追記:先日お気に入り登録数が400を超えました。これほど多くの方に関心を持ってもらえるとは思っていなかったので感激しています。今後も毎日投稿継続していこうと思います。
「どうした!? そんなものか!? お前が後生大事に背負ってる素流ってのも大したことないな!! ハハハッ!!!」
「くっ・・・」
闇夜の中、俺と正十郎の打ち合う音が響き渡る。
剣速、膂力、反応速度、今までの比ではない。一瞬でも気を抜けばすぐさま一刀両断にされ俺は絶命するだろう。
しかし剣の腕がお些末なのは変わりない。そこが唯一付け入る隙だと思い、ふいに打ち下ろされる大振りに俺は拳を併せる。
ー素流体術 鈴割りー
正十郎の刀が半ばでへし折れる。俺はそのまま追撃を試みるが驚くべき事態となる。なんと奴の刀から赤黒い液体が浸出し、瞬く間に刀の切っ先を作り出したのだ。
「くっ!!!」
「ハハハッ!! 初見でよく避けたな!? 掠ればそれだけで終いだっただろうに!!」
俺は距離を取り、息を整える。奴の発言が気になり俺は聞き返す。
「どういう意味だ?」
「ふっ! 俺の血には毒が仕込んである。血より作り出したこの刀身で一度斬りつければ瞬く間にお陀仏さ!! さあ、もっと焦れ!! みっともないところを見せて見ろ!!」
「っ!! どこまでも卑劣な・・・!!」
俺は今まで以上に神経を尖らせ回避に専念する。隙を見て打ち込むも、奴に効いている様子はない。人間の身体なら既にあばらが折れ、内臓が傷ついてても可笑しくないはずだ。
にわかには信じがたいが、奴は鬼となり、肉体を再生させることができるらしい。
このような人外の化け物を一体どうやって倒せばいいというんだ。俺の体力とて無限ではない。長引けばそれだけこちらが不利となる。このままでは・・・
ー素流体術 砕式 万葉閃柳ー
ふいに正十郎の頭上に影が差し、奴は凄まじい重さの拳打で叩き伏せられる。土埃が上がり、俺に助太刀した当人は俺の背後へと着地する。
「狛治!! 奴は何者だ!? 少し見ていたがお前の拳打をものともしていなかった!! 尋常ではない相手だぞ!?」
「助かりました師範。突飛な話ですが奴は鬼になった正十郎のようです。本人がそう言ってました。」
「正十郎だと!? 道場の跡取り息子がここまで追いかけて来たと言うのか!? しかも鬼になっただと!? なんと面妖な・・・」
「今気にすべきは、奴が人外の化け物であるという事実です。頸を折っても死なず、急所に打ち込んでもびくともしない。現状倒す手段がありません。
加えて奴は摩訶不思議な妖術を使うようで、得物をへし折っても血で復元できるようです。加えて毒が含まれているらしく、かすり傷だけで致命傷を負うとのこと。気を付けて下さい。」
「それはなんとも厄介な相手だ・・・俺も多くのつわものと戦ってきたが・・・ここまでの奴は生まれて初めてだぞ? しかし鬼か・・・まさか実在したとは・・・」
「・・・師範はご存じなのですか?」
「いや、人伝いに聞いただけだ。奴らは夜になると現れる人食いの化け物で、朝日を浴びると死ぬらしい。加えて鬼狩り様という特別な武器を持つ方々であれば夜明けを待たずに殺すことも可能だとか・・・」
「っ!! 値千金の情報ありがとうございます!! つまり・・・朝日が昇るまでこの男を食い止めればいい。そういうことですね?」
「まあ・・・理屈ではそうだが果たして・・・」
俺と師範が話し込んでいるうちに、正十郎は陥没した頭部を再生させて目の前で再び立ち上がっていた。
「はっ!! 夜明けまであとどれだけあると思ってやがる!? それまで体力が持つのかよ? ええ!?」
「持たす。是が非でも。俺と師範の二人なら時間稼ぎくらいできるはずだ。お前の方こそ覚悟しろ。」
「ハハハッ!! こいつは笑いが止まらねぇぜ!! お前らがお天道様を拝むことはもう二度とねえよ!! 覚悟するのは狛治!! お前の方だ!!!」
そうして再び激しい打ち合いが続いて行く。
しかし師範が参戦したおかげで俄然戦いやすくなった。加えてとどめを刺すのではなく、足止めを目的とした継戦の姿勢を取ればいいという心構えもでき、先ほどよりも気持ち的にだいぶ余裕ができた。
奴の毒刀は細心の注意を払わねばならんが、如何せん剣術の腕はお粗末なもの。それからは一方的に俺と師範で袋叩きにするばかりで、正十郎は防戦一方となった。
「くっ・・・糞が!! 二対一なんて卑怯だぞ!!」
「黙れ!! 貴様こそ毒刀に頼る卑怯者であろうが!! さらには鬼にまで堕ちる始末・・・恥を知れ!!!」
「ぐぅうおおおおお!!!」
師範と入れ替わる形で俺が前に出て、ありったけ拳打を放つ。毒刀は砕け散り、正十郎も復元する余裕がないのか屈みこむ。このままこいつをこの場に縫い止めれば俺たちは勝てる。そう思った。だが・・・
「は、狛治さん? お父さん? 一体何が・・・」
屋敷から恋雪が顔を出し、あろうことか俺たちの方に駆け寄ろうとしている。恋雪は夜目が利く方ではないので、何が起きているのかを把握できていない様子。
「恋雪!! 急いで屋敷の中に戻れ!!!」
「え・・・」
俺は大声で恋雪に呼びかける。しかし一瞬とは言え、恋雪に意識を割いたのが駄目だった。俺は正十郎に蹴り飛ばされ、その隙に奴は恋雪へと駆け寄ろうとする。
「恋雪!! 元を正せばお前が発端だったんだよ!! 俺に散々恥をかかせやがって!! 狛治の目の前で無残に殺してやるよ!!!」
「恋雪っ!!!」
俺は体勢を崩したままで、すぐに駆けだすことができない。正十郎は鋭い爪を掲げ、恋雪へと迫る。
「死ね!!!」
「させるかっ!!!」
ー素流体術 鬼芯八重芯ー
間一髪で先回りした師範から、凄まじい速度の左右交互に繰り出される拳打を受けて正十郎は打ちのめされる。しかし・・・
「ぐはっ!!」
「っ!!! お父さんっ!!!」
先回りすることを優先したため、師範の体勢は悪く、拳に力が伝わり切ってなかったと思われる。その為、正十郎は殴られた後お返しとばかりに師範の肩口から腹部にかけてまで爪の引き裂きを繰り出していた。
血しぶきが舞い、師範はその場で膝を着く。
「お父さん!! お父さん!!!」
「すまん、恋雪。しくじった・・・」
師範はそう力なく声を漏らす。一拍遅れて俺は正十郎を思いっきり蹴り飛ばし、師範に駆け寄る。
「師範!! 気をしっかり保ってください!! すぐに止血すれば助かりますから!! だから・・・!!」
「はあ? そんな隙俺が与える訳ないだろ? 狛治さんよお?」
蹴り飛ばされたはずの正十郎が刀を再生させ、俺のすぐ傍まで迫っていた。
夜明けまであと二刻。長い長い夜をこの日程恨めしく思ったことはなかった。
続く
師範が脱落し、絶体絶命のピンチへと逆戻り。果たして三人の運命は? 次回決着です。