狛治外伝 ~誰が為に振るわれる拳~   作:科学大好き人間

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狛治視点です。狛治の今後についてお館様と色々話します。


70話 今後

「しかし驚いたな。まさかさやか殿が柱を引退した途端、煉獄家に嫁入りするとは・・・何はともあれ、めでたい話だ。」

 

「なんでも長寿郎さんから求婚したそうですよ? ふふっ、殿方から打ち明けてもらえるなんて私憧れちゃいますっ! ねえ、狛治さん?」

 

「うっ・・・それは済まない・・・素流道場に居た時の俺はそんな未来がまるで想像つかなくて・・・今思えば情けない男だった。」

 

「何も狛治さんを責めている訳ではありませんよ? それにあの時は私が狛治さんを手放したくなかったので別にいいんです。何より今こうして一緒に過ごしてくれるだけで私幸せですから。」

 

「そうか・・・ならいいんだが・・・」

 

 

童磨を討伐してから早一ヶ月。さやか殿は後遺症を残すものの日常生活を支障なく過ごせるまで回復し、快気後は瞬く間に長寿郎と婚姻の準備を押し進め、気が付けば夫婦(めおと)となっていた。

 

その幸せな知らせを産屋敷邸の一室で聞いて、俺と恋雪は驚くと共にとても感無量であった。

 

それにしても長寿郎は本当に良い仕事をしてくれたぞ。あの日、柱合会議でさやか殿と再会した時のあいつは圧倒的鈍助、女泣かせでしかなかった。

 

だがどうだ。今のあいつは。目を見張る成長だ。俺は純粋に嬉しい。心が躍る。

 

 

「子ども達が互いに想いを通じ合わせ、互いの絆を育んでいく。鬼殺隊当主として、これ程嬉しい知らせはないだろう。」

 

「ええ、本当にその通りです。織哉(おりや)様。」

 

 

現在俺たちが間借りしている一室に、主君である織哉様が目の前で正対したまま座っていた。

 

俺も正座したまま軽く頭を下げる。恋雪もつられて俺の真似をする。

 

 

「願わくば彼ら二人が天寿を全うするその日まで、幸せに生き抜いてほしい限りだよ。勿論、君達夫婦にも同じように思っているよ?」

 

「身に余る御言葉。かたじけなく。ではそろそろ・・・」

 

「ふふっ。嬉しい知らせでつい長話が過ぎたね。では君たちの今後のことについて話し合おうか。」

 

 

すると織哉様は襟元を正す。俺も居住まいを正し座り直す。恋雪も空気が変わったことを感じ取ったのか背筋をピンと伸ばしている。

 

やがて織哉様はおもむろに口を開いた。

 

 

「では本日より、狛治と恋雪の二人にはこの屋敷に定住してもらうこととする。鬼舞辻無惨が息絶えるその日までね。もしかしたら・・・一生この屋敷で過ごしてもらうことになるかもしれない。」

 

「・・・御意。」

 

 

このような前代未聞の判断を織哉様が下したのには理由がある。それは鬼舞辻無惨が俺を鬼にしようと画策していることが明らかになったからだ。

 

先月戦った童磨の証言を信じるならば、無惨は俺を新しい上弦に迎え入れたいと考えているらしい。

 

正直言うと、なぜ鬼の始祖が俺一人にそこまで固執するのか皆目見当もつかない。

 

しかし童磨が最後の最後まで俺に止めを刺そうとしなかったことから、是が非でも俺を鬼にしたいという確固たる意志が読み取れる。

 

織哉様はその事態を重く受け止め、俺を産屋敷邸に匿い、奴の魔の手が届かないようにしようと考えているのだ。

 

 

「狛治は今となっては鬼殺隊唯一無二の最重要戦力だ。君は既に単独で上弦を撃破できる程の力を有している。

 しかし、だからこそ、君ほどの実力者を鬼にされる訳にはいかない。ともすれば鬼となった君一人に、鬼殺隊は壊滅させられるかもしれないからね。」

 

「まあ・・・今の俺が鬼になれば・・・童磨以上の脅威になり得るのは充分考えられますので・・・」

 

「ああ。よって今後君を産屋敷邸で匿い続けることは勿論、柱としての巡回任務に出ることも禁じる。」

 

「つまり・・・事実上の柱引退ということでしょうか・・・」

 

 

まさかここに来てお役目御免とは・・・俺は正直内心複雑だった。一方で、対照的に恋雪の表情が明るくなる。

 

 

「それじゃあ・・・! もう狛治さんは戦わなくて済むようになるんですね!? これからはもう危険なことしなくても・・・!!」

 

 

恋雪が期待を込めた声色でそう笑顔を見せるが、それとは正反対に織哉様は申し訳なさそうにかぶりを振った。

 

 

「残念だが・・・狛治なしで今後上弦の鬼・・・ひいては鬼舞辻無惨を滅ぼすために鬼殺隊が戦い続けるのは難しいだろう。

 だから狛治には今後も柱として在籍し続けてもらう。但し、緊急時に限る遊撃隊士としてだ。」

 

「遊撃・・・隊士?」

 

「ああ、そうだ。もし柱の誰かが上弦と会敵した場合、火急的速やかに狛治には救援として駆け付けてもらう。

 今後も柱は二人一組で巡回任務に回ってもらう予定とは言え、上弦の鬼に遭遇した場合生き残るのは難しいだろうからね。柱と言う貴重な戦力を極力温存する為にも、狛治にはこれからも一層重責を担ってもらう。心苦しいが、どうか納得して欲しい。」

 

「成る程。そういうことでしたら俺は構いません。今後も何なりとお使い下さい。俺は貴方様の懐刀ですので。」

 

「え・・・は・・・狛治さん・・・その・・・」

 

 

俺はそう答えるも、恋雪のか細い声がそれに異議を唱える。

 

 

「どうした恋雪。仕方がないことだろう?」

 

「で、でも・・・!」

 

 

恋雪は辛そうに眉を寄せて目線を下げる。やがて意を決したのか顔を上げて俺の目を見て嘆願する。

 

 

「我儘を言っているのは充分承知してます。それでも私は・・・もう狛治さんに戦ってほしくありません・・・!!」

 

「恋雪・・・だがそれは・・・」

 

 

俺はそう言い淀むが、恋雪は眉を八の字に歪めたまま再び顔を下げてしまう。

 

そして俺の焼けただれた痕が残る手の甲に優しく触れて話の続きを紡ぐ。

 

 

「確かに・・・狛治さんはとても強い人です。すでに上弦の鬼を二体も返り討ちにしています。

 でも・・・もし次・・・もし次にまたそんな恐ろしい鬼と戦うことになったとしたら・・・その時こそはこの手みたいに・・・いつか取り返しのつかないことになってしまうんじゃ・・・」

 

 

俺は押し黙る。恋雪は俺の身を案じて柱を引退してくれとそう懇願しているのだ。

 

確かに今回の童磨戦は恋雪に相当の心痛を経験させた。なにせ身重の恋雪を逃がすため、俺は殿となり童磨と戦ったのだから。

 

恋雪も童磨と相対して身をもって思い知ってしまったのだろう。あんな恐ろしい鬼と俺が度々戦っているのだと。

 

俺が命を落とす光景がありありと想像できたに違いない。

 

今までは実物を見ていなかったため、俺が大丈夫と言えば安心して家で待っていてくれたが、今後また同じ強さの鬼と戦い続けなければならないと聞いて内心気が気でないのだろう。

 

しかし俺は火傷の痕が残る手で恋雪の手を握る。

 

 

「恋雪。わかってくれ。俺の力は鬼殺隊に必要なんだ。だから戦いを辞める訳にはいかない。俺の強さは恋雪が一番わかっているだろう? だから俺を信じてまた送り出してくれ。」

 

「信じてます。信じてますけど・・・それでも不安なものは不安なんです・・・お願いだからもう危険なことしないで・・・」

 

 

終いには恋雪はぽろぽろと涙を溢してしまう。俺は居たたまれず、助け舟を求めて織哉様に視線を移す。

 

織哉様は申し訳なさそうに表情を曇らせている。流石に十にも満たない織哉様に恋雪の説得をお願いするのは酷な話だ。俺は再び恋雪に語り掛ける。

 

 

「なあ恋雪。俺が鬼殺隊に入る時に言ったことを覚えているか? 俺は約束したはずだ。絶対生きて帰ると。その為に俺は自身を鋼の如く鍛え上げると。

 結果、俺は並みの上弦すら倒せる程に強くなった。だから心配なんていらない。これからも安心して帰りを待っていてくれ。」

 

「私だって・・・狛治さんにその時こう言ったはずです。それでも心配するって。私、毎晩狛治さんを想って枕を濡らさなければいけないのって。本当に酷い人って。」

 

「うっ! そ、そうだったか!? しかし・・・それでも俺は・・・!!」

 

 

俺は酷く狼狽する。駄目だ。恋雪を説得できる気がしない。このままでは織哉様に迷惑をかけてしまう。俺は必死に打開策を探る。

 

俺が悩みに悩んでいると、突如恋雪は諦めたようにクスッと笑う。

 

 

「もう・・・あの時と全く同じ反応してるじゃないですか。私に口では勝てないってわかってるはずなのに・・・いつもそうやって・・・

もうわかりましたよ。狛治さんが約束を破ったことなんて今までで一度もありませんものね。お館様の前でこれ以上駄々をこねる訳にも行きませんし、今日はこれぐらいで勘弁して差し上げます。」

 

「こ、恋雪・・・いいのか?」

 

「はい。でもその代わり、これからも絶対約束守ってくださいね? 必ず生きて帰ってくるって。それにこれから先はもっと私の我儘聞いてもらいますから。早速ですがこの子が生まれるまでは任務には行かないで下さいね? それくらいなら聞いてくれますよね?」

 

 

すると恋雪は手を離して自身の膨らんだ腹を愛おしそうに擦る。俺は一瞬戸惑う。

 

 

「えっと・・・織哉様。如何しますか?」

 

 

俺は年下の主君に確認を取る。織哉様はほっとした様子で笑みを浮かべていた。

 

 

「勿論構わないよ。本来身重の奥さんがいるのに命懸けの任務に送り込むことの方が可笑しな話だからね。せめてあと半年くらいは上弦の鬼が現れないことを祈らせてもらうよ。」

 

「お、お館様・・・ありがとうございます・・・!!」

 

「織哉様・・・寛大なお心遣い痛み入ります・・・」

 

 

俺と恋雪は織哉様に深々と頭を下げる。織哉様はそれを静かに手で制した。俺たちは顔を上げる

 

 

「さて、二人の同意は得られたということで次の話を進めさせてもらうよ? 今回上弦の弐との戦いで狛治は両手に大火傷を負った。次回出動するまでに対策が必要だと思ってね。何かいい方法がないかと知恵を絞ってみたんだ。」

 

「え・・・火傷を負わないで手甲を赫刀にする方法があると言うのですか・・・!?」

 

 

俺はつい織哉様に聞き返す。織哉様は静かに返答する。

 

 

「実は隠の中に凄腕の裁縫係がいるんだ。他の隊士達が着ている隊服の大半だって彼が作っているんだよ? 今回彼に狛治専用の装備を見繕ってもらった。だいぶ長く待たせてしまったが・・・さあ入ってきてくれ。」

 

 

すると織哉様は手を叩く。すると背後のふすまが静かに開き、眼鏡をかけた隠の男が現れる。

 

 

「お初にお目にかかります、私は前田まさひこ・・・と申す者です。現在鬼殺隊で裁縫係の責任者を務めております。

 この度、隊服とは別に、岩柱様の専用防具をご用意したのでどうかお役立て下さい。」

 

 

前田殿はそういうや否や黒い手袋のようなものを俺に差し出してくる。俺はそれを受け取り品定めをする。

 

 

「こちらは私が制作した耐熱性を極めに極め抜いた手袋になります。性能は知人の町火消の者に仕事で使ってもらい確認済みです。

 先月上弦の弐との戦いにて、岩柱様は手甲を赤熱させ戦ったと聞き及んでいます。

 赫刀と化した手甲は確かに凄まじい威力を発揮する武具ではありますが、同時に岩柱様の拳を灼き焦がす諸刃の剣です。

 そのためお館様より仰せつかり試行錯誤を重ね鋭意制作致しました。どうか、前線に出られない我等隠たちの代わりにそれが少しでもお役に立つことを願っております。」

 

「これは凄い・・・! つまり・・・これを身に着ければいくらでも赫刀が使い放題ということか!?」

 

「まあ・・・どれくらいの時間耐熱できるかは赫刀の場合だと分かり兼ねますので、実際に狛治殿の手で確かめてみないことには何とも言えませんが・・・」

 

「良し。早速手甲を装着し赫刀を発現させて試させてもらう。構わないか?」

 

「ええ。私は構いませんが・・・ひえっ・・・」

 

 

俺がそう聞き返すと、前田殿は俺の横の人物を見て固まっていた。その人物から突如凄まじい冷たさの視線が俺へと向けられる。

 

 

「狛治さん? まだ火傷治り切っていませんよね? もしお身体を痛めつけるような真似するつもりなら、私絶対に許しませんよ?」

 

 

表情が抜け落ちたまま恋雪が俺を見据えている。思わず俺も冷や汗をかく。俺は渋々恋雪に返答する。

 

 

「わ、わかった。完治してから確かめるようにする。それならいいだろう?」

 

「はい。でも、もしまた火傷ができるようなら私看過できませんからね? その場合は前田さんにもっとしっかりしたものを作ってもらうまで任務に行くのを許しませんからそのつもりで。前田さんもいいですね?」

 

「は、はい! その際は身命を賭してまた作らせて頂きます!!」

 

 

恋雪の絶対零度の声音に震えが走り全力で返答する前田殿。そのあまりの怖がり様に少し申し訳なく思った。

 

 

「うん。まあ狛治は暫くこの屋敷で身重の恋雪と過ごすんだ。任務に行くことは暫く無いだろうからそう早まらなくてもいいんじゃないかな?」

 

「わ、わかりました。」

 

 

織哉様は満足げに頷き前田殿に声を掛けて退室を促す。すると今度は別の話題になる。

 

 

「さて、では狛治が抜けた穴は暫く新しい柱の子に頑張ってもらうとしようか。彼女はまだ幼いが、実力だけなら君と並ぶ程かもしれないからね。」

 

「・・・さなえ殿のことですか?」

 

 

俺は心当たりについて尋ねる。織哉様は頷いていた。

 

 

「うん。彼女は生まれつき痣者で透き通る世界も見える。さやかが言う通り、彼女は既に並みの柱をゆうに超える実力を持ち合わせている。最終選別を突破してまだひと月程度だが、特例で階級を甲に昇格し柱に任命したい。」

 

「それは・・・大丈夫でしょうか?」

 

「ん? 何か気掛かりなことでも?」

 

 

俺は懸案事項について織哉様に尋ねる。

 

 

「確かにさなえ殿の実力は童磨の御子を瞬殺できる程の極めて有力なものです。しかし本人は特殊な生い立ちのせいか背丈が四尺程度の未発達な体躯であり、尚且つ判断能力や思考能力に欠けるきらいもあります。果たして柱としての責務を全うできるでしょうか?」

 

「そこは心配いらない。当面はさやかの代わりに長寿郎と二人で組ませる。彼が彼女を導いてくれるはずだ。」

 

「長寿郎ですか。そこは経験豊富な左近次殿の方がいいのでは?」

 

「左近次は慈悟郎と組ませた方が力を発揮しやすい。当面彼らの組み合わせを変えるつもりはないよ。

 それに長寿郎は今となってはさやかの夫だ。長寿郎と行動するということは、即ち嫁入りした元師範のさやかとも頻繁に会う機会が作れるということでもある。彼女もその方が任務に臨みやすいはずだ。」

 

「わかりました。そういうことでしたら・・・」

 

「とは言え二人一組の体制を今後も維持し続けるのであれば、柱の頭数は更に増やしたい。まあ次の柱合会議までにもう二人ほどは増えるとは思うんだけどね。」

 

「二人? 誰か心当たりが?」

 

「うん。実は二年半前に殺された風柱に所縁のある兄妹がいてね。今慈悟郎が継子として育ててるんだ。」

 

「慈悟郎殿に継子・・・なんだか想像できませんね・・・」

 

「まあ左近次に叱られるのが嫌で渋々引き取った子たちだからね。本人も結構放任してるみたいだし、狛治の耳には入らなかったのも無理はないかもね。でも実力は折り紙付きみたいだよ?」

 

「成る程・・・それなら慈悟郎殿の悪癖は移ってなさそうですし少しだけ安心しました・・・」

 

「う~ん・・・だと良いんだけどね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふいに織哉様が遠くを眺め始める。もしかして先見の明でどうなるのか薄々察したのだろうか。俺はその仕草に苦笑いを浮かべる他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




情報量が多い回だったかもしれませんがご容赦願います。実はこれでも書こうと思ってた内容半分くらい削ってます(汗)。
そして次回から妓夫太郎編入ります。その関係でオリキャラ柱二人出す予定です。正直終盤に加入させる以上キャラのインパクト必要だよなぁと悩んだあげく他作品の登場人物をモデルにすることにしました。来週で不評買わなければ今書き溜めている話を順次投稿していこうと思います。
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