「死ぬ! 死んでしまうよ狛治殿! 鬼になってくれ!! 鬼になると言っておくれ!! 君はあの御方に選ばれし特別な者なんだ!!」
「黙れ童磨っ!!!!!」
童磨は本当に俺を殺す気がないのか、死なず逆らわずの状態に持って行こうとギリギリまで俺を追い詰める。その間奴は号泣しながら俺に絶えず勧誘の呼びかけをしてくる。俺はその度に青筋を浮かべる。
四体の御子との戦闘は熾烈を極めた。黒死牟とかいう別の鬼が一枚嚙んでいるせいなのか、御子共は透き通る世界に対し完璧な対策が施されており、攻撃を捌くだけで精一杯。破壊するには至らない。
御子共の血鬼術を赫刀の鎖分銅を振り回しなんとか防ぎ続けるが、やはり持続時間が短いせいか途中で赤熱しなくなる。再び発現させようとする隙を見せる度に、俺は血鬼術をもろに浴び身体のあちこちで凍傷ができる。
呼吸で血液を必死に循環させているおかげで壊死には至らないが、それでも延命処置程度にしかならない。やがて体温すら維持するのが難しくなるだろう。
このまま日の出まで持ち堪える以外に、生き残る道はないのかもしれない。業腹だが最悪奴を取り逃がすことも視野に入れねばならんようだ。今は生き残ることを考えるだけで精一杯だった。
千日手とも言える俺と御子共の応酬が続くが、夜明けまで残り一刻を切ったところで突如想定外の事態が起こった。
ー岩の呼吸 壱ノ型 蛇紋岩・双極ー
一瞬童磨が御子の操作を誤ったのかと思った。俺の放った鎖分銅は見事御子一体に直撃し胴体を粉砕する。
しかしすぐさま粉砕したはずの御子が鎖にしがみつく。そのせいで俺は分銅を手元に手繰り寄せることができなくなってしまう。
「はいおしまい。」
童磨の声がした途端、御子がしがみ付いていた俺の鎖が童磨の扇の一閃により断ち切られる。俺はその光景に目を見開く。
「はあ・・・もっと早くこうしてればよかった。まさか狛治殿がここまでしぶといなんて思わなかったからさ。無駄に痛めつけてごめんね?」
ジャララと音を立てて切れた鎖が地面へと落ちる。俺は奥噛みするが、一瞬たりとて猶予は与えられなかった。
残り三体の御子が俺に片っ端から血鬼術を打ち放ってくる。俺はたった一本の鎖分銅でそれらを捌くが内心焦るばかり。
「これでもう赫刀は使えないよね? だって打ち付けるのに対の分銅がないと無理だろうからさ。」
童磨の言う通りだった。やがて俺の分銅は熱を失い通常の状態へと戻る。それを確認すると童磨は御子共を自分の下へと退避させ攻撃をやめる。
「これでわかっただろう狛治殿。万に一つも勝ち目はないって。赫刀がないと俺の血鬼術は防げないんだから。もう鬼になるしか道はないよ? いい加減そう意地を張らないでおくれ。」
俺は型割れの分銅を握ったまま立ち尽くす。童磨の言う通りだった。もう俺は赫刀が使えない。奴の冷気による攻撃を防ぐ術がない。
俺が首を縦に振らねば待つのは死のみ。しかし例え鬼になって延命したところで恋雪と笑い合う日は二度と来ないだろう。師範から授かった素流を血で穢すわけにもいかない。何よりも俺は柱なんだ。
「殺せ。鬼になってまで生き永らえたくはない。」
「ええ~!? そんなぁ・・・ここまで引っ張って来ておいてそれはなくない? 俺の頑張りを無駄にしないでおくれよ狛治殿。折角だし恋雪ちゃんも鬼にすればいいじゃないか。君ら二人で仲良く一緒に永遠に生きていけばそれでいいだろう?」
「ならない。鬼に堕ちて恋雪が笑って生きていけるはずがない。人の命の犠牲なくば生きられない地獄のような日々が待っているだけだ。そうなるぐらいなら潔く死んであの世に逝きたい。」
俺は拳を握りしめ、腰を落とす。
俺が鬼になればどれだけの人が犠牲になるか。そんなことは許されない。恋雪だって師範だって望まない。
即死するなら心臓もしくは頭蓋を一撃で打ち砕く他ない。滅式で自身を粉々に打ち砕く。そうすれば万が一即死できず瀕死の状態から血を入れられ鬼にされることもないはずだ。
俺はそう決心し闘気を立ち昇らせて覚悟を決める。
「わあーーーー!! 待って待って!! 狛治殿は恋雪ちゃんがどうなってもいいの!? 今俺の結晶ノ御子一体を恋雪ちゃんの傍で待機させてるんだけど!!」
「・・・は?」
俺は踏みとどまる。童磨は今何て言った? 恋雪の傍に御子をだと?
「ふー・・・思い直してくれてよかった。危ない危ない。これで狛治殿にうっかり死なれたらあの御方の逆鱗に触れちゃうよ。下手すると俺殺されていたかも。」
「・・・貴様・・・まさか恋雪を人質に・・・!!」
俺は青ざめそう言葉を捻りだすだけで精一杯だった。一気に血の気が引く。
「うん。そうそう。もしもの時の為に一体だけ屋敷の外で潜伏させて恋雪ちゃん達を尾行するよう操作してたんだ。万が一に備えられてよかったよ。」
俺は震える。まさか既に恋雪の傍まで童磨の魔の手が迫っていたとは。つまり俺は戦う以前に最初から詰んでいたということか。
「じゃあもう答えは出たよね? 恋雪ちゃんは殺さないであげるから、狛治殿は大人しく鬼になること。いいね?」
俺は何も言い返すことが出来ず絶望する。駄目だ。すぐさま自害すべきだとわかっているのに、拳に力が入らない。恋雪の命を天秤にかけられ、俺は柱としての責務を果たせるような精神状態ではなかった。
童磨はニコニコしながら俺に歩み寄る。俺は過呼吸になる。
どうするどうするどうする!? 鬼になるなんてそんなの駄目だ!! でも恋雪が・・・しかしそれでは師範の素流を穢すことになるんだぞ!? 俺は鬼殺隊を裏切るのか!? 一体どうすれば・・・!!!
「もうそんな苦しそうに悩まなくていいんだよ、狛治殿。さあ、早く鬼におなり。余計な事考えないで済むようになるよ?」
童磨は指先から血を滴らせ、俺を鬼にすべくこちらに向けてくる。
ああ・・・ああ!! 駄目だ決断できない・・・決断・・・決断・・・あああ・・・
俺はそれ以上思考を進めることが出来なかった。やがて視界が暗転する。
ー草の呼吸 壱ノ型 草薙の一振りー
「えぇっ!?」
突如童磨の片腕が斬り飛ばされる。何者かが俺たちの間に乱入し、すぐさま童磨に追撃する。
ー草の呼吸 弐ノ型 枝葉のざわめきー
「おおっと!! 全く、誰かな邪魔してくれたのは・・・ってわあっ! 可愛い!! 女の子だねえ!! 若くて美味しそうだなぁ。折角だから自己紹介してよ。君、名前は?」
童磨は距離を取り、乱入した者の容姿を見てそのようなことをのたまう。俺もその萌黄色の羽織に艶やかで長髪の黒髪には覚えがあり、思わずつぶやいてしまう。
「さ・・・さやか殿・・・」
ギシギシと金属が握りしめられるような音が周囲に響き渡る。どうやらさやか殿が矛の柄を万力の握力で握りしめているようだった。
「狛治さん。お待たせして申し訳ありません。あの気違い気狂い糞野郎は今夜ここで確実に殺しましょう。」
続く
今話の狛治の精神状況は、日に灼かれる禰豆子と半天狗に襲われる人の命を天秤にかけられた時のような炭治郎状態です(つまり相当お辛い)。童磨ならこれくらいしてくるかなと思ってこのような展開になりました(人の心・・・)。
とは言えこのような話の引きでは辛いと感じる方も多いと思うので、そういう方は「62話 悪鬼再来」で描写したさなえちゃんの容姿を読み直すことをお勧めします。特に泣きほくろの下り・・・あれって本当に泣きほくろなのでしょうか・・・次回をお楽しみに。
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