今日も胸がいっぱい、や!   作:つヴぁるnet

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今回17000文字だってよ



いっぱい!!!!

 

 

トンリの包丁と、ジェサイアのオリハルコンの剣が、混沌の神によって生み出された奇兵達を次々と斬り裂いていく。

 

しかしその胴体を斬り裂くだけでは絶命まで追い込む事は出来ない。

 

小型なその体に対して非常に高い耐久力。

 

それは混沌の神によって生み出されたからこそ成り立っている。

 

 

「コイツら、なんか数が多くないか!?」

 

「トリン!私達に構わずもっと前に出て!エリーカはティルと私で守るから!」

 

「ジルオールは透かさず掛け直します!どうか少しでも多く殲滅を!」

 

「!」

 

 

元々早いトンベリ娘がジルオールの全強化魔法によって攻撃密度が大いに増し、シェムハザと呼ばれる奇兵を何体も捌いては確実に一体を葬っては同じように繰り返す。ここにいる誰よりも最強の二文字に揺るぎない彼女は混沌世界の住人。一騎当千とはこのことか。

 

だが、それでも…

 

 

 

「減ってる気がしねぇ…!」

 

「よく見ると異空間から次々とシェムハザを内蔵した結晶が降りてきます!」

 

「だとしたらこのエリアに長居するのは危険ね。なんとか正面をこじ開けて魔法陣まで突破するしかないわ!このままでは圧殺されてしまう!」

 

 

正面ではジルオール状態のトリンが無双してくれる。しかし後ろからもシェムハザが結晶の中から現れ、コチラに襲いかかってくる。その度にジェサイアがオリハルコンの剣で薙ぎ払ってはシェムハザを撃退する。ジリ貧だ。

 

 

「3人とも!後ろの魔法陣に戻るぞ!退路の厚みが薄いうちに突破したい!ジェサイアは先陣を務めて切り開いてくれ!トリンは隙を見てそこから離脱してくれ!ティルは俺とジェサイアを援護しろ!」

 

 

守られてばかりでも仕方ない。

 

俺は背中からジャスティスカスタム…を、スノウヘブンにいる天使たちの鍛治技術によって最大強化された『ハイロウナイトカスタム』を引き抜くと、結晶から顔を出してきたばかりのシェムハザの首を切り落とすことで動く前に無力化する。

 

過去に、混沌の神から授かり恥肉を黒塗りのアリスの混沌属性を斬った経験もあり、ジェサイアほどの腕力が無いにしろ人間の攻撃力でダメージを入れることに成功する。あと光の勇者としての補正もあり、言うほど非力では無い。

 

しかし本格的に動き出したシェムハザに人間の俺が敵う訳もなく、こうなるとトリンやジェサイアだけが頼りになる。

 

一応ティルも魔法攻撃でダメージを入れることは可能だが、支援を怠った瞬間戦線が崩壊してしまうためティルには後方支援を中心に立ち回ってもらう。

 

 

 

「予定通りニ、私達ハ地上ヲ滅ぼス」

 

「この世界は滅ぼさなくて良い!」

 

 

 

俺は手を伸ばしながらシェムハザに特攻。

 

それに対してシェムハザは突貫してくる俺を迎撃しようと武器を振り下ろそうとし。

 

 

 

「__攻撃したな?ならお前はあけのみょうじょうの刑だぁぁあ!」

 

「!?」

 

 

攻撃そのモノの概念を手で掴み、そのまま地面に叩きつけることでシェムハザの武器を床にガチャン!と弾き、ハイロウナイトカスタムで無防備なその体に一撃を加えて薙ぎ払う。

 

 

「エリーカ…!貴方ルシフィナ様の!?」

 

「反撃までは移行出来ないけどな!でも無力化だけなら俺にも出来る!」

 

 

そこにルシフィナによって光の勇者にされたことによるオマケ付きと言うべきか。もちろんやり方は本人から教わったが、人間の身で出来るのは無力化まで。そのため明けの明星ではなく劣化版で『あけのみょうじょう』となっている。

 

それでも敵の攻撃を完全無力化できる強みは言わずもがな、人間という低耐久に対して非常にありがたいルシフィナからのギフトだった。

 

それにしても攻撃の『概念』そのものを掴めるなんて考えたことなかった。

 

とことん頭がルシフィナ過ぎる。

 

 

 

「滅べ、滅びロ」

「消えヨ、浄化と共ニ」

「朽ちて無くなレ、地上の汚れヨ」

 

 

そこら中でパリン!パリンと結晶が割れてはシェムハザが出てくる。

 

狭い通路なら撫で切りながら突破していたがこのエリアは広々とした通路であるため、攻撃が届かないところから孵化するようにシェムハザが降り立っては加勢してくる。

 

先頭のジェサイアが広範囲に対応してくれるため、その後を追う俺とティルは時折溢れたシェムハザに一撃加えながら怯ませるだけで済む。

 

その一連を流れを絶やさない。

 

 

 

だが、混沌の奇兵は容易くそれを許さない。

 

 

 

「「「エターナル、展開」」」

 

 

「「「!!??」」」

 

 

奥で待ち構えていた数機のシェムハザが並んで魔法を展開する。

 

アレは知っている!

ルミエも使っていた全体攻撃魔法!

しかもそれも併せての攻撃なのか!!

 

逃げ場など許さないとはやってくれる…!!

 

 

「俺が防ぐからジェサイアとティルは弱まった瞬間に攻撃を加えて怯ませろ!うおぉぉ!あけのみょうじょうォォ!!」

 

 

手を前に出して重ねられたエターナルを攻撃として捉え、それを掴んで押し返す。

 

 

「ぐぅぅぅッッ!!!?」

 

 

肉と骨が軋む感覚。

 

そのまま背中にまで届く激痛。

 

原初の天使から授かったギフトとはいえ、人間の身では重ねられたエターナルをあけのみょうじょうで防ぐのは熾烈困難。

 

激痛の走る体がこれ以上は危険だと拒否反応を示し、あけのみょうじょうを解除してしまいそうになるが____天使を守るために勇者たらしめることを選んだ俺が、目の前にいる天使二人のために折れることを許さない。

 

そうやって痛む体に鞭を打つ!!

 

永久にまで祝福してくれるというのなら!俺もその天使達が永久に続いて欲しいと願う!やり遂げてみせる!俺は光の勇者ッッ!!

 

 

 

「ぐぅぉぉおおおお!!」

 

 

 

全身の聖素が沸き立つ。

 

エンリカの天使達から祝福された日々が俺を後押しする!!防いでみせる!!

 

 

 

「ティル!」

 

「はい!」

 

 

ジェサイアはオリハルコンの剣に貯めたエネルギを解放し、そこにティルが魔力エネルギーを乗せる事で攻撃バフを掛け、そしてジェサイアはあけのみょうじょうで抑えられたエターナルを掻い潜って薙ぎ払う。

 

 

「メギドカリバーンッッ!!」

 

 

聖魔大戦時代を戦ってきた猛者として開花した究極剣心の一撃はけたたましい闇属性の全体攻撃として目の前のシェムハザをエターナルごと一掃し、退路をこじ開ける。

 

 

__よし!!

 

 

 

「急いで!!」

 

 

攻撃を終えたジェサイアが振り向きながら仲間に声をかける。

 

あと数メートルでこのエリアから離脱できる。

 

トリンは後ろだが、あの足の速さなら直ぐにこのエリアから離脱してくれるだろう。

 

心配はしていない。

 

 

だから俺は振り返らずに進む。

 

 

 

「ぐっ…!」

 

 

強化魔法ジルオール込みでも身体に重くのしかかるエターナル数発分を抑えた反動。

 

光の勇者だろうとやはり人間の身でやるにはあまりにも…いや、むしろ混沌の奇兵の魔法を相手によく命保って抑えた方だ。本当によく耐えた方だ。

 

しかしその代償は大きい。前に踏み出した一歩が全身を軋ませ、痛みに体が悲鳴を上げる。

 

 

「ぐぅ、ぅ!」

 

 

呼吸が安定しない、意識が傾き始める。

 

しかしティル達が待っている。

 

足は付いてる。

 

まだ動くんだ。

 

少し体が驚いてるだけだ。

 

生きることを考えろ。必死になれ!

 

出口はあと数メートル。

 

このエリアを出て、体勢を立て直__!!

 

 

 

 

 

「エリーカ…!!後ろっ!!」

 

 

 

 

え??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

「___ぅ、ぁ?」

 

 

 

 

普段ないほどに荒げたティル声。

 

初めて聞いたと思い、体が数ミリ浮いた。

 

でもそれは自分の脚で跳んだ訳ではない。

 

これから踏み出そうとしたんだ。

 

でも、後ろから鋭く押された感覚。

 

いや、違う。

 

これは__鋭く後ろから突き刺された感触。

 

 

 

「!!?」

 

 

握りしめていたハイロウナイトカスタムの刃に反射する光景は、宙に浮いた手とその手に握りしめられているランス。

 

それが俺の後ろに鋭く光って浮いている。

 

 

 

そうか、刺されているのか___俺は。

 

 

 

「「エリーカァァァ!!!」」

 

 

「か、はぁっ!!」

 

 

 

奥にいる二人の悲痛。

 

しかしその声に返すこともできない。

 

 

 

「ぅぁぁあがぁぁぁあ!!!」

 

 

 

するとランスが俺の血肉を深く抉りながら上に持ち上げ、地面から足が離れる。

 

そして逃げていた方向とは逆方向にランスごと投げ出されてしまい、流れる血で地面を赤く擦り付けながらティルとジェサイアから離れてしまった。

 

 

「逃がさナイ、許さなイ」

「ここで滅べ、行先見えズ」

 

 

「エリーカ!エリーカ!」

「通しなさい!そこを退けェ!!」

 

 

投げ出された俺とティル達の間に割って入るように数機のシェムハザは展開し、俺たちを完全に分断してしまう。

 

 

 

「ひゅ…!ひゅぅ…!ごはっ!ごほっ…!」

 

 

シェムハザの小型サイズのランスを背中に刺したまま俺は倒れたまま咳き込む。そんな俺にシェムハザが迫ってくる。それも首なしのまま。

 

 

 

「(コイツ!?さっき首を切り落とた奴の…!)

 

 

 

ダメージを与えるのが困難なら首を落として絶命を狙う、そんなつもりで先ほど撫で斬った。

 

……にしては、随分と簡単に首が落ちていた。

 

そこに僅かな違和感だったが、増え続ける混沌の奇兵に気を取られて既に意識外だった。

 

しかしその意識外からコイツは動いた。

 

まるで動力源は首ではない、胴体が本体のように動く機械仕掛けのように奴はカタカタとシステム通りに動く。

 

 

「(機械仕掛け?まさかのドール系??くそっ…!天使の輪っかがあるから純粋に生き物として判断していた…!)」

 

 

ああ、忘れることなかれ。

 

コイツらは混沌の神によって生み出された奇兵達だ。ならば一般常識では計り知れない敵であることは当然。一筋縄では行かない。

 

 

「ごほっ!… ごほぉっ…!」

 

 

俺との間に割って入るシェムハザ達を超えれずに焦り狂うティルとジェサイアの助けはどうやら期待できない。

 

それ以上の敵に囲まれながらも一人で相手にするトリンにも助けを求めれない。

 

なにせ数がとんでもなく多すぎるから。

 

 

 

「(多勢に無勢……ふざけて、やがる…)」

 

 

 

この塔を生成するにあたってあらゆる光と闇を乱雑に集められたと聞いていたが、まさか混沌の奇兵をこんなにも寄せ集めていたとは全く想像付かなかった。

 

それまではかなりおとなしめなダンジョンなんだと思いながら踏破していた。

 

無論、油断なんかしていない。

 

シェムハザレベルとは言わずとも強敵だって現れたから簡単じゃないことは承知だった。

 

だから戦闘時のハンドサインとか計画して進んできた。ここまで抜かりなしだった。

 

 

でも、これは異常すぎた。

 

こんなにも混沌の奇兵が揃っているとは思わなかった。

 

 

……いや、これはそうなって当然なのか?

 

 

つぎはぎだらけの穴だらけの塔。

 

白と黒、または光と闇。

 

その両属性を拘る故に乱雑ながらも塔を構築しようとし、その過程で光と闇の両属を内包した混沌にまつわる固体、または個体。

 

それら一部として……シェムハザだった。

 

この塔を生成するにあたって条件通りの混沌資質持ちだからこそ、こんなにも乱雑にかき集められてしまったのだろう。あと奇兵と言うくらいだ。コスパが良すぎた個体故にこんなにも集められてしまった。そういうことか。

 

 

「ギ、ギギ、ギギギ」

 

 

首から上がない機械仕掛けの天使。

 

声が出ない代わりにネジや歯車が軋むような音で喋る。言葉はわからない。

 

まあ十中八九、滅びを讃歌する紡ぎか。

 

俺の命を葬ることに躊躇いないらしい。

 

 

ああ、確かに天使だな。

 

役割に忠実極まった天使だ、コイツも。

 

 

 

「ぐ、ぅ、ぅ、ぐ…」

 

 

迫り来るシェムハザから離れようと体を引きずって距離を取る。

 

しかし体から流れる血が移動量を阻害し、それ以上にシェムハザの歩幅の方が大きい。

 

顔が無かろうと性格に俺の元まで死神のように近づいてくる。不気味すぎて敵わない。

 

 

 

「(天使に殺されるなら、本望…だけ、ど)」

 

 

けれど天使にこの命を取られるなら、俺は永久に祝福してくれる天使達にこの命を委ねて絶えたい限りだ。そうして朽ちたい。

 

だから断じて心の無い機械仕掛けの天使紛いにこの命を捧げてやらない…お断りだ!

 

 

 

まだ!

 

まだだ…っ!!!

 

 

 

「!?」

 

 

後ろに下がるごとに指先が触れる。

 

淡く光る魔法陣が指先に重なる。

 

反応している。

 

 

 

 

 

 

___混沌属性を、ココに。

 

 

 

 

 

 

「!!……ごほっ!ごほぉぉ!ゴロロぉ、おろぉぉゴろ…!!ごほっ!」

 

 

頭の中に響いた何者かの声に驚き、同時にゴロゴロと肺の中で掻き回される血液に呼吸が詰まらせながら巡っていた思考が血に濡れる。

 

 

しかし『混沌』の単語に体が反応する。

 

溢れる痛覚に脳が遮断しようと意識が奪われていくが、俺は『混沌』の言葉に従いながらガタガタと膝を地面に付いて体を起こし、迫り来るシェムハザを睨みながら拳に二つの属性を纏わせる。

 

 

今だけ___解放しろ!

 

権限を与えられし、混沌勇者の力を!!!

 

 

 

 

「ぅぅぅぐぅぅぅう!!」

 

 

 

強く拳を握りしめて魔法陣を叩く。

 

すると魔法陣が反応した。

 

 

 

「かっ…!」

 

 

 

しかし同時に、人の身で混沌勇者としての封印職を開いた反動によって、背中に突き刺さっているシェムハザのランスを真っ赤に染めながら血飛沫を上げ、意識は激痛と共に飛び、体から全ての感覚が消えていく。

 

 

 

「(や、ば……も、う……から、だ…が…)」

 

 

 

 

混沌属性に__いや、混沌勇者の力に反応した魔法陣はこのエリア全て包み込むように広がり続ける。

 

すると混沌を秘めた魔法陣の侵食によって床や壁が次々と崩壊し始めた。

 

どうやらこのエリアの異空間が混沌の衝突によって壊れたようだ。

 

 

 

___混沌破り(カオスバスター)によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  パリン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ダメ…生きて。天使の勇者」

 「そうだ。まだ死ぬなよ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

二つの声が聞こえる。

 

 

聞いたことない声だ。

 

 

でもわかる事がある。

 

 

聖素が感じ取れたから。

 

 

だからこの二つの声は天使だ。

 

 

そこに悪意も何も感じ取れない。

 

 

そう安心感を覚え、意識を手放す。

 

 

柔らかな包容を最後に感じながら。

 

 

そこに身を任せて……意識は底に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおー、中々いい感じの焼き加減だな!ルシフィナ!」

 

「あら本当ぉ?やっと連続で綺麗にステーキを焼けたわね」

 

「それでもまだまだ綺麗に焼ける!もっともっと精進するぞ!」

 

「料理の道は険しいわね。ふふっ…素敵」

 

 

 

一人はとある下位天使__名前はコルク。

 

そして、もう一人は上位天使…なんて言葉に当て嵌めることが不可能な程の階級を持つ最上位の天使__その名はルシフィナ。

 

天使問わず誰もが恐れる存在。

 

しかし、ここエンリカでは天使の階級など関係は無くなり、堕ちた者同士が隣人として助け合うのが人間社会の生き方。

 

もちろん尊重し合う事が大切。

 

隣人を自分のように愛せよ。

 

それが難しくとも上下関係に囚われず、皆が慎ましくとも皆で朝日を迎えれる、そんな素敵をこの場で望まれる。

 

だから下位天使ことコックエンジェルのコルクは原初の天使だったルシフィナに躊躇いなく料理のイロハを落とし込む。

 

そんなルシフィナも、料理となれば躊躇いのないコルクの付き合いに喜ばしく想いながら素敵なステーキを焼けるように日々研鑽。

 

それはいつしか、生意気ぶってくれたとある人間の青年を見返すためだから。

 

だからルシフィナはこの日々に素敵さを感じながらフライパンを握りしめていた。

 

 

「よし、今日はココまでにしよう!お皿と調理器具を洗ったらお仕舞いだ!」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

コルクは手慣れた手つきで調理器具を洗い、ルシフィナは渡されたお皿や調理器具を布で水滴を拭って後始末をする。

 

最初はこんな簡単な事でも力加減を間違えて皿などを割ったりと大変だった。

 

なにせルシフィナにとって戦いが絡まない日常は何もかも未体験に等しく、子供でも出来るような事が普通な難しかった。

 

 

故にエンリカ生まれの青年は言った。

 

 

__人間のルシフィナはまだ子供だ。

 

 

年齢的には何千年と生きた天使であり、また地上の生活に関しても500年近くと長い時を生きてきたが、しかし人間のように日々を抱く生き方は全くの初心者。

 

小さな子供よりも物書きができるだけで、いざ日常生活が始まるとなると、仕事体験をした事がない幼い子供のように未経験のレッテルが彼女を襲い、では何かその他の経験を引き出して活かそうとしても戦いだけが取り柄だったルシフィナにとってどれも不要なスキル。

 

モンスターは焼けてもステーキは焼けない。

 

 

そして今も思い出す。

 

初めて出会った人間の青年__エリーカ・ハルトマンとのキャンプで焼いてもらったステーキをルシフィナは覚えている。

 

適当に集めた焚き火でだけであんな簡単に肉を調理してしまい、火加減も味加減も狂いなく美味しくステーキを焼いた。とても美味しい食事だった。生意気な味付けも忘れれない。

 

 

だから今こうしてステーキを焼く。

 

あの生意気小僧を見返すために。

 

人間になれたと報告するために。

 

それをたったの数十年しか生きてない弱い生き方を相手に、何千年も生きた強い天使が人間初心者として素敵なステーキを答えにする。

 

 

 

「エリーカ、今日は何処に出掛けたのかしら?」

 

 

黒塗りのアリスの騒動以来、エリーカはその戦地となっていた元天界__現在はスノウヘブンと名を変えた天使達のホームタウンで街づくりを行い、残された天使達を助けている。

 

原初の天使に飽き足らず、その他天使にも救いを差し伸べる彼。

 

そのためある者は天使の勇者として感謝を込めて彼を讃えている。

 

それほどの影響を与えながら青年は今日も天使のために奔走してきるのだろう。

 

だから最近は朝の「おはよう」の挨拶以外に接点は無し。やや寂しさも感じてきた。

 

でもルシフィナはそんな生意気小僧がまた己のために生意気エリーカをしてくれると確信している。だってあの者はそうだから。

 

 

 

「うふふふ……今日も素敵」

 

 

 

天使の輪っかと、天使の羽。

 

それらを隠してエンリカの服を着こなす。

 

側から見ればただの女性。

 

それが本物になるように彼女は今日も目指す。

 

素敵な、素敵な、人間のルシフィナとして。

 

それが生意気エリーカに示す答えだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急に届いた声に従った結果、光と闇を兼ねるカオスバスターの力で魔法陣に混沌属性が込めた事で魔法陣がエリア全体に展開され、塔内を拡張していた異空間に干渉し、結果てしてエリア破壊を行なった。

 

そうしてシェムハザの大軍から状況を切り離したが、しかし無差別なエリア破壊には変わりない。つまり仲間を顧みないやり方だった。

 

シェムハザよりも身軽なあの3人ならエリア破壊を察して撤退してると思うが、それでも心配だ。

 

どうかトリンとジェサイアの前衛二人が合流していることを祈るしかない。そうすればティルのバックアップも十全になるから。

 

 

 

そして__一人逸れた俺はエリア破壊に飲まれてそのまま真下に落ちてしまった。

 

なにせ異空間に弾かれたから。

 

この状態は言わば、描き殴られたノートの外に弾き飛ばされてしまったようなものだ。

 

そんな感覚を肌身で感じる。

 

それは混沌勇者としての力があるからこそ狭間が理解できてしまうのか。

 

 

ああなんとも、過ぎた力だ。

 

 

俺は別に勇者をしたい訳じゃないのに。

 

 

ただ天使のために日々を尽くしたいだけ。

 

力があったとしても、ほんの僅かに先駆者たらしめれる力あればそれで構わないと思っていたのに、しかし大きな力を持つ者に責任とやらはこの世界でも強要されるらしい。

 

 

ひどいストーリーテラー。

 

 

やはりこの世界、クソゲーかもしれん。

 

だって人間の身で無理をしなければ押し通せない現実と現状が襲ってくるから。

 

 

ハインリヒ……君もそうだったのかな。

 

いつだって人間を凌駕するナニカが容易く奪わんとする。

 

 

俺の場合は……背中に槍が刺さった。

 

 

首を切り落とす程度で止まらなかったシェムハザによって背中から刺され、肺毎やられた。

 

それでいて後方に槍ごと投げ出されては溢れ出る血で地面を擦り、人の身の弱さと上位種には勝てない種族差を突きつけられた。

 

 

そして、この様だ。

 

 

 

別に、死を覚悟して無かった訳ではない。

 

一番安全とされるエンリカから人の身で出歩いているんだ。ならば何かの拍子で死ぬことは全くあり得ること。この世界なら珍しく無い。

 

だから2年前のヘルゴンド大陸にも覚悟していたし、その後の外海進出だって、黒塗りのアリスの時だって人の身に余る出来事なんだと理解した上で身を投じていた。

 

冒険者として外に出るからにはそれ相応の危険が身に降りかかるのは突然。

 

だからいつか何処かで死ぬ。

 

 

ああ__そんなの理解した上でいる。

 

 

今回だって未知の領域に踏み込んだ。

 

安全な筈のない未知の探索だ。

 

そこにトンベリ娘や聖魔大戦時代の猛者を連れたとしても、しかしそれで絶対に安全だとは限らない。敵に殺されなくても他で殺される。

 

安全が保障されてない外の世界に出るとはそういうことだ。覚悟はとうの昔にしている。

 

 

 

「____」

 

 

 

 

ああ、でも……そうか。

 

そう、なんだな…

 

俺このまま、朽ち果てるんだな。

 

 

 

やること…

 

残したこと…

 

色々と多すぎる…

 

 

特にスノウヘブン。

 

しかし俺がそこに居らずとも、先駆者気取りな俺抜きでも天使達はしぶとく生きていけることを知っている。万が一のためのプロセスだって残してある。それをエデンに伝えている。

 

 

ならば……大丈夫だ。

 

俺がいなくても、問題ない。

 

 

 

天使……

 

天使達は……

 

もう強く生きていけるから……

 

 

 

 

だから、この命……

 

ここで、絶えたとしても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……??

 

 

 

 

 

あれ?

 

 

なんで……意識が、まだ??

 

 

何故、まだ??

 

 

だって俺、もう死んでるはず……??

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうね。あと少し治療が遅かったら間違いなく心臓止まっていたわ…」

 

「ひどい怪我だったな…」

 

 

 

 

 

 

何者かの、声が二つ聞こえる。

 

 

これは…

 

ああ、そうだ…

 

 

そう言えば…

 

聞こえていたな。

 

優しい聖素と共に届いた声だ。

 

 

 

 

「_____ぅ…」

 

 

 

 

「お?気が付いたか?」

「無理しないで。このまま休んでなさい」

 

 

 

深く落ちていた意識が戻り始める。

 

それと同時に声も鮮明に聞こえる。

 

柔らかな聖素が優しく包み込む。

 

 

 

「ぅ、ぐっ……がっ…」

 

 

 

だが認識する毎に痛覚も芽生える。

 

背中を貫かれた痛みを思い出す。

 

 

 

「動いたらダメ。傷口が広がるわ」

「いま回復魔法を使ってる。安静にだぞ?」

 

 

 

背中の傷口にあてがわれる感触。

 

恐らく手で押さえているんだろう。

 

それと同時に回復魔法も感じ取れる。

 

つまり俺は魔法で治療されている状態だ。

 

 

 

「呼吸が落ち着いてきたな。強い奴だ」

「でもまだ無理したらダメよ。静かに」

 

 

 

痛みが引いていく。

 

痛覚に怯えていた呼吸も落ち着く。

 

確かに治されている感覚。

 

それが心拍を落ち着かせてくれる。

 

あと……柔らかい。

 

とても柔らかく俺を包み込んでくれる。

 

まるで……天使のよう抱擁だ。

 

 

 

「お、れは……まだ、生き……て?」

 

 

 

痛みが引いていき、余裕が生まれる。

 

このまま溺れ切っていたい抱擁の中だが、死の淵から醒まされた感覚は無視できない。

 

 

故にまだ生きていることを実感する。

 

俺は顔だけでも捩らせながら状況を把握しようとして、すると頬にふんわりと柔らかに包み込む感触が歓迎してくれる。これは…肌?

 

なんとも身に覚えある。

 

 

そう、言うならば___祝福を建前にした天使達によっていっぱいのいっぱいされてしまうあの心地よさと非常に似ている。

 

 

柔らかで、優しくて、あと柔らかい。

 

 

 

「ん"ん"ぅぅ………んぐ……ぁふ…」

 

 

「おいおい、甘えん坊かよ」

「構わないわ。たくさん私に甘えなさい」

 

 

 

あ、やべぇ。

 

これは底なしに深ぇ。

 

容易く心を奪わんとする抱擁。

 

身を預けることに抵抗の無い甘さ。

 

後戻りできなくなるほどだ。

 

 

 

「ぅ、ここ、は?」

 

 

「おお…?まったく理性が揺るがねぇな」

「私達の胸の中…あまり良くなかった?」

 

 

 

いやそんな筈はない。

 

めちゃくちゃ最高。

 

すっごいふかふかで気持ち良い。

 

このまま身を預けてたいくらいだ。

 

でも__慣れているんだ。

 

だって天使による寵愛は知っているから。

 

 

 

「めちゃくちゃ柔らかくて…このまま溺れ切りたいほどだけど…俺は、ここで終われんっ」

 

 

まだ意識は朦朧としており、目覚めたばかりの視界も明瞭ではないが、ぐぐっ!と食いしばって起きあがろうとして……ズキリ!

 

まだ痛みが残っていることを知る。

 

 

 

「いでぇ…ッ」

 

 

 

情けなく痛みを吐いて、背中から倒れる。

 

そうしてまた、ぽふん、と埋もれてしまう。

 

 

 

「落ち着きなって。まだ治ってないぜ?」

「そうよ。まだ完治してないわ。無理はダメ」

 

 

と、両肩を抑えられてそのまま再び柔らかな体の中に押し込まれたようだ。

 

焦っても仕方ない。

 

俺は呼吸し、ゆっくり目を開ける。

 

目の前にいる、それは___天使。

 

天使が二人、俺を優しく受け止めている。

 

すると深めの赤い肌色をした女性がコチラを覗き込んでいることを視認する。

 

 

「よう、完全に目覚めたか?」

 

 

吊り目の女性がコチラの顔を覗き込む。

 

それも至近距離で。少し驚いてしまう。

 

あと全裸だ。

 

ええと…これは何事か?

 

 

 

「大丈夫?まだ辛いところ無い?」

 

 

と、頭の上から声を掛けられる。

 

俺は視線だけ上に向けると、絹のように真っ白な肌をした女性が心配そうにコチラを覗き見ていた。あと羽が見える。それも天使の羽。

 

 

「天使……なんだよな?」

 

 

「お?分かるのか?」

「ええ、そうよ。私達は天使」

 

 

「そうか……」

 

 

天使と聞いて安心してしまう。

 

さっきまで天使の光輪を浮かばせた機械仕掛けに殺されそうになったと言うのに。

 

でもこの二人は違う。

 

 

 

「相変わらず……天使は美しいな…」

 

 

「急に口説いてくれるじゃないか」

「ふふふっ、ありがとう」

 

 

この反応だとやはり天使で間違いないよだ。

 

何せ先ほどから誤魔化しがないほどに聖素を感じ取れるから。

 

まあそれと同時に感じ慣れない…いや、感じ慣れたことはあるが、異質な属性も感じ取れてそれだけは警戒心に繋がってしまう。

 

でもこの二人から敵意は感じられない。

 

無害だと判断できてしまう。

 

 

「俺を、助けたのは…君たち?」

 

 

「ああそうだ」

「同時に私達も解放されたわ」

 

 

なんの話だろうか?

 

俺は別に、この二人に何かを___いや、待て。

 

 

 

「もしかして君達二人は…あの結晶の中に封印されていた天使なのか?」

 

 

「そうだぜ。私達は封印されていた」

「役割の喪失と共にああやって眠っていたわ」

 

 

なるほど。

 

この二人はあの結晶の中でそれぞれ上下逆さまになっていた、天使達か。

 

会話と共に思い出せてきた。

 

お陰で意識も芽生えてきて、思考も回る。

 

 

 

「俺が落ちて…どの程度、時間が経った?」

 

「それほど経ってないな。でもあの場所から弾かれて別の異空間に流れたのは確かだな」

 

「貴方が魔法陣を利用してあの拡張空間を破壊したからね。お陰でギリギリ均衡に保たれていた光と闇が崩壊し、空間は崩壊。そうして弾かれるようにこの場所に落ちたわ」

 

 

なるほど。

 

元々それほど大きくなかった塔の内部を大きく拡張していた空間は、俺に破壊されたことで崩壊し、そこにいた俺と封印されていたこの天使二人は異空間に飛ばされたわけか。

 

てかカオスバスターってそれほどなのか?

 

本来この封印職ってトンベリ娘のような混沌住人をも手懐けてしまう『魔物使い』のような力だと聞いている。俺がトンベリ娘のトリンに好かれている理由もカオスバスターとしての【凄み】があるからと後にミカエラさんの考察によって判明した。で、スノウヘブンの南にあるイリアス神殿とかで調べたらその通りだった。

 

しかし現在は意味合いを変えて【混沌破り(カオスバスター)】として変化している。

 

原因は俺が【混沌勇者】としての資格持ち。

 

光と闇を兼ね備えた者による性質変化。

 

黒塗りのアリスの件で進化した俺は混沌を掌握する者として新たに力を得ている。

 

エコーズの血がそれを助長させてくれた。

 

 

 

「アレで異空間を破ったのか、俺は…」

 

 

 

俺自身まだ理解が足りてない部分はある。

 

しかし分かる事としては、ハインリヒと融合した結果として俺の中に混沌勇者としての資格が芽生え、それが混沌破りを可能とさせてしまっていることになる。

 

ただのカオスバスターがここまで意味合いを含めてしまうとは思わなかった。これも勇者として選ばれてしまった者の末路か。それとも世界が俺にそうさせたいのか。

 

と、言っても俺が勇者にされちまったのはルシフィナが原因なんだけどね。ほんまあの天使…

 

 

__ともかく、だ。

 

俺達が混沌破りを行ったことであの拡張空間が壊れてしまい、そのまま俺も弾かれてしまってこのよく分からん空間にこの天使と居る。

 

 

周りを見渡す。

 

薄暗い空の下にいるようだ。

 

床は半透明な紫色のタイル。

 

足場は用意されているみたい。

 

でも行き止まりのない異空間。

 

もしや閉じ込められたのか?俺は?

 

 

「そう不安になるなよ。大丈夫だって」

「異空間でも入口があるなら出口もあるわ」

 

 

それほど変化のない筈の表情の筈だが、感情を乗せた眼の揺れと弱り果てた体から放たれる雰囲気が教えたのだろう。まあ天使ってそういうところあるからな。元は導く存在だし。

 

 

……まて、元?

 

そういや彼女達は…

 

 

 

「二人は、何者なんだ?封印もされていて…」

 

 

 

痛みと共に落ち着いてきた思考。

 

冷静になったことで疑問が芽生える。

 

すると俺を背中から抱きしめていた肌白い天使がギュッと抱きしめてくる。

 

 

 

「聞いたら…怖いわよ?」

 

 

「怖い?天使が?それなら平気だ。なにせ俺はもっと恐ろしい天使(ルシフィナ)を知っている。君たち程度に怯えはしないな」

 

 

「お、言ってくれるな?なら答えるか」

 

 

 

目の前の肌赤い天使が挑戦気味に笑う。

 

 

 

「本当に聞くのね?」

 

「ああ」

 

「……そう」

 

 

繰り返して確認してきた肌白い天使に俺は頷くと彼女はとうたう諦める。

 

しかしどこかホッとしたように表女を見せると体をギュッとされる。

 

その抱きしめは恐れを込めるよりも親しみを込めるような抱擁だった。とても柔らかい。

 

 

 

 

 

アポトーシスって聞いたことあるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?じゃあ何?混沌の神ってのは本物と偽物の二つだってのか?」

 

「そうよ。一人は貴方が聞いていたアリスという神になってしまった方の存在ね。でもそちらは偽物の道化師。世界を跨ぐほどの力はあるみたいだけど本物じゃない。本当の混沌の神は私達をシステムの一部として生み出した果てしなき存在。それは産まれた時から混沌として定められた本物の神よ」

 

「まぁ蓋を開けたらとんだパパっ子だったらしいけどな、その混沌の神も」

 

「な、なるほど??」

 

 

聞けば聞くほどスケールが大きくなっていた。

 

最初はアポトーシスという単語だけなら一度は聞き覚えありそうな言葉だが、そこから始まるアポトーシスの意思やら、役割やら、色んな話を彼女達から聞き、そのアポトーシスも時には表世界を侵食して次々とアポトーシス化させてしまうなど話が大きくなった。

 

そんな二人も元は普通の天使の姉妹だったが、混沌の神によって世界を滅ぼす奇兵という役割を背負わされてしまい、役割を受けた証明として彼女達は天使であるがアポトーシスとして部類されることになったらしい。

 

そうして与えられた名は__シスエル。

恐らくシスターズエンジェルの略。

 

そしてシスエルは先ほど無数に湧き出てきた混沌の奇兵たるシェムハザの司令塔であり、これら奇兵はシスエルの号令によって表世界に住まう生き物達を蹂躙して浄化させる。そんな役割を背負っている。確かに恐ろしい話だ。

 

 

しかし今は何もかも全てが良き方向へと解決したためお役目ごめんとなり、シスエルはアポトーシスとして表世界の裏側にある混沌世界でひっそりと忍んでいようと思っていたが…

 

 

「この塔の管理者たる魔術師が、この塔を生成するあたって光と闇をかき集めてたことでシスエルとシェムハザはこの場に運悪く巻き込まれてしまった、と?」

 

「その通りよ。だから私達は終わった役割を繰り返さないようにこの塔にあるシステムを利用して自分達全員を封印したわ。でも貴方はあの世界の勇者と同じ、混沌を秘めし勇者だからこそ封印されていたシェムハザが起動した」

 

「おいおい、プログラムガバガバかよ…」

 

「だってこんな乱雑な繰り返しに引っ張られるようなアポトーシスだわ。表面の力は強くても内側は単純なのよ。だから理性も意思も無い空っぽの兵器は動いた。この世界を滅ぼす必要がないのに与えられた役割通りに機能した。それにより貴方は目の前にいた浄化対象としてシェムハザに襲われたわ」

 

「ひでぇ玉突き事故で笑えねぇ…」

 

 

でもなるほどね。

 

この塔の管理者は今回の件は狙って用意した訳では無く、これはたまたま。

 

ただのイレギュラーだ。

 

乱雑にかき集められた光と闇、その両属性を合わせた混沌要素。その結果シスエル達が塔の生成に巻き込まれてしまい、そこに俺が現れた事で運悪く機能した。そういう流れか。

 

しかしイレギュラーねぇ。

 

これって場合によってはもっと別の混沌要素がこの塔に流れ着いた可能性もあるのか?光と闇ならなんでも御座れって感じだからなこの塔は。

 

そう考えると流れ着いたのがシスエルで良かったと思うべきか?

 

そりゃシェムハザは心の無い混沌の奇兵だったけど、でもアレも与えられた役割通りに動いてただけで刺激さえしなければ問題無しだ。

 

流石に表世界に出すわけにはいかないが、司令塔たるシスエルがシェムハザの機能を止めてくれるので解決できる。そう考えるとこの塔に招かれたアポトーシスは彼女達で良かったかもしれない。背中の傷は…まぁ運が悪かった。

 

 

「だから、ごめんなさい……無意味にエリーカを傷つけてしまったわ……」

 

「そんな!待ってくれ。アレは事故だよ。シェムハザはシステム通りに動いてただけ。混沌勇者を察して動いてしまったが…でも言ってしまえば俺が割って入らなければ済んだ話。だからこの背中の傷は君達が負い目を感じる必要なんて一つもない」

 

「けれど…」

 

「俺は君が理性のあるアポトーシスの天使で良かったと思うよ。こうして助けてくれた事に感謝している。背中の傷も治してくれて、それで俺は死なずに済んだ。ありがとうシスエル」

 

 

 

何度も言うけどアレは事故だ。

 

たまたま混沌の勇者がいて、たまたまそこにアポトーシスがいて、たまたまそれがシェムハザだった話。

 

誰も予想は出来なかった展開だ。

 

本当に運が悪かった。

 

だからシスエルが負い目を感じる必要は無い。

 

だって……こうなったのはエンリカの外を出歩いた俺が原因である。

 

 

__この傷は村の外に出た代償である。

 

 

それも何年も前からだ。

 

天使を探すためとはいえ、エンリカを出て冒険することを選んだエリーカ・エコーズの選択。

 

ならいつか迎えることになる死など、何処で起きてもおかしくないんだ。

 

それが今回、シェムハザだった話。

 

 

この世の冒険者は___まったく予想できない場所で命を落とし続けている。何人も。

 

俺もその一人だ。

 

なんら珍しいことではない。

 

 

 

「傷を治してくれてありがとうシスエル。お陰で俺はまだ生きているよ」

 

「!!」

 

 

感謝を告げる、この天使に。

 

この天使がその気になれば拾い上げた俺をそのまま食い物に出来た。あらゆる意味で。

 

でもこの天使は純粋に助けてくれた。

ならそれでいいじゃないか。

 

コントロールできなかったシェムハザに負い目を持とうが、俺にとっては終わり迎えそうな命を心優しい天使が息吹き返させてくれた。だから感謝している。

 

 

 

「……エリーカ、こっち来て」

 

「へ?……むぐっ!」

 

 

いつの間にか接近していたシスエルが両腕で俺を抱きしめ、ギュッと胸に寄せる。

 

こちらの胸板に、彼女の豊満な胸が押し潰す。

 

ロリ巨乳天使に負けない柔らかさだ。

むぎゅぅぅ…と、底抜けな程に押しつぶす。

 

すると後ろからも肌赤い方のシスエルもニヤニヤと便乗するように俺を後ろから抱きしめる。

 

そうして両サイドから豊乳を目立たせながら天使特有の柔らかさを全面にグニグニむにゃむにゃと魅惑的に潰しながら抱きしめてくる。

 

 

「あぁぁ…もう……これだから人間は好き」

「だってよ?エリーカ。良かったな」

 

 

 

なんか好かれた。

 

まあ、上位種ってこう言うところあるからな。

 

サキュバスや獣族のように同じ人型でも種族的に劣る人間に対して、こういった種族差特有のクソデカ感情はよく見たことある。それは庇護欲だったり、愛情だったり、尊さだったり。

 

まあ俺達人間が猫や犬を見て可愛いと思うとそれと似たようなものだ。それがもんむす基準では人間に対して特別ベクトルが強い。

 

 

さて…

 

 

 

「シスエル達はこれからどうするんだ?」

 

「エリーカを私達の子供にするわ」

 

「そう言う意味じゃねぇーよ。てか俺はあと2年で二十歳だっての」

 

「関係ないわ。エリーカのことはこのまま私達がお世話するわ」

 

 

あかん、このままではシスエルの赤ん坊にされてしまうかもしれない。

 

ちなみにマーメイドの秘術とか、サキュバスのミニマム魔法、あと高度な魔法の使い手なら幼体化させる魔術とかで、対象を若返らせることで普通にでちゅね遊びとかできる。

 

なのでもんむすに赤ん坊にされてしまうって結構他人事ではなかったりする。

 

 

「悪いけど…俺は君達だけの者ではないよ。何故ならエンリカに住まう天使達の共有財産扱いになっちまってるからな。なのでこの独占欲は受けれないね…っと!」

 

「ぁ」

 

 

っと、俺はスルリと天使の抱擁から抜け出す。エンリカでもむぎゅむぎゅされる身、包囲から抜け出すのは慣れてるんだよ。

 

それはともかく少し体を捻りながら動いてみたが完全に痛みが引いていることを理解する。さすが天使の治癒力だ。

 

 

「さて、この異空間の出口は何処だ?」

 

「アッチだぜ。異常があったら引き返せよ」

 

「どこぞの8番だよソレ」

 

「冗談だよ。ちゃんと案内するよ」

 

「…仕方ないわ。貴方がそうしたいと言うのなら私は止めれないわ…」

 

 

それからシスエルが指差す方向に歩いていくと感じ慣れた聖素が頬を撫でる。これは…

 

 

「やはり…!ティルの聖素だ!」

 

「エリーカの仲間か?」

 

「ああ!そうだ!分かる!分かるぞ!この4年間もふもふのくちゃくちゃのふにゃふにゃのドロドロにしてやったからな!ティルの聖素が手に取るようにわかる!」

 

「夜もか?」

 

「ああ!夜も…って、何言わせてんねん」

 

「天使に優しいのね、エリーカ」

 

「そりゃあ天使は好きだぞ。すっごい尊い」

 

「そう……ふふっ、なんだか嬉しいわね」

 

 

仲間の聖素を感じて少しだけ早足になってしまう俺に、二人のシスエルも少し地面から浮いて並走している。と、言うより…

 

 

「ありゃ?着いてくるのか?」

 

「封印を解いたのはエリーカだ。なら解放した責任とって貰わないとな」

 

「私は貴方がこの塔から無事に出れるか心配なだけよ。まぁでも…塔を出た後も心配だから私の気が済むまで貴方に着いていくわ」

 

 

どうやら最後まで俺と時を共にするらしい。

 

なら拒否する意味もないな。

 

それに封印から解かれた天使をこのまま…ってのもどうかと思うし、なら連れて行くか。

 

 

 

「エリーカ、正面に混沌を」

 

「え?…あ、ああ!そうか!」

 

 

 

塔の入り口を破った時と同じか。

 

俺は右手に光を灯し、左手に闇を灯す。

 

そうして両手を突き出して混沌を放つ。

 

 

 

混沌破り(カオスバスター)!」

 

 

 

そして異空間を遮る壁を破壊した。

 

 

 

__パリン!!

 

 

 

 

 

 

「!?」

「!?」

「!?」

 

 

 

壁を越えて塔の中で見た光景。

 

先程まで塔内を探索していた場所だ。

 

そして進んだ先にはティルの聖素。

 

つまり仲間がいることになる。

 

 

「エリーカ!?」

「エリーカ!!」

 

 

壁を破って飛び出してきた俺に驚き声を上げるティルとジェサイア。

 

それから俺はスタッ、と着地する。

 

 

 

「戻ったぞ、3人とも」

 

「!!、!!!」

 

 

生存を告げた瞬間、エンリカで受け止め慣れた弾丸ライナーが胸の中に飛び込んできた。

 

飛び込んでくる事は察していたので両手を広げて彼女を__トリンを受け止める。

 

ただし勢い殺せずそのまま尻餅をつく。

 

 

「ッッーーー!!」

 

「ああ。悪いなトリン。心配させちまった」

 

 

耳のヒレと尻尾をそれぞれ、カサカサ、バタバタと激しく揺らして感情表現を行う。そして小さな体でめいいっぱいギュッと抱きしめて俺の帰還を喜ぶ。すごく心配させてしまった。

 

 

「エリーカ、無事で!ああ、無事で!」

 

 

そしてティルも遅れて飛びついてきた。

 

もちろん彼女も受け止めて頭を撫でる。

 

 

「エリーカ、無事でよかったわ。でも、その…背中は大丈夫なの?たしか、貫かれて…」

 

「ああ、ジェサイア。それなんだけど…実は彼女達に助けられて」

 

 

俺は懐中でトリンとティルを慰めながらジェサイアに着いてきたシスエルを紹介し、それから傷の事について説明した。

 

シスエルはアポトーシスだけど天使には変わりなくて、そんな彼女は致命傷を受けていた俺を回復して助けてくれたとジェサイアに説明。

 

そのまま互いに自己紹介に入った。

 

 

 

「エリーカを助けてくれてありがとう」

 

「シェムハザの放置は私の責任や。それが人間を死に追い込ませてしまったことはむしろ私が皆様に謝罪しなければならない…」

 

「いやだからシスエル…アレは事故だって。もう気にしなくていい。君は俺を助けてくれた。今はその事実で良いんだ」

 

「エリーカ…………もう…」

 

 

と、困ったように声を漏らしながらも肌白い方のシスエルが俺を後ろから抱きしめる。

 

お陰で正面はトリンとティルの溢れんばかりの胸でいっぱいになり、後ろから抱きしめてくるシスエルも胸でいっぱいだからいっぱいになり、贅沢にお胸でサンドイッチにされる。

 

うへぇぇ。めちゃくちゃ柔らかけぇ。

 

ふかふかぁ。もちもち。ふにふに。

 

拙者、何もかも忘れてこのまま天使の抱擁に溺れてたいでござる。働きたくないでござる。

 

 

「エリーカ、顔がだらしないわ…」

 

「動けぇんのでぇ仕方なぁいねぇ…ぐへへ」

 

 

先ほどまでシェムハザとかいう処刑者に殺されそうになっていたため、今こうして人間よりも圧倒的な上位種に包まれている安心感が死の淵から返った心と体に染み渡る。

 

あと背中の傷は完治したけど精神的に少しだけ疲弊しているため、心に栄養を注ぐためにもしばらく胸でいっぱいしてたい気分だ。

 

まあトリンとティルもしばらくこのままだと思うので、ジェサイアには申し訳ないがこの胸いっぱいな状況が終わるまでは待て貰う__

 

 

 

「私もエリーカを祝福すると言ったわ。なら少し抱きしめてあげるわ。皆と一緒に」

 

 

と、そのまま待つ選択は取らず、むしろ揉みくちゃ状態の俺に便乗するが如くジェサイアも隣に腰掛けると、こちらのに寄り添うように肩に頭をコテンと置いて目を瞑る。そのままふんわりと抱きしめられる。

 

 

「無事で良かったわ……私たち…すごく心配したんだから……あのまま落下して闇に消えて……エリーカの気配が捉えれなくて……でもみんなで塔を探して……それで…」

 

「……ありがとうな、ジェサイア」

 

 

…うん___と、小さく言葉が返ってくる。少しだけジェサイアが幼なげに感じてしまうのは気のせいだろうか。でもそれほどに心配させてしまった事実には変わりなく、なんと動く腕を伸ばしてジェサイアの頬に手のひらを置き、あやすように優しく撫でる。

 

すると手のひらに少しだけ重さが乗っかる。

寂しさを埋めるような甘え方…

でも俺は気づかないふりをして続ける。

 

 

「なら私も余っているこっちを貰うぜ」

 

 

肌赤い方のシスエルがニヤニヤとしながら残されている腕にもたれ掛かり、その豊満な胸で俺の腕をムギュムギュと挟んでは確信犯のように押しつけてくる。

 

お陰で全方位包まれた。

コレでは一歩も動けない。

 

困った。

ちょっと勝てない。

 

 

「一応、まだダンジョンだからな?」

 

「ん………分かってる…」

 

 

 

でもあと一分くらいなら許される筈。

 

そう考えてもうしばし彼女達に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は識っていた。

貴方がここに辿り着く事を」

 

 

 

 

「あ、はい」

 

 

 

 

 

なんか格好つけたようなセリフと共に待ち構えている魔術師がいた。なんだコイツ?

 

 

 

 

 

「貴方がそう思うことも、私は識っていた」

 

 

 

 

 

なんかレスバ最強そうなこと言ってる。

 

ほんまになんだよコイツ。

 

 

 

 

 

つづく





終問答無用で吸いコろしてくるもんむす達に対してシスエルはコろさずに甘々で堕としてくるデカπ天使なんで怒涛の展開に枯れそうになる心にスゥゥと聞くんですよねぇ。分かるニキは絶対にいると思う。


【シスエル】
特異点世界にいたアポトーシス天使。ルカさんが世界を救ったことでお役目ごめんになったが、塔の生成にて別世界に引き寄せられてしまい、それで一緒に引き寄せられたシェムハザが悪さしないようにするため司令塔である自分を封印して眠っていた。その後エリーカと出会い、天使のために身を削る彼を甘やかしたくて仕方なくなり、結局そのまま着いて来た。

【ジェサイア】
エリーカをとても心配していた。

【ティル】
エリーカをすッっごく心配していた。

【トリン】
エリーカをめッッちゃくちゃに心配していた。

【エリーカ】
心配されてる3人を他所にアポトーシスだろうとシスエルは天使なのでそのまま引っ掛けて来た。ほんまコイツ…



じゃぁな!
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