狛治外伝 ~誰が為に振るわれる拳~   作:科学大好き人間

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狛治視点です。ここ暫く胸糞な展開が続きましたが、雌伏の章はもう終わりです。次回から筆者の書きたかった内容が続いて行きます。ここ数話の負の遺産を今後巻き返していこうと思います。

追記:アンケート結果見ました。多くの方が下衆野郎ボコボコを望んでいるようなので再登場の方針で行こうと思います。恐らく兄上戦手前になると思いますので気長に待っててくれると有難いです。


30.5話 幸せ

「やはり鬼殺隊を辞めるのか? 凍三郎殿。」

 

「うん。ごめんね。なんだかもう疲れちゃって。でも呼吸の継承は子や孫の代までするつもりだから、もしかしたらそのどちらかが鬼殺隊に入ってくれるかも。そしたらその子たちをよろしくね?」

 

「何年後の話をしているんだ・・・凍三郎殿は・・・」

 

 

俺は凍三郎殿の仮住まいに赴いていた。今日で凍三郎殿は鬼殺隊を辞める。お館様も承認したとのことだ。

 

上弦の参との戦いで彼は明け方まで奮闘したが、左目と左手に取り返しのつかない後遺症を負ってしまった。もう前線で戦える体ではない。だがそれ以上に・・・

 

 

「はは・・・兎に角さ・・・俺はもう無理なんだ・・・今まで市井の人のためにと駆け抜けて来たけど・・・その人たちが大切にしてるものを守ってあげたいと思って戦ってきたけど・・・肝心の自分が大切にしてる妹は守れなかった。

 もう俺は・・・今までと同じようには戦えないよ・・・ごめんね? なんだか一人身勝手に逃げてるみたいだけどさ・・・」

 

「そんなことは・・・」

 

 

彼の心は完全に折れてしまっていた。身体の損傷以上にそちらの方が深刻だった。せめてあの日妹の仇を討てていれば・・・

 

 

「あの阿修羅鬼(あしゅらき)とかいう下衆は俺が必ず殺す。凍三郎殿の代わりに俺が妹殿の無念を晴らす。約束する。」

 

 

俺はそう宣言するが、凍三郎殿は苦笑いを浮かべていた。

 

 

「いや・・・失われた命は回帰しない。二度と戻らない。俺の仇を討つことよりも、狛治さんには自分の命と大切な人の命を優先してほしい。それが今の俺の率直な願いだよ。」

 

「・・・」

 

 

俺は、何も言い返すことが出来ない。励ましを送るつもりが、寧ろ心配をさせてしまっている事実に俺は苦虫を噛み潰したような顔になる。俺は拳を握る。

 

 

「だからさ・・・狛治さんは・・・恋雪ちゃんのこと・・・絶対最後まで守り通してね・・・そうしてくれると・・・俺も救われるからさ・・・」

 

「凍三郎殿・・・」

 

 

その震えた声を最後に、凍三郎殿は小さな荷物だけを担いでどこかに行ってしまった。小さくも頼もしかった彼の背中が、今は悲愴で埋め尽くれているのを俺はただただ眺めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狛治さん・・・大丈夫ですか?」

 

 

俺は岩柱邸で布団をかぶり引き篭もっていた。恋雪が心配そうに俺に声を掛ける。

 

 

「なあ、恋雪。俺は・・・彼にどう声を掛けてやるべきだったんだろうな・・・どうすべきだったんだろうな・・・」

 

 

俺は弱音を溢す。恋雪との間で暫く沈黙が続くが、恋雪は優しく俺に答える。

 

 

「彼は最後・・・狛治さんに何か言い残してはいませんでしたか? もしそうなら彼の思いを・・・狛治さんが繋いでいけばいいのではないでしょうか。」

 

 

俺は布団から顔を出し上体を起こす。凍三郎殿と交わした最後の約束。

 

 

『狛治さんは・・・恋雪ちゃんのこと・・・最後まで守り通してね・・・そうしてくれると・・・俺も救われるからさ・・・』

 

 

俺は拳を握る。

 

 

「それに、時々お便りを出しましょう。彼の新居の住所は教えてもらってる訳ですし、こちらから一方的にでも連絡をして差し上げたらどうでしょうか?

 きっと白峰様も・・・少しくらいは喜ばれるのではないでしょうか?」

 

「恋雪・・・ああ・・・そうだな。」

 

 

失われた命は回帰しない。二度と戻らない。この言葉の意味の重さを俺は噛み締める。そうだ。俺だって他人ごとではない。いつ恋雪を失うかわからないんだ。

 

俺はもっと強くならなければならない。誰よりも。例え相手が上弦であろうと、生きて帰ってこれるように。可能な限り恋雪の傍に居て守ってやれるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柱の任命を受けてから三ヶ月経った。現在鬼殺隊の柱は三名の為、一人一人に割り当てられる巡回範囲は広大であり且つ一夜での討伐任務も相当な数になる。

 

忙殺されそうな毎日だが、それでも何とかやっていけている。それはひとえに恋雪の存在が大きかった。

 

 

「只今、恋雪。」

 

「おかえりなさい、狛治さん。」

 

 

夜明けから半刻もしないうちに俺は岩柱邸へと戻る。屋敷の敷居を跨ぎ、玄関の扉を開けて装備を外していると、早朝にも関わらず必ずと言っていいほど恋雪が俺の下に駆けつけてくれる。

 

疲労を感じる身だとそれが本当に有難かった。そう思えるのもここ最近になって漸くではあるが。

 

柱になりたての頃、花柱の咲殿の訃報を受けて暫くの間、ずっと恋雪は俺のことを大層心配しててその様子を見るのが辛かった。

 

最初の頃は俺が帰宅するまで玄関で待ってたくらいだ。嬉しいと思う余裕すらなかった。あの時の俺は恋雪の身体が只々心配だった。

 

頼むから夜はちゃんと眠ってくれと伝えるも、その頃の恋雪はかぶりを振るばかり。結果、毎日のように俺は帰宅後疲れた身体に鞭打って恋雪を慰め続けた。

 

その甲斐もあってか、恋雪も徐々に安心してくれるようになり、気が付けば夜早く寝て日の出と共に起床し俺を迎える準備をするようになった。

 

 

「一番大変なのは狛治さんですものね。私、狛治さんの負担を少しでも和らげてあげられるよう頑張ります。狛治さんを困らせるだけの役立たずの妻になるわけにはいきませんもの。」

 

 

凍三郎殿の一件以降からか、恋雪は朝餉や朝風呂の準備をして待っていてくれるようになった。

 

俺があの日から終始元気をなくしているからか。寧ろ恋雪が俺のことを励まし慰めてくれるようになった。

 

凍三郎殿が鬼殺隊を去って以降、俺は何度も恋雪の世話に救われた。温かい湯舟は疲れの溜まった身体を癒し、きちんと栄養の摂れる食事は十二分に俺の身体を回復させてくれる。そして・・・

 

 

「狛治さん。おやすみなさい。」

 

「ああ、おやすみ。恋雪。」

 

 

そして俺が仮眠を取り寝付くまでの間、恋雪は俺の傍で添い寝をしてくれる。寄り添ってくれる。恋雪の温かな体温が心地よく、俺は抱きしめたまま眠りに落ちることが殆どになった。

 

おかげで正午手前まで熟睡することができる日々だ。夜の任務の疲れも、このように翌日の午前中で完全に消え去ることが多い。

 

 

「狛治さん、起きましたか? じゃあ私昼餉の準備してきます。四半刻程ゆっくりしててくださいね?」

 

 

俺が微睡みの中目を覚ますと、穏やかにそう言い、恋雪が床より起き上がり食事の準備をしてくれる。

 

俺はやや遅れて起き上がり、布団をたたみ、寝巻から着替え、日の光を浴びに縁側へ出る。

 

夜は悪鬼との戦いに明け暮れているというのに、昼間過ごしている間はその戦いが嘘のようだ。鬼殺隊に入ってから、日の光に何度感謝の念を抱いたかわからない。

 

俺が目を瞑ったまま静かに縁側で日向ぼっこしていると、パタパタと足音が聞こえる。恋雪が俺を呼びに来たのだと気づく。

 

 

「狛治さん。昼餉の準備ができました。腕に寄りをかけて作りましたよ?」

 

「ああ、いつも傍にいてくれてありがとう、恋雪。俺はこうやって恋雪と一緒に過ごせて心が安らぐ。救われる。幸せを感じることができるんだ。本当に感謝してる。」

 

「えっ・・・///」

 

 

俺の言葉が物珍しかったのだろうか。恋雪は顔を朱色に染める。

 

 

「すまない・・・唐突に何を言っているんだと思うよな・・・忘れてくれ・・・」

 

 

恋雪は暫く目を丸くしていたが、やがて俺の傍に腰を下ろし、俺の手に指を絡ませる。

 

 

「ふふっ。私も狛治さんとこうして一緒に居られて幸せですよ///?」

 

 

頬を染め、目尻を緩ませ、恋雪は俺の目を見てそう呟く。恋雪の熱が籠った視線に俺は照れくさくなり不意に顔を背けてしまう。

 

 

「えっ! どうして顔を逸らすんですか!?」

 

「いや・・・確かにこれは気恥ずかしいなと・・・今後は控えるとしよう。」

 

「ええっ!? そんなこと言わないでください! 私嬉しいですよ? 狛治さんの気持ちが聞けて。毎日耳元で囁いてほしいくらいです。」

 

「いや・・・毎日言ってたら有難みもなくなるだろう・・・」

 

「そんなことないです。毎日聞かせてください。そしたら私、心身ともに健康になって日に日に身体が丈夫になるかもしれませんよ?」

 

 

そう言って恋雪は嬉しそうに笑う。俺はそんな恋雪を見て釣られて笑みを溢す。恋雪が笑ってくれるのが嬉しくて俺は恋雪の小さな体を抱きしめる。

 

 

「ふえっ?///」

 

「じゃあ今後はなるべくそうしよう。俺は恋雪の笑ってる顔が好きだから。」

 

「は、狛治さん・・・///」

 

 

俺は抱き止めるのをやめて恋雪を見つめる。

 

恋雪は顔を真っ赤にして目を見開いてわたわたと慌てていたが、やがて動揺が落ち着いたのかはにかむ。なんでもない心温まる時間がゆっくりと過ぎていく。

 

 

「ふふっ。できればずっとこうしてたいですけど、そしたらご飯冷めちゃいますね? 狛治さんには出来立てのものを召し上がってほしいので・・・」

 

「ああ、済まない。すぐに移動しよう。」

 

 

俺が立ち上がろうとすると、袖を小さな力で恋雪が引っ張る。俺は目を丸くする。

 

 

「恋雪? どうした?」

 

 

恋雪は再び頬を朱色に染めながら振り絞るように俺に語り掛ける。

 

 

「それと・・・お昼を済ませた後はその・・・久々にしませんか///? 狛治さん・・・白峰様が引退されてからずっと元気がなくて、私遠慮してたんですよ?」

 

「う・・・それは申し訳なく思うが・・・しかし昼間からなど節操がないのでは?」

 

「だ、だって! 狛治さん夜中は任務に出て家にいないじゃないですか!? 必然的に夫婦の時間なんて昼間に取るしかありません! なのに狛治さんいつも鍛錬ばっかりで!!

 狛治さんにとっては私と過ごすよりも鍛錬する時間の方が大切なんですかっ!?」

 

「そ、そんな訳ないだろう? わかったからそう興奮するな恋雪。そもそも鍛錬を続けているのは恋雪を守り通すために強くなるのが目的であって・・・」

 

「もうっ! 偶には狛治さんの方から誘ってくれてもいいのに! 私狛治さんに求めてもらえなくていつも寂しい思いしてるのに!!」

 

「うっ! 別に俺は・・・その・・・恋雪とこうして穏やかに過ごせるだけで満ち足りてるんだ。だからその・・・それ以上を望むことがないというか・・・」

 

「ううっ・・・狛治さんがそう思ってくれるのは嬉しいですけど・・・だからって私・・・我慢しっぱなしだなんて・・・うっ・・・うっ・・・」

 

「恋雪っ!? わ、わかった! わかったから泣かないでくれ!! 済まない! 済まなかった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は気が付けば恋雪を泣かせる不甲斐ない夫となり果てていた。これでは師範にまた鍛錬馬鹿と叱られてしまう。俺はこれ以上ないくらいに反省した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




あ~あ。泣かせちゃった。狛治にはもっと恋雪ちゃんを満足させる旦那になって欲しいものです(え)。
そして次回は遂にあの上弦が出ます。兄上と会わせるよりも一波乱ありそうな例のとっととくたばれ糞野郎です。二人の邂逅をお楽しみに。

オリジナル上弦の登場についてどう思いますか?

  • 入れ替わりの血戦のやられ役なら有
  • 狛治がボコすなら有
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