても、人間如きが介入など…」

 

 

 

まぁ、分かっていたさ。

 

人間が参入できる領域ではない。

 

だから万が一のためにルミエが同行した。

 

ホルミエルという超戦力を頼ったんだ。

 

戦いになったら俺では何も出来ないから。

 

 

俺はあくまでハインリヒの声を黒塗りのアリスに届かせるための接続口であり、戦いなんてのは道中を耐える強さまで。

 

それでも周りはそれでも人間にしては立派だと褒め、人間の中ではもう既に上澄と讃えてくれる。

 

それは俺自身も思っている。

 

大海の覇者マンタ娘すら倒してしまう人間はもう陸地に収まらない器だろう。

 

だから人間界ならエリーカ・エコーズは強者の二文字に疑いない。

 

 

でも、目の前のはなんだ?

 

超生物が激しく戦っている。

 

下等生物に介入余地など与えない如く。

 

 

 

「エデン様!」

 

「分かっています。あの時と同じです!ルミエは私に合わせ続けなさい。この場で唯一残っている智天使は貴方だけですから!」

 

 

エデンの戦闘力に追いつく戦闘天使は智天使のルミエだけ。

 

それは天界が崩される直前、初めて黒塗りのアリスを迎え撃った時もエデンとルミエだった。

 

これはその瞬間の続きでもあるだろう。

 

 

 

「なにがあっても陣を崩すな!」

「撃て、撃てぇ!!放てぇ!!」

「光よ!悪き者に届きなさい!」

「私達はひたすら援護です!!」

「ギギィ!コイツでも食らえ!」

 

 

接近型のヴァルキリー

射撃型のキューピッド

魔法型のトリニティ

支援型のワイティエル

強襲型のギリエル

 

それぞれの下位天使と中級天使の組み合わせで上位天使をサポートし、隙あらば攻撃を加えることで黒塗りのアリスの動きを制限させる。

 

数を戦いとしていた。

 

 

しかし。

 

 

 

「天使ィィィ!!」

 

「「!?」」

 

 

真っ黒に塗られたワンピースを揺らしながら黒塗りのアリスは手元にドス黒いナニカを生成するとそれは真っ黒な刃となり、その細い腕で柄を握りしめ、その場でブン!と薙ぎ払い空気を割く。

 

そして__獲物が裂けた。

 

 

 

「な、なにっ!?」

「うあああ!!?」

「うぎィィ!??」

 

 

腕が、脚が、羽が、天使が切り裂かれる。

 

根元まで両断される勢いは無かった。

 

しかし致命傷に間違いない攻撃。

 

どうしてか届いたんだ、あの空の一撃が。

 

 

 

「な、何もないところを、斬っただと!?」

 

「っ…!ま、まさか!ルミエ…!」

 

 

「天使ィィィ!!」

 

 

天使に対して止めどない殺戮衝動を吐き出し続ける黒塗りのアリスは再び黒塗りの刃をルミエに向かって振り下ろそうとし…

 

 

「いけない!させません!」

 

 

エデンは重槍ブリューナクを投擲し、黒塗りの刃にぶつけて起動を逸らす。

 

すると黒塗りのアリスの腕は半端に振り下ろしたところで弾かれて、更にその小さな体は衝撃で吹き飛んだ。

 

 

しかし___ルミエの肩は斬られていた。

 

 

「ぐぅ、斬られたっ!?な、何故だっ!?何故斬られたのだ!?衝撃波一つ届く事も無かったはずだ…!」

 

 

ルミエは肩を抑えながら痛みに顔を顰める。

 

だが、それ以上に届きもしなかった攻撃がルミエに届いていたことに驚く。

 

 

「ルミエ!他の天使もよく聞きなさい!」

 

「「!?」」

 

 

重槍ブリューナクを聖素で繋いでいたエデンはソレをバッと手元に引き寄せながら仲間の天使達に叫ぶ。

 

 

「あの武器はダモクレス!富と繁栄を穿つ危険な剣!もし黒塗りのアリスに見られながら斬られてしまった場合、そこに距離や防御性能は関係なくただ天使だからという理由で斬られてしまいます!故に黒塗りのアリスの視界に捉えられた場合は命懸けで回避するか振り下ろされる前にその攻撃を阻止しなさい!!」

 

「う、うそ、そんな事が?」

「な、な、なんだよそれ!?」

 

 

ギリエルは叫ぶ。それもそうだ。

 

もしエデンの言葉通りなら天使の存在を目で捉えて斬ってるようなものだ。

 

黒塗りの刃、またはダモクレスは視界に捉えた天使に軸を合わせ目の前を振り下ろすだけ。

 

そこに距離も、防御性能も関係ない。

 

黒塗りのアリスが目に入った天使を殺すために生み出した天使殺しの武器。

 

まさに天使を殺すために集約させた殺戮衝動の具現化、これほどなのか…!

 

 

「天使ィィィ!コロス!!キルキル!!」

 

 

「うあああ!!」

「きゃぁあ!!」

「ぐ、腕が!!」

 

 

細い腕から乱雑に振るわれる攻撃。

 

視界の中に天使が収まっていればその場でダモクレスで薙ぎ払う。そうして天使は近づきも回避も出来ずに傷を負い、斬り飛ばされる。

 

 

「キューピッド!盾の裏に逃げて!」

「ご、ごめん!ヴァルキリー!」

 

 

ヴァルキリーの大楯の裏に隠れる天使。

 

視界から逃れる事で凌ごうとする。

 

それでもガン!ガン!と斬りつけられる音。

 

その裏に隠れる天使を殺さんと斬撃音が響いて仕方ない。

 

 

 

 

 

いや、待てよ…?

 

 

 

「黒塗りのアリスの殺戮衝動がもし天使を限定として、ただそれだけのために備えられた攻撃属性の扱いだったのなら?」

 

 

 

俺は考える。

 

考えて……考えて…

 

そして、武器を構えて飛び出した。

 

多くの天使を見てきた、この直感に任せて。

 

 

 

「細身の武器であの攻撃を受け止めるな!」

「軸を逸らせ!ヤツの斬撃線に入るな!」

「きゃあぁぁあ!?…ぐ、ぐぁぁ!」

「ぅぅ、痛いよぉぉ…痛いよぉ…」

「キューピッド!?そ、そんなっ!!」

 

 

黒塗りのアリスは視界に入れた天使に軸を合わせて黒塗り刃を振り下ろす。

 

ギリエルの声に反応してなんとか体を逸らしたキューピッドだったが、しかし一歩間に合わず羽と腕を切り裂かれてしまう。

 

馴れない痛覚と共に地面に倒れ込みガタガタと震わせるキューピッド。

 

その間に黒塗りのアリスはもう一度ダモクレスを振り下ろそうとして…

 

 

 

「このぉぉぉ!!!」

 

「天使ィ!?…天使ィィィ!!!」

 

 

ルミエが攻撃に割り込んだ。

 

杖と刃がギチギチと鍔迫り合う。

 

ダモクレスを振り下ろさせまいと抑える。

 

その隙にエデンが真横から割り込む。

 

重槍ブリューナクが黒塗りのアリスを狙う。

 

 

が。

 

 

 

「アハハッ!!」

 

「なっ!!?」

 

 

黒塗りのアリスは余っているもう一つ手で更にダモクレスを生成すると、重槍を構えて接近するエデンを視界に捉えながら振り下ろす。

 

 

だが、鍔迫り合うルミエが黙っていない。

 

 

「戦闘天使の格闘戦を甘く見るなよ!」

 

「!」

 

 

ルミエは鍔迫り合っていたダモクレスを真横にガキン!と弾き、エデンに振り下ろそうとしてもう一本のダモクレスにサマーソルトを行って斬撃の軌道を別方向に逸らさせた。

 

 

「スパイラルファイア!!」

 

「!!??」

 

 

斬撃の軌道を逸らされたことに気づいたエデンは一気に踏み込み、聖堂騎士が扱う最高熟練度の技をガラ空きの懐に打ち込んだ。

 

 

放たれた属性は【聖属性】では無い。

 

魔を焼き尽くさんとする【炎属性】だ。

 

これなら黒塗りのアリスに効くはずだ。

 

 

 

 

 

が、しかしだ。

 

 

 

 

「アハハァ??」

 

「なっっ!?そんな…!!?」

 

 

いくらスパイラルファイアが上位職程度の攻撃技とはいえ、槍を得意とする熾天使から放たれた渾身の一撃はクリティカルとして扱われる。

 

その攻撃に絶命せずともダメージの一つや二つは入ってもなんらおかしく無い。

 

しかし、黒塗りのアリスは喉元に突きつけた筈の重槍ブリューナクはピタリと止まってた。

 

まるでエデンの攻撃その物の干渉すら許されないように、ミリも喉元から動かない。

 

 

 

「アハハハ!!天使ィィィ!コロスコロスコロスゥゥゥ!!!ヴァァァアア!!!」

 

 

「ぐぁぁ!!」

「うぐっ!!」

 

 

黒塗りのアリスは咆哮を上げながらその場から衝撃波を放ち、ルミエとエデンを吹き飛ばす。

 

すると黒塗りのアリスは再度ダモクレス。精製すると、そのまま駄々を捏ねる子供のように二つのダモクレスを無茶苦茶に薙ぎ払い、その刃からは真っ黒な斬撃が遠距離攻撃として放たれる。

 

 

 

「全天使はいますぐ防御を!!」

 

 

無差別な攻撃の嵐はヴァルキリーが率先して盾を構えることで後方の天使を守る。

 

吹き飛ばされたエデンも片手で体勢を整えながら無差別な攻撃に対してブリューナクで幾度なく叩き潰し、ルミエも片膝をつきながら杖を正面に展開して魔法の壁を作って防ぐ。

 

 

「やはり魔王の子…!馬鹿げていますねッ!!」

 

 

天使達は地に落ちて堕天した。

 

神聖な力は失われて弱まっているから。

 

 

しかしそれは黒塗りのアリスも同じであり、天界を倒壊した時に混沌の神から授かったエネルギーを使い果たしまったから。そうしてエデンから封印を受け、この大地で休眠していた。

 

それから2年越しに目覚め、今の黒塗りのアリスに天界を倒壊させた時ほどの力はない。

 

しかしそれでも天使と黒塗りのアリス、力の差は2年前に天界で戦っていた時と然程変化はなく優位性は縮まらない。

 

それを証拠に先ほどエデンの渾身の攻撃が黒塗りのアリスに通用しなかったことで有効打が失われてしまったと気づいたから。

 

効かないんだ。

 

現状、何もかもが。

 

 

 

「聖素も聖属性もダメだった。だから他の属性ならと火属性を打ち込んだ。またブリューナクに込められた氷属性も何発か入れた。しかしそれら全てを黒塗りのアリスはダメージを否定していた………待て、否定??…いや、おかしい…そんなことは……だ、だが、しかし!まさか!!」

 

 

熾天使としてのエデンは思考が追いつく。

 

何かに気付いたようだ。

 

 

 

「たしかエリーカは言っていた…!血肉を与えたのは混沌の神だと…!なら神によって寵愛された黒塗りのアリスは【属性】から護られているという事になる…!?それはつまり!精霊を中心とする属性に打開性は無いという事…っ!?」

 

 

 

ミカエラさんから聞いたことがある。

 

この世には属性耐性がある。

 

軽減、半減、無効、吸収、主にこの4つ。

 

その中でも全ての属性を無効化する力とやらがこの世には存在する。

 

しかしそれは精霊を中心とする属性を凌駕する高能な力であり、そう簡単に会得はできない。

 

ならばそれらアビリティーはどこら授かり受けれるのか?

 

 

簡単だ。

 

 

神に等しい存在に寵愛される。

 

もしくは神に近いし存在になるか。

 

それによって【全属性耐性】が手に入る。

 

それがミカエラさんから聞いた話。

 

そしてこの戦いにて黒塗りのアリスはそのアビリティが備わっていることを知った。

 

 

エデンは言っていた。

 

聖素、もしくは聖属性の攻撃が効かない。

 

だから別属性を打ち込んだ。

 

火属性の槍技とブリューナクに込められた氷属性の2属性。

 

どちらも対照的で、被りの無い属性。

 

それなら効果はあると考えて。

 

 

しかし黒塗りのアリスには効かなかった。

 

属性を無効化するほどの耐性があったから。

 

混沌の神に授けられたギフトとはそれほどの力を黒塗りのアリスに与えていた。

 

 

 

「いけないっ!ルミエ!!」

 

「!」

 

 

黒塗りのアリスは二つのダモクレスを構えてルミエを視界に収めていた。その場で軸を合わせて振り落とせばルミエを斬り裂ける。それも二つの刃でだ。右にも、左にも、逃げ場がない。

 

 

「天使ィィ!!シネェェ!!」

 

「しまっ…!!ぐぁぁ!!がぁぁっ!!」

 

 

 

杖で防ごうとするが、ヴァルキリーのような大楯をルミエは持っていない。

 

そのため両肩を裂かれ、両脚も裂かれ、脇腹も裂かれ、血飛沫の代わりに濁った聖素がルミエの体から鮮烈に弾け飛ぶ。

 

 

「はぁ……はぁ………ぐ、ぅ、ぅ…」

 

 

痛みで握力が落ち、杖を落としてしまう。

 

そして深く切り裂かれた肩を抑えながら両膝を地面に着き、容赦ない攻撃に体を震わせる。

 

しかしそれで終わるような天使殺しの黒塗りのアリスではない。

 

ヤツは弱って膝をつく天使を見て笑う。

 

そして無慈悲にもう一度ダモクレスを振り下ろさんと真上に構えていた。

 

 

 

「今度コソ、天使ィ!死ネェェ!!!」

 

 

 

振り下ろされる黒塗りの刃、ダモクレス。

 

右から、左から、振り下ろされる。

 

あまりにも反則行為な攻撃。

 

見てるモノを斬り伏せてしまう力。

 

手の届かない天使のために作られた無慈悲。

 

 

「っ……」

 

 

 

回避行動が取れないルミエは一人備える。

 

どうしようもない反則行為の二撃に。

 

覚悟を決めて…

 

 

 

「すまない……エリーカ、っ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声が、俺の足を早めた。

 

 

 

 

 

 

「天使だけが対象だと言うのならっ!!」

 

 

 

俺はルミエの真上を飛び越えながら背中にあるジャスティスカスタム、それから腰の木刀を両手に握りしめ、黒塗りアリスの視界に割り込むようにルミエの正面に姿を晒しながら、その斬撃に合わせて両手剣を振り下ろした。

 

 

刹那、ガキーーィィィンッッッ!!!!

 

と、鉄を弾くような響き渡る。

 

ダモクレスの攻撃を___この手で弾いた。

 

 

 

「はぁ……はぁ……間に……あった…!!」

 

「エ、エリーカ…??」

 

 

 

「天使??イヤ、チガウ天使ィ???」

 

 

ああ。

 

予想通り、だ。

予感通り、だった。

 

あれは天使のために殺すための存在。

 

天使という存在を葬るためだけに投じられた黒塗りのアリスだ。

 

 

なら、それ以外はどうか??

 

今思い返せば天使よりも最後方にいた俺は黒塗りのアリスの視界の中に入って一緒に斬られていたような状態だった。薙ぎ払われた斬撃も俺の胴体線上を通過していた。背景丸ごと俺はそこに立っていたのにこうして無事だった。

 

 

だから、考えた。

 

天使じゃないから、俺は無事なのでは??

 

そう考えて、賭けに出た。

 

 

そして俺の勘は当たっていた。

 

 

結論を述べよう。

 

 

黒塗りのアリスの攻撃は人間には効かない!!

 

 

 

「ルミエ、黒塗りのアリスの視界に入らぬよう俺を盾にしろ!今ので分かった通りアイツの攻撃は人間の俺には受け付けない!」

 

「!?」

 

 

黒塗りのアリスは顔を伸ばして俺の後ろにいるルミエを視界に入れようとする。

 

その行動に対して俺は厚着していたコートのボタンを外して広げ、ルミエを視界に入れさせまいと隠す。

 

 

 

「ウシロ、ウシロ、天使ィィ!」

 

「お前が見るべきは父親のハインリヒだろ!」

 

「見エナイ、ミエナイ、天使ィ、ウシロ!」

 

「退けないな、反抗期娘がよぉ!」

 

 

黒塗りのアリスは俺の後ろで回復中のルミエを視界に捉えようと、必死に顔を伸ばしたり、首を傾げたと動かりと忙しなく、そんな俺はルミエの姿をコートで巧妙に隠し続ける。抱きしめて眠れるくらいに体が小さいルミエだからこそコート一枚程度で誤魔化しが効く。

 

 

「隙だらけですよ!」

 

 

その隙にエデンは攻撃する。

 

よく見るとブリューナクの先端は布で覆い隠されており、氷属性ではなく無属性攻撃で押し切ろうという意志を感じられる。

 

それが無防備な黒塗りのアリスの胴体に突き刺さ__らない。

 

 

 

「くっ、流石に威力が落ち過ぎるか!」

 

「天使ィ!ココにイル!コロス!コロス!!」

 

「ちぃ!」

 

「そこだっ!ニルヴァーナ!!」

 

 

回復を済ませていたルミエが俺の脇下から杖を伸ばすと先端から聖魔法攻撃を放ち、黒塗りのアリスの攻撃を妨害する。

 

その隙にエデンは一気にその場からコチラまで飛び退き、俺の後ろにスッと隠れながらコートから飛び出している天使の羽を折り畳んで黒塗りのアリスの視界から逃げる。

 

 

 

「後ろにお邪魔しますよ、エリーカ」

 

「ギリ定員オーバーだぜ、エデン」

 

「私が小さい。エデン様の分はある」

 

「ええ、ルミエが小さくて助かりました」

 

 

軽口を叩きながら三人で集い、ニルヴァーナによって発生した白煙が晴れるまで注視する。

 

攻撃を相殺できるが黒塗りのアリスにダメージはやはり無い。

 

やはり属性無効が決定打を与えてくれない。

 

 

 

混沌属性…」

 

「え?」

 

「通常属性を凌駕する、混沌属性…」

 

「それは、なんだ?」

 

 

不意にエデンは呟く。ミカエラさんからも聞いた事のない属性ワードだ。なんの話だ?

 

 

「過去の話ですが、混沌属性という概念が存在していました。それは通常属性を上回った別次元の特殊な属性。私達が知るありきたりな属性を容易く凌駕する力です」

 

「…なら、その混沌属性を使える天使は?」

 

「この場所にいません。そもそも混沌属性を操ると言うことは神に挑むのと同義。イリアス様がそれをお許しになる筈がございません」

 

「エリーカ、私は【永劫魔導士】としての力をある程度備えているがイリアス様は混沌属性の使用を許されなかった故に混沌の領域までこの身は備わっていない。時代が時代だからな…」

 

 

そういえば、エンリカの入り口にいた元書記長のトリニティは【封印職】とやらは現代では過剰な強さのため封印されたと言ってたな。

 

それは天界でも同じことなのか。

 

まああのあの女神のことだ、ハインリヒやルシフィナを始めとし、叛逆やら、離反されることを恐れた結果として混沌属性を操れる職業を封印したのが始まりなんだろう。

 

それほどに強力らしい。

 

でもこの場にいる中で最高クラスと思われる熾天使のエデンがその混沌属性を操ることを許されていないのなら、他の誰も使えないことになる。なので正直、詰んで………ん??

 

 

 

「あれは…?」

 

 

 

一瞬だけ空が光ったような、気がした。

 

そして同時にこの体に落とし込まれた光がとある天使に反応する。

 

ああ、なるほど……そういうことか。

 

 

 

「エデン、もしかしたら混沌属性を使える天使を俺は知っていると思う…」

 

「!?」

 

「エリーカ?それは、誰ですか…??」

 

 

 

 

知らないけど。

 

でも、もしかしたらと思う。

 

 

 

存じないけど。

 

でも、そうだろうと思える。

 

 

 

 

 

だって…

 

 

だって…

 

 

いや、だって…!

 

 

 

 

 

 

 

 

あの天使は__ルシフィナなんだぜ??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エターナル」

 

 

 

 

ドゴォォーーーーンッッ!!!!

 

 

 

 

 

真上から混沌に染まりし魔法が降り注いだ。

 

 

 

 

 

「いまの魔法…!」

 

「こ、この聖素っ!」

 

 

ルミエとエデンは驚く。

 

直感的に分かる混沌属性の魔法。

 

それから洗練されたけたたましい聖素。

 

そして真上からの容赦無い奇襲。

 

それだけの判断材料が、希望を誘う。

 

 

 

 

___ ふふふっ…!!!!

 

 

 

 

どこか恐怖心を煽るような声色。しかし本人にはそんなつもりはなく、むしろ不慣れな優しさと素敵に挑まんとするだけの天使である。俺はそんな不器用な彼女のことを良く知っている!

 

そしでその声の主は天使の翼を広げながら俺たちの前に降り立った。

 

 

「助けに来てあげたわ、生意気エリーカ」

 

「嬉しいぞ!生意気ルシフィナ!」

 

「ルシフィナ様!」

「ルシフィナ姉さん!?」

 

「あらエデン?久しぶりね。それにしても相変わらずエデンって感じのお顔ね」

 

「姉さん!姉さん!ルシフィナ姉さぁぁん!!」

 

 

頼もしきリーダーとしての顔は何処へか、エデンはルシフィナの姿を見て顔面崩壊を起こして泣き叫ぶ。まさにエデン3って感じに。

 

 

 

「それとエリーカに朗報よ。貴方の師匠も__」

 

 

 

ルシフィナが言い切る前にもう一人。

 

それはルシフィナよりも見知った顔だ。

 

 

 

「師匠の私も来ているわよ。エリーカ」

 

 

「お…おおおおお!!師匠ぉぉお!!!」

 

「エリーカも顔面崩壊しているな…」

 

 

仕方ねぇだろ。

東方は赤く燃えているんだし。

不敗だし。なので俺もエリーカ3だ。

 

 

 

「それよりルシフィナ、貴方速すぎよ」

 

「姉さんが鈍っているだけだわ」

 

「…それは、貴方もね」

 

「ふふっ、少し弱くなりすぎたかしら」

 

 

弱くなりすぎた?何を言うか。

 

二人の聖素は今でもよく洗練されている。

 

とんでもない力だ。

 

こ、これが原始の天使の本気っ!!

 

ああ、それよりも…っ!!

 

 

「見ろ!ルミエ!ミカエラさんが!ミカエラさんが羽を付けている!天使だ!天使の羽を付けているぞ!!」

 

「分かった。分かったから落ち着け__」

 

「すっげぇぇ!!かっこええ!!すっげぇ!!ミカエラさんめちゃくちゃかっこええ!!空を支配していた頃の天軍長だよ!!すげぇぇ!!」

 

「エ、エリーカ、少し落ち着きなさい……その、姿含めてちょっと恥ずかしいから…」

 

「何言っているんですかミカエラさん!羞恥心置き去りにした姿こそ天使でしょ!」

 

「や、やめて、エリーカ……こ、こんなふしだらな私を見ないで…」

 

「あら、姉さんは羞恥心を置き去りにしなかったみたいね」

 

 

居所が悪そうにするミカエラさん。

 

まあ世間一般からすればミカエラさんの格好ってかなり際どい判定になる。

 

なにせ肩出し、ヘソ出し、太もも全て晒して素足、肌の面積80%以上の姿だ。

 

しかしそれがもんむす蔓延る世界だと思えば裸程度は慣れるもんだ。

 

ルミエなんか見てみろ。

 

装衣がブカブカ過ぎて普通に胸とかめっちゃ見えているぞ。とても眼福。

 

…とまあ、半分は冗談として、ミカエラさんの場合は単純に身内からそういった姿を見られて恥ずかしいのだろう。人間の生活長いからな。

 

なので彼女はとても常識人です。

ミカエラさんまじ天軍長。

それと美しい……とても綺麗だ。

 

 

 

「エデン、よく頑張ったわね」

 

「ルシフィナ、姉さんっ!」

 

「久しぶりね、エデン。良く耐えたわ」

 

「ミカエラ姉、さんっ…!」

 

 

姉妹二人から褒められて「あぁ〜」と幸福そうにするエデン。ルシフィナ絡むと急にポンコツなるやん。面白い人だなぁ。いや天使か。

 

 

 

「天使ィィィ!コロス!!天使ィィィ!」

 

 

白煙が晴れるとそこには混沌属性の攻撃を受けて苛立ちを見せる黒塗りのアリス。

 

あの怒り具合はダメージが入っている証拠なんだろうが。

 

まぁいい、ともかくルシフィナが全属性無効化を突破してくれる!あとミカエラさんも!

 

だって原初の天使が駆けつけてくれから!

 

 

「台詞にレパートリーが無い侵略者ね…と、言いたいけれど、良く見たら随分と幼子ね」

 

「それでも天使に対する殺戮衝動は本物だ。理性も塗り潰されている。現状その命を穿つしか止める方法が無い…」

 

「そう…哀れね。ならここで消してあげるの情けかしら。嫌だわぁ、幼子を手に掛けるなんて」

 

「ルシフィナ、油断しないで。幼子とはいえアレは混沌の神によって血肉を得た存在よ。私達が今いる大地だって元は空に浮いていた筈の天界だったわ。その力は計り知れない」

 

「そう。なら加減せずに暴れるかしら」

 

「…言っとくけど、天界を壊さないでね」

 

「そこまでするほどの力は無いわ。私だって随分と弱ったもの。堕天するって中々不便ね」

 

 

そう言って、ルシフィナは目に止まらぬ速さで滑空すると黒塗りのアリスに拳を振りかざす。

 

対して黒塗りのアリスは両刀のダモクレスをルシフィナに叩きつけようとする。

 

しかし、寸のところでダモクレスは止まった。

 

 

いや違う、アレは…!

 

 

 

「 明 け の 明 星 」

 

 

 

「グガァァァ!!?」

 

 

攻撃という概念そのものを掴み取り、それを強引にねじ伏せたルシフィナ

 

そうして黒塗りのアリスは放つ筈だった攻撃ごと地面に叩きつけられてしまう。

 

更にルシフィナは攻撃を加えて…

 

 

 

 

「グラビティ」

 

「ガァァァァア!!!??」

 

 

『!?』

 

 

全属性体制を突破する重力属性。

 

アビリティ頼りの防御力は突破され、叩きつけられた勢いは重力魔法によって更に加速し、黒塗りのアリスは頭から大の字に地面を凹ませて悲鳴をあげる。

 

アレが人間とかならグチャっと潰れている。

間違いない。一撃で粉砕だ、あんなの。

 

 

 

「さあ、これで終わりよ」

 

「イヤァァァァァァ!!!」

 

「このまま潰れてしまいなさい」

 

「イヤァァァ!!イヤァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

幼子の泣き叫ぶ声が、響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

『…っ!』

 

 

 

 

 

 

 

孤独に怯えているように、泣き叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

『ぁ……ぁぁ…!!』

 

 

 

 

 

 

 

それが、心を抉って仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

『やめてくれ…』

 

 

 

 

 

 

 

だから___これは罪悪の痛みなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『やめてくれ!それ以上は!』

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

父の悲痛な声が、耳に届く。

 

子を助けたいと願う、親の悲鳴。

 

 

 

だから__

 

 

 

ルシフィナは魔法を一瞬だけ弱めてしまう。

 

弱めてしまった。

 

 

 

 

__それが、間違いだった。

 

 

 

 

「アハ」

 

 

 

 

「まずい!ルシフィナ!」

 

「え?」

 

 

 

 

ドンッッ!!!!

 

 

 

 

その刹那___衝撃波が天界を襲った。

 

真っ黒なオーラが柱となって天に伸びる。

 

 

 

 

「アハ!アハハハ!アハハハハ!!!!」

 

 

 

「「「「!!???」」」」

 

 

 

黒く塗られた天使殺しはルシフィナを衝撃波で押しのけると立ち上がり、笑い叫ぶ。

 

まるで己の覚醒に喜ぶが如く、大口を開けて牙を剥き出し、高らかに空へ吼える。

 

 

 

「ガァァァァアハハハハハッッ!!!」

 

 

 

天地をひっくり返すような衝撃が連続で襲い掛かり、黒塗りのアリスはその大地を軋ませるように笑いを続けていた。

 

 

 

「アハ、アハ、アハハハ…アハ……」

 

 

 

しかし、その叫びは段々と落ち着く。

 

まるで理性が戻るような変化の見せ方が逆に不気味さを漂わせる。

 

 

 

「アァァァーーーーーーァァハハハ…」

 

 

 

虚に開かれた眼光。

 

だらしなく口を開けたまま天を見上げる。

 

完全に落ち着きを取り戻し、両腕からはダモクレスがカラリと落ちる。

 

もしやエネルギー切れでも起こしたのか?

 

 

 

そう思った____次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「テンシ、コロス、ワタシ、ガ」

 

 

 

 

短い言葉が耳に届く。

 

 

 

そして…

 

 

 

 

周りの天使達は膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

素晴らしきお茶会のためにはそれ相応の品性が必要とされる。

 

しかしこれから用意するお茶会は品性だけではなく強さも必要とされる。

 

ただし、普通に強いだけでは素敵なお茶会の参加基準に満たない。

 

何せこれから始まるお茶会では語られる内容によって味濃く映し出される必要があるのだから。

 

故に主催者たる私もそれ相応の参加者(アリス)を用意する必要がある。

 

 

次元を超えて百、千、万、と巡った。

 

そうして沢山のアリス達にワンダーランドの招待状を送った。

 

参加者は多いほど楽しくなるから。

 

 

 

__あら、これは?

 

 

 

ああ、なんとも愛おしく、そしてなんとも美しい世界(ランド)だろうか。

 

悲恋ではなく、婉恋に終えたピリオド。

 

この世界のアリスはアリスであることを忘れることが出来た筈の世界。

 

けれど、果たされなかった世界。

 

何故なら女神自らの手によって裁いてしまった三流作家のエンドストーリーだから。

 

あぁ…

なんとも、ひどい舞踏会なんだ。

 

ガラスの靴で心臓を貫かれたお姫様は愛しい者に振り向くことも叶わず、三流作家が握りしめたカボチャの馬車でその死体を何度も念入りに轢き潰し、使い捨てのペンは引き潰された死体を墨汁で黒塗りに汚しながらもその胴体から赤子をくり抜き、そして愛の証を後の【白兎】のために伏線を残そうとした。

 

それは黒のアリスから始まった忌子。

 

母の顔も、父の顔も知らず、生まれ落ちることすら許されなかった故に己の姿も知らない。

 

三流作家の考える伏線回収のために利用されてしまった、三流作家のペンにて黒塗りにされた哀れなアリス。その赤子の手は捻られたまま招待状も握りしめれない。

 

でも貴方はアリス。

 

私がそうだったアリスの、アリス。

 

だから招待状をその手で掴めるようにしてあげましょう。

 

その手で飲む紅茶は絶品の筈。

 

そうして私は、自分のまつ毛を一本だけ摘み取って碑の中に投げ入れた。

 

500年も眠っていた白兎ちゃんが黒く塗られたアリスをワンダーランドに導かれることを願って、角砂糖で一つ味付けするの。ふふふ。

 

 

 

 

さあ、貴方は私のまつ毛。

 

その眼に宿す意味に思い出しなさい。

 

そうすれば素敵なパーティーに招かれる。

 

だって貴方は___わたし。

 

混沌の神から授かった【黒兎】だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして女神の腸を裂いた。

 

___いつしか、母がされたように。

 

 

 

 

そうして天使の羽を裂いた。

 

___いつしか、父がそうしたように。

 

 

 

 

そうして天界の地を裂いた。

 

___いつしか、私がそうした………と。

 

 

 

招待されたお茶会で語るために。

 

ならば己の存在を取り決めよう。

 

何故なら私は【アリス】にして始まった者。

 

この身体はアリスとして君臨するから。

 

 

だから…

だから…

 

 

 

「私は、黒塗りのアリスは……」

 

 

 

 

 

いまここに。

 

___名を得て【混沌の神】になろう。

 

 

 

 

「アハッ」

 

 

 

 

神を砕いた、新たな神として。

 

この世界に___君臨するッッ!!

 

 

 

 

「天使ヨ、悉くニ、朽ちヨ」

 

 

 

 

黒塗りのアリスは告げる。

 

いや、ちがう。

 

この世の新たなる【神】が宣言する。

 

 

 

 

「ひぃぃぃい!?」

「いやぁぁあ!?」

「あぁぁぁあ!?」

 

 

 

その言葉は天使を貫いた。

 

 

 

「がぁぁぁあ!!」

「ぎぃぃぃあ!!」

「あぁぁぁあ!!」

 

 

 

その宣言により天使達は苦しむ。

 

中には泣き叫ぶ者も現れ、混乱する。

 

両目を抑え、体を震わせ、羽が廃れる。

 

堕天が加速し、全身は黒塗りに染まった。

 

 

 

「嫌だ!体が!?黒く…!?」

「やだ!やだっ!!助けて!!」

「羽が!?羽が剥がれ堕ちてる!?」

 

 

 

何せ、その黒塗りは体から溢れる聖素から。

 

絶望に染まった天使は己の聖素で汚した。

 

神の名によって天使は意味下されたため。

 

天使らしからぬ黒染めに彼女達は陥る。

 

 

 

「ミカエラさん!?周りの天使達が!!」

 

「こ、これは……!まさかっ!!」

 

「エデン様!?」

 

「はぁ…はぁ…ぐぅぅぅ…!!」

 

 

 

混沌の神の言葉を受けた天使達は次々と体が黒く染まり始め、苦しみ地面に屈する。

 

この苦しみから逃れようと天使達は残されている羽を動かすが、しかし動かす毎に羽はドロリと千切れ落ち、骨と皮だけになっていく。

 

その姿に絶望する。次々と天使の象徴が失われようとしていることを知ったから。

 

そして…

 

 

 

 

「なに、あれ…?空に何か…ある」

 

 

 

見上げた空にナニカが誕生していた。

 

それは黒く塗られた、天使の輪っか。

 

この大地の上に浮かんだ黒のヘイロー。

 

そして目を凝らせばナニカが駆けていた。

 

 

 

 

「…黒い、うさぎ??」

 

 

 

黒塗りの輪っか、数多の黒兎達が野を跳ねるように輪を描いて駆けている。まるでお茶会へと誘う案内人のように。

 

 

 

「なんてこと、まさか!エンジェルハイロゥを形成した…!?」

 

「ミカエラさん…?」

 

「エリーカ、本来アレは昇天の者達を意味した天の迎え。数多の生命を向かい入れるために用意された天界のシステム。しかし黒塗りのアリスによって生み出されたシステムがその通りとは限らない。恐らくは天使に対しての…それにエンジェルハイロゥをシステムとして起動できるのは天の神として認められた存在のみに許される…」

 

「!?、ま、まさか、黒塗りのアリスは…!」

 

「……あのアリスは神になった。混沌の神の血肉を得たからこそ神として昇格できた。天使に対する殺戮衝動から理性が芽生え、黒塗りのアリスは己を神として認識した。周りの天使を見なさい。神よりも下位に在する天使達は黒塗りのアリスによって形成されたエンジェルハイロゥの存在に怯え、苦しんでいる」

 

「天使…っ、ミカエラさんは平気なんですか!?」

 

「私は天界から外れた存在よ。だから階級に囚われない。しかしエデンのように未だイリアスの傘下として働いている天使は序列社会に囚われてしまったシステムの生き物。だからエンジェルハイロゥが苦しめる」

 

「っ…!ど、どうしたら、ここにいる天使達はあの苦しみが解き放たれますか?」

 

「……あのシステムを作った管理者、黒塗りのアリスを倒すしかないわ」

 

「ッッ!!」

 

 

 

原初の天使の言う通り、この世界に【定義】が齎されてしまった。

 

与えられた血肉から己の体に秘められた神の片鱗を見出した故に、未熟さに任せていた殺戮衝動からは理性が生まれてしまい、幼子は時の成長を得て知性が齎された。

 

だから黒塗りのアリスは新たなる神の誕生を引き金に【ルール】を構成した。

 

 

神による絶対ルール。

 

 

それは…!!

それは…!!

 

 

 

 

 

「天使の堕落ヲ、我ハ望ム者とス」

 

 

 

 

 

 

 

 

天使を殺めるための失楽園(アリス・イン・ワンダーランド)

 

 

 

 

 

この世界の神、アリスの誕生を意味して。

 

 

 

 

 

 

 

『僕は、何を、しているん…だ』

 

 

 

 

 

 

 

つづく






ハインリヒくん、父性を塗り潰せずに戦犯。
でもまあ、これは仕方ないよ。
愛する妻との子供からの悲鳴だったらね。
見て見ぬふりなんて彼には出来なかった。
だからハインリヒを責める事は出来ない。


【伏線】
母の胎から引き摺り出したこのアリスを使ったら私はもっとすごい神になれるのでは!!?って考えたドブ川女神だったけど、別世界から嗅ぎつけた混沌の神アリスによって計画をパーにされてしまった。お陰でこの世界の天界は堕ちるわ、黒塗りのアリスはこの世界の新たな神になろうとするわでとんでもないことになってしまった。はーつっかえ。

【黒塗りのアリス】
ハインリヒと魔王8代目アリスの産まれることなく母の胎内で死んでしまった娘。しかし混沌の神アリスのまつ毛によって血肉を得ると、過去に備わっていたハインリヒの天使に対する殺戮衝動を原動力に自我は関係無く動き出し、天界を砕いて女神イリアスを葬った。時間を得て成長したことで己は混沌の神の片鱗であることを理解してしまい、新たな神の誕生としてルールを設け、この世から天使を無くすための失楽園を形成した。天使絶対殺すウーマン。

見た目は8代目魔王アリスと非常に酷似しており、髪の毛とかも真っ暗でワンピースも真っ黒。あと使用する武器は混沌の神のまつ毛を利用して精製した【ダモクレス】って名の刃であり、自身の視界の中に入れた天使をその刃で合わせて斬れば距離や防御性能は関係無く、その場で絶命という神の断罪を下す攻撃。対策としては黒塗りのアリスの視界に入らなければ良いので物陰とかに隠れていればとりあえず大丈夫。天使にしか効かない条件を理由にこの性能まで引き上げられてしまったんですね。クソゲー(天使視点)

【エンジェルハイロゥ】
噛み砕いて言えば意味を込められた輪っか。黒塗りのアリスの場合、天使という存在を否定するために形成された新たなシステム。
またの名は天使を殺めるための失楽園(アリス・イン・ワンダーランド)
ちなみにルカさんが使っている武器はハイロ『ウ』と大文字で、こっちはハイロ『ゥ』と小文字で表している。




結論 : イリアスが全部悪い。



じゃぁな!
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