狛治外伝 ~誰が為に振るわれる拳~   作:科学大好き人間

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狛治視点です。ほんと彼は善性の塊だと思います。どうか恋雪ちゃんと幸せになっておくれ。そう願わずにはいられない。


3話 来年再来年

「いつもごめんね・・・私のせいで鍛錬もできないし・・・遊びにも行けない・・・」

 

 

俺は常々思っている。

 

病で苦しむ人間は何故いつも謝るのか。

 

手間をかけて申し訳ない。咳の音が煩くて申し訳ない。満足に働けなくて申し訳ない。

 

自分のことは自分でしたいだろう。咳だって止まらないんだ。普通に呼吸できりゃあしたいだろう。一番苦しいのは本人のはずなのに。

 

苦しそうに床で臥せっている恋雪を見るたびに亡き父のことを思い出す。

 

俺は別に謝って欲しい訳じゃない。ただ・・・苦しみを和らげてやりたいだけなんだ。その為にはなんだってできる。なんだってできた。

 

親父の看病をしてた時もずっとそうだった。だから俺は恋雪になんでもないようにさらっと答える。

 

 

「遊びたいとは思わない。昔から。空いた時間にそこらで鍛錬してるので気になさらず。」

 

 

恋雪は本当に身体が弱かった。一晩中付きっきりで額に乗せる手拭いや寝巻を替えたり、こまめに水を飲ませて厠に連れて行く時は当然抱えて行かなければならなかった。

 

元々俺は親父の看病をしていたし、人並み外れて辛抱の効く体だったから、たいして辛くもない。

 

 

「でも・・・偶には気分転換に・・・今夜は花火も上がるそうだから行ってきて・・・」

 

 

恋雪は辛いはずなのにそんな気遣いを俺にしてくる。気にするなと散々言っているのに。だからと言って無視するのも違う気がする。

 

俺は手拭いを洗い、水で冷やし、よく絞って再び恋雪の額にそれを乗せる。

 

 

「そうですね・・・眩暈が治まっていたら背負って橋の手前まで行きましょうか。」

 

「えっ・・・」

 

 

俺は思い付きで恋雪の気遣いに返答する。

 

 

「今日行けなくても来年も再来年も花火は上がるからその時行けばいいですよ。」

 

 

別に大した手間じゃない。恋雪を厠まで背負って運ぶのと殆ど変わらない話だ。運ぶ距離が少々長くなるだけで、俺にとっては何の負担にもならない。

 

別に俺は花火なんてどうでもいい。見たいと思ったこともない。ただもし親父が見たいと言ってたら間違いなく背負って見せに行ってやっただろうし、恋雪が見たいのなら見せるだけだ。

 

それで少しでも病の苦しみを和らげてやれるなら、気を紛らわすことができるのなら連れてってやる甲斐もあるというものだ。

 

 

「・・・っ・・・っ・・・」

 

 

俺がそんなことを考えていると、突如恋雪が泣き始める。すすり泣く声が部屋に静かに響く。

 

看病で唯一面倒だと思ったのは、会話の途中で恋雪がやたらめそめそと泣くことだった。

 

病床で気が滅入っているのだろうが、泣かれるとどうにも居心地が悪くなる。

 

そんな時は、俺はその様子を咎めるでもなく、開き切った障子の枠に背を持たれ掛けさせ、懐からあるものを取り出し気を紛らわせる。

 

お手玉だ。まだ一つだけだが。手拭いが古くなったら捨てるのももったいないので、針と糸を借りてきて布を再利用して俺が作った代物だ。

 

元々着物直しも親父が病床に臥せって以降全部俺がやっていた。裁縫なんて自然と身に付いたことだ。別に自慢できるほどのものでもない。

 

俺はそれをポンポンと片手の上で投げては取り、投げては取りを繰り返す。

 

そうこうしてるうちに恋雪が泣き止むのがいつものことだった。恋雪が落ち着いたのを確認してから俺は手拭いを冷やす水の交換で井戸に水を汲みに行き、また戻る。

 

 

「そろそろ水を飲みましょう。上体を起こしますよ?」

 

 

俺はそう言い、恋雪を起こす。背中が汗でぐっしょりと濡れていた。竹筒に入れた水を飲ませたら、背汗だけでも拭いてやらないといけないなと思った。

 

 

「ごめんね・・・もう大丈夫・・・いつもごめんね・・・」

 

「ではそろそろ背中の汗を拭きます。後ろに回りますので着物を上体だけ崩させてもらいます。」

 

 

俺は淡々と言い、恋雪の着物を崩し、背中を晒してもらう。俺は替えたばかりの桶の水で手拭いを濡らし、背中の汗を拭きとり綺麗にする。

 

 

「はい。もういいですよ。では着物を戻します。そのまま前を向いててください。」

 

 

親父の時とは違い、俺は恋雪の背中側から着付けをしてやる。流石に同年代の異性に肌をまじまじと見られるのは嫌だろう。俺なりの気遣いだ。

 

今回は背だけだが、夕刻前には当然全身汗をふき取る。湯船に恋雪をつけるなんてできないからだ。

 

最初は難しかったが、慣れると不思議なもので、今では背中側から淡々と正面側を拭きとることが出来るようになった。それこそ目を瞑ってでもできるようになった。

 

俺がある程度慣れてからは、全身をふき取る際に恋雪が身体を強張らせることもなくなった。

 

俺が目を瞑ったままふき取ってるのを見て安心できるようになったのだろう。今では程よく脱力してくれるからこちらとしても楽だ。

 

 

「その・・・狛治さん・・・えっと・・・」

 

「はい。では背負いますよ?」

 

 

さっき水を飲ませたから催したのだろう。俺は察し、恋雪を背負う。厠まで運び、ゆっくりその場所に降ろす。

 

 

「扉の外にいるので終わったら声を掛けてください。倒れるような物音がしたらすぐ入ります。ふらついたらすぐ教えてください。いいですね?」

 

「は・・・はい・・・」

 

 

俺は扉の前で胡坐をかいて座る。懐からお手玉を取り出し、ポンポンと投げる。

 

最初厠まで担いで運んだ時は本当にしんどそうだったので、終わるまで傍で支えてやろうと思ったのだが、その時は恋雪に断固として断られた。

 

親父の時は下の世話まで含めて全部やってたからこちらとしては気にすることでもないのだが、恋雪はそうもいかないらしい。

 

元々は身内でもない赤の他人。傍に居ては流石に落ち着いて用も足せないのだろう。よく考えれば当然である。

 

 

「は・・・狛治さん・・・終わりました・・・」

 

「はい。では背負いますね?」

 

 

再び恋雪を背負い、もとの病床まで運ぶ。縁側から見える日は既に徐々に高くなり、正午へと近づいていた。

 

 

「では粥を作ってきますので、そのまま横になっていてください。時々様子を見に戻るので、何か手が必要な時は言ってくださいね。」

 

「はい・・・」

 

 

恋雪の顔が先ほどよりも赤くなっている。熱が出ているかもしれない。俺はよく冷やした手拭いを恋雪の額に乗せて、そのまま台所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




狛治みたいな子は絶対逃がしちゃ駄目だよと声を高らかにして言いたい。
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