狛治外伝 ~誰が為に振るわれる拳~   作:科学大好き人間

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前半白峰凍三郎、後半狛治視点です。原作一話目並みにしんどい話だと思います。読む際は心の準備お願いします。


29.5話 妹

俺は悪夢を見ているんだとそう思っていた。しかしそれは紛れもない現実だった。

 

俺は柱の巡回任務を終え、自身の屋敷に帰還する。

 

いつものように最愛の妹の寝顔でも見て任務で疲弊した心を癒そうと思い、妹の寝所へと真っ先に向かう。

 

 

「雪菜・・・只今・・・兄ちゃん帰っ・・・」

 

 

俺の声はそこで止まる。驚愕の事実に俺は微動だにできなくなる。

 

妹は鬼になっていた。妹は肉食獣のような縦長の瞳孔で俺を見据え、よだれを垂らして餌だと言わんばかりに俺に飛び掛かって来た。

 

俺は混乱状態だったが、それでも柱として鍛え上げられた技が無意識下で遺憾なく発揮される。気が付けば俺は妹を組み伏せ日輪刀を掲げていた。

 

そこで我に返る。骨の髄まで染みついたはずの剣士としての動きが止まる。

 

鬼は即斬る。当たり前のことだ。でもここにいる鬼は妹だ。俺の妹。・・・斬るのか? 俺が!?

 

今まで感じたことのないほどの吐き気と共に、俺は日輪刀を落とし、すぐさま妹の頸を一気に締め上げ気絶させた。

 

 

「雪菜・・・どうして・・・どうしてお前が・・・俺が傍にいなかったばっかりに・・・!!」

 

 

俺は手頃な毛布で妹を包んで、屋敷の蔵の地下に監禁した。

 

誰にもバレちゃいけない。バレれば妹は殺される。他ならぬ鬼殺隊の同士の手によって。

 

その日から俺は屋敷に出入りする隠に「蔵には近づくな」と命令して妹を隠し続けた。

 

俺は何事もなかったように振舞う。大丈夫だ。妹もそのうち落ち着いてくれるはず。鬼なんだから飲まず食わずでも死なない。あとは時間が解決してくれるはずだ。

 

俺はそう自分に言い聞かせ続けた。やがて柱合会議の日が来たが、その日もバレなかった。大丈夫。妹は未だに人としての理性を取り戻さないが、やがては落ち着いてくれるはずだ。

 

俺はそう現実逃避しながら日々の任務を消化し続けた。上弦の伍と戦う頃にはもう微塵も動揺なんてしなくなった。

 

俺は狛治さんと別れた後、上弦の鬼と会敵して得た情報を報告をするために、産屋敷邸へと赴いた。

 

大丈夫。お館様は勘のいい御方だけど、前の柱合会議でも気づかれなかったんだ。冷静さを装っていれば何も心配をする必要は・・・

 

 

 

「凍三郎。妹のことは残念だった。既に他の隊士に命じて拘束させてもらったよ。本日の正午より緊急柱合会議を執り行う。いいね?」

 

 

俺は上弦の伍に関する報告をした後、突如お館様からそう言い渡される。

 

俺は反射的に日輪刀を抜刀しお館様に振りかぶる。その刃が首筋に振り切られるや否やで俺は我に返り、日輪刀を放り投げ即座に土下座する。

 

 

「も、申し訳ございません!! 俺は何ということを・・・!!! 腹を切ってお詫び致します!!!」

 

「うん。踏みとどまってくれてありがとう。でも切腹はしなくてもいいよ。君の妹は残念ながらそういう訳にはいかないけれど・・・」

 

 

俺は最後の言葉を聞いて肩を跳ねさせる。思わず吐いてしまいそうになる。俺は必死に胃液を飲み込み、掠れる声でお館様に懇願する。

 

 

「どうか・・・どうか妹の命だけは・・・救っては頂けないでしょうか・・・俺はどうなっても構いません・・・お願いします・・・お願いします・・・」

 

 

俺は惨めったらしくうずくまったまま頼み込むことしかできなかった。嗚咽を抑えることもできず俺は土下座を続けた。

 

 

「君がこれまで柱として大勢の人を救ってくれた事実を私は知っている。君の願いであれば私はできることなら叶えて上げたいと思っているよ。けれど・・・」

 

 

俺は心臓を鷲掴みにされたような錯覚を覚える。

 

 

「でも君の妹は未だに人としての理性を取り戻してはいない。飢餓感に苛まれ、解き放てばすぐにでも周囲の人達に牙をむくだろう。鬼殺隊当主としてそれだけは容認できない。」

 

「ならっ! 俺が責任もって妹を監禁しておきます!! いつか妹が人として理性を取り戻すその日までずっと・・・!!」

 

「いや、それはできない。」

 

「っ!!」

 

 

俺は頭を下げたまま微動だにできなかった。

 

 

「鬼の視覚は鬼舞辻が共有している上に、鬼の居場所も奴には筒抜けになる。その気になれば、奴らはいつでも君らの下に現れることができるんだ。危険極まりない。」

 

「であれば! 敢えて無惨や上弦をおびき寄せて俺が責任もって奴らを亡き者にしてみせます!! ですからどうか!! どうか妹だけは・・・!!」

 

「君一人でかい?」

 

「・・・っ!」

 

「私はせめて・・・無事に生きている君の命だけでも救いたい。それに鬼を庇い立てする柱を私が認めたら他の隊士たちはどう思うだろうか。きっとこの組織は瓦解する。君一人で責任を取れる問題ではないんだよ? どうかわかってほしい、凍三郎。」

 

「・・・うっ・・・うっ・・・」

 

 

俺はお館様に諭され漸く自覚する。妹を生かし続けることの危険性を。俺はそのまま嗚咽を漏らし、涙を溢し続ける他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「識哉様!! 凍三郎殿は現鬼殺隊最強の剣士です!! 処罰などしたら今後の十二鬼月との戦いをどう進めて行けばいいと言うのですか!! 今一度ご再考を!!!」

 

「これ!! よさんか狛治殿!!! もう判決は下った!! 白峰の妹は鬼にされていたのだ! もう人には戻らん!!

 屋敷の地下に監禁してたため一度も人を殺めていないのは事実ではあろうが、柱が鬼を庇うなど他の隊士達に示しがつかん!!

 寧ろ白峰の代わりに他の誰かが潔く頸を刎ねてやることの方が優しさというものだろう!?」

 

「しかし!! 凍三郎殿にとっての生きる意味は妹殿です!! 処刑などしたら彼は鬼殺を続けることができなくなってしまいます!!!」

 

 

俺は産屋敷邸で識哉様に食い下がっていた。しかし識哉様は残念そうな表情を浮かべるだけで決断を改めてはくれない。俺は歯ぎしりする他なかった。

 

 

 

「狛治殿よ・・・落ち着け・・・」

 

「左近次殿!! これが落ち着いていられますか!? もし! 仮に恋雪が鬼にされて処罰なんてされたら俺は二度と立ち直れません!! 凍三郎殿にとっての妹殿は俺にとっての恋雪と同じなんです!!

 彼の力はこれからの鬼殺隊に必要不可欠です!! 左近次殿はそうは思わないんですか!?」

 

「狛治殿・・・これから先白峰の妹が人を襲わぬ保証はどこにもない・・・今この時も人としての理性を失い鬼の飢餓感に苛まれているのだから。もし仮に妹が人を襲った時やらねばならんことは二つ。妹を殺す。兄は腹を斬って死ぬ。鬼になった妹を生かし続けるとはそういうことだ。しかしこれは絶対にあってはならない。失われた命は回帰しない。二度と戻らない。人としての理性が戻らぬ以上、お館様の下した決断が最善と言える。残念ではあるが・・・」

 

 

俺は膝を着く。思わず涙が溢れる。短い間だったが、俺は凍三郎殿と接してわかった。彼は冷たそうに見えるが、人一倍情に厚い。じゃなきゃ鬼になった妹を皆に隠して監禁なんてしなかったはずだ。

 

玉壺と戦った時も俺が恋雪を残して死ぬことを良しとせず、退くところはしっかり退く判断をしてくれた。人のことを慮ってくれる少年なんだ。

 

そんな彼がたった一人の最愛の妹を失って生きていけるものか。どうしてみんなそれをわかってくれないんだ。

 

 

「明後日、凍三郎の妹は処刑する。これは決定事項だ。以上で柱合裁判を終了する。解散してくれ。」

 

 

識哉様も残念そうな表情でそう告げる。俺は誰もいなくなった枯山水の庭で一人、膝を着いたまま泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




今話の結末は以前書いてた鬼滅小説と関連したものになってます。原作の竈門兄妹とは状況が違い過ぎるので致し方ないかなと。やはり呪い解除がないとお館様は怖くて仕方ないでしょうね。無惨の監視の目が常にあるようなものなので・・・
そして次回は猗窩座の代わりである上弦の参を出す予定です。狛治に気づきを与えるエピソードでもあるので、受け入れてもらえると嬉しいです。
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