狛治外伝 ~誰が為に振るわれる拳~   作:科学大好き人間

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恋雪ちゃん視点です。3話と重複する部分があります。


5話 未来

狛治さんが私の看病を始めるようになって1ヶ月経った。

 

真夏のうだるような暑い日だった。でも私は肺を冷やさないように布団をかぶらなければならない。

 

熱のせいで暑いのか、真夏の中布団をかぶってるせいで暑いのか時々わからなくなる。

 

そんな苦しいこの季節に、狛治さんがこまめに替えてくれる冷たい手拭いが心地よかった。

 

この人は本当に嫌な顔一つせず、涼し気に私の面倒を見てくれる。この数ヶ月で何度この人の優しさに救われてきたか分からない。

 

だからこそ呟いてしまう。狛治さんを困らせてしまうとわかっているのにも関わらず。

 

 

「いつもごめんね・・・私のせいで鍛錬もできないし・・・遊びにも行けない・・・」

 

「遊びたいとは思わない。昔から。空いた時間にそこらで鍛錬してるので気になさらず。」

 

 

狛治さんは毎度のことのように『気になさらず』とそう言うけれど、それでも私は心苦しい。

 

だって、どんなに親身になって看病をしたところで、私の病気が治る保証はないのだから。いずれは死んでしまうかもしれない。

 

なのに、ずっと私なんかのために狛治さんの時間を奪ってしまうことが心苦しいと、私は常々思ってしまう。

 

そう言えば、丁度今夜は花火が上がると今朝お父さんから聞いた気がする。それを思い出し、私は狛治さんに提案する。

 

 

「でも・・・偶には気分転換に・・・今夜は花火も上がるそうだから行ってきて・・・」

 

 

私は花火なんて一度も見たことないけれど、凄く綺麗だと聞いたことがある。せめて私の代わりに狛治さんには見に行って欲・・・

 

 

「そうですね・・・眩暈が治まっていたら背負って橋の手前まで行きましょうか。」

 

「えっ・・・」

 

 

私は狛治さんの返答につい声を漏らしてしまう。その言葉の意図が一瞬理解できなかったから。

 

 

「今日行けなくても来年も再来年も花火は上がるからその時行けばいいですよ。」

 

 

狛治さんはいつもの涼し気な表情でなんでもないと言わんばかりに私にそう告げ、手拭いを替えてくれる。

 

私はあっけに取られた。

 

この時、狛治さんは自分が花火を見に行くことについて話していたのではなかった。私が花火を見に行くことを前提に話していたのだ。

 

私はそんな未来、思い浮かべたこともなかった。

 

だって、私、身体弱いし、病気も全然治らないし・・・そんなこと・・・想像したことなんて一度も・・・

 

 

「・・・っ・・・っ・・・」

 

 

私は気が付けばすすり泣いていた。こらえきれなかった。泣くのを我慢することができなかった。

 

私は泣き顔を見られたくなくて両の手のひらで顔を覆い隠す。

 

狛治さんから困ったような、居心地の悪さを感じているような気配を感じる。

 

それでも私は、すすり泣く声を我慢することができない。狛治さんの言葉が嬉しくて、思わず感極まり、こらえきれず泣き出してしまったのだ。

 

だって・・・だって狛治さんは・・・私が来年も再来年も生きているって・・・信じて疑ってすらいない・・・

 

狛治さんには私の未来が見えている。当たり前のことのように。私本人ですらそれを諦めてしまっていたというのに。

 

それに、今の言葉は私を元気づけようと気を遣わせて言ったんじゃない。ただの本心でそう言ってくれたんだ。だからなんでもないことのようにさらりと言ってくれたんだ。

 

その事実が嬉しくて、我慢することができなくて、私はつい泣き出してしまった。

 

ふと私の胸の内である感情が生まれていることに気づいた。

 

もし・・・もしこれから先も生きていけるのなら・・・来年も再来年も生きているのなら・・・その時も狛治さんとずっと一緒に居たい。

 

だって、狛治さんが初めてだったから。私の未来を信じてくれたのは。諦めていなかったのは。

 

お世話になっている薬売りの人も、お父さんの知り合いの人達も、お父さん自身も、死んでしまったお母さんも、そして私も、皆みんな諦めていたというのに。

 

狛治さんだけは、私の未来を信じてくれる。信じて今も傍で親身に看病してくれている。大事にしてくれる。

 

こんな人・・・他にいない・・・仮にあと100年以上長生きできたって・・・狛治さんみたいな人と出会える訳がない・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば私は、狛治さんを好きになっていた。どうしようもないくらいに。胸の内からこの想いが溢れて止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




病気で滅入ってる時にこんな風に言われたら男女問わず感激してしまいますよ。狛治は人間として本当に尊敬できる考えの持ち主だと思います。介護する全ての人にそれを求めるのは酷だと思いますけどね。
以上恋雪ちゃんの馴れ初め会でした。これからも幸せな展開を沢山書いて行こうと思います。
健気な少女に救済を。
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