「ぎゃっハ!! 面白れぇなこの身体!! さっきから好きなところ伸ばし放題だぜ~!!!」
「くっ! 可笑しいわよ!! こんなふざけた奴にどうしてこの私が・・・って痛い痛い痛いっ!! 噛みつくな! この不細工!!」
「ぐっへぇあ!!」
颯太は鬼喰いの力で異形の化け物のようになっていた。どうやら相手の鬼の血鬼術も発現できるようで、腕や足、場合によっては頸までも帯のように形態変化させて伸ばして振り回し攻撃を繰り返している。
伸ばした腕を周囲の建物に引っ掛け縦横無尽に飛び回る上に、隙を見ては度々相手にかじりつくその様子は鬼以上に鬼らしい振舞だった。
噛みつき喰いちぎられる度に、妹鬼は自身の帯で颯太を斬りつけて返り討ちにしていたが、心なしかその表情に颯太に対する恐れとも言うべき感情が見て取れた。
「俺の妹を何度もかじるんじゃねぇよなああ!!!」
「妓夫太郎!! お前の相手はこの俺だ!!!」
ー雷の呼吸 肆ノ型 遠雷ー
俺は一瞬で接敵し水平斬りを放ちすぐさま距離を取る。妓夫太郎は頸への斬撃を見事鎌で防御し歯ぎしりをしていた。
「寄ったり離れたりと鬱陶しいんだよなぁあ!! さっさと俺の血鎌でくたばれよなぁあああ!!!!」
ー血鬼術 飛び血鎌ー
俺の背後へ無数の血の斬撃が迫る。俺は振り向きざまに下段より最大限剣圧を込めて技を放つ。
ー雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷ー
血鎌を全て吹き飛ばしたのち間髪入れず再び攻勢をかける。
ー雷の呼吸 弐ノ型 稲魂ー
ー血鬼術 跋弧跳梁ー
瞬時五連撃の斬撃は妓夫太郎の障壁を彷彿とさせる斬撃の幕で防がれる。
「羽虫みてえに動き回りやがって・・・さっさと死んでくれねぇかなぁあ!!」
ー血鬼術 円斬旋回 飛び血鎌ー
来た。例の全身から斬撃をまき散らす血鬼術。強力な迎撃技だがその反面攻撃中は動きが止まる。俺は絶好の好機と見て背後へと跳躍し躱しながら距離を取る。
そして血鎌の放出が止まると同時に納刀した刀に手をかけ足場を思いっきり蹴り砕く。
ー雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃ー
刹那、妓夫太郎の頸が宙へと跳ねる。血鬼術が収まった一瞬の隙を突いての神速の抜刀術で鬼の急所を斬り飛ばしたのだ。俺は一瞬勝ちを確信し気を緩めそうになった。
しかし俺の耳が異音を察知したので反射的に振り返る。
ー血鬼術 飛び血鎌ー
「馬鹿なっ!?」
何と妓夫太郎は頸無しの状態で斬撃を俺の背後へと放ったのだ。俺は驚愕するも反射で剣を振り迎撃した。
ー雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷ー
間一髪で血鎌を相殺し、そのまま妓夫太郎へと視線を切らず背後へと下がる。
やがて頸無しの奴は屋根より降りて自身の頭を回収し再び自身の身体にそれをくっ付ける。
「お前よく対処できたなぁあ。今まで殺した鬼狩り共は俺の頸を刎ねた後、皆油断して背後を討たれて死んだってのになぁあ。」
奴は再び跳躍し瓦の屋根へと着地する。俺は内心動揺する。
「まさか・・・頸が弱点ではないとはな・・・まさか他に本体がいるのか?」
「あ? ひひひっ、さあて、それはどうだろうなぁあ?」
妓夫太郎は俺の問いに一瞬戸惑いを見せたが、すぐさま嘲笑するかのように笑い声を漏らす。暫く肩を揺らしながら得意げに笑っている。
「報告によれば・・・上弦の肆は本体を隠したまま傀儡を操り戦ったと聞く。それにお前ら兄妹の頸は既に一度ずつ刎ねているのだ。それでも尚死なぬのであれば、他に本体がいるとしか考えようがない。」
「ひひひっ! そうかそうか。まあその話を事前に聞いてたらそう考えるしかねぇよなぁあ。ひひひっ!」
奴は上機嫌に笑い声を漏らし続ける。俺はその様子を見て懸念を抱く。
妙だ。図星を突かれた反応とはとても思えん。まさか俺の予想は的外れなのか? しかしならばなぜ奴らは頸を斬っても死なない? まさか頸の弱点を克服しているとでも言うのか?
だとすれば非常に厄介極まりない。頸を斬っても死なない鬼を倒すには太陽が昇る明け方までの持久戦を強いられるからだ。
しかしこちらは生身の人間。一方向こうは体力無限の鬼の身体。どちらが持久戦に向いているかなど言わずとも知れたこと。俺は冷や汗を流す。
「ひひひっ! みっともねぇなああ、みっともねぇなああ! どうせ死ぬのに頭捻ってなぁあ。ああでもない、こうでもないと狼狽しながら死んでいくしかねぇぜお前は。後輩の前で格好つけることもできず惨めになぁあ。死ぬまで苦悩するしかないお前のことを思うと心底悔やまれるぜぇ。本当に心底みっともねぇなあ!!」
俺は奥嚙みするも言い返せない。依然として奴らの不死性の正体が掴めないからだ。
「ひひひっ! だが俺は嫌いじゃねぇぜ。俺は惨めな奴が好きだからなあ。そうだ! いっそお前も鬼になったらどうだ? 後輩の為にも! 泣いて土下座するなら考えてやってもいいぜえ? ひひひっ!」
「ふざけるな・・・由緒ある雷の呼吸を修めた剣士として・・・誰がそんな馬鹿げた真似などするものか・・・!!」
俺は憤慨する。そんな真似するぐらいならいっそ切腹して死んだ方がマシだ。だというのに目の前の鬼は有ろうことか打つ手なしの俺に鬼の勧誘をしてくる。
「ひひひっ! まあいいがなぁ。ならもう死ぬしかねぇぜお前はぁ。折角だから惨たらしく腹掻っ捌いて苦しめてから殺してやるよ。ひひひっ!」
妓夫太郎はそう言うと鎌を構え直す。俺もそれに対応するかの如く剣を構える。両者動くかに見えたが、突如別の場所から悲鳴が上がる。
「わぁああん!! また頸斬られちゃったぁあ!!! お兄ちゃぁあああん!!!!」
「チィ!」
すると驚いたことに、妓夫太郎は俺など眼中にないかの様にその場から走り出す。
あからさまに隙が出来たので俺は妓夫太郎の背を討つ。
ー雷の呼吸 陸ノ型 電轟雷轟ー
「糞がぁああ!! 邪魔すんじゃねぇよなぁあああ!!!!」
ー血鬼術 飛び血鎌ー
妓夫太郎はこれまで以上にありったけ血の斬撃を放つ。心なしか先ほどの問答とは正反対に余裕がなくなったように思える。
ー雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷ー
俺が血鎌を吹き飛ばすと、奴は既にその場を離れ妹の方へと駆け寄っていた。
俺はその余裕のない動きに妙な違和感を覚えた。
「何度も俺の妹の頸斬ってんじゃねぇよなぁあああ!!!!」
「ぐべばっ!!!」
颯太が妹鬼の頭蓋にかじりつこうとするや否や、背後から再び心臓を串刺しにされ、そのまま蹴り飛ばされ距離を離される。
「うっ・・・ひっく・・・またかじられちゃったよぉ・・・お兄ちゃん・・・」
「大丈夫だ。頸さえくっつきゃどうにでもなる。かじられたところもすぐ治るからなぁあ。」
妹鬼の頸を再び繋げた途端の奴の安堵の気配。あれは命の危険から免れた時と同様のものだ。
しかし妹の頸が斬られるとなぜああも余裕をなくすのだ? 俺に頸を斬られた時ですら冷静に背を討つ程の落ち着きを払った奴が。
妹が本体なのか? 兄が本体なのか? そもそも本体がどちらかだと狙いをつけていいものなのか?
そこまで思考を進めたのち、俺は不意に奴らの倒し方に見当がついた。
「痛って~!! 治るけど滅茶苦茶痛って~!! 心臓何度も差しやがってよオ・・・マジでムカついてきたぞてめえら・・・!!」
「ムカついたところでお前なんて怖くねぇなぁあ。どうせ頸斬ったところで俺たちは死なねぇからなぁあ。」
「うるせぇ! だから何度もてめえら喰い尽くしてやろうとしてんだろ!? いくら頸斬っても死なねぇつったってよォ、完食して消化しちまえば流石に生きてられる訳ねぇよな~!?」
「ああ? 馬鹿かぁあ? 戦闘中にどうやって俺達を喰い殺すんだぁあ? こっちはかじられた端から立ちどころに再生できるっていうのになぁあ?」
「そこは再生される前に喰い切んだよ!! 俺の早食いの速度舐めんじゃねぇぞ!?」
「はあ・・・馬鹿過ぎて話についていけねぇなぁあ。まあいいかぁ。どうせお前らは何をしようが俺達を殺すことなんて・・・」
ー雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・双極ー
俺は颯太に気が向き油断しきっている妓夫太郎に居合斬りを放ちそのまま頸を刎ね飛ばす。そして間髪入れず通り過ぎたのち納刀して往復するように妹鬼の頸を刎ねようと再度抜刀する。
「ぐぁあああああっ!!??」
「え・・・お兄ちゃんっ!?」
「・・・やはり妹の方を庇ったか。」
俺は元の位置に戻り振り返る。妓夫太郎は妹の頭部を抱えるように抱きしめ、頸と盾にした片腕を失ったまま守りに徹していた。
「やはりお前たちは両方同時に頸を斬られれば死ぬのだな? 一心同体、一蓮托生、対で成り立つ兄妹鬼。それが頸を刎ねられても死なぬお前ら二人の不死性の正体だ。」
「てめえ・・・まさか気付きやがるとはなぁあ・・・」
屋根を転がり落ちる妓夫太郎の頭蓋から、小声でそのような悪態が聞こえた気がした。
続く
次回で妓夫太郎編完結です。次の更新は1/4の9:00になる予定です。本作もあと本章最終話と最終章数話だけになりましたが、新年も引き続きよろしくお願いします。