43.5話 休暇
「あ、狛治さん! おはようございます! 漸く待ちに待った休暇ですね! 今日は何して過ごしますか?」
「・・・恋雪? 休暇? 何のことだ・・・?」
俺が重い瞼を擦って目を覚ますと、元気ハツラツな恋雪が床から先に起きて待機していた。俺が寝ぼけてそう言うと、恋雪は笑顔から一転し頬を膨らませる。
「もうっ! 今日からは滅多にない狛治さんの休暇日ですよ!? 昨日も一昨日も漸くお休みが貰えましたねって私言ったじゃないですか! 仮眠前にも確認したのにっ!」
「ああ、そうか。今日は休暇日か。確かにそんな話したな。」
早いもので俺が柱になってから一年少々経過した。振り返ってみると任務の無い日などなかったように思える。
あれ・・・前休んだ日って・・・いつだ・・・全く記憶にない・・・
俺は恋雪に確認する。
「なあ恋雪。俺が以前休暇をもらったのって、いつだったか覚えているか?」
「もうっ! 狛治さん働き過ぎです! 彼是この岩柱邸もらった翌日以来ですよ!? 私信じられません! 鬼殺隊って柱になったら申請しないとお休み貰えないんですか!?
私もう我慢できなくて、狛治さんに内緒で鎹烏使ってお館様にお手紙書く真似までしたんですからね!? それで漸くお暇を頂けたんです! それなのにもうっ!」
まさか一年以上休みなしだったとは・・・我ながら恐れ入る・・・今はただこの人並外れて辛抱が利く身体に感謝しなければと心底思った。
「よく今まで倒れなかったものだ・・・」
「本当ですよ! 私ずっと心配だったんですからね!? 遠回しに聞いても『俺は大丈夫だ。いつも支えてくれてありがとな、恋雪。』ってそう言うばかりで!
ほだされる私も私でしたけど・・・とは言えいい加減休まないといくら狛治さんでも身体壊れちゃいますよ!? 今日からは丸々一週間は休暇なんですからしっかり休んで下さい!」
「ああ、そうだな・・・」
ふと俺は脱力する。途端凄まじいだるさを感じ、俺は再び横になる。その様子に恋雪は慌てふためく。
「え!? 狛治さん大丈夫ですか!?」
「済まない・・・休みだと思った瞬間急に疲れが・・・」
「た、大変! お水持ってきます! それからすぐに昼餉作って持ってきますね!? 狛治さんは休んでてください!」
そう言い切ると恋雪はパタパタと足音を立てて寝所をあとにした。俺はそのまま瞼を閉じ意識を手放した。
「は、狛治さん。取り急ぎお粥作ったんですけど食べれますか? しんどかったら私が食べさせてあげますからね?」
「・・・ああ・・・済まない・・・」
俺は恋雪の声で目を覚ます。正直今まで感じたことのないような疲労感だ。日々の疲労が骨の髄まで染みついていたのだろうか。俺はゆっくりと上体を起こす。
「狛治さん・・・本当に辛い時はちゃんと言ってくださいね? 私・・・狛治さんの力になれないのが一番悲しいです・・・」
「・・・済まない・・・粥を食べたらまた眠らせてくれ・・・今日は丸一日横になってるかもしれない・・・」
「いいんです。私が一日かけてお世話しますから。ずっと働き詰めだったんです。私が精一杯狛治さんを癒して差し上げますからね?」
俺は恋雪に粥を食べさせてもらう。まるで子供の頃の恋雪を俺が看病してた時の様に。
自分でも気づいていなかった。恐らくずっと気を張りっぱなしだったのだろう。度重なる上弦との戦い。広大な巡回範囲を駆け回る毎日の任務。日々の鍛錬。それと恋雪を満足させるべく夫として奮闘する日々。
そもそも毎日絶えず任務の連絡が鎹烏の飛影から降ってくるのだ。休むという発想すらなかった。
俺はてっきり休みを貰えない程今の鬼殺隊はひっ迫しているのだとずっと思っていた。お館様にお暇を貰えるよう頼んでいたら定期的に休暇を頂けていたのだろうか。
俺はそんなことを考えつつ再び横になる。ふと気が付けば恋雪が俺の額に手を乗せていた。
「・・・少しお熱がある気がします。何かの病気でなければいいのですが・・・」
ややひんやりとした恋雪の手が心地よかった。俺は少しだけ頬を緩ませ恋雪の手を握る。
「恋雪・・・」
「は、はい///! なんですか狛治さん?」
俺は恋雪の手を握ったまま弱弱しく呟く。
「暫くこのまま・・・傍にいてくれないか・・・そうしてくれると・・・凄く安心するんだ・・・」
「っ! わ、わかりました///! 今日はずっとお傍にいます///! どうかゆっくりお眠りになってくださいね?」
俺は恋雪の言葉を聞いて、心が安らいだ気がした。まるで子供の頃の俺と恋雪の立場が入れ替わってしまったかのようだった。
俺は恋雪の手を握ったまま、気が付けば静かに寝息を立てていたように思う。
一年越しの休暇を貰い、体調を崩してから丸五日が経った。恋雪の献身的な看病のおかげで、俺の身体は今まで感じたことがない程に楽になった。
俺が日中、屋敷の縁側で日向ぼっこしていると、恋雪がお茶と菓子を持って傍に寄って来てくれる。
「狛治さん。お身体の調子は如何ですか?」
「ああ、かなり楽になったよ。ここ数日の恋雪のおかげだ。本当にありがとう。」
「いえ、私が狛治さんに看病してもらっていた頃に比べれば、大したことはしていませんから。元気になったようで良かったです。」
恋雪は笑顔で俺に湯呑を渡してくれる。俺はお茶を啜り一息つく。
「でも、今後はちゃんとお休みを申請しないと駄目ですよ? お館様もずっと狛治さんから休みの依頼が来なくて心配してたってお手紙に書いてありましたし・・・」
「済まない・・・てっきり向こうの都合で休暇を支給されるものだとばかり・・・」
「それで丸々一年も休み無しで働くなんてどうかしてます。今後は私が代わりに狛治さんの休暇申請出しちゃいますからね?」
「・・・以後気を付ける・・・」
そんな俺の様子を見て恋雪も呆れ返っている。俺は苦笑いを浮かべる。
「そんなに心配しないでくれ、恋雪。俺はもう平気だ。身体も十二分に休ませることができた。今日からでも任務に赴いてもいいくらいにな。」
「もう・・・狛治さんったらすぐそうやって・・・休暇はあと二日もあるじゃないですか。折角のお休みなのですからお仕事のことなんて考えずに気分転換ぐらいしたらいいのに・・・」
「そう言ってもこれと言って趣味になるようなものは持ち合わせていないからな・・・どうしたものか・・・」
「なら折角の休暇なのですから私どこかにお出かけしたいです。狛治さんが柱になってからというもの、一緒にお出かけするなんてまるでなくなってしまいましたから。
屋敷でずっと過ごすのもいいですけれど、そればかりだと寂しいじゃないですか?」
俺は腕組みする。お出かけか。しかしどこに行こうか。全く以て思い浮かばない。以前も似たようなことがあった気がする。あの時は苦し紛れで藤の花の家紋の屋敷で花見をしたのだったか。
俺が悩んでいると、恋雪は俺の袖を指で摘まむ。俺がそれに目線を移すと恋雪はある提案をする。
「なら、折角なので狛治さんの外行の羽織を仕立てるために反物を買いに行きたいです。狛治さん、任務中は真っ黒な隊服で、日頃は素流の道着しか着て居ないですから、折角なのでうんと豪勢な羽織を着せてあげたいです。」
「いや、日頃なら兎も角任務中は別に・・・鬼の血で汚れたりするし勿体ないだろう?」
「大丈夫です。私が何度でも新しい羽織を仕立てて見せますから。私狛治さんの一張羅を着た姿見てみたいです。」
俺は正直どっちでも良かったが、恋雪がこうも乗り気になっているのだ。無下にするのも悪いかと思い、頷いて了承する。
「わかった。じゃあ今日明日で街に繰り出そう。折角なので師範にも声を掛けよう。なんだか仲間外れみたいで申し訳ないし・・・」
「そうですね! お父さんにも声掛けましょう! 三人で仲良くお出かけ! 私何だか楽しみです!」
そうして思い立ったが吉日と言わんばかりに、恋雪は師範のいる道場へと足を運んだ。
続く
申請しないとお休み貰えないのは本作だけの独自設定です。ただ原作に比べて柱の人数少ないので、休暇無しがデフォルトなのかも(そんなアホな)。
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狛治がしっかり倒すのなら有
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原作通り生き残らせてほしい