狛治外伝 ~誰が為に振るわれる拳~   作:科学大好き人間

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狛治視点です。ほっこり(?)回です。


58話 穏やかな時間

「恋雪。寒くないか? 今日は一段と冷えるからよく暖かくするんだ。お腹の子に障るといけないからな。」

 

「はい、狛治さん。ふふっ、でもそんなに心配しなくても平気ですよ?」

 

 

囲炉裏の前で毛布にくるまったままの身重の恋雪が振り返る。俺は恋雪の背を擦っていたが、恋雪が俺に視線を送って来るのでふと目線を合わせる。

 

 

「どうした恋雪? 何か気になることでも・・・」

 

「あ、いえ・・・折角二人きりですし後ろから抱きしめて欲しいなとそう思いまして・・・///」

 

 

恋雪のささやかなおねだりに俺は笑みを溢す。俺は恋雪に密着できるよう、恋雪と一緒に毛布に包まり後ろから抱きしめ座り込む。

 

恋雪はそれが嬉しかったのか、頬を赤く染めたまま微笑んでいる。やがて恋雪が言葉を紡ぐ。

 

 

「私・・・ずっと身体が弱くて・・・一生狛治さんの子を孕むこともできないのかなって・・・祝言を上げたばかりの頃はそう思ってました。」

 

「っ! 恋雪・・・」

 

「でも、狛治さんと過ごしているうちに、日に日に身体も丈夫になって・・・気が付いたら人並み以上に体力もついた気がします。そのおかげでしょうか・・・」

 

 

恋雪は自身の僅かに膨らんだ腹部を愛おしそうに撫で始める。

 

 

「私・・・今本当に幸せです・・・! 漸く狛治さんとの間で子を授かることができて・・・!! この子に会えるのが待ち遠しくて仕方ありません・・・!!

 私、頑張って丈夫な赤ちゃん産みますね・・・! 私、狛治さんにも喜んで欲しいですから・・・!!」

 

 

嬉しそうに笑う恋雪を眺めて居るうちに俺も胸が一杯になる。俺も恋雪の膨らんだ腹部に手を回しそっと優しく撫でる。

 

 

「俺は今でも充分幸せだよ。恋雪と居られて、恋雪が元気そうにしてくれて。だからくれぐれも身体だけは大事にしてくれよ? 出産だって危険が伴うし、やっぱり俺は恋雪のことが心配なんだ。」

 

「大丈夫ですよ狛治さん。私もう並みの女性よりずっと身体が丈夫なんですから。なので心配いりません!」

 

「待て待て。二、三年前までは病床に臥せっている時もあったんだぞ? 頼むから無茶だけはしないでくれよ?」

 

「わかってますよ。もう・・・狛治さんは本当に心配性ですね?」

 

 

暫くの間俺たちは見つめ合っていたが、やがて恋雪が物欲しそうにねだり始めるので、俺は静かに恋雪に口づけをする。すると恋雪が頬を染めたまま嬉しそうに俺に重心を寄せてくるので、俺は恋雪を支えるようにして抱きしめ直す。

 

気が付けば、雪が降り積もる季節にもなり、日中はこうして屋敷の中で身を寄せ合っている時間も多くなった。

 

恋雪が身籠っておよそ三ヶ月。今は年の暮れだから、順当にいけば来年の夏頃には生まれているのだろうか。

 

俺はその日を胸に思い描き、つい笑みが零れてしまう。

 

いつかまた、恋雪と一緒に花火を見に行きたいなと、そう思ってしまう。

 

来年の夏祭りまでに子どもが生まれて、三人で一緒に花火が見れればどんなに幸せか。

 

まあ鬼が居る限り、夜間に恋雪と子どもを連れて外に出るなど危なくてできるはずもないのだから、それは叶わぬ夢ではあるのだが。

 

とは言え、俺と恋雪に子ができるなんて、素流道場に流れ着いた時は夢にも思わなかったと俺は感慨深く思う。

 

本当に不思議な縁で、俺は真っ当に生きられるようになった。まあ鬼狩りとして生きることを真っ当と呼べるかは難しいところではあるが。

 

ただ、せめて、恋雪が天寿を全うするその日まで、俺はこうして傍にずっと居たい。その時には生まれる子どもも大きくなって、孫もいたりするのだろうか。

 

そこまで思い描いたところで俺は自嘲した。一体何年先の出来事を思い描いているのやら。今は兎に角、この最愛の人との時間を、一日でも長く守り通すことに重きを置くべきだと思い直した。

 

そう自分に言い聞かせ、俺は笑みを浮かべる。すると恋雪がそんな俺の様子に気が付いたのか話しかけてくる。

 

 

「どうしたんですか狛治さん。そんなにニマニマして。」

 

「ふっ、仕方がないじゃないか。笑みが零れるに決まってる。俺のような下賤な男が身の丈に合わない程の幸せを、今こうして噛み締めることができているのだから。」

 

 

俺の自嘲の言葉に恋雪の表情が一転する。

 

 

「狛治さん。何をおかしなこと言っているのですか?」

 

 

不意に恋雪が俺の発言に苦言を呈してくるので俺は目を丸くする。

 

 

「そんな風に自分を蔑まないで下さい。狛治さんは立派な人です。今まで大勢の人の命を救い、守って来た立派な鬼狩り様なんですから。だから幸せになって然るべき人なんです。

 もし狛治さんがどうしてもそう思えないなら、私がうんと幸せにしてそうとしか思えないようにして差し上げます。」

 

「ハハハ、俺は恋雪の傍にいられてもう充分幸せなんだがな。でも確かに恋雪の言う通りか。柱として日々鬼と戦っているんだ。元罪人とは言え、家族を営む権利くらい許されてもいいだろうな。」

 

「もう、狛治さんまだそんなこと気にしてるんですか? そんなこと未だにネチネチ言ってるの、狛治さん本人だけですよ? 他の隊士の方々だって、皆狛治さんのこと尊敬してるのに・・・」

 

「そうか・・・なら嬉しい限りだな。」

 

「そうですよ。狛治さんを悪く言う人は例え狛治さん自身だとしても私許しませんよ?」

 

 

恋雪が頬を膨らませるので、俺は悪かったと謝罪の意味も込めて恋雪を撫でる。すると恋雪も機嫌が直ったのか、再び嬉しそうに笑顔を見せ始める。

 

俺達がずっとそう穏やかに過ごしていると、突如鎹烏の鳴き声が聞こえた気がした。

 

 

「済まない恋雪、少し見てくる。」

 

 

俺は恋雪の体温が名残惜しかったが、すぐに毛布から抜け出しふすまを開けて縁側まで出る。そこには一匹の鎹烏が待機していた。

 

 

「さやか殿の鎹烏か。一体何の要件だ?」

 

 

俺は鎹烏に括りつけられている手紙を解き文面を確認する。その内容に俺は思わず目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『上弦の弐、童磨の居所がわかりました。近日奴の寺院に潜入してくるので早急にご相談に乗っては頂けないでしょうか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




話が全く進まないのも良くないかと思い、最後の文言を入れました。終わりに急展開入れたくなるのは筆者の悪癖ですね・・・
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