「でねー、でねー?そろそろ世代交代とかしたいんだけどまだまだ娘が小さいからねー、もう少し頑張らないとなーって感じだったけど、やっぱり少しだけ疲れちゃって、動けなくてぇ…」
「いや、思いっきり魔王城から動いとるやん」
「少しだけ責務から席を外したいなー、って考えてたらこの大陸になんか急に異物が舞い込んだことを感知したからね、なので部下を差し置いて勝手に様子見てきた感じだよ。そしたらあら不思議!聖職者でもないに関わらずよく洗練された聖属性を秘めた人間君がいるじゃないですか!」
「まあ俺は確かに色々と特別な生まれですけれども、しかし魔王様が感じ取ったソレは俺じゃないからな?かく言う俺も同じように捉えたからレミナに来たわけだし」
「うんうん、わかってるよー。君はとても優しい人間なことは一目見て理解した。あと魔王様なんて堅苦しい名前じゃなくてアリスって呼んでいいよ!もしくはイヨちゃんとか!」
「随分と安直な
魔王という割には随分と幼なげな様子に見えてしまうこの魔王は現在のアリス。
そして14世。
今は妖魔の姿から人間の姿になって人街に紛れており、自ら魔王と名乗らなければ分からないくらいだ。あと少しだけ踊り子っぽく見えのは口元を布で隠しているからだろう。なんかマラカスも持ってるし。暇つぶし用ですかそれ?
「やはりレミナ付近に感じるね。もうちょい上の方だけど」
「もしかして川を挟んで向こう側か?俺は声だけを頼りに来たから細かくはわからん」
「声?」
「ああ。なんか急に語りかけて来たんだよ。それで一緒にいた天使達に感知して貰うと俺に投げて来た念話は北の方からと聞いたので、ならヘルゴンド大陸じゃないかな?って考えてレミナから独自調査中。しかし街の様子を見る限り捉えた者はいないらしい」
「それだけ『特別』じゃないと捉えきれないほどのナニカ……それとも、
「(たまも?油揚げ?)」
椅子にちょこんと座って足をぷらぷらさせながら後のことを考えるアリス14世、またはイヨちゃん。仕草含めて本当に子供っぽい。しかしその体に内包するエネルギーはかなり洗練されていることがわかる。
一度ハインリヒと融合したからか、闇属性を感知できるようになった。
なので目の前で人間の姿で、それもあどけない姿と健気さを見せる彼女にまだ少し緊張している。
黒塗りのアリスを通して理解したつもりだったけど、しかしこれが本当の魔王の魔力なんだと再確認した。
「でも語りかけるだけ語りかけて放置は正直腹立たしいな。俺の何を欲してんだぁ?」
「それは……つまり、ナニってこと??」
「奥手かよ」
「あはははは!でもエリーカ君をピンポイントで狙った電波ってことは相応にエリーカ君を欲してる証拠になるよね。つまり君がキーマン!」
「俺は天使達と紅茶を飲んでたいです。二年前みたいなのはもうええって。俺は人間だよ!あまり無茶させんなし!」
「人の身でそれほどの聖属性を秘めてるのは普通じゃないような…?」
「ひどい魔王様だぜ…」
軽く死んだような目になる俺にイヨちゃんはクスクスと笑いながら卵焼きを頬張る。
あとここはレミナにある食堂だ。
一応、腰添えて話すために食堂に来た。
俺も卵焼き食べている。
「さて、腹ごしらえは完了。そろそろエリーカ君のラブレターを探そっか」
「勘弁してくれ。断るためにごめんなさい言うのになかなかにクルんだよ」
「ハッキリしない男は嫌われるよ?」
「それは大丈夫。俺もう未来を決めている」
「おおー!!なら男みせないとねー!」
「そうだな。男ならちゃんと断って……いや待て、なんでラブレター前提になってんだよ」
魔王の二文字を感じさせない彼女に調子狂わされながら俺は席を立ち上がり、それぞれお勘定を済ませようとしてする…が、俺よりも意気込んでいたイヨちゃんが席から立ち上がらない。
どうした?
まだ何か食べたいのか?
「イヨちゃん?」
「あ、えと………エリーカ…」
「?」
「お、お金………魔王城に置いてきちゃった」
「……マ?」
「……うん」
「…」
「…」
「無銭飲食の魔王かぁ、壊れるなぁ」
「やめておくれぇ…ダメな妾をそんな目で見ないでたもれぇ…」
急に口調が魔王らしくなるやん。
おもろ。
その後、俺がイヨちゃんの分も払った。
後で返すって。
だから今度魔王城に来いって。
なんでやねん。
…
…
…
さて、無銭飲食魔王になるところだったイヨちゃんと共にレミナを出た後、まずはレミナ付近を探ることにした。
イヨちゃん曰く、この辺から異質な気配を感じ取れるとかなんとか。
俺には声以外は感じ取れないので魔力の高い魔王様の感知能力を頼りに、川の向こう側など目を凝らして探してみる。
まあ大陸越えて声を届かせようするくらいだ。
ならば何か目立つような目印等を声主は用意してある筈。でなければ不親切だ。
ともかくなんでも良い。
分かりやすく『塔』のようなナニカでも…
「もしかしてあれかなー?」
「…アレだな。てかマジで塔があるやん」
イヨちゃんの指差す方向、レミナから少し歩いて川を超えたところに一つだけ塔がポツーンと建っていた。2年前にあんなのあったか?
記憶にない建造物に首を傾げているとイヨちゃんは妖魔の姿になり、ラミアの尻尾をしゅるしゅると伸ばした。すると…
「じゃあ跳ぼっか」
「はい?」
イヨちゃんの言葉に疑問で返すもラミアの尻尾は素早く俺の胴体に巻き付き、そしてイヨちゃんは体をググッと縮め、バネのようにその場から真上にビヨヨーンと跳んだ。
「うおおおおお!!?」
「あははは!!これ久しぶり!!」
とぐろまかれた俺は急なジャンプに驚き、対してイヨちゃんは自分の体がバネのように跳んで楽しそうに笑ったりとレミナの空には二つの感情がこだまする。
そして川を越えて無事に着地し、俺はイヨちゃんのとぐろから解放された。
「……びっくりした…」
「そう言う割には落ち着いてるね」
「演劇団としてサーカス紛いなことはたまにするからな。跳ぶくらいはなんてことないが、しかしラミアで巻き付かれてそのまま跳ぶような経験は初めてだな。てか魔法とかで移動するんじゃなくて脳筋プレイなことに驚いてるわ」
「知らないの?アリスフィーズ家は基本的にフィジカルで解決するもんだよー」
「妖魔ってなんだろう…」
と、説明しながらマラカスを分解するとそこからキャンディーを取り出してペロペロと舐めだすイヨちゃん。自由すぎんだろこの魔王。もう何からツッコむべきか。
「と、言うよりもこんな建造物はヘルゴンド大陸にあったっけー??どうだっけー??」
「おい大陸管理者、おい」
「そんなこと言われてもヘルゴンド大陸ってバカ広いんだよ?あと基本的はこの大陸は無法地帯なんだし。なので急に塔が建っても特におかしいことはないんだよ。多分」
「ここら辺のもんむすらにそんな建造技術があるとは思えないな。レミナからもわざわざ人間が外に出て建造するとは思えないし。てかこんな所に塔建てても生産性が無いからこの大陸に住まう者が建造したという考えはまず無い。なら急に生えて来たパターンだな」
「ヘルゴンド大陸ってそんなことあるんだ。とても逞しいね」
「まんま生えたと思うなし!こんなのが自然生成な訳あるか!十中八九、声の主の所有物だろ」
「ま、そうなるよね。だって急にこの辺で感じ慣れなかった異物を感知した訳だし。なら召喚された類かな」
「かもな。俺も2年前にヘルゴンド大陸の西側に用があったからレミナを川沿いに歩いていたが、当時はこんな塔は見なかった」
「え?2年前??てか人間の身でそんな自殺行為を…??あ、もしかしてエリーカ君って魔王討伐が目的だったりする?それなら魔王城で私は勇者エリーカを待ってないだめな感じかー」
「そんな目的ねーよ。てかなんで魔王を討つ必要あるし。行く意味無いから」
「えー、来てくれても良いじゃーん!遊びに来てよー!お菓子もジュースも沢山あるよ!」
「この世代の魔王は勇者=客人って扱いかよ」
「うん。だって人間って基本的に弱いもん。幾ら人間が上級職の力を備えたところで、魔王城のもんむすは強いし、戦ったところで人間が一方的に負けてそのままピュピュ気持ちよくされるだけだよ?ならお菓子パーティーして楽しく遊んだ方が良くない?」
「やっぱ女神イリアスの勇者システムってマジで表面だけなんやなぁ…」
まあ信仰を集めるためだからな、アレって。
それで何百か勇者ガチャ引いて、それで大当たりな勇者が出たら御の字的な扱いだ。
まあその
しかも肝心の女神は生存不明。
はーつっかえ。
辞めたらこの仕事??
「しかしこの塔、ボロボロの穴だらけだな。外装も白と黒が混じり合った変な塗装だし。これって新品じゃない使い回しの建物なのか?」
「どうだろうね?精製物として甘かったら穴だらけとか別に珍しくはないけど、これも突然召喚された建物だとしたら使い回しの可能性は充分にあるかもね」
「ならこの招集は手慣れた感じか」
「繰り返しって意味ではそうだね。しかし白黒の塔かぁ。外壁は穴あきのボロボロかつ表面は汚れなどで濁っているから、総じて灰色って印象もあるけど…」
「でも灰色というには……濁った群青に見えなくもないな……」
「うん。なんなんだろう、これ…?」
「……白と、黒か…」
既視感がある、単語だ。
俺はつぶやいたその二つに内心顔を顰めているとイヨちゃんは目の前の扉に手を掛ける。
しかし…
「ぐぬぬぬ!動かない!!」
妖魔レベルの筋力で押してみるも扉はビクとも動かない。ならばと俺も押してみるが。
「………動かん……」
「あーあ、フラれちゃったー」
「これから俺がフる予定だったのに??」
「女の子を待たせるからこうなるんだよー」
「勝手に呼んでおいてそれはめちゃくちゃ過ぎんだろ…」
それからも扉を調べたり、塔の周りを調べてみるが進展無し。
一応イヨちゃんが脳筋フィジカル魔王様パンチをしてみたが、ボロボロの外壁からは考えられないほどに丈夫で壊れる様子はひとつも伺えれなかった。代わりに握りしめていたキャンディーが砕け散ったりと散々。
「おのれぇー!よくもー!」
「自業自得でしょう…」
「ギガファイアー!」
「うおっ!?」
キャンディーの怒りを魔法に込めて黒魔法を塔にぶつけるイヨちゃん。
しかし高ランクの攻撃魔法だろうと塔は傷一つ付くことなく、防ぎ。
「ギガサンダー!!ギガウインド!!」
ギガ系統の強力な攻撃魔法の数々をぶつけるがしかし、それすらもかき消すように防ぐ塔。
……あれ??
かき……消す??
なんかこれも既視感あるな。
………いや、まさかだろ。
そんなポンポンとあるものか??
「うーん。コレらも全部ダメかー」
「魔王様レベルの魔法で無理なら他はもう無理なのでは??」
「いや、私よりも魔法…と、言うより術に長けた者が魔王城にいるよ。そうなると四天王のたまも辺りに頼むしかないよねー」
「…たまも?」
「うん。私の補佐。あと魔王の教育係。たまもはそれほどに頼れるよ。特にこういうのは得意だからね、あの腹黒キツネは」
「腹黒キツネ、って…」
「腹黒キツネで悪かったのぉ」
と、後ろから声が聞こえた。
「!?」
同時に脊髄を軋ませるような威圧感。
しかしそれは一瞬の内に静まった。
俺は振り返る。そこには…
「あ、たまも!」
「なにが『あ、たまも!』じゃ、魔王!いきなり勝手に抜け出しあってからに!」
「ぶー、ぶー、書類仕事面倒ぅ〜、お仕事したくないよ〜」
「こういう時だけ子供っぽくするでないわ!この魔王めぇ…一体どっちが腹黒だが」
「良いじゃん、子供っぽいの。魔王気取って周りに怖がれるよりはマシですよ〜、だ」
「ご機嫌にマラカスしゃかしゃかさせながら言うでないわ、まったく…」
確かに教育係としてイヨちゃんの相手に苦労しているようだ、このおキツネ様は。
「で?そちらの人間はどういうことかの?」
「エリーカ君だよ!私のお友達ぃ〜。声が聞こえてこの塔に誘われたって」
「声?そんなものは一つも聞こえなかったが……いやしかし、なるほど、そう言うことか」
「うん!エリーカ君が特別ってことだね」
「そういう問題か?」
「うん。だって魔王の私どころか聖魔大戦時代から生きてるたまもにもその声は聞こえなかったんだよ?それもヘルゴンド大陸に建てられた塔から発信されたというに、魔王城で構えていた私達はスンとも捉えれなかった。ならエリーカ君がイレギュラーなことに変わりないじゃん」
「そっか、聖魔大戦時代の猛者……ならミカエラさんにやルシフィナにも聞こえなかった可能性はあるのか」
「は、ぅえ!?ル、ルシフィナぁ!!??」
と、たまもと言う名の教育係が毛を逆立てながら反応する。どうしたんだ?
……あ、そういうことか。
確か、聖魔大戦って…
「もしかしてたまもさん、ってルシフィナって天使を知ってる方ですか?」
「し、し知ってるも何も!!あの化け物よりも化け物な天使じゃぞ!?アレを忘れる方が無理じゃろう!!と、言うよりなぜお主がルシフィナの事を知っておる!?な、何者じゃ…!!?」
「俺ですか?ええと……(人間になりたがる)ルシフィナの……教育係?そう!たまもさんと同じ教育係です!」
「嘘つけい!!」
「いや本当ですよ。まあ教育係ってのは明らかに言い過ぎですけど、ルシフィナに人間の生き方を教えているのは本当です。ココ最近はステーキの焼き方もマシになってきて、少しずつですが人間っぽくなってますね」
「ぜ、絶対に嘘じゃ…!ウソじゃぁ…!あり得ない…!そんなの何かの間違いじゃ!あ、あまり年寄りを揶揄うではないぞ人間?あんな大化け物が人間のように穏やかな生き物になるなど天地が70回ひっくり返ってもあり得ない。当時のアレを知ってる儂が保証する」
ルシフィナかわいそう。
でも、まぁ……仕方ないよね。
だってルシフィナだし。
正直、ミカエラさんも過去と比べてアレほどに落ち着いて家庭的になろうとするルシフィナの姿に少し信じられなさそうにしていたし。
実姉にもそう思われる妹君だ。
このたまもって聖魔大戦時代の生き残りも毛を逆立てたり、心底あり得なさそうな表情で訴えてくるくらいの天使だ。
つまりそのくらいにルシフィナは悪い意味で信用がある。ちょっと可哀想…
「はぁ、まったく…今日はなんなのじゃ?脱走癖のある魔王様が今回はルシフィナを知っておる人間を巻き込んだりと、次々面倒ごとを作りおってからに…」
「えー、脱走癖じゃないんだけどー?」
「だまらっしゃい!どうせ調査を建前に責務を放ってレミナで遊んでいたのだろう?あと今回だけではないことも知っておるぞ」
「あ、バレてたんだ」
「当たり前じゃ!そもそもいつの間にか子供を作っておる時点でおかしいじゃろ!どうせその脱走癖と同時にレミナから適当に男を引っ掛けて子種を貰っておるのじゃろう。まったく…」
「適当じゃないよー?ちゃんと9代目魔王の教え通りに『己が激務に追われてしまう魔王であることを忘れさせてくれるほどに素敵な男性を見つけたら絶対にその者を離すなかれ!』って先代の教え通りに私もしたんだよー!肉食系女子上等ぉー!甘いものも上等ぉー!」
「あんなのが教えか馬鹿者ぉ!!」
「ちなみに私が引っ掛けた素敵な男性はなんと一人でヘルゴンド大陸までのし上がった人間上澄の冒険者でーす!てか前に金返してもらうためにわざわざ城まできてくれた人間君!会いに来て嬉しかったから勿論ピュピュさせたよ!それでもし私が魔王を辞めたらその時は一緒に住んでくれるって約束もしてくれた!きゃー!」
「だぁぁああああ!!!こんのぉぉ魔王!!!毎度毎度そうじゃがなぜ9代から続く歴代魔王はこうも急なのじゃ!?前代魔王もそうだったがお忍びで男性を見つけては逢引き同然な事をして魔王不在を起こしておったし!まったく…!この娘もやはり母の子と言うのか…!!」
「今の母さんとても幸せそうだよね。じゃけん私が魔王頑張りましょうね〜」
「なら責務を果たさんか!馬鹿者!」
「果たしてるよー。ほら見てよ後ろの塔!数刻前いきなりヘルゴンド大陸に無許可で建てられたエリーカ専用ラブレターの塔をこうして見つけたんだよー。いや〜、ちゃんと現場に出る理想の上司の鏡だね!って事であとはたまもの出番だよー!」
と、マラカスとキャンディーをしゃかしゃかして振って祝い始めるイヨちゃん。
それに対してたまもって教育係は眉間を抑えて感情の処理を行なっている。
本当に何年もお疲れ様です。
「はぁぁぁ…まったく、お説教は後じゃ……それで?ルシフィナを知る人間よ。確かエリーカと言う名だったかな?それと紹介が遅れて申し訳ない。儂の名はたまもじゃ。して?お主にだけ声が届いたと言う話は本当じゃな?」
「え?あ、はい。そうですね?魔王クラスのイヨちゃんにも聞こえない、しかし何故か人間の俺だけがその声を拾ったと言う特別扱いに少しだけ草臥れたところです」
「イヨちゃん??…まぁよい。しかしなるほどのぉ。ならばお主だけがこの塔から誘われているのは明白じゃな」
状況把握を済ませたたまもはもふもふ尻尾を揺らしながら塔に近づき、扉などを触る。
調べているのだろう。
しばらくすると何か結論が出たようだ。
「ふむ、これはまず召喚の類じゃな。しかし乱雑に貼り付けられような集合体に違和感を覚える。これは何処から調達したモノじゃ?」
「集合体?調達?」
「うむ。見たところかなり複雑な構造。同じなのだがバラバラといった、かなり矛盾を抱えた生成物だが、しかし塔を形成すると言う意味ではこの乱雑さも噛み合ってあっておる。あとその扉も強固に閉じられておる。しかもコレは…」
「てか一方的に俺を誘っておいて一方的に閉めてんのおかしくね?」
「多分コミュ症なんだよ!」
「魔王様は少し黙っておれい。しかしコレほどに複雑なパーツを良くこの世界で取り揃えたものじゃ。だがコレを安定させて形成した使い手は中々の者である事は確かか。勇者エリーカよ、大変な者に目を付けられたな」
「何も聞かなかった事にして帰りたいなぁ……って俺は勇者では無いです!」
「何を言うか。内側に秘めてあるその性質で勇者を偽るのは中々酷であるぞ?それもかなり洗練された力。聖職者でも無いに関わらずここまで聖属性に満ちているのは中々の人間じゃ」
「ミカエラさんの賜物です」
「うっ!!ミ、ミカエラ…そ、そう言えばその天使の名もお主は言っておったな。え、マジ?」
「マジ。生まれ付きミカエラさんと一緒に過ごしてきまして、それで8年前にミカエラさんから本格的に修行を受けた事で、元から素質あった聖属性が洗練されてこの通りです。まあ勇者に関しては訳ありですよ。これに関してはルシフィナが悪い」
「またその名か……だが、嘘を言ってるようには見えぬのぉ。あまり信じたくない内容じゃがまあそこは良い。それよりもこの塔じゃ。エリーカよ。お主はコレをどうするつもりだ?」
「会いに行きますよ」
「一人でか?」
「はいはいはーい!私もエリーカ君と一緒に行くよー!せっかくだから手伝うよー!」
「それはダメじゃ」
「えええーー!?なんでぇー!!?」
「エリーカがただの冒険者ならば私達はヘルゴンド大陸に住まう管理者として介入する事は可能だが、しかしこの者が勇者となるとそこに魔王が並ぶのは許されん」
「ええと…それがヘルゴンド大陸となると尚難しい話ですよね?」
「その通りじゃ。その他の大陸なら名を伏せた上で密かに手は差し伸べれるが、しかしここでは人間が挑戦者となる魔王が居座っておる魔の大陸扱い。そこに魔王が割り込むのはルール上では御法度」
「うっ、やはり、そうだよね……ぶーぅ」
「形式上、勇者と魔王は対立すべき光と闇だからの。コレばかりはどうしようもない」
まあ言わんことはわかる。
ここでいきなり勇者と魔王が手を組んで何かしらを解決しました、って形なると、それを好ましく思わない人間支配派の勢力が魔王というストッパーを無視して暴れ出す可能性がある。
もし無視すると。
__魔王が魔王を果たして無いぞー!ふざけんな馬鹿野郎ぉー!勇者が魔王を討つ構図があるから人間を合法的に食えてるのによー!そのシステムが意味なさ無いならオレたちは好き勝手にするぞー!ハラヘリ!ヘリハラ!って事だ。
とまぁ、そんな感じに表面上だけでも勇者と魔王の二つを対立状態にしておかなければ魔物界の政治面でかなり面倒な事になる。
なのでイヨちゃんが勇者認定されちまった俺を助けることはダメなのだ。
「(まあ言うて女神イリアスは不在だから勇者システムとか3年前に壊れているけどな…)」
でも、いきなりそれを告げても両サイド混乱するだけだ。
しかし現在、人間側では女神イリアスの声が届かなくなっている状況に混乱しており、その存在が不確かとなっている。
コレが何年も続けば女神イリアスの信仰は人間界からも薄れていくだろう。
そうなれば勇者対魔王の構図にも意味を持てなくなってくるし、なんなら魔王側から友好を示せば勇者システムも不要になってくる。
なので時間が解決するのは明確。
でもまだこの二人に女神イリアスが不在であることを告げる必要は無いだろう。
ってことはやはり、魔王サイドから勇者認定されてしまった俺が一人でなんとかするしかないと言うことだろう。
政治面を考えてこれ以上は魔王サイドから力を借りれない訳だし。
女神イリアス、あなたはクソだ。
「ま、そこら辺は大丈夫ですよ。俺には心強い仲間がいます。事の次第によってミカエラさん本人から力を借りますし、そしたらオマケでルシフィナも来てくれるはずなので」
「あの天軍長も大概だが、ルシフィナをオマケ扱いとかお主は怖いモノ知らずか?それとも阿呆なのか??アホなんだな?そうなのだな??そうと言っておくれい!」
「最近の勇者ってすごいねー」
「だから俺は勇者じゃねーよ。職業柄そうされちまっただけだよ。あのルシフィナとか言う奴に寝込み襲われたせいでなぁ!」
「原初の天使に寝込み襲われた…??よく生きておったな……人間」
まあでも光の勇者になれたそのお陰で人の身であろうと1年半前の黒塗りのアリスの騒動はなんとかなったし。なのでルシフィナはある意味ファインプレーだよな。納得行くかは別だが。
「まあ寝込みは半分冗談だ。でも光の勇者にされた事はたしか。なので魔王と協力関係が結べないのがやや残念だよ」
「でもその代わり魔王城にはノーサイドで来てくれて良いからねー!あ、もちろん戦い終わったら仲良く犯しタイム!あ、違う違う!仲良く皆でお菓子タイム!あ、でもエリーカ君がお望みならピュピュ犯しタイムしても良いよ?もちろん命は奪わないから安心してピュピュしてね!」
「ふむ、何だったら儂が四天王としてエリーカを倒して情夫にするのもアリじゃな、くくくっ」
「だから俺は勇者しないっての!そもそも俺は女神イリアスよりもミカエラさん信仰しているので本来ある勇者の本懐は果さん」
「何じゃい、コレほどの男が勇者として来てくれぬのか。つまらんのぉ…」
「えー、魔王城で遊ぼうよー」
「はぁぁ…これだから上位種族ってのは…」
勇者エリーカをしてくれることを望む二人を無視して俺も塔に触れてみる。
しかし俺は魔法に長けてないため分からない。
最後にもう一度、扉に触れてみる。
やはりビクともしない。
「おっと、そういやメインとなるその扉のことを言いそびれておったな。調べたところそれはただ閉じられているだけじゃないぞ。二つの性質を必要とする扉じゃ、コレは」
「二つの性質?」
「うむ。塔の性質はともかくこの扉だけは酷く分かりやすくしておったな。まぁよい。結論を言う。それは光と闇の性質を同時に込めなければ開かないとされておるギミックじゃな」
「うわー、それこそ魔王の私達が助けるべきじゃないのー?」
「ココがヘルゴンド大陸でなければ普通に助けれたが、しかしこうして魔王様の側近を務める四天王として勇者エリーカと立ち会ってしまったからの。エリーカが勇者であることを否定してもヘルゴンド大陸を闊歩している時点でエリーカが勇者クラスである証明。しかも光の勇者という最上級職が職歴として刻まれておる。ここまで来ると誤魔化しは効かん。すこし手順を違えたな」
「どの道俺をご志望だ。もしかしたら入れるのは俺だけの可能性もありますし」
「ま、教えるくらいさせておくれ。勇者に対する試験って事にしておくからな。後ろから手出しはできんが。ほっほっほ」
「政治って面倒だねー」
「同感だ。あとそれを魔王の口から言うなし」
「キャンディー無くなったもん。口を塞ぐものがなーい」
イヨちゃんが幾らフレンドリーでもやはり魔王という肩書きが手助けを拒み、同じくたまもも四天王として勇者の手助けは出来ない。
それが女神イリアスから洗礼を受けてない偽勇者だとしても、魔王側からすればヘルゴンド大陸にいることが勇者の証明になっている。
いや本当に面倒だな、このシステム。
もういっそ、女神イリアスが不在な上に天界が地上に落ちた事で、実は3年前から勇者システムが機能してないことを明かしてしまうか?なんだったら全部ルシフィナが悪いって事にすれば話は通るかもしれないし。まあしないけど。
「それとも___お主だからこそ、こういう仕組みにしているのかのぉ?」
「!」
と、頭ルシフィナしていた俺にたまもが鋭く投げかける。コレにはあけのみょうじょうで掴み損ねて少し動揺してしまった。このキツネめ。
「つまりエリーカ君は
「うむ、察しがよいの魔王様。声の主がエリーカをピンポイントで呼んだという事はつまりそういうことじゃろう。エリーカだからこそ開けれるようにして構えておる。なら…」
二人の視線が背中に突き刺さる。
僅かな動揺も汲まれてしまい、それでいて頭脳明晰なたまも相手に誤魔化せる気がしない。
俺は観念するように溜息を吐き、顔だけ二人に振り返る。
「まったく、これだからインテリは…」
「誤魔化すでない。で、どうなんじゃ?」
「……あるよ、俺にも対象となる属性が」
「!」
「ふむ、やはりか。でなければ状況がおかしいからのぉ。名指しで誘ったのに扉を開けないなどあまりにも不親切極まりない。しかしそうして簡単に開けないように仕組み入れたのはその他がこの塔に入れぬようにするため。まあ光と闇の両属性を備えれば誰でも開けれる簡単な仕組みだが、条件の満たし方は簡単ではないの」
「ヴィーヴル娘なら開けれたする?」
「さてどうかの。光と闇にも深さはある。それら両属性のコントロールするのに苦労する程度の者には開けれないかもしれぬの」
「じゃあ、それ以上のエリーカ君って…」
「相当な力を持った勇者だろう」
「だから俺は勇者では……いや、もう良いや。どうせこれからする事に誤魔化せん。ああそうだよ。たまもの言う通りだ。俺は…」
扉に振り返る。
そして全身にエネルギーを廻す。
「勇者をしない勇者だよ…!」
右手に扱いなれた聖素を。
左手に扱いなれない……
その身体に背負った追憶を頼りに勇者である権限だけで二つを引き出す。
そう___あれはいつだったか、寝込み襲ってきた彼女がこんなことを言っていた。
『___ふーん?なるほど。これはそういう事ね……あら二つも?これは元から?でも確かにエリーカには備わっているわ』
別に俺は生前に闇を抱えてるとか無い。
至って普通の一般家庭。
そこらの消費者として惰性に生きてきた。
闇は知っても、光の中で生きてきた側。
死を迎えるまで平和そのものだった。
だから俺に闇なんてのは抱えてない。
けれど、それに紐つかせる条件だけならこの身体の中にあった。
ある天使は言っていた。
なんてことない日常的な会話だった。
しかし、その内容は覚えている。
『__もしやエリーカ様はカオスバスターとしての素質がお有りなんでしょうか?』
隠れ里エンリカの入り口にいる天使。
混沌の住人たるトンベリ娘のような超種族から好かれている俺の姿を見て、そんなことを言っていた。
それ以上は深掘りしていないが、しかし俺には他の人間には無い【凄み】とやらがこの身に備わっている。
それが『封印職』たる【カオスバスター】って力なのかは不明。
けれどもし、その封印職が生まれつきにして俺の身体に刻まれている、それほどの人間として扱われているのなら確かに【凄み】という言葉に表されてもおかしく無いのかもしれない。
まあどうしてそうなってるのかは知らない。
多分、二度目の人生が始まった故のギフト。
生前に重ねてきた人生経験がエリーカ・エコーズを形成するにあたってそう設定されたのかもしれない。だってエコーズの血筋を引いた子供だ。良血故の資質なんだろう。
さて、これら総じて何が言いたいか。
結論を述べる。
__封印職が解禁されているほどの【凄み】を秘めたエリーカ・エコーズは
なんともまあ厨二病に極まった説明構文に苦笑もしたくなるが、しかし混沌の住人たるトンベリ娘に好かれてる点を考えれば強ちこの考えは間違っていないとも思える。
何せ___混沌だ。
それは『光と闇』が入り混じった先にある混沌属性。
それを兼ね備えているエリーカ・エコーズはコレを【凄み】という二文字の言葉にして混沌の性質に好かれている。
実際に黒塗りのアリスの騒動によって俺はハインリヒと融合した。言い方を変えれば光の勇者と闇の勇者による融合だった。
一時的ながらもソレを扱い、混沌の神から血肉を授かった黒塗りのアリスの肉体を突破し、その属性を同じ混沌属性で俺達は斬ることができたんだ。
それが一年半前の追憶。
そして、それまで重ねてきた軌跡。
寝込みを襲ってきたルシフィナによって俺の中に『もう一つ』あることを発覚し、それ以上前に入り口の天使から俺の中の封印職の存在を芳わせ、ミカエラさんを中心に【凄み】を認識する。
繰り返して、エリーカ・エコーズは光も闇も扱える特別な人間。
あらゆるルーツと、それまでの育ちがエリーカを作ったから。
とんだ欲張りハイブリッドだろうか。
エコーズの血筋ってだけでもお腹いっぱいなのに生前があったことを理由にそれ以上がこの身体に投じられているんだから。
まあ、良い。
悩ましても仕方ない。
地上に迷えし天使以外にあまり勇者の真似事をしようとは思わないが、エリーカ・エコーズの前に現れる障害がその力を必要とさせるなら躊躇わない方が良い。
俺はまだ天使達と生きたい。
面倒事はとっとと解決するぞ…!!
「混沌属性ッ!!
職業名をそのままに拳を突き出す。
そして__パキン!!と響く。
扉が解除され、開いた。
つづく
ルカさんが、混沌を晴らす勇者なら。
エリーカは、混沌を破る勇者なのかもね。
まあやってる規模は明らかにルカさんの方が何万倍も上なんですけど。でもくっそインフレする終章を除いた中章基準ならエリーカ君もやってること大概なんですけど。てかお前何さりげなく光と闇を操ってんだよ。ああ!これも全部ルシフィナって奴が悪いんだぁ!!
【エリーカ】
二度目の人生ってだけで多属性にぶち込まれてしまった哀れな人間くぅん。その多属性を並べるなら、まず二度目の人生で、次にエコーズの血筋で、あとフィサリス演劇団の息子で、同時に隠れ里エンリカ出身で、そこで天使達にたんもり祝福されて、実はカオスバスターの素質があって、天軍長だったミカエラに鍛えられて、故に聖素を操れるようになって、するとルシフィナになんか光の勇者にされて、結果として融合したハインリヒと混沌が扱えるようになる……とか言う溢れんばかりの属性もりもり設定に包まれてね?もういっぱい、や!!
【イヨちゃん】
その正体は14代目の魔王アリスフィーズ。にしてはとてもフランクな性格であり、魔王にしては随分と肩の力を抜きすぎている子。しかしコレでも既に子供を作っており、充分に成人した魔王。しかし言動が子供っぽいため勘違いされやすい。魔王のように威圧感ある振る舞いはできるが肩が凝るのであまり好きじゃない。数年前に(人間の姿で)レミナまで遊びに行った時に素敵な男性を見つけるとなし崩しにまぐわり子供を授かった。後に勇者であることが発覚したがそんなの関係ねぇ!魔王辞めたら一緒に暮らそうね♡と半ば強引に約束した。ちなみにその勇者もイヨちゃんと一緒にいることは満更でもないらしい。やっぱアリスフィーズ家って勇者好きなんすねぇ。しってた。
【たまも】
イヨちゃんに現在進行形で苦労かけられているところにエリーカと接触したことで更に頭を痛ませた。主にルシフィナが原因。それはともかく光と闇を操ったエリーカに対する警戒度はグンと上がっているが、エリーカ本人は勇者するつもりもなく、イヨちゃんもあの調子なので多分大丈夫なんだとする事にした。つまりあまり考えたくないとのこと。本当にお疲れ様です。あ、でもエリーカなら情夫としてほしいとも思うのはさすがもんむすとしての性質。しってた。
【イヨちゃんのフィアンセ勇者】
ハインリヒクラスじゃなくとも上澄な人間は探せばいる訳で、レミナまで一人でたどり着いたし、なんなら一人でお城まで来てイヨちゃんにお金返してもらいに来たりと、それはもう魔王様のお眼鏡に叶うレベルの強さを持っている勇者。しかしそんなことをしたせいで勇者好き好き大好き種族のアリスフィーズ家の心を掴んでしまい未来が決まった。現在はイヨちゃんの魔王退役までレミナで待っている。と、言っても週3頻度でお忍びで来たイヨちゃんに構われてる。やっぱこの世界の人間ほぼ人権ないんですね。しってた。
【アリスフィーズ13世】
本当は魔王なんかやりたくない。自由が欲しい。なので少しレミナまでお散歩行ってくる。あ、なんか素敵な男性おるやん。え?勇者?関係ないなんかめっちゃ好き。めちゃくちゃ結婚したい。なのでとっとと魔王の引き継ぎして晩年過ごしたいでござる。…てな感じで原作と違って少しだけお仕事頑張ったけど早々にイヨちゃんに魔王託した。でも母さん幸せそうだから娘が頑張っている。まあそのせいで娘も母譲りでレミナにお忍びをするようになった。しってた。
【アリスフィーズ9世】
激務から解放された魔王からの手紙___
『もし結婚するならクソブラック企業激務な魔王職を忘れさせてくれるような素敵な男性を探しなさい。もうそれはイチャイチャできるくらいのレベルが良いわ。絶対にこれほどの有料物件を見つけることを心掛けて。まあ大体レミナにいるから。あそこなら強い人間そこそこいる。もし分かりづらいなら勇者を目印に探して。理由?レミナまで辿り着く勇者は大体強いから。え?イリアスから信託を受けし勇者?知らん。ありがたく貰っちまえ。私は貰った。良いね?分かったね?じゃあ私は愛しいフィアンセと余生を壇蜜に過ごすから誰も邪魔しないでね。邪魔したら槍で刺して姉の墓場に一緒に閉じ込めてやる。手紙は以上』らしい。つまり勇者好き好き大好きが加速した全ての元凶。しって……いや、知らん。こわっ…
【レミナ】
上記(アリス9世)のせいで魔王の婚活会場と化してしまったレミナ。何処ぞのトレセン学園ですか?まあでも仕方ないよね。レミナは強い奴だけがこの場所に辿り着くもん。だから勇者好き好き大好き種族のアリスフィーズ家にとって良い餌場なんです。まあでも二人が幸せならOKです!!…え?人間の意思?この世界にそんなのあると思うか??オメーの籍はあるけどオメーの席はねーから!しってた。
じゃぁな!