追記:先日日間ランキング36位でした。とても嬉しいです。引き続き皆様に楽しんでもらえるものを投稿していきたいと思います。
「見てください、狛治さん。この浴衣どうですか? 似合っていますか?」
「とても似合ってて良いと思います。」
「ありがとうございます!」
私は白地に紫の花
狛治さんも優し気に笑いながら私の浴衣を褒めてくれる。それが堪らなく嬉しかった。
今の私は、先日狛治さんと相思相愛になったことで幸福の絶頂だった。
お父さんに頼んで道場の引継ぎと一緒に私の狛治さんへの想いを伝えてもらうという、少々強引な方法ではあったけど、結果的に狛治さんは私の気持ちを受け止めてくれた。
もう嬉しすぎてどうにかなってしまいそう。本当に嬉しすぎて昨日から私はずっと頬が紅潮している自覚があった。
「では行ってきます。師範はよろしいのですか?」
「馬鹿を言うな。折角気を遣って二人きりにしてやろうとしてるんだから。恋雪も勢い余って羽目を外し過ぎるんじゃないぞ?」
「もうっ! お父さん!! そんなことしないから!! 行ってきます!!」
「ちょっ! 恋雪! 引っ張らないでください! あまり急ぐと転びますよ?」
私は狛治さんの手を引いて大慌てで出発する。お父さんは私がお手付きするようなはしたない女だと思っているのだろうか。凄く心外だ。私はちゃんと段階を踏もうとしてるのに。
そんな不満を胸の内に抱えながら、私は狛治さんと一緒にあぜ道を進んでいく。
以前は最寄りの橋まで狛治さんと一緒に花火を見に行ったが、今回は人目のつかない静かなところで花火を見たいと私が狛治さんに頼み込みこの道を進むことにした。
やがて私は狛治さんから手を離し、少し手前を歩きながら思考を巡らせる。
どうしよう。今更だけど凄く緊張してきた。昨日お父さん経由で私の気持ちは伝えたけど、やっぱり私の口からも想いを伝えたい。
でも緊張で中々話を切り出すことができない。私は悶々としながら歩き進めるだけだった。
「本当に俺でいいんですか?」
ふいに狛治さんからそう問いかけられる。その声音は浮ついたものではなくてとても真剣なものだった。
気持ちがふわふわしてた私もつられてすうっと冷静になる。私は黙ったまま歩き続けた。しかし、これは千載一遇の好機だと思って私は遂に万感の思いで言葉を紡ぐ。
「子供の頃・・・花火を見に行く話をしたの・・・覚えていますか?」
「えっ? いや・・・えっと・・・」
唐突な私からの返答は、不本意にも狛治さんを困らせてしまったようだ。私はめげずに続ける。
「狛治さんとの些細な話で私、嬉しいことがたくさんありました。今年花火を見れなかったとしても、来年・・・再来年見に行けばいいって言ってくれた。私は、来年も再来年も生きている自分の未来がうまく想像できませんでした。」
狛治さんは何も言わない。私は一息に自身の想いを言い切ってしまおうと決意する。
「母もそうだった・・・だから私が死ぬのを見たくなくて・・・自殺したんです、きっと。父も心のどこかで諦めているのがわかっていました。私があまりにも弱すぎて・・・だけど狛治さんには私の未来が見えていた。当たり前のことのように。来年再来年の話をしてくれたんです。本当に嬉しかった・・・!!」
私は目尻に涙を溜めながら胸の前で手を握りしめる。狛治さんへの想いが溢れて止まらない。
私は振り返り狛治さんを見据える。少しの不安と途方もない期待に俯きながら狛治さんの手を握る。
「私は狛治さんが良いんです。私と
女性の方から求婚するなんてはしたないと思われるかもしれない。でも私は狛治さんを逃したくない。狛治さんと結ばれたい。ずっと狛治さんの傍に居たいから。
狛治さんは照れるでもなく誤魔化すでもなく、ただただ目尻に涙を溜めていた。やがて顔を上げて私の視線と狛治さんの視線が交差する。
「はい。俺は誰よりも強くなって、一生貴方を守ります。」
狛治さんの言葉を皮切りに夜空に花火が多数打ち上がる。あたり一帯が鮮やかな光に照らされ、激しい打ち上げ音が鳴り響き続ける。まるで今の私の万感の思いを現しているかのように。
私は笑った。狛治さんもつられて優しく笑ってくれる。きっと私は今日というこの時を一生忘れないだろう。
やがて花火の打ち上げも終わり、あたり一帯が静寂に包まれる。
「・・・帰りましょうか。俺たちの家に。」
「はい・・・狛治さん・・・!」
私達は手を繋ぎながら、ゆっくりと暗闇の中を二人で引き返していった。
続く
女性側からの求婚なんて粋ですよね。それだけ恋雪ちゃんは狛治を掴んで離したくなかったんだと思います。いや、現実に狛治みたいな男性が居たら女性は逃しちゃいけないと思いますよ。きっとおばあちゃんになるまで大事にしてくれると思います。
長くなりますが、恋雪ちゃんの浴衣について解説させてください。全部読めば「ワニ先生凄ぇええええ!!!!」ってなるはずなので。では行きます。
恋雪ちゃんの浴衣の柄は紫の花菖蒲です。紫の菖蒲には『嬉しい知らせ』『伝言』という意味があります。その他、『情熱』『貴方を信じる』『優しい心』等々ありますが、どれもこの時の恋雪ちゃんの心境を表すにふさわしい花言葉ばかりです。加えて菖蒲の柄の服は縁起担ぎで『勝負服』として当時の人達に好まれていたそうです。まさに恋雪ちゃんが狛治にプロポーズするのにピッタリな浴衣だと言えます。
そして更に驚きなのが、菖蒲はヨモギと並ぶ鬼避けの植物ということです。この起源となった逸話が本当に凄いのでざっくり紹介します。以下概要です。
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一人の若者が『犬』を連れて『狩り』に出かけた先で『鬼』に遭遇する。慌てて逃げた先でヨモギの草原や『菖蒲』の茂みに転げ落ちると鬼は襲ってこなくなる。鬼にとってヨモギの葉は『火』、菖蒲の葉は『刃』に見えるらしく、それに気づいた若者は菖蒲の葉を『刀』にして鬼に立ち向かい、鬼は『森』へと逃げ帰っていった。
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如何ですか? 鳥肌もんですよね。特に『犬』がお供に付いてる物語を狛恋エピソードに盛り込んでるところに拘りを感じます。吾峠呼先生がここまで想定して浴衣の柄決めてたのなら驚愕する他ないです。更に更に菖蒲には毒があるとのこと。原作の毒殺を暗喩している花でもあります。これら全てを考慮して恋雪ちゃんの浴衣の柄を『菖蒲』にしたワニ先生には脱帽する他ありません。以上長くなりましたが、恋雪ちゃんの浴衣の柄の解説でした。楽しんで頂けていたら幸いです。