「では師範。手合わせお願いします。」
「うむ。ではこちらから仕掛けよう。皆も俺と狛治の組手をよく見ておくように。」
「「「はいっ!!」」」
ここは岩柱邸の道場で、俺は帯で目隠しをしたまま師範と向き合っていた。俺と師範は互いに剣道でいう蹲踞に近い構えを取ったのち、立ち上がり素流の構えに移る。
そして俺たちの組手を、隠に所属する素流の門下生十数名が正座したまま見学していた。
「ハッ!」
「シッ!」
俺は目隠しをしたまま師範の拳打を捌く。衣擦れの音や空気の揺らぎ、師範の呼吸音や気配を頼りに動きを予測し、防御に回る。
お互い型のようなものは放たないものの、門下生たちからは息を飲むような気配がする。皆真剣に俺たちの動きを目で追いながら見取り稽古をしているのだろう。
やがて俺の頸筋に師範の手刀が寸止めされ、組手は終了となった。
「お付き合いいただきありがとうございました、師範。」
「ガハハハッ! いや、寧ろこちらこそ有難い! 新しく取った門下生たちにもいい刺激になっただろうからな!」
俺が目隠しを外していると、師範の門下生のうち一人が手拭いを持って俺に駆け寄ってくる。
「岩柱様、どうぞ!」
「ああ、済まない。恩に着る。」
「いえ! 岩柱様と慶蔵師範の組手が見れるなんてめったにない機会でしたので! こちらこそ大変参考になりました! よろしければまたお願いします!」
「ああ、暫くは世話になる機会も多いだろうからな。お前たちの研鑽の役に立てているようで良かった。」
やがて、師範の呼びかけで、門下生たちが二人一組になって組手をそれぞれ開始するようになった。
俺は道場の隅で正座をしながら休憩がてらその様子を眺めて居た。やがて道場で門下生たちの掛け声が響き渡る中、パタパタと足音が聞こえ俺に歩み寄る気配がした。
「狛治さん。お疲れ様です。お水をどうぞ。」
「ああ、ありがとうな、恋雪。」
恋雪から竹筒を受け取り、俺は水を飲み干す。
「ふふっ、お父さん嬉しそうですね? 門下生の方々もいっぱい増えて。かつての素流道場よりもずっとにぎやかです。」
「ああ、本当にな。まさか鬼殺隊の隠達の護身のために素流を習わせることになるとは夢にも思わなかった。」
そう。現在師範は専属顧問として隠達に素流の訓練を課している。これは師範から申し出があって、最終的には俺から識哉様に進言し実現するに至った。
師範はもともと隠達の荷物の運搬作業等を手伝っていた。しかしある日、真夜中の移動中に鬼に襲撃され、隠の部隊から数名の死傷者を出してしまった。
その時は日輪刀を携帯していた隊士達が駆け付けるまで、師範が代わりに鬼を足止めしたので全滅こそしなかったものの、人死にが出てしまったことで師範は大層心を痛めた。
その結果、隠達にも必要最低限の護身術を身に着けさせた方がいいのではと師範から声が上がり、このような素流門下生を取って隠たちを育成するに至ったのである。
「まあしかし、素流の心得があるだけで、緊急時の動きや体捌きも以前とは別格になる。鬼と戦えなくても、退避や避難も円滑に行えるようになるからとてもいい取り組みだと思うよ。
識哉様も文を通じて大層喜んでおられる様子だった。これからもこの取り組みは継続していくべきだと思う。」
「ふふっ、そうですね。お父さんの教える素流がいっぱい鬼殺隊の方々の役に立つ。お父さんにとってこんなに嬉しいこともないと思います。」
俺と恋雪は談笑しながら道場で切磋琢磨する素流門下生たちを眺める。暫くすると恋雪が俺の持つ目隠し用の帯に気づいて声を上げる。
「そう言えば・・・なぜ狛治さんはお父さんと組手をする時に目隠しをしているのですか?」
「ああ、これか。目隠しをしているのは感覚を研ぎすませると同時に必要ない感覚を削ぎ落すためなんだ。この鍛錬が完成すれば、俺は至高の領域へと足を踏み入れることができるかもしれない。」
「そうなのですね。それで時々目隠しをしていたのですね。得心がいきました。」
すると恋雪は何を思ったのか、悪戯な笑みを浮かべて俺から目隠しの帯を取り、急遽それで俺の視界を塞ぐ。
「ん? 恋雪? どうしたんだ? 一体何を・・・」
すると恋雪はあろうことか、俺の耳元に息を吹きかけてくる。
「うおっ!? 恋雪!? 一体何を・・・!?」
「知ってますか狛治さん? 目隠ししてると身体のあちこちが敏感になるんですよ? ほら、こうやって耳元で囁くだけでもゾクゾクしてきませんか///?」
「ちょっ!? 待て待て!! 他の門下生が傍に居る中何を言っているんだ恋雪!?」
「もう・・・つれないですね狛治さんは・・・鍛錬ばっかりに時間使ってると私妬いちゃいますよ? でもふふっ、目隠しして赤くなってる狛治さんも素敵ですね///? 私の方がゾクゾクしてきちゃいます///」
「い、いい加減にしてくれ恋雪!! 目隠しはもう終わりだ!!」
俺は勢い良く目隠しを外し周囲を確認する。幸いなことに俺たちの醜態に気づいている者は誰もいなかった。俺は安堵する。
「全く・・・俺がこのようなことをしていたら他の門下生たちに示しがつかんだろう・・・金輪際こういうことは無しだ。いいな?」
俺がため息を付くと、恋雪は意気消沈し寂しそうに俯いてしまった。俺はその様子に胸が締め付けられ、思わずとんでもない約束を取り付けてしまう。
「・・・ふ、二人きりの時なら・・・いつでもしてやるから///・・・だからそう悲しそうな顔をしないでくれ・・・恋雪。」
「っ!! 本当ですか!?」
さっきまでの落ち込みようは一体どこに行ったのやら、恋雪は一瞬で元気ハツラツとなる。
「じゃあ早速寝所に・・・」
「ま、待て恋雪!! いくら何でもそれは節操がなさすぎるだろう!? せめて門下生たちの鍛錬が終わるまで待ってくれないか!?」
「いつでもしてやるって、つい今しがた言ったじゃないですか。岩柱様ともあろうお人がおいそれと言葉を翻していいんですか? ささ、今すぐにでも寝所に・・・!」
「ま、待ってくれ恋雪・・・そんなにがっつかなくても・・・ってうおおお!? し、信じられない力だ!! こ、恋雪!? いつの間にこんな・・・!?」
俺は恋雪の勢いに逆らうことが出来ず、そのまま屋敷の奥に連れ去られてしまった。その様子をただ一人師範だけは気づいていたようで、ニコニコしながら俺たちの後ろ姿を見送っていた。
続く
尚門下生全員に二人の仲は筒抜けとなっております。敢えて全員見て見ぬ振りや気づかぬ振りを貫いております。狛治はご愁傷様です・・・
童磨の再登場についてどう思いますか?
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有
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無
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狛治がしっかり倒すのなら有
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原作通り生き残らせてほしい