転生して花屋になりましたが、せっかくなので世界を救おうと思います。 作:ジンの兄貴
ジョインアベニュー 『Rond-Point』
「綺麗な花が咲くもの、、、ですか?」
「えぇ、娘のお部屋が少し寂しくてお花でもと」
ライモンシティへ続くジョインアベニュー、そこに店を構えた花屋へ1人のご婦人がいらっしゃった。
毛並みの整ったヨーテリーを連れた彼女はは部屋を彩る植物をお探しらしい。
「はい、今だったらオボンの木が綺麗な花を咲かせますよ」
「え?オボンってあの?」
店の奥に置いてあったオボンの鉢植えをお客様の目の前に差し出した。
オボンの木はその名の通り『オボンの実』がなる木であり、このような花屋で取り扱っていることはかなり稀である。
本来ならば果樹園などで育てられており、実がなったらすぐに枯れてしまうことからオボンの花はあまり知られていない。
「こちらです」
「まあ、、、!」
見事な白い花弁が眩しく揺れ、その花弁自体が発光しているようにすら錯覚してしまう。
部屋でも十分に育てやすいサイズであり、手入れも比較的容易いものだ。
「ふふっ、綺麗でしょう?」
「それはとても、、、こちらをいただけますか?」
「もちろん。お手入れについてはうちのホームページに詳しく記載していますので参考にしていただければ」
「ありがとうね」
ご婦人に持ち帰りやすいよう袋へ優しく入れ、不思議そうな顔をして見つめるヨーテリーへ微笑みかけた。
犬らしい甲高い鳴き声をあげるとご婦人の足元を短い足で駆け回る。
「こらこら、、、」
「可愛らしいですね、お客様のパートナーですか?」
「この子は娘のポケモンでね、いまはブルーベリー学園の林間学校でキタカミの里っていうところに行ってるのよ」
「あぁ、なるほど」
「これがまた準備が大変で、、、」
鉢植えをカウンターに置き、しばしの雑談をお客様と楽しんだ。
ゆったりと時間が流れるこの空間が僕は好きだ。
前の世界では、とても経験したことのなかった時間である。
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僕はただの大学生だった。
名前は大園翔、19歳の典型的な一般人。
いつものように花屋でのバイトを終え、ハシゴしたコンビニバイトを惰性で終え。
薄暗い街灯が点々とする帰り道を不揃いな足並みで歩いていた時のことだ。
「あぁぁぁ、、、」
「疲れすぎ、私の方が長く働いてるんだから」
「いやさ、店長が力仕事ばっか押し付けてくるから労力的には僕の方があれだよ?それにハシゴしてるし」
「はいはーい」
隣にいるのは同じバイト仲間の山下
玲。
通ってる大学も学部も同じでバイト先も同じと、何かと共通点が多い。
顔は陶器ですかってくらいの美人系。美人な顔立ちから近寄り難いと思われがちだけど、意外とゲラなところがあり、普段のクール顔から笑った顔への変化を見た人はすべからく恋に落ちるというそうな、、、
「はーぁ、、、明日テストかー」
「翔の苦手なやつだもんね、勉強はちゃんとした?」
「してると思う?」
「するわけないと思ってる」
「せいかーい」
こんな箸にもかからないような会話を延々と続け、家までの道を辿るのが僕らのルーティン。こんなくだらないことでも、大学の友達からは「玲ちゃんと話せるお前なんなん?」と喧嘩を売られる日常です。
「じゃっ、じゃあ、、、翔?」
「はーい」
「今から私のお家に来てべっ、勉強してく、、、?」
「え、もう夜の11時よ?流石に迷惑でしょ」
「べっ、別に!」
「じゃあ他に誰か呼んだりする?」
「私は翔と2人がいい、、、な?」
夜の暗がりに紛れて判別しずらいが、月光に照らされて玲の大きな目が少しずつ潤んでいくのは見えた。彼女の目を見ていると吸い込まれそうになる、、、っていうかさ。
、、、、、、、、、これきた?
玲はこの沈黙が恥ずかしいのか、手持ち無沙汰気味に両手を組んで僕の答えを待っているようだ。
うぅぅ、、、可愛い女友達と勉強なんて!初めて大学生らしいイベントが今から始まります!!
でもこの日、このイベント発生前に水が差された。
「あぁぁぁ、、、うぅっ、、、、、、」
電柱のそばになんかいた。いや、うずくまって汚いダミ声を発しているスーツ姿のおっさんだ。
ここら辺は飲み屋も多いし、現在は深夜の1時だ。仲間と飲んでいてそのまま飲まれかけてるってやつだろう。
「あの、大丈夫ですか?」
「おい、やめとけって」
玲は見かけによらず優しいところも彼女が持つ性格の良さだ。
しかし、この時だけは余計な一言だったと心から思う。
ゆっくりと振り向いたおっさんの顔は人間がしていい顔ではなかった。
合わない目の焦点、足はもつれて千鳥足、右手に光る銀色の"何か"、、、そして赤く濡れたスーツ。
そして何より、こいつの足元にあったものが現実のものとは考えられなかった。
「あっ、、、うわああ゛ぁぁぁっっっ!!」
「きゃあぁぁぁっ!!」
倒れていたのは首から大量の血を流すおっさんと同じようなスーツ姿の男だった。そしてそれから一瞬の間にナイフが玲の胸元へ伸びてくるのが見えた。
それからの記憶は明確ではなく、朧げに『あっ、刺されたんだな』っていうことだけがぼんやりと。
最後に見た景色は血の気の引いた顔で、頬に涙を伝わらせて僕を見つめる玲の顔だった。
享年19歳というなんとも短く、面白みのない人生だった。
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「あら、もうこんな時間、、、ごめんなさいね?」
「いえ!この時間帯はめちゃくちゃ暇なので」
「こんな良いお店なのにもったいないわねぇ」
「ははっ、これくらいがちょうど良いですよ」
ご婦人は僕に小さく一礼をし、ゆっくりとライモンシティ方面へと歩いていく。
先ほどよりも少し嬉しそうな背中を見て、なんだか心が満たされた気持ちになった僕は軽い足取りで店内に戻る。
「ランクルス、この植木をそっちに運んでもらえるかな?」
緑色のぷよぷよとしたわがままボディ、そして可愛すぎる顔のパートナーの顔がニッコリと笑う。
僕がこの世界に来て初めてゲットしたユニランが進化し、大事なパートナーとなったランクルスである。
文字起こしするのも難しい鳴き声を上げ、サイコキネシスで僕の指示した場所へ植木を動かしてくれた。
「ありがとう、オボンの実いる?」
先ほどよりも一段とニッコリと笑い、僕の手元にあるオボンの実をふわふわと浮かばせて引き寄せた。
こういう少しの手伝いをしただけできのみをあげちゃうので最近は太り気味である。
「はぁ、、、幸せ」
最近は推しポケであるランクルスのお腹をつついている時間が幸せで仕方がない。
右手が信じられないほどに沈んでいくこの感覚、水風船みたい。
これで彼女の1人でもいたらもっと、、、いやいや。
「どうせ僕なんかに彼女なんぞ出来るわけないし」
ニャァァ!
「おぉ、慰めてくれるんか?」
ブルルゥゥ、、、
「やばい、うちの子たちが優しすぎて泣きそう、、、」
勝手に感情に浸っていると左手にレパルダスの頭が、頭を小突くようにメブキジカ(夏の姿)が僕を元気付けてくれているようだ。
ほんといい子達をゲットしたもんだよ、、、!
まぁ手持ちはあと3体いるはずなんだけど、そいつらは部屋の隅で居眠り中。
くそっ!みんなで僕を癒してくれよっ!!
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「あぁぁぁ、、、かれこれ花屋も半年くらい続けてきたし、ゲームみたいな展開も起きないし、、、」
メブキジカの毛並みを整え柄この世界に来た1年半を思い出していた。
初めこそ困惑したものの、生粋のポケモン好きである僕からしたら願ってもないこの状況!
さぁ、プラズマ団を壊滅させてやろうか、それともチャンピオンになってやろうか、、、と。
「プラズマ団の噂はまだ聞かないし、ジムリーダーに挑むには住民票が必要らしいし、、、」
プラズマ団という団体はゲームの世界のように演説や奪略行為を行なっていないし、そもそも存在自体をまだ耳にしていない。
意気揚々とポケモンセンターへ行き、サトシのようにポケモンリーグ挑戦の申請をしようとしたのに。
この世界のジョーイさんから『それではご住所の方をこちらに!』とすっごい笑顔で言われ、僕は苦笑いで返した。
そして「あははぁ、、、おぉっ!ひさしぶりじゃーん!」と存在しない知り合いめがけて手を振って茶を濁した。
「あんときは死ぬかと思ったなぁ、、、しんどさで」
その時のことを思い出したり、会話にしたりするだけで当時ユニランだったランクルスもぶるぶると震え出す。それもまたかわいい。
っていうか店ができてからは店中で寝泊まりしてるからここが住宅ってことでいいのかな?
「すみませーん!」
「はーい、少しお待ちくださーい」
店先に伸びてきた影と溌剌とした声に背中を叩かれ、僕はまた花屋の店主へと戻った。
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???
「N様、こちらへ」
荘厳な柱、流れる清流、僕の後ろに続く知らない人たち。ここがどこなのかも僕にはもう分からない。いや、忘れてしまったというのが合ってるのかな。
僕は促されるまま余計な装飾がついた椅子に座った。頭には何かしらの象徴である王冠が。
「N様、始めましょう」
父さんは僕のことをハルモニアという名前ではなくN様と呼ぶ。初めはなんで名前で呼んでくれないのとゴネたこともあったが、それももう諦めた。
目の前に並ぶ7人の男たちは僕のことを一心に見つめ、始動の一言を待っているようだ。
これから何が起こるかなんて僕には全く想像がつかない。数式で表せないことは判別がつかない。
でも、これだけは正しいことがよく分かる。
「さぁ、すべてのポケモンを解放しよう、、、!」