狛治外伝 ~誰が為に振るわれる拳~   作:科学大好き人間

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狛治視点です。少し長いです。と言うのも、読み直してみたら矛盾点に気が付いてしまったので修正したのが理由です。加筆して無理矢理形にしただけなので冗長的で不自然なところあるかもしれません。予めご了承ください。


67話 痣

「狛治さん。お待たせして申し訳ありません。あの気違い気狂い糞野郎は今夜ここで確実に殺しましょう。いや殺す。」

 

 

 

後ろ姿しか見えないが、さやか殿から凄まじい怒気が放たれているので、今の形相は察して余りあるようだった。

 

 

 

「わあー・・・そんなに眉間に皺寄せちゃって・・・可愛い顔が台無しだよ? 折角だから笑ってるところも見たいなあ・・・」

 

「ええ、見せるとも。お前をひき肉に変えて血溜まりの海に沈めて徹底的に踏みにじった後ならいくらでも笑ってやるわ。師範を殺したお前だけは絶対に許せない・・・絶対に殺すっ!!!」

 

 

童磨はきょとんとしている。やがて斬られた腕が中々治らないのを見て、何かに気が付いたように表情を変える。

 

 

「あ! もしかして二年前に殺した花柱の子かな? 確か彼女も藤の花を溶かした液体を刃に塗ってて斬られると再生が少しだけ遅れたんだ。君も同じものを塗ってるみたいだし彼女の継子か何かかな?」

 

 

やがて童磨の片腕は肉が膨れ上がり再生した。確かに上弦にしては腕が治るのにやや時間を要したように思える。

 

 

「ええ、そうよ。私は先代花柱 南方咲様の継子。アンタを殺すためだけに・・・私は・・・私はっ!!! 今まで生きて来た!!!!!」

 

 

凄まじい怒号と共にさやか殿が童磨に斬りかかりそうになるが、童磨はへらへらと笑いだす。

 

 

「ええ~? でもさ、今狛治殿の奥さんである恋雪ちゃんを人質に取ってるんだよ? それでも斬りかかって来るつもり? 後ろの狛治殿が黙っていないと思うけどなあ。」

 

「・・・どういうことですか?」

 

 

落ち着いた声で俺へと尋ねるさやか殿。俺が回答に窮していると突如童磨の背後に何者かが急接近する。

 

 

 

 

 

 

ー炎の呼吸 壱ノ型 不知火ー

 

 

 

 

 

 

「さやか!! 危険だから一人で先行するなとあれほど言っただろう!!」

 

「わあ。君とても速いねぇ。今まで殺した鬼狩りの中で一番かも。」

 

 

 

童磨を通り過ぎ、俺たちの手前まで地を滑り止まる長寿郎。しかし停止と同時に長寿郎より鮮血が散る。

 

 

 

「がはっ!!??」

 

「長寿郎っ!!!」

 

 

 

完全に意表を突いたはずの死角からの一撃だった。しかし童磨は一切の戸惑いを見せることなく躱し、その上で一太刀浴びせていたのだ。

 

 

 

「残念。御子さえいなければ今ので勝てたかも。先行して下手を打ったのは君の方だったみたいだね。」

 

 

 

俺達の前で脇腹を押さえ吐血する長寿郎。血飛沫の量からして相当な痛手を受けたことが見て取れる。しかし長寿郎はその場で仁王立ちする。

 

 

「問題ない・・・!! この程度・・・呼吸で止血できる!!! ここは俺が盾となって・・・!!」

 

 

長寿郎が自身に鞭打ってそう猛ようとするものの、瞬時にさやか殿が煉獄家の羽織を掴んで俺たちの背後に長寿郎をぶん投げる。

 

 

「うおっ!?」

 

「足手まといです。長寿郎君は引っ込んでてください。」

 

「わあ! 君見かけによらず力強いねぇ。そんなに華奢なのに不思議だなぁ。」

 

 

投げ飛ばされる長寿郎を見て笑っている童磨。やがて奴の背後に別の人物が現れる。

 

 

「こ・・・これは一体・・・どういう状況だ狛治!!」

 

「し、師範!?」

 

「あれえ。誰かまた来たの? ん? 君つい最近俺の寺院に流れ着いた人だよね? 名は確か・・・まあいいかどうでも。」

 

「師範逃げて下さい!!!」

 

 

童磨が師範に振り返ろうとした瞬間、師範も身の危険を感じ取ったのか即座にその場から背後へ退避する。すると師範が立っていた場所には一拍遅れて冷気の軌跡が通り過ぎていた。

 

 

「わあ。よく躱したね? 君ってもしかして鬼狩りなのかな? その割には何の武具も持ち合わせてないみたいだし不思議だなあ。でもまあ、柱じゃなさそうだし無視してもいいよね?」

 

 

すると童磨は再び俺達柱三人に向き直る。口元は笑っているが、その眼はまるで得物を観察する蟲のように無機質だった。

 

 

 

「ゲホゲホッ! さやか・・・下がるんだ・・・今の君は冷静だとは思えない・・・ここはやはり俺が盾に・・・」

 

「何度も言わせないで。貴方その怪我で上弦と戦うつもり? 悪いことは言わないから辞めといた方がいいわ。無駄死にするだけよ。」

 

 

さやか殿は再び矛を構える。そして振り返ることなく今度は俺に問いかけてくる。

 

 

「恋雪ちゃんが人質に取られたというのは・・・本当なのですか?」

 

「っ! ・・・ああ。」

 

「なんと!?」

 

「狛治それは本当なのか!?」

 

 

長寿郎と師範から驚きの声が上がる。同時に童磨は得意げに話し始める。

 

 

「そうそう。今俺の分身である御子が恋雪ちゃんを尾行してるんだ。俺の命令一つでいつでもけしかけられるよ?」

 

 

するとさやか殿は童磨に対し舌打ちする。

 

 

「人質取るとか恥ずかしくないの? そんなに私達柱が怖いのかしら? 上弦の癖に。」

 

「おおっと。勘違いしないでおくれ。それはあくまで交渉を円滑に運ぶためのものなんだ。なにせ狛治殿には鬼になってもらいたいからね?」

 

「なっ!? 狛治殿を鬼に!?」

 

「それは真か狛治よ!?」

 

「・・・・・・」

 

 

俺は答えられなかった。未だに後輩達の前で決心が固まらない自身の弱さに嫌気が差し思わず拳を握る。俺は苦悩の表情で声を絞り出す。

 

 

「・・・俺が鬼にならなければ恋雪を殺すとそう脅しをかけられている・・・だが柱の俺が鬼になる訳には・・・」

 

「は・・・狛治殿・・・」

 

「狛治・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

するとさやか殿が無機質な声で俺に質問してくる。

 

 

「因みに私の継子のさなえは今同行してますか?」

 

「ああ・・・護衛を指示したが・・・しかし本体並みに強い分身を癸の隊士が相手できるとは・・・」

 

「なら長寿郎君は今すぐ恋雪ちゃんの下まで向かってあげて。どの道手傷を負った貴方じゃここに居たところで何もできないわ。」

 

「さやか・・・今の発言に対し思うところはあるのだが・・・とは言え君の言う通りだ。俺は恋雪殿の救援に向かう!! 狛治殿彼女は今どこに!?」

 

「恐らく最寄りの藤の花の家紋の家だろう。しかし今から駆け付けても到底間に合うとは・・・」

 

「何を弱気なこと言っているんだ狛治!! もしかしたら護衛の隊士の子が奮闘してくれているかもしれんだろう!? 

 俺も今すぐ恋雪を助けに向かう!! それまで何が何でも持ち堪えろ!! 長寿郎殿!! 早速案内を!!!」

 

「わかりました慶蔵殿!! さやか!! 狛治殿のことを頼んだぞ!? 是が非でも二人で生き延びろ!! それだけは約束しろ!!!」

 

「・・・いいから早く行ってきて下さい・・・戦いの邪魔ですから。」

 

 

さやか殿は振り返りもせず返答する。長寿郎は一度何かを言い出そうとするが、口を噤みそのまま師範と夜の闇の中へと駆けて行った。

 

そうしてこの場には俺とさやか殿、そして目の前の童磨だけになった。

 

 

「いや~。随分長々と話し合いしてたねぇ、戦闘中なのに。まあでも、そこは敢えて見逃してあげたよ。なにせ俺は優しいからね?」

 

 

再びさやか殿の矛が軋む音を立てる。

 

 

「五月蠅い、黙れ、塵屑野郎。お前が優しいというのなら、今すぐ私の前で自害してみせろ。お前が死ねばきっと世の中のためになる。」

 

「え~? いやいや、俺は万世極楽教の教祖だよ? 俺ほど人に尽くし世の中に貢献してきた人間なんていないじゃないか。そんな悲しいこと言わないでおくれよ。」

 

「お前は鬼でしょ。今更人間振るなよ糞野郎。散々人を喰い殺しておいてよく言うわ。死んで今すぐその人たちに詫びろ。」

 

「人聞きが悪いなぁ。だから救済って言ってるじゃないか。どうやら君とは話が合わないね。」

 

 

やがて会話が止まる。空気が張りつめていく。両者が動き出す前に俺は声を上げた。

 

 

「ま、待ってくれさやか殿!! このまま戦い始めても・・・人質を取られている以上どうしようもないだろう!?」

 

「確かに恋雪ちゃんのことは気掛かりです。でも傍に私の継子のさなえがいるのでしょう? なら何も問題ありません。」

 

「いや、待ってくれ! 何度も言うが癸の隊士で御子の相手などできる訳が・・・!」

 

「あの子は既に私よりも強いです。なのでご心配には及びません。」

 

「は?」

 

「ん? どゆこと?」

 

 

俺は想定外の発言に思考が止まる。さやか殿は今何と言った? 加えて童磨も間の抜けた声を漏らしていた。気が付くとさやか殿は再び童磨に語り掛けていた。

 

 

「見るからに軽薄そうでいけ好かない奴。恋雪ちゃんを人質に狛治さんを脅すなんて本当に最低。救いようのない虫けら野郎。本当に吐き気がする。さっさと死んだ方がいい。と言うより今すぐ死ぬべき。」

 

「いつ言うべきか悩んでたんだけど君口悪いね~。女の子がそんな言葉遣いしたらダメじゃないか。」

 

「余計なお世話よ。アンタの戯言なんて聞いてたら耳が腐るわ。本体のお前は私が殺す。恋雪ちゃんにけしかけた分身の方は私の継子が返り討ちにする。それで終わりよ。ざまあ見なさい。気狂い野郎。」

 

「君さぁ、狛治殿が傍にいるからって少々気が大きくなりすぎじゃない? 君ら二人掛かりでも本体の俺は倒せないと思うけどなぁ。

 それに俺の結晶ノ御子は俺と同じ規模の血鬼術が使えるんだ。君は勿論のこと君の継子も到底生き残れないと思うけどなぁ。」

 

童磨のぼやきにさやか殿は突如鼻で笑う。

 

「じゃあ今すぐ確認して見なさいよ。私が嘘言ってるか確かめてみれば?」

 

「いいのかい? さっき救援に向かった柱なんてまだ辿り着いていないだろうに。」

 

「勘違いしないで。あれは二人を逃がしたのよ。ずる賢そうなアンタのことだからどうせ放っておけばまた人質にするでしょ? その布石よ。」

 

「ふ~ん。まあいいか。お望みとあらば一先ず君の自慢の継子だけでも殺しておこう。今けしかけたし直ぐにでも・・・ん!!??」

 

 

やがて童磨は片目を片手でふさいだままの状態で瞬きを何度も繰り返す。しばらくそうやって動揺していたが、やがて童磨は俺達へと向き直る。

 

 

「なんか御子が瞬殺されたんだけど・・・君の継子って何者?」

 

「なっ・・・!!」

 

 

あれはあっけに取られる。どうやらさなえ殿のおかげで恋雪の危機は無事去ったようだ。しかし俺はその事実に驚く。するとさやか殿が俺に視線を送る。

 

 

「あの子、生まれつき痣があるんです。しかも狛治さんと同じで透き通る世界が見えるそうで・・・」

 

「は・・・? 痣・・・? いや待て。透き通る世界が見えるだと!?」

 

 

俺は驚愕する。まだ年端もいかない十三ばかりの幼子が既に至高の領域に達している事実に。

 

 

「はい。まあそのことはコイツをぶち殺した後に説明しますので。なので狛治さんも力を貸してください。流石に私一人では厳しいと思うので。」

 

 

正直事情は呑み込めないが、どうやら恋雪の身を案じる必要がなくなったようだ。俺は気持ちを一気に切り替える。

 

 

乱れた呼吸を最低限整え、俺は即座に童磨へと肉薄する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー素流体術 脚式 冠先割ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっと!!」

 

 

童磨は間一髪で避ける。呼吸の技量がまだ甘い。透き通る世界に入らなければ。俺は一気に感覚を研ぎ澄ませる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー血鬼術 凍て曇りー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

童磨も俺の気配が変化したことで警戒したのか、自身を守るように周囲を氷結させる煙幕をまき散らす。

 

 

「ふー・・・想定外だけどしょうがないなぁ・・・じゃあこうしよう。狛治殿は手足を欠損させて抵抗できないようにしてから鬼にしよう。そうすれば自害すらできないもんね? あーあ。回りくどいことなんてしないで、はじめからそうすればよかったなぁ。」

 

 

奴は悠長に独り言を漏らす。しかし俺たちは奴に接敵することが出来ない。なぜなら赫刀がない以上、奴の血鬼術を無効化する手段を持ち合わせていないからだ。

 

 

「良し。じゃあ結晶ノ御子も出し惜しみなく使おうか。五体の御子と俺で君ら二人の相手をしてあげる。夜明けまで半刻もないけど充分間に合うよね?」

 

 

会話の途中で煙幕が晴れる。するとそこには五体の結晶ノ御子が集っていた。

 

 

「とりあえず女の子の柱の方は御子二体でいいかな? まあほどほどに凍らせて夜明け前に食べてあげるよ。柱で女の子なんて珍しいから見逃すなんて勿体ないし。」

 

 

するとさやか殿から再び凄まじい怒気が発せられる。再び矛の柄が再びギシギシと音を立てるくらい握りしめられる。

 

 

「夜明けまでに死んでいるのはお前の方だ童磨っ!!!」

 

 

さやか殿は一心不乱に突進し、矛を旋回させ広範囲を薙ぎ払い続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー草の呼吸 肆ノ型 穀種争乱ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし童磨は悠々と軽やかに躱していく。

 

 

「いやいや、こんな重そうな矛振り回したところで当たる訳ないだろう? 少し考えればわかるじゃないか。君もあんまり頭良くないみたいだね? 可哀そうだし早く救済してあげないと・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー素流体術 脚式 飛遊星千輪ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ。」

 

「うわっと!? 危うく死ぬところだった!!!」

 

 

俺は一足飛びで童磨に跳び蹴りを放ち吹き飛ばす。本当は頭蓋ごと蹴り飛ばすつもりだったのだが、奴は対の扇で見事受けていた。

 

吹き飛んだ童磨に追走しようとしたが、それを阻止せんと御子共の血鬼術が俺に殺到した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー血鬼術 冬ざれ氷柱ー

 

 

 

ー血鬼術 蔓蓮華ー

 

 

 

ー血鬼術 散り蓮華ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今までで一番苛烈な飽和攻撃。しかし俺は透き通る世界に入ったまま大地を踏み抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー素流体術 奥義 終式 青銀乱残光ー

 

 

 

 

 

 

 

 

拳と蹴りで氷柱と氷の蔓を、紙吹雪のように舞い散る氷の破片を残された片割れの分銅と鎖で迎撃する。

 

透き通る世界に入っているおかげで周囲がゆっくりに見える。無生物は生物に比べ動きが読みにくいとは言え、打ち払うだけなら造作もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー草の呼吸 伍ノ型 大樹砕断棍閃殺ー

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が御子の総攻撃を受けている間、御子の一体が凄まじい轟音と共に砕け散った。土煙の中からさやか殿の声がした。

 

 

 

「狛治さん!! こいつらの相手は私がするので!! 狛治さんは童磨の頸をっ!!!」

 

 

 

俺は御子共がさやか殿の矛の振り回しに追われている最中、一目散に童磨へと駆けていく。その様子を見て、童磨は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「想定よりも長引いてるし、そろそろ決着つけなきゃね。言っておくけどもう手加減してあげないよ? 実はあの御方からずっと催促の声が届いてるんだ。だからごめんね狛治殿。」

 

「抜かせ。お前の命運も今夜までだ童磨。生きて帰れると思うなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




なななんと、草柱のさやかちゃんの継子は生まれながらの痣者でした!
まだ十三&とある事情で縁壱スペックには程遠いですが、そこら辺の塩梅は今後の描写で書けるかと思います。
そして遂に次回で童磨再来編決着です。序章並みに長い章でした。お付き合い下さりありがとうございます。宜しければ最後まで読んで下さると嬉しいです。

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