「どうした!? 他の技はないのか!? 急に大人しくなりおって! 守ってばかりではつまらんだろうが!!!!」
「・・・」
俺は隙を伺うため防御に回る。素流の体捌きで奴の拳打をうまくあしらい、直撃を避け続ける。
ー炎の呼吸 奥義 玖ノ型 煉獄ー
やがて離れた場所から凄まじい地響きと風鳴音が響き渡り、暫くして二つの気配が俺たちへと接近する。
「狛治殿!! 遅くなり申し訳ございません!! 加勢します!!!」
「狛治さん!! 大丈夫ですか!? 私たちが援護します!!!」
すると、長寿郎とさやか殿は阿修羅鬼の背面や側面を取り、絶えず斬撃を放ち始める。しかし、分身がいなくなった途端、本体は三対の腕に三方向の顔を再出現させ危なげなく迎撃する。
「カカカッ!! いいぞお前ら!! ただの餓鬼共だと思っていたが貴様ら柱だな!? でなくば俺の分身体を打ち破るような芸当できるはずがない!! 改めて敬意を表する!!」
「黙れっ!!! 兄の仇に敬意を抱かれた所で何の感慨も湧かないっ!!! 上弦の月はお前の頸を以て欠けると知れっ!!!」
ー炎の呼吸 参ノ型 気炎万象ー
長寿郎の上段からの斬り下ろしを奴は腕一本で受ける。その瞬間奴の腕が切断される。
「驚いた!! そっちの小娘より貧弱かと思いきや、貴様もなかなかの剛腕だな!? 面白い!! 気が済むまで打ち込んでこい!!」
「うぉおおおおおおっ!!!!!」
続けざまに長寿郎は唐竹割、袈裟懸け、左薙ぎ、右薙ぎ、左切り上げと斬撃を繰り返す。奴は器用に拳を打ち付け迎撃する。
ー草の呼吸 壱ノ型 草薙の一振りー
奴が長寿郎に意識を向けた瞬間、正反対の方向からさやか殿が横薙ぎを放つ。不意を突いたその一撃は頸へと入るが、甲高い音がするだけで切れる様子はない。
「くっ・・・!! なんて硬い頸なの!? 傷一つ付かないなんて・・・!!」
「カカカッ!! そう嘆くな!! 多少は頸に傷は残ったぞ!? まあ一瞬で再生したがな!! カカカッ!!」
奴が二人に意識を割いた瞬間、俺は一瞬の隙を突いて宙へ跳び踵落としを放つ。奴はその衝撃に上体を押し下げる。続けざまに俺は拳を振り上げ奴の顎を打ち上げる。
「ぐおっ!!??」
「今だ!! 二人とも狙え!!!」
ー炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天ー
ー草の呼吸 弐ノ型 枝葉のざわめきー
示し合わせたように両側より長寿郎の切り上げ、さやか殿の左右切り払いが放たれるが、奴は三対の腕全てを盾にしそれらを受け切る。
「さて! 少々早い気もするが餓鬼共には先にご退場願おう!! 分身体の頸を刎ねた各々の奥義を使われてしまうと流石にキツイからな!! カカカッ!!」
その瞬間、奴の闘気が膨れ上がるような気配がした。俺は目を見開き、二人に退避を促す。
「下がれ!! 大技が来るぞ!!!」
ー血鬼術 百式観音ー
突如、奴の身体から十数本の腕が生えたかと思えば、一瞬で周囲一帯が更地になるほどの複数の拳打が打ち振るわれる。土埃が舞い、やがてそれも晴れる。奴はまっさらな地面の中心に一人佇んでいた。
「驚いた!! 全員生きているとは流石だな!! 以前殺した炎の柱は今の技で肉塊になったというのになァ・・・
いや待て。三方向に分散して打った分、威力が落ちたのかもしれん。ならまあ致し方なしか・・・
しかしこれで漸く一対一で仕切り直せるぞ!!
さあ、最後は男らしく拳で勝負をつけようじゃないか!! 名も聞いていないが武闘家の鬼狩りよ!! 決着と行こうか!! カカカッ!!」
俺は全身あちこちに裂傷を負ってはいたが、一撃も入れさせてはいなかった。
しかし長寿郎とさやか殿はそうもいかなかったようで、やや離れたところで地に臥している。
二人から回復の呼吸をしている気配がするので大丈夫だとは思うが、満身創痍であることに変わりはなさそうだった。俺は視線を再び阿修羅鬼に移す。すると奴は俺に語り掛けてくる。
「折角だ! 名を名乗れ! 殺す前に覚えておきたい!!」
「・・・童磨にはうっかり口が滑ってしまったが・・・貴様には教える気にもならないな・・・」
「まあそう言うな! 俺はお前を賞賛しているんだぞ? 同じ武闘家としてここまで技を練り上げた良き宿敵もそうは現れまい! 未来永劫俺が覚えておいてやろう!!」
俺は無言を貫き、素流の構えを取る。俺の態度を見て奴も察したのか、一対の手を腰に当てつつもう一対の腕で肩を竦める。
「やれやれ、物分かりの悪い奴め。であるならば仕方ない。今度その童磨に聞いてみるとするか。とは言え、奴は先日の入れ替わりの血戦で上弦の弐へと昇格してしまったからなァ・・・念話が使えないため奴の餌場まで足を運ばねばならん。少々面倒だが致し方無いか・・・カカカッ!」
俺は僅かに眉を寄せる。童磨が上弦の弐にだと? 俺と戦ってまだ一年程度だと言うのに奴はもうそこまで力をつけたのか。なら目の前の鬼程度で足踏みをしている場合ではないな。俺は目を瞑り素流の構えのまま精神統一し感覚を一層研ぎ澄ませる。
「んん!? どうした!? なぜ目を閉じるのだ? もしや諦めた訳ではあるまいな?」
「黙れ。もう一度同じ技を打ってこい。先ほどは捌くので手一杯だったが、次こそは正面から打ち伏せてやる。」
「カカカッ!! いいだろう!! ならもう一度喰らうがいい!! この技を三度も受けることになったのは貴様が初めてだ!!! 俺をここまで楽しませてくれた礼に受け取るがいい!!!」
奴は再び身体から十数本の腕を生やす。俺は目を瞑ったまま呼吸を洗練し感覚を研ぎ澄ませていく。そんな俺と阿修羅鬼の激突の気配を感じ取ったのか、長寿郎とさやか殿の苦しそうな声がする。
「は・・・狛治さん・・・!! 私達のことは放っておいて・・・どうか逃げてください・・・!!!」
「狛治殿・・・!! せめて貴方だけでも・・・こんなところで死んでは駄目です・・・!!!」
「カカカッ!! そう心配するな餓鬼共!! この男を打ち倒した後はすぐにでもあの世で再開させてやる!! 三人漏れなく極楽浄土へと旅発つがいい!!!」
ー血鬼術 百式観音ー
再び百発に届く拳打の嵐が、前方で構える俺に漏れなく振りかざされる。
俺はその瞬間目を瞑ったまま、不必要な感覚を閉じ切った状態で技を放つ。
ー素流体術 奥義 終式 青銀乱残光ー
その瞬間、凄まじい回数の金属音が瞬く間に鳴り響く。その凄まじい衝突の余波で再び土煙舞い、視界を一気に埋め尽くす。
「カカカッ! 漸く逝ったか!! だが案ずることはない!! 貴様はその命を以て罪業を全て消し去ったのだから!! よって極楽浄土へ直行間違いなしだ!! 良かったな! 名も知らぬ武闘家の鬼狩りよ!! カカカカカカッ・・・カ?」
やがて土煙も晴れ奴は呆ける。なぜなら俺が何事もなくその場で立ち尽くしていたからだ。
「ば、馬鹿な!? なぜ生きている!? いやそれ以前に傷一つないとはどういうことだ!? まさか俺の拳打を全て打ち払ったとでも言うのか!!??」
俺は目を閉じたまま狼狽する阿修羅鬼を見通す。
不思議なことだ。瞼を閉じているのにも関わらず、奴の肉体に張り巡らされた血管や筋繊維の一つ一つまでもが鮮明に見える。いや、知覚しているのだろうか。おかげで奴の攻撃の予兆全てがわかる。故に奴の拳打も造作もなく相殺することができたのだ。
これが・・・透き通る世界というものなのか・・・まさしく俺が求めていた至高の領域だ。
続く
透き通る世界のお披露目回です。悲鳴嶼さんも盲目でありながら黒死牟の身体透けて見えていたのでそれと要領は同じです。狛治は意図的に視界を絶って感覚を閉じたり開いたりする術を身に着けました。
原作では痣者しか使えない透き通る世界ですが、本作では技能さえ足りてれば使えるものとします。
と言うのも、個人的見解ですが、透き通る世界は呼吸の最高到達点だと思っています。即ち、『痣が出るくらい呼吸の練度が高いこと』が使いこなす上での必要最低条件だと思っています。なら痣が出なくても痣者並みの呼吸の練度と感覚に秀でた者であれば使えるかなと思い、本作では痣無しでも使用できることにしました。
ただ・・・
まあ・・・
裏を返せばいつでも痣出せるってことでもありますがね・・・
童磨の再登場についてどう思いますか?
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有
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無
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狛治がしっかり倒すのなら有
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原作通り生き残らせてほしい