「・・・という訳なんです。師範。許可頂けますでしょうか。」
「・・・・・・」
俺は翌日、岩柱邸で素流門下生もいる中、長寿郎達に提案した趣旨の話を師範に頼み込んでいた。
俺が今しがた伝えたのは、変装した素流門下生数名を童磨の棲む寺院に潜入させるといった内容だった。
やはりと言うべきか、師範は重々しい表情で門下生たちも全員青ざめていた。
そして何よりも、師範の後ろへと視線を移せば、身重の恋雪が首を必死に横に振って反対の意を俺へと訴えていた。
やはり理解は得られないかと、俺は提案を取り下げて代案を提示することにした。
「申し訳ございません。教え子を死地に送り込むような真似、素流の精神に反する忌避すべき考えでした。この件は俺の方で対応するのでどうかご安心下さいますよう・・・」
「狛治・・・まさかお前が代わりに乗り込むとか言い出す訳じゃないよな?」
「は、狛治さんっ!?」
「・・・やはり駄目でしょうか・・・」
俺の代案も一瞬で釘を刺される。しかし他にいい方法も思いつかず俺は力無く師範の指摘に目線を下げる。恋雪も一層反対の意を強めた気がする。
「狛治よ。お館様はこの件について何と言っているんだ? 流石に当主の判断は無視できんだろう。」
「・・・俺の判断に任せるとだけ・・・」
師範は確認の意味を込めて俺にそう質問する。俺は無機質に答える。師範はそんな俺の様子を見て腕を組む。
「狛治。そもそもお前は鬼側に面が割れているんじゃないのか? であれば潜入などしたところですぐ正体を見抜かれてしまうだろう。いっそ他の柱に頼んだりできないのか? 例えば鱗滝殿や桑島殿とか・・・」
「左近次殿は今月急遽多くの孤児を引き取ったらしくその対応で手が離せないそうです。桑島殿も最近花街で十二鬼月らしき痕跡を追っているのでこちらも難しいかと。」
「そうか。まあそれなら仕方ないな。そもそも柱が潜入できたとて日輪刀など持ち込めるはずもないのだから、わざわざ柱を潜入させる意味も然程ないだろうしな。」
「はい。なので無手でも護身の術がある素流門下生の力をお借りしたかったのですが・・・」
「まあそれも難しいだろう。そもそも門下生の殆どが元隠の非戦闘員だ。鬼の棲む寺院に潜入させるまではいいが、いざという時身を護ることもできんだろう。そんな者達に潜入を依頼するなど即ち死んで来いと言っているようなものだ。」
「・・・・・・」
道場に居る者全員誰一人として口を開かなくなった。俺が必死に解決策を模索して頭を捻っていると、やがて師範が意を決するように口を開いた。
「まあなんだ。あれこれ伝えたが、とは言え折角狛治が俺達のことを頼ってくれたんだ。日頃矢面に立って戦ってるお前の助けを跳ねのけるのも素流の信念に反するからな。ここは俺が一肌脱いでやろう。」
「は?」
俺は唖然として師範を見る。師範はいつもの笑顔で俺を見据えていた。
「残念ながら門下生は送り込めないが、その代わり俺がその潜入任務とやらに赴くとしよう。
実はつい最近、全集中の呼吸を常中まで修めたところなんだ。なあに、後遺症があるとはいえ、狛治や他の柱達以外に後れを取るような腕前じゃないぞ俺は。
だから安心して俺に任せてくれないか、狛治。」
「お、お父さんっ!?」
「師範っ!? 貴方は一体何を言っているのですか!?」
俺も恋雪と同じくらい取り乱しかける。そんな俺の様子を見て、師範は頭を掻きながら気まずそうに笑っている。
「いやな、流石に教え子に死んで来いって言えないから、ここは俺が行くべきだと・・・」
「待ってください!! それならやはり童磨の根城への潜入は俺がしてきますよ!!」
「は、狛治さんっ!?」
「狛治、さっきも言ったがお前じゃ一目でバレて・・・」
「それならその場で戦うまでです!! 例えすぐに正体がバレても俺なら素手だけで多少の時間稼ぎぐらいできます!! 他の柱の救援が来るまで持ち堪えて見せます!!
師範を潜入させて先立たれるよりそっちの方がまだマシです!!」
「狛治さんもうやめてっ!! そんなことしたら狛治さんが死んじゃうわっ!!」
「しかし恋雪!! 師範を送り込む方が人死にの可能性が高い!! お前は父親を見殺しにしてもいいのかっ!?」
「いい訳ないでしょう!? お父さんも狛治さんも私にとってかけがえのない家族なのにっ!! どうしてそんな危険なことしようとするの!? 二人とももうやめてっ!! お願いだからそんなこと言い出さないで!!!」
恋雪が泣き出したところで師範が宥めに入る。恋雪が師範の胸元に顔をうずめて嗚咽を漏らしているのを見て俺は胸が引き裂かれるようだった。
しかし、やがて恋雪が落ち着いたのか、それを見計らい師範は俺に向き直る。
「おいおい、狛治。そんなに俺が信じられないってか? 師匠としては教え子に信じてもらえないことほど悲しいことないぞ?
それになあ、お前が死んでしまったら、愛娘の恋雪が身籠ったまま未亡人になってしまうぞ。それこそ願い下げだ。俺はそんな薄情者に恋雪を託した覚えはないんだがなあ。」
「し、しかしっ!! 師範だって恋雪のたった一人の父親でしょうっ!? 恋雪が納得するはずがありません!!!」
師範は目に涙を浮かべた恋雪に優しく笑いかける。
「なあ恋雪。俺は狛治と違って鬼側に面が割れていないし、素流の使い手の中では狛治に次いで戦える。よっぽどのことがない限り安全に帰ってこれるはずだ。だからほら、納得してくれ。」
「でも・・・でも私・・・お父さんにまで死なれたら・・・」
「なあに心配無用だ!! お前と狛治の子の顔を見るまでは死にはせんさ!! なにせ初孫だからな!! 寧ろ少しでもやばいと思ったら任務放棄して逃げ返って来るつもりだ!! ガハハハッ!!」
師範は豪快に笑い飛ばす。恋雪はその様子を見て目を丸くする。すると師範は恋雪を放して今度は俺に歩み寄り肩に手を乗せる。
「なあ狛治。わかってくれねぇか? 俺はお前の力になりたいだけなんだ。
お前みたいに真っすぐな奴がさ、体張って血流して世のため人のためにと戦ってるのを見てたらな、俺だけ先に気ままな隠居生活って訳にはいかねぇよ。
愛弟子の手助けの為ならば、俺は笑って命を懸ける。それが年寄りのカッコ良さだと思わないか? だからここは・・・俺の面を立ててどうか納得してくれ。」
俺は何も言えなくなる。そんな俺の様子を見て師範は笑って俺に語り掛ける。
「それにな狛治。以前の隣接する剣術道場の殴り込みの時にも言ったろ? どうせ行くなら俺も誘えってな。全盛期はとうに過ぎてるが、俺も引退にはまだまだ早いぞ?」
「師範・・・」
師範の言葉に俺は思わず涙を見せてしまった。大勢の門下生の目の前で。その瞬間、感化された門下生から同行するとの声が多数上がった。
その後暫くの間、師範が門下生を宥め考えを改めさせようと必死に言い聞かせる様子を見て、俺はつい笑ってしまった。
続く
ちょっと臭い演出だったかもしれませんが、慶蔵の胸中も描写したくてこのような流れになりました。この話はいわゆる難産というやつでした。書きたい内容がうまく文章化できなくてほんとに苦労しました。NARUTOという作品に自来也というキャラが居て台詞とかもその人物を参考にしたんですがまあ難しかったですね。師弟ものって好きなんですけど、どうにも自分で描写しようと思うと難しくて・・・原作の善逸と桑島じいちゃんの関係とかメッチャ好きなのに・・・自分でそれが書けないことにとてもむず痒さを感じます。