狛治外伝 ~誰が為に振るわれる拳~   作:科学大好き人間

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狛治視点です。夜が明けました。束の間の平穏です。


16話 新居

「狛治さん・・・どこに行っていたのですか?」

 

「・・・気分が落ち着かなかったので散歩に行ってました。不安にさせたのなら謝ります。以後このようなことはしませんので。」

 

「・・・」

 

 

俺は薬師寺さんの屋敷の玄関前で立ち尽くす。目の前には恋雪が目尻に涙を溜めて俺を待っていた。

 

結局恋雪には心配をかけてしまったらしい。切り傷は勿論、返り血も一切道着に浴びていないから、俺が剣術道場に殴り込みに行ってたことは恐らくバレないとは思うが。

 

しかし申し訳なくは思う。俺は辛抱できず感情任せに行動を起こした。恋雪に何の相談もせずに。それは咎められて然るべきだとは思っていた。

 

その後ろめたさに、俺は恋雪に頭を下げ続ける。

 

 

「狛治さん・・・今後どこかに一人で出かけるときは、私かお父さんに一言お願いしますね? 昨日の今日の出来事なので私凄く心配したんですよ?」

 

「・・・申し訳ありませんでした。」

 

 

俺が頭を下げて謝罪していると恋雪が俺に抱き着く。恋雪の肩が僅かに震えてるのがわかった。本当に申し訳なく思う。

 

 

「・・・何ごともなくてよかったです。私朝餉の準備手伝ってきますね? 薬師寺さんにお世話になりっぱなしという訳にはいきませんから。」

 

「・・・はい。お願いします。」

 

 

恋雪は俺から離れるとパタパタと足音を立てて台所へと向かっていった。俺はそのまま屋敷に上がり、客間らしき部屋へと到着して胡坐をかいて座り込む。

 

 

「狛治。少しいいか?」

 

「・・・はい。師範。」

 

 

俺は居住まいを正し正座する。師範は俺に正対する形で座り込む。

 

 

「昨夜、剣術道場に行っていたな?」

 

「っ!! ・・・どうして・・・」

 

 

俺は動揺を隠せなかった。なぜ師範にはバレてしまったんだ?

 

 

「拳がうっすらと赤くなっている。拳を振るった証だ。それも相当の回数をだ。お前が奴ら相手に殴り込みに行ったことは想像に難くない。」

 

「・・・やはり師範の目はごまかせませんか・・・」

 

 

俺と師範の間で気まずい沈黙が続く。やがて師範が口を開く。

 

 

「理由を聞いてもいいか? なぜそのような軽率な判断を下した?」

 

「・・・」

 

 

馬鹿正直に怒りの発露の為と言う訳にはいかなかったので、俺は後付けで考えた言い訳を述べる。

 

 

「奴らに釘を刺すためです。金輪際師範や恋雪には関わらせたくなかったので、武力で脅しを掛けました。奴らが奉行所に頼み込んで俺をひっとらえることも考えられたので・・・」

 

「・・・そうか・・・当然一人も殺してはいないだろうな?」

 

「はい。素流の信念に誓って。怪我人は何人か出しましたが、誰一人殺めてはいません。」

 

「・・・わかった。今回は不問とする。これ以上はもう何も言わん。それに・・・あまり恋雪に心労を掛ける訳にもいかんからな。黙っておいてやろう。」

 

「かたじけなく・・・」

 

 

そうして師範は表情を緩める。途端に俺の頭に手を乗せる。

 

 

「まったく・・・この馬鹿弟子が。そうなら俺も連れて行けっての。俺もまだまだ隠居には早いぞ?」

 

「はは・・・そうでしたね。すみません。」

 

 

やがて朝餉の準備ができ、恋雪の明るい声が屋敷に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は囲炉裏を囲みながら談笑を続ける。

 

 

「しかし引っ越すにしてもどこに向かいますか? 正直俺にそのような伝手はなく悩ましく思っているのですが・・・」

 

「任せろ狛治。以前仕事で縁を持った御仁に相談の手紙を出してみようと思う。快く手配してくれるに違いない。」

 

「ふふっ。お父さんが日頃から便利屋してたのが功を奏しましたね?」

 

「はは・・・師範は本当に顔が広い。頼もしい限りですよ。」

 

「しかし返事が来るまで数日は掛かるだろう。それまでは厄介になる。すまんな、薬師寺殿。」

 

「いえ、お安い御用です。引っ越した後も偶には便りぐらい下さいね? 直近だと狛治殿と恋雪ちゃんの祝言を挙げる際になるでしょうか?」

 

「ガハハハッ!! そうだな!? 色々あって忘れるところだった!! 新居が確定したらなるべく早く挙げねば恋雪が駄々をこね始めかねんからな!!」

 

「もうっ!! お父さん!! 私ももう十六なんだしそんな幼子みたいなことしません!! 言いがかりです!!!」

 

「ガハハハッ!! ならいいがな! 狛治も早く祝言上げて親父さんに報告せねばな? 少し先になるやもしれんが。」

 

「構いませんよ。親父もそれくらい承知してくれます。」

 

 

素流道場に二度と帰れない事実に物悲しく思うが、それでも未来の話をこうして語り合うのは非常に心温まるひとときだった。

 

 

「それじゃあ朝餉が済んだらお洗濯しますね! 狛治さん、着替えておいてください。道着洗いますから!」

 

「えっと、恋雪ちゃん? そんなに動いて大丈夫? 少し前まではそんなに元気じゃなかった気が・・・」

 

「ガハハハッ!! 恋雪も漸く狛治と夫婦(めおと)になれるから張り切っているのだろう!! 微笑ましい限りじゃないか!!」

 

「なるほど、それで・・・」

 

「もうっ!! 別に張り切ってません!! いちいち茶化さないでよお父さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな暖かな喧騒がいつまでも続けばいいと、この時の俺はそう思っていた。陽が落ち夜がやってくるまでは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




陽が落ち夜がやってくるまでは・・・
もう次で何が起こるかご想像つくかと思います。
答え合わせは次回となります。
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