「ここは・・・寺か?」
「はい。元々は立派な寺院があった場所です。古くから伝わる修行僧の為の修行場でもあったそうです。ただ・・・」
俺達は山岳地帯のとある寺の跡地に来ていた。既に人の気配はなく、山の中腹部に荒廃した寺の残骸が残るだけだった。長寿郎は続ける。
「ただ・・・最近この山岳地帯で大勢の行方不明者が出ているそうです。そして山へと入り唯一帰還した者をつい最近隠の隊士が発見し保護しました。
その生き残りが言うには『阿修羅像のような異形の化け物から命辛々逃げて来た』と・・・」
「ほう・・・」
俺は顎を撫でる。俺が考えを巡らせている間、さやか殿が今の話に見解を挟む。
「長寿郎君の今の話を聞いた限り、以前柱合会議で議題に挙がった上弦の参の特徴と一致しますね。しかしその人はどうやって生きて山を降りることができたのかしら。長寿郎君、他にも何か聞いてない?」
「ああ、なんでもその人は途中川に落ちて、そのまま流され山を降りるに至ったらしい。かなりの激流だったらしく生き残ったのは奇跡という他ないな。」
「そう・・・なんにしてもその人は生き残れてよかったわ。」
「・・・」
俺は考えていた。
鬼が溺れて死ぬなどまずありえないが、とは言え手間を考慮して得物を見逃した可能性はある。もし奴と会敵した際、負けそうになった場合は川まで誘い込んで突き落としてみるのも悪くないかもしれない。
「それで、どうするの? 今丁度日暮れ時だけど、このままここで待つの?」
「ああ、下手に山奥をうろついて不意を突かれるよりは、ここで待ち構えて迎撃する方が勝算が高い。暫くは待機していよう。狛治殿もそれでいいでしょうか?」
「そうだな。ここならだいぶ開けた場所だ。それに・・・この寺からは嫌な悪臭がする。十中八九ここを根城にしてるか餌場にしてる可能性が高い。暫く様子を見るぞ。」
「「はい。」」
そうして、日は落ち夜の時刻となる。幸いなことに今日は充分に月明りがあるため、視界は良好だった。奴は全身黒っぽい見た目をしているから、余りにも暗いと視認できず接敵を許す恐れもある。
そういう意味では俺たちにとってこの時と場所はおあつらえ向きだった。
少しずつ時間が経過し、月が徐々に高くなる。
暫く待っていても手持ち無沙汰なので、やがて長寿郎とさやか殿で雑談が始まる。
「そう言えば長寿郎君。弟君って今いくつなの?」
「え? ああ、俺と五歳差だから丁度十二だな。最近少しずつ背が伸び始めてるよ。」
「あら、可愛い頃ね。あっという間に長寿郎君と背丈並ぶくらいに大きくなるのかしら?」
「どうだろうな。あいつは如何せん俺や兄に比べて食が細いから、あんまり大きくならないかもしれないな。」
「そうなんだ。確かに長寿郎君って私と同じくらい一杯食べるよね? 昔から食いしん坊さんだったの?」
「いや、そうでもない。剣を兄から習うようになってそれから無理にでも食事量を増やすようにしたんだ。まずは身体を大きくしないと強くなれないからな。俺は兄に比べて上背は劣っていたし・・・」
「そうなんだ。でも今では私よりも背高いよね? ふふっ、頑張ってご飯食べて大きくなったんだね? お母さんも喜んでるんじゃない?」
「まあ確かに母上も喜んでいたな。兄に徐々に似てきて誇らしいとも言っていた。ただ同時に兄よりも長く生きて欲しいとも漏らしていたな。」
「そっか。お母さんなら当然そう思うよね。私も長寿郎君には長生きしてほしいし。」
「ははっ! そうだな! 折角長生きしそうな名前を頂いたんだ! うんと長く生きて名前負けしないようにしないとな!」
「ふふっ、そうね。」
「言っとくがさやかもちゃんと長生きしろよ? 俺はお前とこうして話してる時間が好きだからな。」
「えっ/// ど、どうしたの急にそんな・・・///」
「ん? いや、思ったことをただ口にしただけなんだがな。さやかは俺と話すのは嫌か?」
「そんな・・・嫌だなんて・・・私もこうやってお喋りできるの・・・楽しいよ///」
「そうか。なら良かった。だったらお互い長生きしよう。そうすれば一杯話せるからな。これからもよろしく頼む。さやか。」
「うん・・・/// こちらこそよろしくね・・・長寿郎君///」
俺は離れたところで二人の様子をガン見する。
なんだあの二人は。あれで本当に恋仲じゃないのか? 恋雪が見たら赤飯焚き始めるぞ。ただ俺はそんな二人を後方より腕組みをしたまま見守る。野暮なことを言うのは無粋だと思ったからだ。
俺が胸の内でそう納得していると、月が雲に隠れ周囲が暗くなる。すると突如、辺り一帯に悪臭が立ち込めるようになった。
「っ!! この匂い!!!」
俺は長寿郎とさやかに近づく気配を感じ取り、地を割りその場を飛び出すように移動する。
ー素流体術 砕式 万葉閃柳ー
俺は闇の中で動く影に全力で拳を振るう。その瞬間、鋼を殴りつけたような手応えと共に轟音が鳴る。俺は長寿郎とさやか殿の前に降り立つ。
「カカカッ! まいったなァ。手始めに番いの餓鬼二人殴り殺してやろうと思ったのに。カカカッ!」
「長寿郎!! さやか殿!! 急いで迎撃態勢を取れ!! こいつ相手に気を抜けば一瞬で持ってかれるぞ!!」
俺の呼びかけに応じ、長寿郎は抜刀し、さやか殿は背中の矛を掴み正面で掲げる。
やがて月を覆う雲が過ぎ去り、辺りが月光に照らされる。
「おお!? お前はあの時の!! およそ一年半振り位かァ!? んん? 後ろの小僧の髪色・・・以前殺した炎の柱と同じ色じゃないか! いや寧ろ瓜二つか!? まさか弟がいたとはなァ、カカカッ!!」
「っ!! お前が・・・!!!」
俺たちの前には、三対の両腕と三方向を向いた三つの顔に薄黒い肌を持つ仏像のような異形の鬼が立っていた。忘れもしない。奴こそが凍三郎殿の妹殿並びに長寿郎の兄の仇、阿修羅鬼だ。
続く
さあて、アンケート結果にお応えする章の始まりです。とは言え腐っても上弦の参なので倒すまでやや話数もらいます。決着はちゃんと付きますのでご安心ください。
童磨の再登場についてどう思いますか?
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有
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無
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狛治がしっかり倒すのなら有
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原作通り生き残らせてほしい