狛治外伝 ~誰が為に振るわれる拳~   作:科学大好き人間

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狛治視点です。時系列的には狛治が道場に来て二年経ってます。原作にないオリジナルエピソードですが一応関係はあります。

追記:お気に入り登録者数が200を超えました。ご期待に沿えるよう投稿頑張ります。


11話 花火

「なあ! 狛治!! 今日は花火が上がるそうだぞ? 気分転換に見に行ってきたらどうだ?」

 

「・・・恋雪の看病がありますので・・・」

 

 

 

俺は師範との稽古の合間にそのような提案をされる。

 

依然恋雪にも似たようなことを言われたような覚えがあるが気のせいだろうか。

 

どの道俺の返答は変わらない。恋雪を置いて一人で花火を見に行ったところで何の感慨も湧かない。そもそも花火などさしたりて興味も湧かないのだから。

 

しかしこの日、珍しいこともあるもので師範は想定以上に食い下がった。

 

 

「恋雪も以前よりずっと元気になったし背負って橋の手前まで行く分には問題ないんじゃないか? 何より恋雪が見たがっていたぞ?」

 

「恋雪が・・・?」

 

 

俺は少し悩む。確かに二年前に比べて恋雪の容体は相当改善してきている。今では厠で倒れることもないし、寝巻の交換や汗のふき取りも俺が付きっ切りで行う必要もないくらいになった。食欲も少しずつだが以前よりも増した気がする。

 

しかし外に連れ出そうと思うと懸念はある。咳が止まらなくなった場合、すぐにでも薬を飲ませて休ませてやらなければならない。

 

恋雪の願望を優先すべきか、恋雪の容体急変を懸念すべきか、非常に悩ましいところだった。

 

 

「・・・薬を常備するのは大前提として・・・少しでも恋雪の容体が悪化したら道場に引き返します・・・それでいいのであれば・・・」

 

「ガハハハッ! 遂に堅物の狛治も折れたか! なら恋雪に伝えてやらねばならんな! きっと喜ぶと思うぞ?」

 

 

そう言って師範は恋雪の元へと足を運んだ。俺は井戸の水を飲み、手拭いで汗を拭き取った後に、水を桶に汲んで二人の元へと移動した。

 

 

「恋雪、具合はどうだ? 苦しくないか?」

 

 

俺が部屋に入った時、師範と恋雪は何かを話し込んでいた。恐らく今日の花火についてだろう。

 

 

「あ! 狛治さん、ありがとうございます! 私楽しみです! 許可してくれて本当にありがとうございます!」

 

「まあ、容体が悪化すればすぐに引き返しますけどね。恋雪の身が最優先です。」

 

「まあまあ、狛治。今日は特に恋雪も元気そうだし問題ないだろう? お前は心配が過ぎるぞ?」

 

「何があるかわかりませんからね。最悪の事態を想定することも大事なことです。」

 

「何はともあれ恋雪にとっての生まれて初めての花火だ! こりゃあ一生の思い出になるぞ? ガハハハッ」

 

 

懸念事項はあるものの、恋雪も嬉しそうだし、師範もご満悦な様子。二人がこれ程喜んでくれると言うのなら多少無理してでも連れ出す甲斐があるというもの。

 

やがて夕刻に差し掛かる時刻になったので、俺は晩飯の準備を始める。恋雪も粥以外の食事が摂れるようになったし、二年前との差に俺は自然と笑みが零れるようになったと思う。

 

その後三人で夕食を済ませ、俺は恋雪の着付けを行い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? そう言えば師範は?」

 

「え、えっと・・・急なお仕事が入ったみたいでこれなくなったみたいです・・・ハハハ・・・」

 

「そうですか。まあ仕事なら仕方ありませんね。二人でこのまま出発しましょう。背負いますよ?」

 

 

俺は外行の着物に着替えた恋雪をおぶって道場をあとにした。

 

暫く歩いていると、どこからか花火の音が小さく聞こえるようになった。

 

 

「始まったようですね。」

 

「はい・・・私とっても楽しみです・・・!」

 

 

恋雪もご機嫌な様子。その喜びように俺も思わず笑みが零れる。花火なんて別に見たところで何の感慨も湧かないが、こうして恋雪が嬉しそうに笑っているのなら連れ出して良かったと改めて思う。

 

やがて遮蔽物のない橋の上まで辿り着く。俺たちが到着した時には既にぽつぽつと花火が上がっており、鮮やかな大輪が夜空で輝いていた。

 

 

「わあぁああ!! 凄いですよ狛治さん!! 空にお花が咲いてるみたいです!!」

 

「まあそうですね。花火というくらいなので。」

 

 

俺は恋雪の喜びように満足し、二人一緒に打ち上がる花火を眺めていた。

 

やがて花火の打ち上げも佳境に差し掛かってきたのか、次々と夜空を覆い尽くしその眩しさに俺たちは驚くようになった。

 

 

「わわっ!! 凄いですよ狛治さん!!! まるでお花畑みたいです!!」

 

「・・・お花畑?」

 

 

ふいに恋雪から出た謎の比喩に俺は一瞬戸惑うも、これ以上ないくらいに恋雪は輝かしい笑顔を咲かしているのを見て感慨深く思う。

 

こんなに喜んでくれるなら、来年も再来年も連れ出してやりたいなと、俺は胸の内で思うのだった。

 

 

「ねえ、狛治さん。」

 

「・・・なんでしょう?」

 

 

俺の耳元で恋雪が囁く。息が吹き掛けられるようなそれに俺はくすぐったく思うも、気にせず答える。

 

 

「また一緒に花火見に来ましょうね? 私も一日でも早く病気を治して狛治さんの負担にならないようにしますから・・・」

 

「ええ、是非ともまた見に来ましょう。しかし別に負担になんて思っていませんよ? 寧ろ恋雪の看病を通じて俺は・・・」

 

 

そこまで言いかけて俺は口を噤んだ。俺は今何を言おうとした? 一瞬自身の思考が及ばない感情が胸を満たしたような気がした。

 

俺が黙っていると恋雪は疑問に思ったようで、悪戯な笑みを浮かべて更に耳元でささやき続ける。

 

 

「今何か言い掛けましたよね? 狛治さん、一体なんて言おうとしたんですか~?」

 

「・・・別に何も。」

 

「え~? 絶対何か言い掛けましたよね? 内緒にしないでください、私気になります。」

 

「はあ・・・そろそろ帰りますか。」

 

「あ、ちょっと待って! まだ花火上がってるのに!! 待って狛治さん! 謝ります! 謝りますから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花火が夜空を覆い尽くす中、俺たちはそんなくだらないやり取りを続けて笑い合っていたように思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




一生二人にはこうして笑いあっててほしいです(切実)。
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