遂に鬼殺隊士としての俺の生活が始まった。
鎹烏を経由して、鬼の仕業らしき被害を聞いて、案内されるまま任務に出る。
初回の任務に行く際は、恋雪が大層心配するものだったから、宥めるのに苦労した。出発直前の時刻まで、恋雪は目尻に涙を浮かべ、俺から離れようともしなかった。
「大丈夫だ、恋雪。俺は強い。そこいらの鬼に負けたりしない。必ず生きて帰ってくる。俺を信じてくれ。」
「狛治さん・・・でも私・・・」
俺が恋雪を抱きしめ、頭を撫で、落ち着かせようと穏やかな声色で説得していると、やがて恋雪は観念したのか折れてくれる。おまじないと称して俺に口づけをねだるので俺はそれに応える。
「夜が明けたら一刻以内に戻る。約束する。」
「はい・・・どうかお気をつけて・・・朝餉の準備して待ってますからね? 絶対ですよ?」
「ああ、勿論だ。では今度こそ行ってくる。」
そうして俺は日暮れと共に出発する。家の前で藤の花の香が焚いてあるのを確認した上で。
しかし恋雪の心配はなんだったと思うくらい初任務は驚くほど早く終わった。一見即殺だった。鬼が一切反応する間もなく俺は鈴割りを叩き込み頸を刎ね飛ばした。猩々緋砂鉄並びに猩々緋鉱石で鍛えた手甲で打ち込んだため、鬼の体は塵へと還る。
俺は拍子抜けするも気は緩めないようにした。いつどこで命を落とすかわからない仕事だからだ。とは言え、折角早く終わったのだから、俺は一目散に家へと帰った。
家に到着すると貧乏長屋の入口で焚いていた香は半分以上残っていた。俺はそれを一瞥して家へと入る。
「只今・・・」
「っ!! 狛治さん!? もう帰ってきたのですか!?」
「恋雪? まだ寝てなかったのか? 既に草木も眠る丑三つ時だぞ?」
「え、えっと・・・すみません。狛治さんが心配で眠れなくて・・・」
恋雪は亡くなった母親の位牌の前で手を合わせて座っていた。恐らく俺の身を案じてずっと祈っていたのだろう。その様子に申し訳なく思う。
「そうか。心配を掛けて済まなかった。だが見ての通りかすり傷一つない。今後は安心して先に眠っててくれ。」
俺は手甲、小手、すね当て、鎖分銅、隊服を外し、寝巻に着替える。
「今夜はもう仕事はないからこのまま一緒に眠ろう。でも今後はちゃんと先に寝ててくれないと困るぞ? 俺だって恋雪の身体が心配なんだ。」
「わかりました、狛治さん。でも今後も早く終わったらすぐに帰って来て下さいね? やっぱり私、狛治さんの体温を感じられた方が安心できるので・・・」
「ああ、わかった。それじゃあ一緒に眠ろう。一晩中抱きしめてやるから、師範を見習って安眠してくれ。」
俺は隣でいびきを立てながら眠っている師範を一瞥する。恋雪と違って師範は俺のことを信頼しきってくれているのだろう。その事実に俺は嬉しく思う。
「はい・・・狛治さん・・・」
俺が恋雪と床で横になると、恋雪は漸く安心した様子で穏やかな寝息を立ててくれた。俺はそれを確認し、やがて眠りへと落ちた。
「おー、狛治。もう帰ってたのか。初仕事はどうだった? 大変だったか?」
俺は師範の呼びかけで目を覚ます。恋雪は今だに俺の腕の中で静かな寝息を立てていた。俺は上体を起こす。
「いいえ、瞬殺でしたよ。日輪刀の代わりの手甲さえあれば、手負いの師範でも手間取るような相手ではなかったと思います。」
「ほうほう、そうか。であれば狛治なら尚更手早く終わっただろうな。今後も早く帰ってこれるのか?」
「それは・・・わかりません。今後の遭遇する鬼次第でしょう。基本は相手に何もさせずに倒すつもりではいますが・・・」
「そうだな。まあそれでも狛治なら問題ないだろう。ガハハハッ!」
師範は豪快に笑う。この豪胆さを少しでも恋雪に分けて欲しいくらいだ。俺は師範に頼みごとをする。
「今後・・・恋雪が眠れなさそうにしてたら、師範から宥めてもらってもいいですか? 流石に夜通し起きてられると恋雪の身体が心配です。」
「うーむ、そうだなぁ。昨晩も散々大丈夫だと伝えたんだがなぁ。しょうがない。相分かった。今夜から俺が責任もって恋雪を寝かしつけるとしよう。それならお前も安心できるか?」
「はい。是非お願いします。」
俺と師範が話し込んでいるうちに、恋雪もやがて目を覚ます。
「恋雪。よく眠れたか?」
「はい・・・狛治さん・・・おはようございます。」
恋雪は微笑を浮かべ俺の問いに答える。やがて瞼をこすりそのまま上体を起こす。
「寝坊してすみません。すぐに朝餉の準備しますね?」
そう言うや否や、恋雪は囲炉裏の前で準備を始める。俺はその間外に出て鎹烏の飛影に確認を取る。
「え? 今夜は二件?」
どうやら飛影が俺の仕事の速さを上に報告してしまったらしい。その結果任務の数が増えてしまった。
「・・・別に構わないが・・・ならその分休暇を増やして欲しいと上に伝えてくれ。恋雪にはあまり心労を掛けたくない。」
俺は飛影を空に放ち、ため息をつく。恋雪と過ごす時間を増やしたくて任務を手早く終わらせたのに、これでは本末転倒だ。
飛影がうまく上を説得してくれるといいのだが、鬼殺隊は万年人手不足と聞く。望み薄だと俺は内心落ち込んだ。
「あ、狛治さん。朝餉の準備終わりましたよ?」
「ああ、済まない。ありがとう。早速頂くとしようか。」
「はい! どうぞ召し上がってくださいね?」
そうして俺は恋雪と師範の三人で食事を摂る。やがて朝餉を全て平らげ、片付けも終わり、二人は編み笠の内職に移る。
「えっと・・・俺も手伝おう。」
「駄目です! 狛治さん! しっかり休んで下さい! 狛治さんは鬼狩り様のお仕事があるんですから!」
「いや・・・昨日早めに終わってるから正直全然疲れていないんだが・・・」
「大丈夫です! これは私たちの仕事なので!」
「なあ恋雪、そう固いこと言わず狛治にもやらせた方が早く終わっていいだろう? お前も空いた時間ができればそれだけ狛治と自由に過ごす時間が増える訳だからな。その間父さんは外を出掛けてくるし・・・」
「っ!! な、なら仕方ないですね! 狛治さんも手伝ってください! その代わり夕暮れまでの時間は私の我儘聞いてもらいますから!」
その日、内職が終わった後、俺は恋雪が満足するまで解放されることはなかった。結果任務の出発時刻がギリギリとなり飛影に急かされて長屋を発つことになった。
続く
恋雪ちゃん本当に病弱なのかな?(笑)
まあ仲がいいようで何よりですが・・・
さて次は休日のお話です。日常回が今後書きにくくなると思うので書けるうちに書いておきます。本日の19:00に投稿します。