「・・・思ってたより多いな・・・」
「凄いですね、狛治さん。お給金ってこんなにもらえるんですか?」
「おお! 凄い額だ! 俺が出稼ぎしてた時の倍以上あるぞ!?」
俺達は三人で額を合わせて鬼殺隊から支給された初任給を確認していた。うん。相当な金額だ。鬼殺隊の給料ってこんなに高いのか?
癸の給金は一般人の月給と大差ないと聞いていたから、恐らくこの一か月で俺の階級が戊まで上がったのが主な要因だと思われる。
まあ確かに、既に鬼の討伐数は30体を超えたし、階級が上がってても不思議ではないのか。とは言え、未だに鬼と遭遇したら血鬼術を使わせる間もなく瞬殺してるだけだから特段頑張ったという実感も湧かないが。
「折角だ!! 今日ぐらい三人でどこかうまいものでも食いに行かんか!? ここは景気よく行こう!!」
「駄目ですよお父さん! 狛治さんが命懸けで稼いできたお給金なんです! 無駄遣いしたら罰が当たります!」
「しかし恋雪・・・そうは言うが偶の贅沢ぐらい別に構わんだろう? うーむ、死んだ母さんに似て段々しっかりしてきたな、恋雪は。」
師範は残念そうにうなだれている。俺はいたたまれず恋雪を説得する。
「なあ、恋雪。何か食べに行くくらいはいいんじゃないか? 二人だって毎日の内職で息が詰まる思いだろう。寧ろ俺は二人にこそ気分転換をして来てほしい。」
「もう・・・狛治さんがそう言うなら仕方ないですね。特別ですよ?」
「おお! 狛治! お前はやっぱり話の分かる奴だな! すまん! 恩に着る!」
「いえ、師範から受けた恩に比べればこの程度大したものじゃありませんよ。では俺は家にいるので二人でどこか食べに行ってきて下さい。」
「「え?」」
二人が疑問の声を上げるので俺は首を傾げる。なんだ。俺は何か変なことを言っただろうか。
「ちょっと待ってください。どうして狛治さんはお留守番しようとしているんですか?」
「いや、入れ墨あるのに店を出入りできる訳ないだろう。他の客といざこざが起きると面倒だし・・・」
すると二人は意気消沈する。俺は何かまずいことを言ったか? 更に首を傾げる。
「そんな・・・狛治さんを残したままどこかで楽しんでくるなんて・・・私・・・できません。」
「狛治よ・・・そんな悲しいことを言うもんじゃない。折角の機会なんだ。三人で出かけないと寂しいだろう?」
「え? あ・・・はい。」
俺はあっけに取られる。そうか。二人に寂しい思いをさせてしまうか。それは良くないな。しかしそうなるとどうすべきか悩む。
「わかりました! 私お弁当作るので、どこか景観の良い場所に出掛けましょう! お父さんも買い出し手伝ってくれませんか?」
「おお! そいつは名案だな! 良し! 荷物持ちは任せろ!」
二人は意気揚々と買い出しの身支度を整えて出かけようとする。俺は呆然とその様子を眺めるだけだった。
「じゃあ狛治さんは家で休んでてください。眠っててもいいですからね?」
「では狛治よ。行ってくる。留守は任せたぞ?」
「あ、はい。」
俺があっけに取られている間に二人は出かけてしまった。そして急に一人になる。手持ち無沙汰になるので俺は手甲や鎖分銅の手入れをすることにした。
気が付けば時刻は正午手前位になり、二人は意気揚々と帰ってきた。
「それじゃあすぐ準備するので待っててくださいね! もし出掛ける先の候補とかあったら考えておいてくださいね?」
「いや~、こうして三人で出かけるのは初めてじゃないか? わくわくがとまらんなぁ。」
二人とも凄いノリノリである。俺は二人の乗り気について行けずにいた。しかし出掛ける先の候補か。すぐには思いつかないな。
観光地に詳しい訳でもないし、日ごろの任務先でもそういう場所を意識したこともない。今後はめぼしい場所を覚えておいた方がいいかもしれない。
俺が頭を捻っていると、恋雪は弁当の準備を済ませ、出掛ける用意を完了させた。
「狛治さんお待たせしました! どこか行きたい場所はありますか? どこでもいいですよ?」
「・・・では花見でもいいですか?」
「おお、花見か! 今は五月中旬だが一体何の花を見に行くんだ?」
「・・・藤の花で。」
散々頭を捻りまくった結果、それしか思い浮かばなかった。今後は本気で観光先を調べた方がいいかもしれないなと反省した。
「鬼が嫌うと言う藤の花ですか? いいですね! お香でよく使っているので馴染みもありますし、これを機に見に行きたいです!」
「では最寄りで咲いている場所を案内します。ついて来てください。」
そうして俺は二人を連れてよく世話になる藤の花の家紋の家まで案内する。
庭先には大量の藤の花が咲いている屋敷で、俺は気兼ねなく敷居を跨ぎ、屋敷の長であるお婆さんに声を掛ける。
「すみません。今日は家族に屋敷の藤を見せたくて参りました。仕事とは関係ありませんがそれでもいいですか?」
「はい。構いませんよ。丁度お昼頃ですが昼餉は用意しましょうか?」
「いえ、こちらで持参したのでお構いなく。いつもお世話になっております。」
「いえいえ、狛治殿は礼儀正しくて親切な上に仕事熱心ですからね。私どももお世話のし甲斐があるというものです。どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ。」
そうして俺たちは縁側に案内される。目前一体に藤の花が咲き誇り、その圧巻の光景に恋雪も師範も頬を緩ませていた。
「凄いですね狛治さん! こんなに立派に藤の花が咲いてるところ初めて見ましたよ!」
「圧巻だな~。加えてこの藤の花が鬼から守ってくれるのだから畏敬の念すら湧いてくるぞ。日ごろのお香もそうだが感謝せねばならんなあ。」
二人はご満悦そうで俺は安心した。喜んでくれてよかった。
「じゃあ早速お弁当食べましょう! こんな立派な藤の花を見ながら食べられるなんて狛治さんに感謝しないといけませんね! ありがとうございます!」
「寧ろここしか思い浮かばなかったので。今後は別の場所も探しておくよ。」
俺達は恋雪の弁当を摘まみながら談笑する。確かにこうやって三人で景観の良い場所でゆっくり過ごすのはとてもいいなと思った。
俺は入れ墨があるせいで、町を歩いても人目が気になって落ち着くことができない。
店に寄るのも気が引けるのでこんな風に過ごせるなんて夢にも思っていなかった。俺は穏やかな笑みを浮かべていたように思う。
「狛治さん。」
「ん? どうした恋雪?」
気が付けば恋雪が俺の手に指を絡ませていた。
「狛治さんは、今幸せですか?」
俺は一瞬目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべて恋雪を見つめる。
「ああ。俺は恋雪や師範と穏やかに暮らせて本当に幸せだよ。これからもずっとこうしていような?」
「はい・・・狛治さん・・・」
恋雪が俺の肩に頭を乗せて身を預けてくる。俺はそれを支え、心穏やかに藤の花を眺めて居た。
師範もそんな俺たちの様子を見て、これ以上ないくらい嬉しそうにニコニコしていた。
俺はこの生活を守りたい。その為にもっと強くならなければ。この先どんな困難に直面したとしても二人の為なら俺は耐えられる。二人の為なら。
続く
入れ墨の制度が良くわかっていないので店に入りづらい設定にしました。結果、藤の花の家紋の家で休日を過ごすというエピソードになりました。こういうほっこりする話も個人的には好きです。恋雪ちゃんのハッスルしてるところが見たい読者の方は別の機会をお待ちください(笑)