狛治外伝 ~誰が為に振るわれる拳~   作:科学大好き人間

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さやかちゃん視点です。痣者に対する救済処置回です。

追記:本日も休日出勤のため感想への回答が遅くなります。予めご了承ください。


幕間:転換期
69話 抱擁


「さやか! 身体の調子はどうだ! 少しは楽になったか!?」

 

「おはよう、長寿郎君。今日もお見舞いに来てくれて嬉しいわ。ただ、もう少し声抑えないと。他に入院してる人達に迷惑がかかるでしょう?」

 

「あっ! 済まない! 俺としたことが迂闊だった! さやかに会えると思ったら嬉しくてな!」

 

「も、もうっ・・・///」

 

 

童磨を討伐してから半月経った。あの日からずっと、私は草柱邸の一室で療養中だ。

 

屋敷の長である私が動けないからとは言え、ここが診療所としての機能を損なうようなことがあってはならない。私は床に臥せったまま、隠達に指示をする日々を過ごしていた。

 

なかなか心休まる時間が取れないものの、お見舞いを口実に長寿郎君が毎日私に会いに来てくれる。入院しながら仕事をしている間は不便で鬱憤も溜まりやすいけど、以前より私の心は穏やかになった気がする。

 

念願だった師範の仇討ちを果たした私は、憑き物が落ちたかのように心に余裕が持てるようになった。

 

加えて長寿郎君と過ごせる時間も増えて、私の心は温まるばかり。先日あんな話を聞いたばかりなのに、不思議と私は塞ぎこんだりしなかった。

 

童磨討伐後、数日空けたのちに、この草柱邸にて緊急の柱合会議が執り行われた。

 

私と狛治さんは正直動き回れるような状態ではなかったので、この屋敷で行うより他がなかったのだろう。

 

お館様を招き、狛治さんより上弦の弐討伐の詳細な報告が行われた。特に、童磨本人から聞き取った新たな情報は波紋を呼んだ。柱一同多くの議論を交わしたものだ。

 

そしてお館様より伝えられた痣の伝承について。以前さなえと共に聞かされた伝承話の続きに当たるその内容は、ある意味今の私にとって一番関係の深い内容だった。

 

 

『痣者は例外なく、二十五の歳を迎える前に死ぬ。』

 

 

様々な伝承について仰っていたが、要点としてはそういうことだった。つまり痣を発現した私は、どんなに長くてもあと七年しか生きられない。つまるところそういう話だった。

 

以前さなえと共に聞かされた痣者の伝承話はとても興味深かった。かつて鬼舞辻無惨をあと一歩のところまで追い詰めた始まりの呼吸の剣士達。

 

最初の痣者が現れてから次々と共鳴するように皆痣が出て、瞬く間に歴代最強の柱達が誕生した物語。御伽噺みたいで中々に浪漫に溢れる胸躍る内容だった。

 

もしかしたら童磨と戦っていた時の私は、痣のおかげで狛治さんに次いでの実力を発揮できていたのかもしれない。道理で最後の童磨との一騎打ちで血反吐を吐くまでは私に軍配が上がった訳だ。

 

私の継子のさなえが生まれながらの痣者だったからなのか。二番目に痣を発現したのは私だった。

 

十三のさなえがあれだけ強いんだから、きっと私も鍛錬を積み重ねて行けば狛治さんと同じくらい強くなれる。そう嬉しく思った矢先に、痣の伝承話の続きを童磨の討伐報告と一緒に聞かされた。

 

まさか寿命が縮まるなんて。でも本来鬼殺隊の隊士はいつ鬼に殺されるかもわからない身の上なのだからそれはいい。天寿を全うするその日まで、より多くの鬼を屠り市井の人の命を救えるのなら本望だろう。

 

でも私の場合、それすらも叶わぬ夢となってしまった。今の私は童磨の血鬼術のせいで肺が駄目になって全集中の呼吸すら使えないただの女。他の痣者と違い、戦いにこの身を捧げることすらできなくなってしまったのだ。

 

痣の恩恵を一夜しか受けられないまま寿命だけ短くなってしまった私は控えめに言って泣いて良いと思う。何ともまあ惨めで滑稽でつまらない話としか言えない。

 

でも不思議なことに、日を重ねるにつれてそんな悲愴を感じることも徐々に少なくなってきた。

 

私は自身を見つめ直し気が付いた。きっと私は現状に満足しているんだ。師範の無念を晴らすことができ、こうして毎日好きな人とお喋りできる現状に。

 

私ったらなんて単純なのかしら。現実が見えて居なさ過ぎて思わず笑っちゃう。

 

それに拍車をかけているのが目の前の長寿郎君の仕業だった。何だか最近、彼は私の胸がときめくようなことを頻繁に言うようになった気がする。その度に私はほだされる。先のことなんてどうでも良くなってしまう。

 

もしかしたら、狛治さんや恋雪ちゃんが裏でいろいろと動いてくれているのだろうか。だとしたら本当に可笑しい。でも嬉しい。私の恋路を応援してくれているのだから。

 

でも長寿郎君にとってはどうなんだろう。彼は由緒ある煉獄家の現長男だ。即ち跡取り。よって彼と夫婦(めおと)となる女性は跡継ぎを可能な限り産める人じゃないと良くない気がする。

 

仮に、万が一彼が私のことを好きになってくれて、めでたく私を妻に引き取ってくれたとしても、それは彼の家の為になるのだろうか。

 

ううん。きっとならない。二十五で死んじゃうような身では、彼の妻にふさわしくない。

 

多分その日が来たら私は三日三晩泣き続けるだろうけど、彼が他の女性と結ばれるまではこうして仲良くお喋りしていたい。神様は私から大半の寿命を奪い取っていったんだから、それぐらいの我儘許して欲しい。

 

私はそんなくだらない自問自答を繰り返しては、長寿郎君のお見舞いを今か今かと待ちわびて過ごしているのだった。

 

今日もそんな待ちに待った至福の時間がやってきた。私は病床で上体をおこしたまま、彼と他愛のない世間話をする。本当に幸せ。こんな時間がいつまでもいつまでも続けばいいのに。

 

 

「さやか。出歩けるようになるのはいつ頃になりそうだ?」

 

「え? そうね・・・もう半月もすれば日常生活に支障が出ることはなくなるとは思うけど・・・」

 

「そうか! なら快気祝いに俺がうまい食事処に連れていってやる! つい最近新たに見つけた店があってな! きっとさやかも気に入ると思う!」

 

「あら、それは楽しみね。じゃあ早く治るよう私頑張るわ。ありがとう、長寿郎君。」

 

 

彼からそのような提案をされ私は頬を綻ばせる。それにつられて朗らかに笑っていた長寿郎君だったが、一転して急に真面目な雰囲気に変わる。

 

 

「なあ、さやか。話がある。」

 

「どうしたの長寿郎君。そんなに改まって。ご飯のお誘いよりも大事な話なの?」

 

「ああ、とても大事な話だ。だから聞いてくれ。」

 

 

私は首を傾げる。何かしら。わざわざそんなに前置きを挟んでまで。ご飯と鍛錬にしか興味のない長寿郎君が一体何の話をし出すのか想像できない。私は彼の言葉を待つ。

 

彼はふーと息を吐いたのち、私の目を真っすぐ見据えて静かに、それでいてはっきりと言い放った。

 

 

「さやか。俺は君が好きだ。俺と夫婦(めおと)になってくれないか?」

 

「え?」

 

 

彼が何を言ったのか、その内容が余りにも唐突過ぎて一瞬わからなかった。けど次第に私の思考が現実に追いついてくる。その瞬間、全身が燃え上がったのだと錯覚するくらい私は熱を感じ真っ赤になった。

 

 

「えっ///!? へっ///!? めっ夫婦っ///!? ええっ///!? きゅ、急に何言ってるの長寿郎君っ///!!!」

 

「突然で済まない。本当はもっと早く言い出すつもりだったんだ。けど傷心のさやかの弱みに付け込むような真似はしたくなかった。

 ただ、最近徐々に笑顔も戻って来たし、調子を取り戻したように見えたから、今日こそ言うべきだと思った。だから言った。さやかの気持ちを聞かせて欲しい。」

 

「そんな・・・そんなこと・・・急にそんなこと言われてもっ///!!」

 

 

私は顔を隠し背を向ける。とても彼の顔を見て話せる心境じゃなかった。さっきから耳から心臓でそうになるくらい鼓動が激しい。体温も一気に上がった気がする。

 

あ、なんか知らない間に首の付け根から胸元にかけて痣出て来た。なんでだろう。私はそんなくだらないことを考えて自身を落ち着かせる。

 

 

「勿論俺はさやかの気持ちを尊重したい。嫌なら断ってくれて構わない。だから答えを聞かせてくれ。」

 

「っ///」

 

 

も、もうっ///!! この人なんでこんな突飛なこと言い出すの!? そもそも長寿郎君ったら今までそんな素振り私に見せたことなかったのにっ///!!

 

私のことが好き? ほんとにそう思って言ってるの!? 正直今でも信じられないっ!!

 

私は必死に自身を落ち着かせて声を絞り出す。

 

 

「長寿郎君・・・念のため聞きますが・・・///」

 

「ああ、何なりと聞いてくれ。」

 

 

私は背を向けたまま質問する。

 

 

「私に好意を持ち出したのっていつ頃なの///?」

 

「何を言っている? そんなの最終選別で初めて会った時からに決まっているだろう? 俺は初めて出会った時からさやかに好印象を抱いていた。」

 

「いや・・・そういうことを言ってるんじゃなくて・・・」

 

「?」

 

 

私は悔し気に振り返りチラ見する。さっきから首を傾げて腕組みしている長寿郎君。その仕草を見てると無性に腹が立つ。

 

まさかとは思うけど私のことからかって遊んでる訳じゃないよね? だとしたら許せないんだけど・・・

 

 

「じゃあ私のこと・・・女の人として意識し始めたのっていつからなの///?」

 

「何を言っている? さやかは女だろう? 君を男だと思ったことは一度もない。」

 

「いや・・・だからそうじゃなくて・・・」

 

「?」

 

 

こ、この人はもうっ!! 本当にわからずやっ!! こうなったらはっきり聞くしかないじゃないっ!!

 

 

「じゃ、じゃあこれで最後よ・・・私に明確に恋心を抱いたきっかけはいつだったの///?」

 

「恋心か・・・正直今でもよくわかっていないが・・・」

 

「ええぇ・・・嘘でしょ・・・」

 

 

私はあっけに取られる。

 

この人・・・こんなんで良く求婚なんてできたものだわ・・・長寿郎君って寺子屋に通う幼子と情緒の水準変わらないんじゃ・・・

 

 

「けど俺はさやかが上弦の弐と戦って死にかけたあの日、恋雪殿の下から引き返して駆け付けた際に思ったんだ。俺はさやかを失いたくない。さやかに生きていて欲しい。そしてできれば俺の傍でずっと笑っていて欲しいって。

 色恋とか正直よくわからないが、ずっと傍で共に生きて欲しいって本気で思えたのは、家族以外でさやかが初めてなんだ。

 それに昔母上が教えてくれた。もしそう思えたらのなら、それこそが愛だと。かけがいのない大切な存在に対する気持ちなのだと。もしそういう人を見つけたら、絶対手放してはいけないと。」

 

「ちょ・・・長寿郎君っ///!?」

 

 

私は振り返り長寿郎君を見つめる。全身から火が噴き出るようで今すぐ逃げ出したいくらいなのに、彼から目が逸らせない。思わず釘付けになる。

 

彼は赤面こそしていないものの、俯き不安そうに顔を歪めている。あんな顔の長寿郎君初めて見る。

 

私は彼の想いを漸く理解することができた。彼は本当に私を愛してくれているのだと。かけがえのない絆を私に感じてくれているのだと。

 

その事実に形容し難い嬉しさが沸き上がる。嬉しさの余り飛び跳ねそうになる。しかしそれでも彼を大切に思っているのは私も同じで、それ故に私の理性はこの時一切の狂いもなく働いた。

 

 

「長寿郎・・・本当にいいの? 私あと七年しか生きられないんだよ? もしかしたらもっと早く死んじゃうかもしれないし・・・」

 

「・・・さやか・・・」

 

「長寿郎君は煉獄家の跡取りでしょ? 将来的には跡継ぎだって残さないといけないし、私なんかよりも長生きできてしっかりした奥さんを貰わないと駄目だよ・・・!!」

 

「・・・・・・」

 

 

長寿郎君は黙る。彼も冷静になったのかもしれない。自分で言っておきながら胸が引き裂かれるように痛む。

 

うん。長寿郎君は責任感の強い人だから、一時の気の迷いに突き動かされて選択を誤ったりしない。きっと私たちの仲はこれで終わり。私は力無く俯くが・・・

 

 

「だからなんだ。それでも俺はさやかがいい。家の事情なんてこの際どうでもいい。俺はさやかがいいんだ。何度でも言う。俺はさやかが好きだ。俺と夫婦(めおと)になってくれないか?」

 

「~~~~~~っ///!!」

 

 

彼の決心は一切揺らがなかった。その瞬間、私は胸の奥に残っていたしこりが突如なくなったかのような錯覚を覚える。気が付けば涙腺が緩んで頬が濡れていた。

 

 

「うっ、ひっく、長寿郎君っ!! 本当に・・・本当に私なんかでいいのっ!? 先の短い女なのにっ!! あとになって後悔なんてしないわよね・・・!?」

 

「もう一度言うが・・・俺は君のことが好きだ。俺は何があろうともさやかを選んだことを後悔しない。」

 

「長寿郎君っ・・・うっ、うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

 

 

私は堪えられず彼に抱き着く。涙腺なんてとうに崩壊済みで留めることなんてできなかった。

 

童磨に痛めつけられた胸の奥の痛みが和らいでいく。今だけは胸が痛くない。内側から何かがじんわりと私を温めてくれているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はこの日、長寿郎君とずっと抱きしめ合っていた。片時も離れたくないと言わんばかりに。

 

感極まってしまい、余りにも力を込めて抱きしめていたせいか、途中で顔を青くする長寿郎君に待ったをかけられてしまった。

 

それでも私は自身の気持ちが漸く通じたことに胸が一杯で、日が暮れるまで気にせず抱擁を続けた。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




以上救済処置(メンタル的な意味で)でした。短命には恋愛成就が最も刺さるというのが個人的見解です。尚異論は認める。

しかし捌倍娘の本気の抱擁は下手すると力士の鯖折りに匹敵すると思うので今後長寿郎君は苦労するでしょうね。体が弱い恋雪ちゃんを相手にする狛治の場合とは比べるべくもないでしょうし・・・汗
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