追記:本日休日出勤のため感想への回答が遅くなります。ご了承下さい。
「先手必勝じゃ!!」
試合開始と同時に片割れの寧子が慈悟郎殿に対の木刀を逆手に持って突進する。
ー風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎー
二刀流のためか他の風の呼吸よりも手数が多く激しい突進技のように思える。土埃を巻き起こし旋回しながら広範囲を切り刻むその型を前に、慈悟郎殿は静かに息を整える。
ー雷の呼吸 弐ノ型 稲魂ー
「うおっ!? なんじゃ!?」
突如、瞬き一回のうちに五連撃の連続切り。寧子は即座に攻撃を中断し対の木刀で防御に回る。
「ほお、よく反撃を喰らわず受けに回れたな。以前灸をすえた時よりは格段に反応速度が良くなっておる。」
「へへん!! どんなもんじゃ~!!」
ー霞の呼吸 肆ノ型 移流斬りー
慈悟郎殿と寧子で鍔迫り合いをしていると、突如、神出鬼没の隙を縫うかの一撃が、慈悟郎殿の足元側面に接近する。
ー水の呼吸 壱ノ型 水面斬りー
「うげぇ!!??」
「ふむ。意表を突いた一撃。悪くない。気配の殺し方も中々だ。先ほどの五月蠅さからは想像もできんな。」
颯太の斬撃が入る直前、鏡合わせの一撃でそれは相殺される。左近次殿が滑り込むように間に入り切り払いではじき返したためだ。
「おい天狗!! 邪魔すんなよ!!」
「馬鹿め。これは連携を見せる試合でもある。敢えてお前らの土俵に乗ってやっているのだ。その趣旨を忘れるな。」
「しゃあねぇ!! 寧子合わせるぞ!!!」
「勿論じゃア~!!」
ー霞の呼吸 弐ノ型 八重霞ー
ー風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐ー
丁度左近次殿は兄妹に挟み込まれるような位置取りだったので、前後から回転するような連続切り払いが容赦なく振るわれる形となった。
加えて寧子の型においては攻撃範囲が非常に広く、同時に慈悟郎殿を押し下げるような狙いの斬撃も放っていた。味方との連携と敵戦力の分断を一手で行うとは。こいつら見かけによらず戦略家だ。だが・・・
ー水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦ー
「うおっ!?」
「おわっ!?」
「どうした? この程度で柱を仕留められると思ったか?」
左近次殿はその場を高速で回転し、遠心力で連続の回転斬りを打ち放ち迎撃する。まさか全て防がれるとは思ってもいなかったようで、早川兄妹は面食らう。
「お返しだ鱗滝よ!! 合わせろ!!」
「うむ。」
ー水の呼吸 参ノ型 流流舞いー
ー雷の呼吸 参ノ型 聚蚊成雷ー
流麗な足取りで縦横無尽に駆け回り斬撃を放つ左近次殿。加えて兄妹の周囲を高速で回転し移動しながらの波状攻撃を浴びせる慈悟郎殿。凄まじい密度と回数の連続攻撃だった。
「ぐえぇえ!!」
「ぐへぇあ!?」
瞬く間に颯太と寧子は全身滅多打ちにされ袋叩きにされ、反吐をぶちまけながらその場で崩れ落ち地へと転がる。
「どうした? もう終わりか?」
「ふん! 少しは俺のことを見直す気になったか糞餓鬼共!! これに懲りて少しは大人しくなることだな!!」
拍子抜けする左近次殿とご満悦な様子で笑う慈悟郎殿。今のやり取りに俺は思わず息を飲む。
やはり二人は嗅覚聴覚が抜きんでているようだ。あれ程混戦の中動き回り連撃を放ったにも関わらず、互いが互いに一切干渉することなく正確無比に敵のみに斬撃を打ち込んでいた。
透き通る世界でも見えていなければ恐らくあれは受けきれないだろう。その連携技の余りの練度に、些か新米たちには容赦なさ過ぎる洗礼の様にも思えてしまった。
しかし驚いたことに颯太も寧子も必死に歯を食いしばって然程時も置かずに立ち上がった。
「なっ!? 立ち上がった!? あれだけ連撃を受けておきながら!?」
「信じられん・・・どれだけ頑丈な身体をしておるのだ・・・数日寝込んでいたとしても可笑しくない程打ち込んだはずだが・・・」
すると颯太が不満げに年長者二人に睨みを利かせる。
「このおっさん野郎共・・・! 俺たちのこと糞餓鬼扱いしやがってよ~!! だんだんマジでムカついてきたぜ・・・!」
「お・・・おっさん・・・だと・・・私はまだ二十二だというのに・・・」
「鱗滝よ!! こいつらは最初から口が悪いのだ!! いちいちそんな些細なことでへこんでたら身が持たんぞ!?」
天狗の面の下から力なく声を漏らす左近次殿。そしてそれを必死に励ます慈悟郎殿という構図。中々に珍妙な光景だった。
俺があっけに取られていると、突如寧子が何かを思いついたように声を上げる。
「わかった!! こいつらを倒す方法が!!」
「マジかよ寧子!?」
すると寧子は全身ボロボロのまま得意顔で語りだす。
「こいつらは超強い!! じゃが!! 育ちが良いせいか何かと型にハマった小綺麗な戦い方しかできんようになっておる!! ワシらはその真逆の戦い方をすればいいんじゃ!!」
「なるほどな・・・! 俺も最近考えてたぜ! どうせ醜い鬼共ぶっ殺すために戦ってるんだからよォ、こっちも薄汚い手使いまくった方がいいんじゃねぇか~ってよ!」
「なんでもありの戦い方で倒すか!!」
「な~んか俺、今すげぇ汚い戦い方思いついた気がするぜ!!」
なんだか物騒なこと言い出したぞこいつら。大丈夫かこの試合。古株二人があんなイカれた兄妹に後れを取るとは思えんが、それでもこの後不安でしかない。俺は嫌な予感がしてその場から更に距離を取ることにした。
「おい! これはあくまでお前らの実力を見るための試合だぞ!? 俺ら相手に正攻法で勝とうとせんでどうする!!」
「へへ~ん!! 勝ちゃいいんだよ勝ちゃ! 鬼殺すために手段なんか選んでられねぇだろバァ~カ!!」
颯太が舌を出して慈悟郎殿を挑発する。すると奴ら二人は突如距離を取り、何やら耳打ちで話し合う。
「つう訳で頼んだぜ寧子!!」
「よし!! 任せろ颯太!!」
ー風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐ー
ー霞の呼吸 参ノ型 霞散の飛沫ー
すると二人はやたら剣圧の強い型で周囲の土埃を舞い上げる。瞬く間に二人の影は煙幕の中に隠れてしまった。
「なんじゃ。汚い手というのはただの目眩ましのことか? あの二人にしては随分と可愛げのある発想のように思えるが・・・」
しかし二人は一向に煙幕から出てこようとせず、やがて周囲の風で土埃も消え去っていく。
「もう一度だ寧子!!」
「おうよ颯太!!」
ー風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐ー
ー霞の呼吸 参ノ型 霞散の飛沫ー
まさかの同じことの繰り返し。この場に居る全員があっけに取られる。こいつら一体何がしたいんだ? まさか土煙に相手が飛び込んでくるまで同じことを繰り返すつもりか?
やがて何度もそれを繰り返す二人にしびれを切らした慈悟郎殿が一喝する。
「馬鹿の一つ覚えも大概にしろ!! 少しは頭を使え!! 大体こんな風通しのいい場所で土煙など起こしたところですぐ晴れるに決まっておるだろうが!! この馬鹿もんが!!」
「は!? わし頭良いが!?」
すると土煙の上部から寧子が飛び出し木刀を振りかぶる。
ー風の呼吸 伍ノ型 木枯らし颪ー
頭上より対の突き下ろし。逆手に持った対の木刀はまるで蟷螂のよう。慈悟郎殿の頭蓋を串刺しにするかの如く宙より振り下ろされる。
ー水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突きー
「甘い。」
「ぬあっ!?」
流麗な足運びにて慈悟郎殿の正面へと回り込み、突き技を放つ左近次殿。寧子は大慌てでそれらを防ぐが、結果弾かれて地面を転がる。
ー霞の呼吸 壱ノ型 垂天遠霞ー
柱古参の二人が寧子に意識を取られた瞬間、突如二人に木刀の突きが飛んでくる。
余りの一瞬の出来事で慈悟郎殿が反射的に切り払おうとするが、その瞬間目を見開く。
なにせ颯太は目前にはおらず、飛んできたのは木刀一本だけだったのだから。
「投擲か!! 視線を切った直後煙幕の奥からの遠距離攻撃! ほほう! よく考えたわ!!」
甲高い音と共に颯太の投げつけた木刀は薙ぎ払われる。そしてすぐさま追随するかの形で丸腰の颯太が煙幕から飛び出し距離を詰めようとしていた。
ー風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹ー
ー水の呼吸 肆ノ型 打ち潮ー
「ええい!! 折角隙を突いたのに邪魔をするでない!!」
「桑島。妹の方は私が受け持つ。背後は気にするな。」
「おうよ!」
慈悟郎殿が颯太を視認した次の瞬間、間髪入れず背後から寧子が斬りかかる。しかし先に左近次殿が間へと滑り込みそれらを全て迎撃した。
そのやり取りの間で既に颯太は距離を詰め、慈悟郎殿との距離も数歩ほどまでに迫る。
すると颯太は右こぶしを振りかぶり再び何かを投擲しようとする。
慈悟郎殿もそれを警戒し防御の構えを取る。石か何かだと判断したのか、投擲物を正確に弾こうと身構える。しかしその万全を期した行動が逆に仇となってしまった。
「ぶへぇ!?」
「ひっかかったァ~!!」
なんと颯太が投げたのは石ではない。それよりも遥かに細かい砂だった。
「このっ・・・目潰しとは卑怯な・・・!!」
「うっせぇ!! 戦いに卑怯も糞もねぇんだよ~!!」
突如視界が閉ざされたことで動揺するが、しかし腐っても鳴柱。慈悟郎殿は視界が潰された中、音だけで颯太の動きを捉え迎撃する。ものの見事その一撃は颯太の左肩に打ち下ろされ、凄まじい音が鳴り響く。
「痛ってぇええええけど耐えられるぜ!!!」
普通ならその痛みに悶絶し倒れるはずなのだが、なんと颯太は歯を食いしばりその場を踏みとどまり反撃に打って出た。
「お返しだ桑島のおっさん!!! 俺の奥の手だぜ!!!」
颯太はそう啖呵を切ると、あろうことか慈悟郎殿の股下を全力で蹴り上げそれが見事に的中する。所謂金的という奴だった。目も見えず、打ち下ろしの手応えを確かに感じていたはずの慈悟郎殿の僅かの隙を突いてそれはあまりにも綺麗に決まった。
慈悟郎殿は想像を絶する痛みと衝撃に、呻き声や悲鳴一つ上げることなく、そのまま糸が切れた人形のように倒れ込んで動かなくなった。
「なっ・・・桑島っ!?」
「隙ありじゃ!!!」
ー風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風ー
慈悟郎殿が戦闘不能になるという想定外な展開に、流石の左近次殿も動揺し剣筋が鈍ったのだろう。
すかさず寧子が好機と見て、爪の引き裂きに似た風の斬撃を打ち放つ。
ー水の呼吸 弐ノ型・改 横水車ー
しかし流石は左近次殿。一瞬で動揺を鎮め、回転による一閃でそれらを防ぐ。
ー水の呼吸 捌ノ型 滝壺ー
ー風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐ー
反撃とばかりに地を跳ね上段から降り落としを放つ左近次殿。しかし寧子は広範囲の迎撃技でこれらを対処する。
「む?」
「どんなもんじゃ!!」
ー風の呼吸 陸ノ型 黒風烟嵐ー
寧子は相手の体勢を崩した上で下段より更に斬り掛かる。その結果、左近次殿は寸でで躱すことになり、そのせいでたたらを踏み体勢を崩す。
「もらった!! これでわしらの勝ちじゃ!!」
ー風の呼吸 漆ノ型 勁風・天狗風ー
ー風の呼吸 捌ノ型 初烈風斬りー
ー風の呼吸 玖ノ型 韋駄天台風ー
空中で回転しながらの縦の複数回斬撃。着地後突進による横薙ぎ一閃。更にもう一度頭上へ跳ねてから繰り出される嵐のような広範囲切り裂く乱れ斬り。
流石の左近次殿も怒涛の攻めに足さばきを駆使して躱し受けるだけで精一杯のようだった。
「成る程。二刀流なだけあって私の知る風の呼吸の型よりも手数が非常に多い。不用意に受け続ければ削り切られてしまうということか。」
「なあ!? これでも仕留めきれんのか!?」
ー水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱ー
流麗な歩行技術で相手を翻弄し、左近次殿は寧子の背後を取る。そしてすかさず同薙ぎ一閃。
「ぐへぇあ!?」
寧子は反吐をまき散らして再び倒れ転がった。
「ふむ。攻めは中々に良かった。だがやはり守りの方はまだまだ未熟と言わざるを得ない。」
「ぐぇええ・・・」
遂に力尽き這いつくばる寧子。左近次殿は勝負あったとの判断で木刀を袴の帯に差す。
その瞬間颯太が左近次殿の背後から殴りかかろうとするが、左近次殿は一瞬で颯太の隊服の袖と襟を掴み返し、そのまま柔道の背負い投げの要領で地面に叩きつける。
「ぐへあっ!!!」
「丸腰のお前に剣は必要ない。」
試合は瞬く間に収束へと向かった。その場で立っているのは左近次殿だけとなった。
「勝負あり。左近次殿以外戦闘不能とみなし先達の柱二人組の勝利とする。お疲れさまでした。左近次殿。」
「ふむ。途中ヒヤリとしたが、思いの他何とかなるものだな。早川兄妹には勿論課題が多いが、それでも二人組ませれば任務に赴く分には問題なかろう。なにより『鬼喰い』の力もあることだしな。」
左近次殿はそう言って早川兄妹を一瞥する。反吐をまき散らし力尽きて倒れている二人の様子に俺は苦笑いを浮かべる。
「ええ。そうですね。今度実戦でその力量も見てみたいものです。まあお目付け役は俺以外になるでしょうけれども・・・」
「ふむ。十中八九、その時同行するのはあそこで無様に伸びている恥さらしであろうな。おい。そろそろ起き上がれ桑島。油断して金的など喰らいおって。この馬鹿者が。」
その後、倒れて動かない柱三人の介抱に皆で手分けして移ることとなった。
少々力不足なのは否めないが、俺は颯太と寧子の二人を末席の柱として認めることにした。
続く
以上で新入りとベテランのタッグマッチ戦終了です。ツーマンセルというかバディものの描写好きなので書いてて楽しかったです。筆者はダブル主人公ものが好きな影響で、一対一より二人一組の連携バトルが大好物だったりします。なので個人的には原作だと遊郭編が一番好きではあります。本作の妓夫太郎編の描写も盛り上げていけるよう頑張ります。
次の更新は12/29の9:00になります。年末年始は時間がある(はず・・・)なので更新頻度を増やす予定です。お楽しみに。