今日も胸がいっぱい、や!   作:つヴぁるnet

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いっぱい!!

 

ヨハネス暦1428年

 

スノウヘブンの街づくりを宣言来てから1年と6ヶ月が経過した。

 

まだ街というより町レベルだが、それでも着々と開拓されていく光景は前世の発展ゲームを思い出して結構楽しい。

 

その町に住まう天使達も硬貨を導入してからはより人間の生活に浸透し、働いた分と頑張った分が形として還元されている。

 

そして堕落天使となったことで衣食住を必要とする生活の中で味わえるスイーツは天使達に特攻であり、甘味に溺れていない天使などこのスノウヘブンに存在しない。

 

だから皆頑張っている。

この生活も悪くないと。

 

 

まあ、故にだ…

 

 

半分の天使が女神イリアスの生存を諦めている状況で、もしくは女神なんてのは居ない方が苦楽を愛せて、生きるとは尊いと天使達は考えるようになっている。良くも悪くも感性が人間になってきた。スペックは天使相応だけど。

 

 

でも、その女神離れは……まぁ、俺が原因だ。

 

 

いまから役3年前に引き起こされた黒塗りのアリスによる天界崩し。

 

その原因は女神イリアスから始まったと俺が伝えたから。

 

イリアスを敬愛するエデンも天界崩しに関しては説明をするべきと考え、黒塗りのアリスの正体を伝え、そしてその始まりは500年前の出来事からだと偽りなく天使達に伝えた。

 

無論、様々な反応だった。

 

 

 

__それは本当なのか?

 

__バカを言うな、そんなのは嘘だ。

 

__全能たるイリアス様がそんな事は…

 

__いやでも、寧ろあのイリアス様なら…

 

__そこまで愚かならば全能の女神とは?

 

__やめろ、信じたくない。

 

__あり得ないとは言い切れないか…

 

__しかし智天使ルミエ様も見ていた。

 

__ならばこの話は本当なのか?

 

 

 

この話を信じる天使と、信じない天使で半々に別れた。

 

しかし天使の中には、女神イリアスは天使の私達を信じていないどころか、むしろ使い捨ての駒としてしか天使を見てないなど、嫌な意味でこの話は信頼できると語る天使もいた。

 

 

何せ現状、この始末だ。

 

天使達は大地に堕ち、苦しんだ。

 

女神イリアスが生み出した負債によって天使達は何も知らず、ただ堕ちてしまった。

 

今こうしてなんとか生きるための明日を確保できたのは、エデンという旗印、またエリーカという先駆者がいたから天使達は滅びゆく事はなく済んでいるから。

 

この苦労は運良く守られたに過ぎない。

 

 

ああ、ならば___エリーカ・エコーズが存在しなければ私達はどうなっていたか?

 

そしてその痛みと苦しみは何故あるのか?

どうしてこれほどに苦労を強いられたのか?

 

 

これは全てイリアス様の不始末が招いた結果。

 

だから理不尽を被っているんだ。

 

 

命令されるだけのマシーンから、隣人と共に明日を守る者に変わった天使達はそう解答を得るようになり、そうして女神イリアスに対する敬虔さは日毎に薄れてゆき、天使の中にあった筈の女神に向けられていた信仰は、不信や疑心という形で塗り替えられ、そして存在が忘れていく。

 

 

女神は居なくとも私達は生きていける。

 

堕天しようとも、それ故に感じることができた苦楽の果てにある生きる尊さと、苦労の先に報われる生存競争のカタルシスは地に足を付けたからこその生命。

 

寒さの中でも育つ野菜は私たちの明日を繋げてくれる恵みであり、寒さに耐えながら味わえる報酬は天界では絶対に感じられなかった。

 

ならば私達は天界の天使であることに縛られようとせず、今ある私達で付き合う。

 

 

このようにして一年半で天使達は変わった。

 

女神に対する不信感を拭えぬまま、しかも元凶たる女神は声一つも聞けず、そして現れず。

 

もし私達のように堕天してしまったのなら苦楽の超え方を知らない女神はもう生きていないだろうと天使の中で段々と定まっていき、その存在は心の中から抜けた。

 

これが日々広まりゆく天使の考え。

 

それは見ていて分かる。

 

 

しかしエデンはまだイリアスが生きてると信じているようで、スノウヘブンの街作りがある程度進むと裸のまま寒さに鞭打って東の祠に向かうとそこで何日も潜り、女神イリアスに祈りを捧げている。

 

無論、必要な時は街長としてスノウヘブンに戻っているが、余裕が生まれてきた現在は女神イリアスに祈りを捧げている日々が続く。

 

 

俺は別に女神イリアスの存在を否定しない。

 

イリアスが女神であることも否定しない。

 

 

ただ、真実は伝えた。

 

天界崩しは女神イリアスの500年前に起こした過去の所業にて、それからは非常に運の悪いマッチポンプによって始まってしまった結末なんだと。

 

 

だが、その代わり…

 

 

 

__ならばエリーカは光の勇者だ!

 

__人間だろうと導き手となれる者よ!

 

__天使のためにありがとうエリーカ!

 

__貴方の存在に深く感謝します。

 

__讃えよ!この者を!さぁ讃えたまえ!

 

 

 

天界にいた頃は天使達の長たる女神イリアスの存在が一番だったが、しかし地上に堕ちたことで女神の絶対君主制が廃れた以上は生死不明な女神に頼る明日は持てず、それよりも現地で何もかもを解決してしまったエリーカ・エコーズの方が不出来をかました女神なんかよりも導き示せていると讃えている。

 

あの寡黙なヴァルキリーですら俺が来訪した日には兜を外してお辞儀したりとしばらく勝手にエリーカの神格化が進んでいた。

 

あまりにも行き過ぎた信仰心なので…

 

 

__俺はそんなつもりはないし、皆で乗り越えるためのスノウヘブンだ。そう言うのは無しの方向で行こう。ただ皆で明日を食いつないで生きよう。それが俺の望みだから。

 

 

 

と、告げた。

 

しかしそれが原因なのか更にエリーカの神格化が進んでしまった。

 

 

天使ってたまにこういうところあるよね。

 

エンリカで救護した天使達もしばらくミカエラ様に続いてエリーカ様ぁ!と感謝と敬意に溢れてたよな。でもココではそれ以上だ。

 

 

 

「あ!エリーカ!やっほー!」

 

「おっすキューピッド。他の天使も君くらいラフだと助かるな」

 

「えへへへ、堅苦しいの苦手ぇ〜」

 

「俺もだよ。で?お仕事はサボりかい?程々にしとけよ」

 

「あはは〜、もう少ししたら戻るからへーき」

 

 

と、羽をぴょこぴょこさせて俺の周りをくるくると小躍りするキューピッド。

本当にサボってるならもう少し目立たないようにするべきだろうに。そう考えていると甘味処に踊りながら入っていった。自由な天使だ。

 

 

「おお!エリーカじゃねーか!」

 

「よぉギリエル、相変わらず寒そうだな」

 

 

実はエデンに続いて全裸族の天使がいる。

 

それがギリエルだ。

 

ホルミエルのルミエには何段も劣るが、それでも地上に住まうもんむすよりも強力な戦闘天使としてスノウヘブンの周辺を警備している。

 

あと笑顔がギザギザしてて素敵。

 

 

 

「あらエリーカ様、ご機嫌よう」

 

「やぁトリニティの皆々様、ご機嫌よう」

 

 

エンリカでは見慣れた天使、トリニティ。

 

最近スノウヘブンに建てられた甘味処や休憩所を経営し、管理する役割を受けている。

 

戦闘力が無い分、街内を支えている。

 

あと笑顔がニコニコしてて素敵。

 

 

 

「エリーカ、その…いらっしゃい」

 

「おうヴァルキリー、しばらく邪魔するよ」

 

 

エンリカには少ないが、ここスノウヘブンには多くいる。

 

それがヴァルキリー。

 

仕事次第では武具を外していることがあり、コチラのヴァルキリーはスノウヘブンを巡回中なので武具を装備している。

 

因みに外はヴァルキリーより戦闘力が高いギリエルが担当している。

 

あと武具を外してる時は大体、畑弄りをしてる場合が多い。しかしその場合は全身レオタードだ。怪我しないか心配してしまう。

 

あと中々見せない笑顔はとても素敵。

 

 

 

「エリーカ、今日は来てくれたんですね」

 

「おっす天使兵、ただの定期報告ってやつさ」

 

 

こちらはエンリカにもよく見られる天使タイプで全体的に数が多い。

 

主に雑務を担当しており、畑弄りもすればスノウヘブンならではの工芸品を工作したり、必要な隙間仕事を行っている。

 

あと個体数多いため色んな笑顔が素敵。

 

 

 

「あ、エリーカ様、その、こんにちは、です」

 

「ちわっすワイティエル、いつも愛らしいな」

 

 

当然ながらエンリカ問わずスノウヘブンでもマスコット力を発揮するのはワイティエル。

 

しかし現在残っている個体数は少なく、伝達係(アークエンジェル)としての役割は薄れた今、ワイティエルにはマスコットとしての役割しかもう残ってない!…ってことは別になくて、普通にトリニティや天使兵と共に雑務をこなしている天使。

 

見ているだけで癒されるし、地上の生活に疲れた天使達に揉みくちゃにされたりと、堕ちても脱マスコットは果たされずに苦労している。

 

もちろんスイーツを頬張る笑顔はとても素敵。

 

 

 

「あらエリーカ、よく来てくれました」

 

「こんにちはマリエル、風邪引いてないな?」

 

 

エデンやギリエルほどじゃないにしろかなり薄着のマリエル。

 

こちらも天界時代と変わらずトリニティ達と共に雑務をこなしている。

 

ただ地上に堕ちて以来、人間に罰を与える仕事もなくなり、現役の頃よりも少しだけ物足りなさを感じているらしく、そのため前に人間の俺に「特に意味も無いのですがエリーカ様に罰を与えて良いですか?」とメイルよろしくサディスティックな笑みを浮かべて迫ってきたのはとても記憶に新しい。

 

そういった意味ではその笑顔は素敵…と思うかな?まあ普通の笑顔は素敵だよ。うん。

 

 

と、そんな感じに天使は様々。

 

中には異形な形の天使もいる。

 

天使の象徴たるヘイローと羽が無ければ天使だと判断できないレベルの者も含め。

 

まぁその気になれば彼女達も人の形にもなれるようで、スノウヘブンにいる時は街に合わせて人の形で過ごしている。異形のまま体が大きいと建物の扉とか潜れないからね。

 

 

 

さて、そうやってスノウヘブンを歩けば至る所から天使達が顔を出しは挨拶してくれる。

 

羽をパタパタと喜びの感情を見せながら歓迎してくれる姿。天使まじ天使。

 

そうしてエデンの家まで辿り着き、中に入ると一人の天使だけ、他はいない。

 

 

「こんにちはラナエル。あとエデンは?」

 

「エデン様は今日の朝から祠にいます」

 

「あ、そうなんだ。余裕が出来たんだな」

 

「ええ、お陰様で。これも全てエリーカのお力添えがあったからこそです」

 

「俺はあくまで先駆者達の真似をしただけで、ここまでの発展は団結力のある君達の成果だろ?なら君達だけでも果たせたさ」

 

「それでもこんなにも早く希望の朝を迎えれるようになったのはエリーカのお陰です。ここに住まう皆がそう頷いています」

 

 

ラナエルから紅茶を貰い、温まる。

 

棚を見ると紅茶の種類も増えてきた。

 

行商人天使が順調に仕入れてる証だろう。

 

一日の隙間時間を潤わせてくれる嗜好品が増えるのはとても良いことだ。

 

 

「そういやさ、この大陸を覆う外壁ってノータッチなのか?」

 

「いえ、そんなことはありませんよ。定期的に調査隊を出してます。ですがこの3年間で随分と自然化が進んでしまい、一部は見る影もなく変質したフロアもありました。このままなら後数年で変わり果てるでしょうね」

 

「なるほど。となれば、その内この大陸が天界だとも知らずに誰かしら住み着きそうだな」

 

「既に妖魔など寒さに強い生き物はこの大陸に踏み入れては、聖素を吸っていますね。まぁ吸いすぎて白目剥いて絶命してしまった妖魔とかいましたが」

 

「浮遊感を与えちまったかぁ」

 

 

聖素ってなんかこう、ふわってするもんね。

 

でもこのふわふわ感に攻撃性を込めれば敵の命に刃として届くとかいう。かっこいい。

 

 

「しかし不思議ですね。人の身でありながらエリーカ様は聖素を操ることができる」

 

「生まれながらして天使達にめっちゃ祝福されたからな。あと赤ん坊の頃はミカエラさんの腕にも抱き抱えられたっけか?昔からご利益に溢れてんだわこの体」

 

「それだけでは説明付かないような…」

 

「いや、案外これだけなんだぜ?天使と共に生活する。特にミカエラさんのような聖素濃度の高い天使と何年も修行したり、もちろんそれ以外にも日常的に天使との接点が増えれば聖素が体に纏うようになる。そうなれば後は幾らでも外から増やせる状態になるし、内包している聖素を増幅させれるしで色々と可能。言わばコレは借り物…いや、天使からの贈り物だな」

 

「あら、ふふふっ。天使からの贈り物なんてとても素敵な響きですね。天使なんてのは思ったほど大した存在でも無いのに」

 

「俺たち人間からすれば天使は充分に崇高なんだけどなぁ」

 

「それは戦う力だけです。生存競争の世界に落とし込まれた天使はどの生き物よりも惰弱だと地に堕ちて知った。皆がそう痛感しています。だから今なら分かります。貴方たち人間はとても逞しい生き物であることを」

 

「ならそうであり続けたいな。人間唯一の強みだから。まあ人間だからと言い訳し続けるつもりはないけど」

 

 

まあそれでも限界あるよね。

 

どう足掻いても【人間】の天井が見える。

 

思考が追いついても肉体が応えれない。

肉体が超越しても思考が追いつかない。

 

だがそれらを乗り越えた先で【魔人】とやらになれるらしいが、俺には不要な種族枠だ。

 

今の俺は先駆者気取りな天使の導き手。

勇者の真似事をもうするつもりはない。

 

黒塗りのアリスの騒動だってティルやルミエがいて、途中からエデン達が協力して、ミカエラさんとルシフィナが駆けつけてくれたからどうにかなった。天使という上位種族が居たからこそ果たし得たハインリヒの願い。あと女神イリアスの不始末の後始末。

 

 

ああもう、充分に頑張っただろ。

 

後は天使達の安息を見守り、スノウヘブンが街として機能すればもう俺は不要。

 

そしたらフィサリス演劇団に本加入して、いずれは父の後を継ぎ、残りの平穏を謳歌する。

 

あとは先駆者達の繰り返し。

 

冬越しの季節になれば隠れ里エンリカに戻って薪を割りながら寒さの中でスープを啜って温まる、そんな色褪せない日々。

 

想像するだけで楽しみだ。

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「ただいま戻りまし…あら?エリーカ。来てたのですね」

 

 

と、外から戻ってきたのはエデン。

 

相変わらず全裸だ。

 

 

 

「おうエデン。このまま100日は篭っているんじゃないかと思ってたぞ」

 

「スノウヘブンはまだまだ発展途上、イリアス様の無事を祈るのも大事ですが後ろにいる天使達のために道を印すことがまず先決。それよりも今日はどうしたのですか?」

 

「ただ様子を見に来ただけだよ」

 

「そうですか。私もスノウヘブンを離れられるくらいには安定してきました。あと10年以上は掛かってもおかしくないと思っていましたが案外早く余裕ができましたね」

 

「勤勉な天使達のお陰だな」

 

「ええ、本当にその通りです」

 

 

まだまだ問題はあるが、スノウヘブンにも硬貨という仕組みを形成してからはこの街もより人間社会らしくなり、頑張ればそれ相応に報酬が貰えるというシステムに概ね満足している。

 

なによりスイーツだ。あと紅茶。

天使達はこれが毎日の楽しみである。

 

 

「そうですエリーカ、丁度よかったです」

 

「?」

 

 

エデンは何か思い出したのか別の部屋の奥まで姿を消し、しばらくして戻ってきた。

 

 

「こちらを貴方にプレゼントしようと思いまして」

 

「これは…勾玉?」

 

「はい。それも金の勾玉です。前に調査隊と共に探索したイリアス神殿跡に綺麗な状態で置いてあったアクセサリーです。貴方に渡そうと思いまして部屋に保管していました」

 

「良いのか?こんな良いものを貰って。確かコレって負担を減らす系のアクセサリーだ。しかもコレが金ってなると相当な効果を発揮するが…」

 

「ここまで助けてくれた感謝の印です。貰って頂けると私も嬉しいです」

 

「わかった、ありがとう」

 

 

なんか良いものを貰えた。

 

てか、結構良いアクセサリーだな。

 

コレがあったら『天軍の剱』を1回使って壊れてしまう木刀も2回分使えるようになるのでは?

 

木刀は最大4本持ち歩くから、コレが2倍扱えることになると単純計算で8回分になるのか。

 

中々ありがてぇな。

 

と、いっても、黒塗りのアリスの騒動を最後に天使の捜索も終わっているため、もうこれ以上の冒険をするつもりは無いから早々にこのアクセサリーに頼ることは無いと思う___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

『まだ()らない概念(ちしき)よ。貴方からナニを()る??』

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

「!?」

「!?」

 

 

 

俺はテーブルに立てかけてあったジャスティスカスタムを握りしめながら立ち上がり、エデンもその声に反応したのか部屋の奥に手を伸ばすとブリューナクを引き寄せ、ラナエルも杖を召喚して臨戦体制に入る。

 

 

 

「エデン、ラナエル、いまの聞こえたか?」

 

「聞こえ…??いえ、なにも聞こえませんでしたが…しかし、この部屋に何かが干渉したことは把握してます。ラナエル」

 

「はい、既に探索を掛けてます。ですが…」

 

「そうですね。この大陸からは何一つ感じられません。そうなると外から…?」

 

 

熾天使と大天使ほどの者が探知を試みるがその声の正体を捉えれなかった。しかし干渉されたことは感知したようで、それは同族の天使からのアクセスではないと判断したようだ。

 

 

「あーあ、せっかく紅茶を楽しんでいたのになんやねん??もう面倒事は要らんのだが??」

 

「同感です。もうこれ以上、天使達を脅かすような出来事は勘弁願いたいのですが…」

 

「エデン様、今の残留念話を辿ってみたところ、どうやら西からのようです」

 

「そうなるとやはりこの大陸の外ですか…しかしエリーカ以外聞こえなかった、と?」

 

「西……もしかして、ヘルゴンド大陸か?」

 

 

 

そうなると……え?

 

 

 

ハインリヒ??

 

 

 

……いや、いやいやいやいや。

 

それは無い。

 

絶対に無い。

 

だって彼は妻と子と共に天へ召された。

 

エコーズを元に魂を送り届けた。

 

だからこの世にはもうハインリヒはいない。

 

あの碑にだって何も残っていない。

 

騒動を終えてから一度見に行って状態を確認したから。二つあった碑どちらも力を失い、ただの碑だけが残っていた。魂も何も封じられていないことをこの目で確認している。ハインリヒは確かにこの世から去った。

 

しかしラナエルの言葉が正しいのならこの大陸から西というのはヘルゴンド大陸しか残っていない。こりゃまた不安だなぁ…

 

 

 

「西、か……レミナまで、行ってみるか」

 

 

 

既に口の中の紅茶は乾いた。

 

握りしめているジャスティスカスタムを背中に戻してエデンに振り向く。

 

 

 

「エデン、俺は声を頼りに西へ向かう。なので今日は失礼するよ」

 

「エリーカ、私に何か出来ることはありませんか?力が必要であれば助けますよ」

 

「気持ちありがたい。でもヘルゴンド大陸は魔王が住まわる場所だ。そこにいきなり熾天使が舞い込むと混乱を招くことになる…と思う。前もそれを気にして向かった。なので今回もそこら辺を気にして向かうことにする。二人はスノウヘブンを頼んだ」

 

「それは…仕方ないですね。わかりました。どうか気をつけてください。貴方は何かと惹き寄せてしまう者ですから」

 

「みたいだな。気をつける。あとラナエルも紅茶ご馳走様」

 

「またいらしてください、エリーカ様」

 

 

 

俺はハーピーの羽を掲げてレミナに向かう。

 

スノウヘブンを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__お二人とも、どうかお幸せに。

 

 

 

私が天使であることを知りながらも、とある青年はそう言ってレミナを去った。

 

それはもう2年前の話だ。

 

 

 

天界が崩され、天使達は地に堕ち、そうして上から見下ろしていた羽付の天使は土の味を味わった。私もその一人だった。

 

堕天する体は不自由を得ると、より痛覚を知るようになり、空腹も感じ、不安が心を蝕む感覚に段々と死すら感じるようになってきた。

 

しかも私は魔の大陸に堕ちてしまった不幸な天使だ。戦闘力の低いトリニティ程度の私が魔の大陸のもんむすと渡り合うにはあまりにも酷。

 

苦痛を引きずりながら3日が過ぎ、とうとう死が近づくことを悟った時に、とある一人の人間によってボロボロな私は拾われた。

 

それからレミナという街に運ばれて、そこでその人間と住むようになった。

 

沢山のもんむすと共存する街。

 

私はあまり気にしない天使だったが、他の天使が見たら顔を顰めるような光景だろう。

 

何せもんむすとは、人間とは、地上の汚れた生き物だから。天界でそう教わった。

 

しかし天界でそう扱われていた人間によって私は救われ、そして自分が天界から堕ちてしまった天使である話を信じてくれた。

 

その人もレミナの街に住まうまではこの世界中を旅し、あらゆるものを見てきたから、そういうこともあると信じ、むしろ堕天した私なんかをとても美しい天使が地上に降りてきたと言って口説いてくる始末。

 

そんな人間__彼と私は住むようになった。

 

彼はヤマタイという村から受け継いだ居酒屋という店を切り盛りしながら日々を過ごし、私も店の手伝いとして働き、彼と共にこの居酒屋を切り盛りする。

 

最初は来客が多くなる忙しい夜の営業時間に目を回していたが、しかし天界では感じられないほどにこの忙しさは新鮮であり、同時にこの苦楽はとても素敵だと感じながら彼と共にこの場所を守り、早くも3年目が経過した。

 

その時点では既に彼と結婚しており、天使であることも棄て、彼と同じ人間になった私はすっかりこの居酒屋の女将という名でレミナの住人になっていた。

 

 

そして今日も変わりない日々。

 

 

天界から堕ちて4年目、レミナにある居酒屋の女将として板についた私は開店前の仕込み中の昼時間を活かし、裏に回って洗濯物を干し、洗濯が終われば次は表に回って入り口前の掃除をする。

 

店内では彼が料理を仕込みをし、良い香りが外まで漂う。そうした夫婦共同の店準備。この日常に幸せを感じている。

 

 

 

「すみませーん」

 

「あら?まだお店は開いてないですよ?」

 

 

少し早めの営業スマイル。

 

元トリニティだったから笑顔は慣れている。

 

それはともかく、開店前の気持ち早い客人に苦笑いしながら振り向き…

 

 

 

「あら、あらら?もしかして、貴方は…」

 

「久しぶりです。前にお会いした旅人です」

 

 

 

その者は、天使を探す旅人。

 

名は___エリーカ・エコーズ。

 

 

 

 

 

 

「ではこの街には特に?」

 

「はい。特に違和感はありません」

 

「そうか……じゃあレミナの外か」

 

「……まだ、天使の捜索を?」

 

「いや、それはもう終わった。この4年間で回れるところは全部回って来た。今はとある大陸で天使の街を作っている。エデンって名の熾天使は知ってるよな?」

 

「エデン様!?…ええ、存じています」

 

「その彼女が街長として天使達を導いている。俺はその手伝い」

 

「な、なるほど…」

 

 

二年前にも数名の天使、あと一人のスライム娘を率いてレミナの街を探索していた彼エリーカの目的にも驚いたが、それ以上に天使のための街を作っている話を聞いて更に驚く。

 

こんな人もいるんだと。

 

私たち天使はつくづく、人間に助けられるほどに落ちぶれて、それで今は感謝している。

 

大地を見下ろす者でなくなれば、私達はこんなにも弱々しい生き物だった。そう痛感する。

 

 

 

「とりあえず情報ありがとう。感謝する」

 

「いえ、こちらこそ、あまりお力になれず申し訳ありません」

 

「気にしないで。君はこれまで通りを願って生きてくれ。俺も天使の明日を願ってるから」

 

「!!…っ、はい」

 

 

そう言って飲み干したお冷を置いた彼エリーカは居酒屋を後にする。

 

私はその後ろ姿を見送りながら、彼の目的が果たされることを願って、私は営業準備を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、お嬢さんは?」

 

「魔王。ちなみに14世だよー」

 

 

 

 

あ、はい。

 

……はい???

 

 

 

 

 

つづく

 

 






なんかもう数話くらい続きそう。マジで?


【エリーカ】
天使とお茶会できるくらいに平和を謳歌していたところいきなり不安要素ぶち込まれてそこそこ不機嫌なエリーカくん。某力の同盟みたくイレギュラーな存在だから色んな奴に興味惹かれるのは仕方ないね。もう少し頑張ろうか。

【女将さんと化した天使】
エリーカのようなスパダリに拾われて絶賛幸せ中の元天使。ちなみに夜の後の夜の頻度は2日に一回くらい。元天使だけあって好きな人にはいっぱいいっぱい祝福(意味深)している。やっぱ上位種ってそういうとこあるよね!

【14世】
そろそろ引退したいなー、的なことを考えてからのこれ。あとこの世界の魔王はレミナの虐殺が起きなかったのでこの辺りの魔王の世代交代はかなり緩やか。なのでまだ14世が現役な世界線。ならルカくんのお相手は誰ぞ??知らん。流れに任せる。


じゃぁな!
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