「では行ってくる。」
「はい、どうかお気をつけて。狛治さん、お父さん。」
「薬師寺殿、日中の恋雪さんの面倒を頼む。本当に貴方には頭が上がらん。」
「い、いえ・・・どうか無事に終わることを祈っております。恋雪ちゃんの容体が急変したらすぐに薬を処方致しますので・・・」
私は病床で上体だけ起こして狛治さんとお父さんが隣の剣術道場に赴くのを見送っていた。
その間、私は一人になってしまうので、かかりつけ医の薬師寺さんにお世話になる。やがて狛治さん達は行ってしまった。
「大丈夫です!! 慶蔵殿は勿論、狛治殿の鬼神の如き強さ、そんじょそこらの剣客相手に打ち負けるとは思えません!! 信じて待ちましょう!!」
「・・・はい。」
薬を処方してくれる薬師寺さんは私を励ましてくれる。しかしそれでも不安なものなのは不安なのだ。
もしも・・・もしも試合に負けてしまったとしても・・・どうか怪我などせず無事に帰って来てほしい・・・仮に道場に住み続けられなくても・・・狛治さんさえお父さんさえ無事に戻って来てくれたらそれで・・・
私が胸を痛めているうちに正午に差し掛かった。薬師寺さんが私の看病をしながらふうっと息をつく。
「しかしこれを毎日狛治殿がねぇ・・・重労働と言わんばかり・・・あっ!!」
つい気を抜いてしまったのだろう。薬師寺さんがそう呟くのが聞こえた。彼は申し訳なさそうにしている。
「す、すみません!! お気を悪くさせてしまい申し訳・・・」
「ううん、いいんです。当然のご感想ですから。母もとても苦しそうにしていました。」
「はは・・・お恥ずかしい・・・患者の方の前で弱音など・・・医療を司る者として不甲斐ないです。」
「いえ、そんなことはありません。きっと・・・狛治さんが特別なんです。初めてです。あんなに忍耐強くて弱音も言わず優しく接してくれるのは・・・いつも甘えさせて頂いております。」
「・・・あ、あの~・・・前から思っていたのですが・・・恋雪ちゃんは狛治殿のことを・・・?」
「えっ///!? そ、それは・・・聞かないでください・・・///」
「おおっと、それはすみません。年頃の女性にする質問ではなかったですね・・・」
「い、いえ・・・///」
私は途端に頬が朱色に染まっていることを自覚する。きっと見る人が見れば丸わかりだろう。私が狛治さんに想いを寄せていることなど。
お父さんも口に出さないだけで、きっと気づいている。最近なんて私が看病を受けている時にニマニマと笑っていることも多い。こればかりは仕方がなかった。
でも狛治さんだけは、何故か気づいていない気がする。特段私が徹底して隠しているというのもあるけれど、本来ならあっさり見破られても可笑しくないと思う。
私・・・女性として意識してもらえてないのかな・・・そうだよね・・・最初なんて厠で下の世話まで気にせずしようと考えていた人だから。
でも・・・それでも私は・・・狛治さんが好きだと言うこのどうしようもない気持ちをなくすことなど恐らく死んでもできないだろうと思っていた。
きっと死んだとしても毎日狛治さんの枕元に立ってしまうに違いない。そうしてずっと呼びかけるのだろう。それで狛治さんに悪寒を感じさせてしまったら申し訳ないのだけれど・・・
「え・・・慶蔵殿!? 狛治殿!? もうお帰りですか!?」
「えっ!!!」
私は薬師寺さんの声に反応し門の方を見る。なんとそこには傷一つなく、いつも通りと言った様子のお父さんと狛治さんが歩いていた。
「そ、それで結果は如何に!!??」
薬師寺さんはそう心配してくださる。ほんとに心根の良い方だと思う。
そして私の傍まで狛治さんが駆け寄ってくれて、部屋に上がり、私の肩に手を置く。
「約束通り取り決めをしてきました。もう大丈夫です、恋雪さん。心配かけて済みませんでした。」
「は、狛治さん・・・!!」
私は感極まってその場で狛治さんに抱き着いてしまった。人目など憚らないで。
「良かった・・・!! 本当によかった・・・!! 狛治さんにもしものことがあったら・・・私・・・私は・・・!!!」
「ええ、もう大丈夫です。約束しましたから。必ず決着をつけると。だから泣かないで下さい、恋雪さん。」
「うっ・・・うっ・・・うぇええええええんっ!!!」
私はそれでも大号泣してしまった。狛治さんの体温を感じて安心してしまった途端こうなのだ。きっと私は辛抱の足りない娘なのだろう。
狛治さんが優しく私の頭を撫でてくれている間に、お父さんと薬師寺さんが話してる声が聞こえた。
「えっ!? 真剣叩き折ったんですか!?」
「ガハハハッ! あの時は痛快だったなあ!! 向こうの道場主も面食らって一瞬で心を入れ替えてしまったぞ!? 狛治はもう素流の免許皆伝だな!!」
「やめてください。未だに師範との勝負で十本中二本しか取れないんですから・・・」
「いやいや、狛治殿。真剣を持った山賊数十人を相手取った慶蔵殿と比べるのはどうかと・・・この人その気になればヒグマも素手で倒せるのでは!?」
「ガハハハッ! ヒグマは流石に手甲が欲しいところだな!? 素手では流石に勝てん!!」
「・・・やはりこの御仁は化け物ですな・・・ハハハ・・・」
真夏の昼下がり。心地よい談笑の声が響き渡る。私はそれを聞きながら、狛治さんの体温を堪能していた。
続く
恋雪ちゃんマジ天使。尚狛治は恋愛感情に一切気づいていない模様。誰か彼の自己肯定感育ててあげて・・・