「掏りの入れ墨はもう両腕に三本線だ。次は手首を斬り落とすぞ。」
ここは奉行所の白洲の場。ござの上で組み伏せられ、百敲きを受け、俺は全身痣だらけの血まみれ、所々皮膚も弾けて裂けている悲惨な状態だ。
刑罰が終わり、高いところからお奉行らしき男が俺に脅しをかけるが、俺は獰猛な笑みを浮かべ、笑い声をあげる。
「ハハッ、ハハハ! 斬るなら斬りやがれ!! 両手首斬られたって足がある!! 足で掏ってやるよ!! どの道次は捕まらねぇぜ!!!」
俺はそう啖呵を切り、内心悪態をつく。
うるせえ、黙れ糞が。金が足りねぇんだ。高いんだよ薬は。
俺は持って帰らなければならない。親父に薬を。
親父は今日も咳が止まらず血まで吐いていた。早く薬を持って帰らなければ親父は死ぬ。
どんどん痩せていくんだ親父が。背中もボコボコ骨が浮き始めてた。もっと栄養あるもん喰わせてやりたいんだ。
その為に掏りしてんだよ。文句あんのか馬鹿野郎が・・・!!
「僅か十一で犯罪を繰り返し、大の男ですら失神する百敲きを受けてこの威勢。お前は鬼子だ。」
「何とでも言いやがれ!! そうだ俺は鬼子だ! 生まれた時から歯が生えてたらしいからな!? 鬼子で結構だ馬鹿野郎っ!!」
暫くして俺は奉行所から解放される。
俺は帰路につきながら胸中で必死に念じる。
きっと俺が治してやるんだ。何度捕まって骨を折られようが親父の為なら何百年でも耐えられる。親父の為なら・・・!!
「狛治!! お前がまた捕まったって聞いて親父さんが首括って死んじまった!! 死んじまったよォ!!」
貧乏長屋に戻っていきなり聞かされたのがそれだった。俺は親父が書き残した遺書を渡される。
『狛治へ 真っ当に生きろ まだやり直せる 俺は人様から金品を奪ってまで生き永らえたくはない 迷惑をかけて申し訳なかった』
俺は乱雑に並んだ墓地に埋葬された親父の墓の前で膝着き、抱きしめるように縋り付く。
・・・貧乏人は生きることすら許されねぇのか・・・親父・・・こんな世の中糞くらえだ・・・
江戸で所払いの刑を喰らって俺は見知らぬ地へ転々と流れる。
人並み外れて辛抱の効く俺の身体は頑丈そのもので、過酷な生活が続いても死ぬことなく生き続けた。
とは言え飢えはどうにかできても乾きの方はそうもいかない。ある日俺は流れ着いた長屋の井戸の前で水を飲もうとした。
しかしそこに住む住人複数名の大人が俺に気づき、次々と集まり俺を追い出そうとする。
特に俺の入れ墨を見てうち一人が当然だとばかりに餓鬼の俺相手に殴りかかってきた。
それからはもう散々だった。俺も親父が死んだことに対するどうしようもない怒りと憤りを抱えていたから歯止めも効かなかった。俺は拳を振るうたびに理性を失う。
どいつもこいつもくたばっちまえ。
なんでこんな糞みたいな奴らが生きてて俺の親父が死ななきゃならねぇんだ?
迷惑なんかじゃなかった。なんで謝るんだよ。親父は何も悪いことしてないだろ?
盗みの刑罰を受けるのだって辛くはなかった。親父の為なら・・・
鞭で滅多打ちにされようが辛くはなかった。親父の為なら・・・!
なんで首なんか吊った。俺は死んだって良かったのに。親父の為なら・・・!!
親父の・・・為ならっ!!!
とうとうドスまで抜いて斬りかかってくる大の大人をも失神させて、俺は乱れた息を整える。
するとやや離れたところから拍手の音と共に明るい口調の男の声が聞こえてきた。
「おー、おー、大したもんだ。子供が殺されそうだってんで呼ばれて来てみれば、大人七人も素手でのしちまってる。お前、筋がいいなあ。大人相手に武器も取らず勝つなんてよ。気持ちのいい奴だなあ。」
「は?」
気が付けば白い道着のようなものを来た中年男性が一人俺の視線の先に立っていた。
俺はいぶかしむ視線をその男に注ぐが、対照的にその男は朗らかな表情で俺に語り掛ける。
「なあ、お前。俺の道場に来ないか? 門下生が誰もいなくてな?」
「うるせえ糞爺!! ぶち殺すぞ!!!」
「その入れ墨。江戸の罪人だな? 所払いの刑を受けてこの地まで流れて来たわけか?」
「だったら何だってんだ!! てめえには関係ねぇだろうが!!!」
「うむ! まずは・・・生まれ変われ少年! さあ来い!」
その朗らかに笑う中年男は掌を前方に掲げ、拳を引くような構えを取る。
「くたばれ糞爺!!!」
俺は恫喝してその男に殴りかかる。見るからに善人だが間が悪かった。今の俺は親父の死の怒りで激昂したまま理性が効かない。
一発で黙らせてやる。そのつもりだった。だが・・・
ドドドドドドドドッ!!!!!
左右交互に繰り出される凄まじい速度の拳打が俺の全身を滅多打ちにする。
俺は一瞬で失神し、その場で意識を手放した。
続く
映画だと井戸の前で殴られてるシーンがあったので流れ着いた先で水飲んでたんだろうなと思って脚色しました。