原作を深堀して描写をつけ足していく予定ですが、オリジナルエピソードも追加する予定です。
基本は一人称視点です。今話は狛治視点となります。
※初日なので3時間おきに一話ずつ投稿していきます。
プロローグ
「本当に俺でいいんですか?」
俺は、俺たちは花火がぽつぽつと打ちあがり始める中、あぜ道を静かに歩いていた。
俺の前には以前病床に臥せっていたのが嘘のように恋雪が歩いている。
そのか細く小さな背中に俺は問いを投げかけた。
しかし、恋雪は静かに歩くだけで、振り向くことはなかった。
返答があるまでの間、俺は先日師範から告げられた言葉を無意識に反芻させていた。
『この道場を継いでくれないか、狛治。恋雪もお前のことが好きだと言っているし。』
『は?』
青天の霹靂とはまさにあの事だったのだろう。俺は思わず気の抜けた返答しかできなかった。
一瞬呆けた俺だったが、自然と恋雪の方に視線が動いた。
恋雪は僅かに俯きながら、顔を徐々に朱色に染めて汗をかいていた。
そしてその表情は不安と期待、羞恥心の色が見え隠れし、流石の俺も勘付き、思わずつられて頬を赤く染める。
一気に身体が熱を帯びる。全身から徐々に汗が噴き出す。
あの日の俺は罪人の入れ墨が入っている自分の未来なんて想像できていなかった。ましてや誰かがそんな自分を好いてくれる未来なんて猶更・・・
「子供の頃・・・」
不意に意識が現在に立ち返る。恋雪が俺の問いに返答し始めたからだ。
俺ははっとして恋雪の次の言葉を待った。
「子供の頃・・・花火を見に行く話をしたの・・・覚えていますか?」
「えっ? いや・・・えっと・・・」
俺は即座に応えられなかった。恋雪にはとても正直に言えないが、本当に覚えていない。俺は焦り、僅かに慌てふためく。
「狛治さんとの些細な話で私、嬉しいことがたくさんありました。今年花火を見れなかったとしても、来年・・・再来年見に行けばいいって言ってくれた。私は、来年も再来年も生きている自分の未来がうまく想像できませんでした。」
恋雪が続ける言葉に俺は何も言えなくなる。恋雪は頬を朱色に染めたまま話を続ける。
「母もそうだった・・・だから私が死ぬのを見たくなくて・・・自殺したんです、きっと。父も心のどこかで諦めているのがわかっていました。私があまりにも弱すぎて・・・
だけど狛治さんには私の未来が見えていた。当たり前のことのように。来年再来年の話をしてくれたんです。本当に嬉しかった・・・!!」
恋雪は胸に手を当てたままそう言い切って、そのまま振り返り俺の手を握る。
「私は狛治さんが良いんです。私と
まるで今世一代限りとも言うべき勇気を振り絞ってるかのように、真っ赤になりながら汗をかいて、恋雪は不安げに俺を真っすぐ見つめそう告げる。
目頭が熱かった。きっと俺は今目尻に涙を溜めているのだろう。涙が零れ落ちてしまう前に、俺は恋雪の手を握り返す。
「はい。俺は誰よりも強くなって、一生貴方を守ります。」
花火が徐々に盛大に打ち上がると同時に、俺の言葉は闇夜に響く。恋雪の笑顔が花火の光に照らされて、より一層輝いて見えた。
あの日、俺は花火の音が鳴り響く夜に、恋雪と約束したんだった。
命に代えても守りたい。俺の大切な、最愛の人を。俺はこの時、そう誓ったんだ。
本来であれば、
善性に溢れた狛治という青年は、この後自身の命に代えても守りたかった二人を無残にも毒殺されてしまう運命にあった。
そして心優しき狛犬は、底知れぬ憎悪と憤怒に身を焦がし、自分の大切なものを奪った醜い弱者たちを『守る拳』を穢してまで蹂躙し虐殺するのである。
その一側面でしかない残虐な行いのせいで、あろうことか鬼の始祖に目をつけられ、己の意思とは無関係に鬼への変貌を遂げてしまう。
家族を失った世界で生きたくもなかったはずなのに、百年以上無意味な殺戮を繰り返し、その業を背負わされ、最期には愛する人と共に地獄にまで堕とされてしまう。
本来であればそんな悲しい悲しい青年の物語になるはずだった。
しかしこの物語そうはならない。
これは、上弦の参『猗窩座』となり果てるはずだった男が最愛の人を生涯守り通し、至高の領域へと至って上弦最強の男に届き得るまで強さを求める物語である。
続く
プロローグなので一番好きなエピソードから入りました。次回からは時系列順で投稿すると思います。
兎に角二人には幸せになって欲しい。生き抜いてほしい。その精神で執筆します。共感して頂ける方はお気に入り登録や高評価して頂けると励みになります。どうか二人の行く末を見守って下さい。