「ご足労ありがとうございます。やはり狛治さんには一度ご相談しておいた方がいいと思いまして・・・」
「ああ、さやか殿が正気を失って一人で乗り込むような真似をしなくて良かった。本当にそう思う。」
俺は草柱邸に赴いていた。客間で俺が胡坐をかいて座っていると、さやか殿が正面で正座をしたまま両の拳を根限り握りしめて俺にそう打ち明ける。
「あの鬼は私の師範を喰い殺しました。ぐちゃぐちゃに叩き潰してやらないと気が済みません。とは言え、私一人で勝てる相手では無いのも事実です。なのでこの度狛治さんにご相談をしようと思った次第です。」
「ああ、それは別に構わない。構わないが・・・」
俺はふとさやか殿の後ろで静かに正座している男に視線を移す。
「長寿郎。お前もここに居るということは、今回の潜入任務に同行するということでいいのか?」
「はい。狛治殿のご想像の通りです。」
「いいえ。長寿郎君には討伐の日まで待機しててもらいます。潜入は私一人で行きます。」
「待て・・・一体どっちなんだ・・・」
この流れ・・・以前にもあったような気が・・・と言うか
俺がそう思っていると、さやか殿が長寿郎に振り返る。すると長寿郎は眉間に皺を寄せる。
「長寿郎君。そんな派手な髪色で潜入する気? 絶対勘付かれると思うんだけど・・・」
「染め粉で髪色を黒くすれば問題ない! さやか一人では危険だ! 俺も同行する!」
「鬼は鼻が利くわ。染め粉の匂いなんて一発でバレるでしょ? その案は却下ね。」
「なら丸坊主にして同行する! それなら問題あるまい!」
「ふぅううううう・・・・・・」
さやか殿が不機嫌な息を吐きだす。この光景・・・以前も見た気がするのだが気のせいだろうか?
やがてさやか殿が清々しいまでの作り笑いを浮かべて長寿郎に語り掛ける。
「あのですね、長寿郎君? 貴方みたいな正直な人には潜入任務は向かないって申し上げているのがわからないんですか?
別に任務に参加するなとは言っていませんよ? 奴を討伐するその日まで、近くの拠点で待機しててとそう言っているんです。お判りになりませんか?」
「わからないな。さやかが恩師の仇を前にして冷静でいられる保証などどこにもない。下手をすれば丸腰のまま殴りかかってしまう恐れもある。
寧ろ俺が潜入して、さやかが待機しておくべきだ。俺なら如何に相手が鬼でも会敵すぐに冷静さを失うことはない。ここは俺に任せてくれ。」
「貴方はさっきから何を言っているんですか? この任務の責任者は私です。私が任務の作戦を決めます。勝手なこと言い出さないで下さい。」
一触即発の空気になり俺は頭痛がする思いだった。こいつら・・・阿修羅鬼討伐の時と全く同じ下りをしてる自覚がないのか? 柱なんだから少しは精神面でも成長してくれとそう思わずにはいられない。
やがて長寿郎がさやか殿を真っすぐ見据えて意を決したのか口を開く。
「俺も兄の仇を目の前にして取り乱した身だ。さやかの気持ちは痛い程わかる。だが、だからこそここは俺に潜入任務を任せるべきだ。仇に対する怒りの感情は、理性でそう抑えられるものじゃない。
だから仇の鬼を探る潜入任務などさやかには無理だ。柱としてそう思わないか?」
プツンと何かが切れるような音がした。その瞬間想定していた事態へと発展する。
「ああっ! もうっ!! わかったようなことばかり言わないでっ!! いいから私の言う通りにしなさいっ!!!」
「そうはいかない!! 何度でも言う!! さやかに潜入任務など無理だ!! 代わりに俺が受け持って・・・」
「いい加減にしろお前ら。」
俺は静かにそう言い放つ。すると二人も俺の剣吞な気配を察したのか言い合いを辞める。
「しかし狛治さん・・・! 私は・・・!!」
「狛治殿・・・ここは俺が・・・!」
「お前ら、阿修羅鬼討伐任務の時から微塵も成長していないのか? 俺は今その事実に心底辟易している。」
俺の言葉に二人は押し黙る。俺はそれを確認して続ける。
「俺は以前言ったはずだ。『柱の癖に意志疎通や連携の大切さもわからないのか』と。今のお前らは立場が反転しただけであの時と全く同じ振舞をしている。俺は正直がっかりした。」
そこまで言うと二人は肩を落とす。以前にも言ったことだが俺は似たような内容を繰り返す。
「お前達二人は、互いを大切に思っているが故に冷静な判断が出来なくなるきらいがある。だが冷静さを失い命を落とすことなど鬼との戦いでは日常茶飯事だ。
それと潜入任務についてだが、正直俺は他の隊士を送り込むべきだと思っている。
なぜなら、鬼の視界は鬼舞辻無惨が全て共有していると
例え精巧な変装をしたところで恐らく奴には見抜かれるだろう。何故なら童磨は相当な観察眼を持ってるから、少しでも不自然なところを見せればすぐに勘付く可能性が高い。
よってお前ら二人とも待機組に回って他の隊士を潜入させるべきだ。俺から指摘できるのはそれくらいだな。」
俺の提案に二人は驚いている様子だった。
「え・・・他の隊士って・・・一体誰を? 正直上弦の鬼が棲む場所に送り込めるほどの隊士なんて、それこそ柱しかいないんじゃ・・・」
「そうですよ狛治殿!! 俺たちが動く他ないじゃないですか!! そんなの無謀です!!」
俺は二人の反論にため息を付く。
「どの道日輪刀を持ち込めないのなら、柱だろうが何だろうが鬼を殺すことなどできん。五十歩百歩だ。なら多少見込みのある柱以外の隊士に協力を仰ぐべきだ。俺の言ってることは間違っているか?」
「し、しかし! 無手のまま鬼の棲む寺院に潜入できる者などいるはずがいません!! 私達の継子を仮に送り込んでも同じことです!!」
「そうです狛治殿!! 日輪刀無しでは身を護ることすらできない!! 相手が上弦でなく野良鬼であったとしても同じことです!!」
俺は二人に手をかざし待ったをかける。二人は驚いた表情だが俺は反論する。
「無手で戦える隊士ならいる。」
「なっ!? まさか狛治殿が乗り込むつもりですか!? 死ぬ気ですか貴方は!?」
「そうですよ!! そもそも狛治さんこそ鬼側に面が割れてるじゃないですか!! 潜入なんてしたら速攻でバレて殺されてしまいます!!」
「おい。早とちりするな。そんなことは重々わかっている。だから面が割れていない者に協力を仰ぐと言っているんだ。」
「「え!?」」
俺の回答に二人は驚きの声を上げる。正直俺も乗り気ではなかったが、やむを得ない事情により、素晴らしいとは言い難い提案をする他なかった。
「俺と師範で育成してる素流門下生の中から腕利きの者を送り込む。不本意ではあるがそれしか手はあるまい。」
まさか手塩にかけて育てた部下たちを死地に送り出す羽目になるとはと、この時の俺は苦々しく思った。
続く
???
「素晴らしい提案をしよう。お前も鬼にならないか?(強制労働&パワハラ上司&同僚童磨は考えないものとする)」
???
「これを素晴らしいと言ってしまえる素晴らしい頭で羨ましい。」
↑
正直、鮭大根さんはこんくらい言ってもいいと思う。
さて、狛治は一体どうするつもりなのか。次回に続く。