狛治外伝 ~誰が為に振るわれる拳~   作:科学大好き人間

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狛治視点です。最終章開幕です。何話かかるか分かりませんが、是非最後まで読んで頂けたら嬉しいです。

追記:今日明後日が休日出勤のため感想への回答が遅くなります。予めご了承下さい。


最終章:黒死牟編
77話 我が子


「慈悟郎たちは非番にも関わらず本当によく戦ってくれた。決して少なくない大勢の市井の人達が巻き込まれたのは大変に遺憾ではあるが、それでも彼らの健闘を称えないではいられないよ。」

 

「本来であれば俺が遊撃隊士として対応しなければならない程の鬼だったようですね。上弦に届き得る実力の鬼を逃がしたのは正直悔やまれますが・・・」

 

「そこは仕方ないよ狛治。鬼の背を討つか、柱の後輩二人の命を優先するかの二択だったんだ。寧ろ彼らが生き残ってその鬼の情報を持ち帰って戻ってきてくれたことに感謝すべきだと思うよ。慈悟郎は緊急時にも関わらず即座に英断を下した凄い子だ。」

 

 

俺と織哉(おりや)様は二人並んで縁側へと腰掛け枯山水の庭園を眺めながら、先ほど慈悟郎殿から受けた報告について話し合っていた。

 

遊郭での下弦の壱との戦いは苛烈を極めたものだったらしい。

 

柱三人が下弦一匹に後れを取ったと聞いた時は正直何事かと驚いたが、詳細な報告を受けたのち俺は考えを改めた。

 

頸を斬っても死なず、掠り傷一つで死に至らしめる猛毒の血鎌を扱う兄妹鬼。加えてその動きと速度は柱最速の慈悟郎殿と切り結べるほどの水準。はっきり言って下弦に収まる実力の鬼ではない。

 

織哉様がおっしゃる通り、事前情報も無しに戦っていれば例え俺でも不覚を取った可能性もある。

 

そう言う意味では慈悟郎殿の選択は英断だったと言わざるを得ない。未来の上弦鬼の情報を持ち帰ったのであればそれは値千金の働きだ。

 

 

「やはり俺も早く戦線に復帰すべきかもしれませんね。下弦からそれほどの鬼が頭角を現しているのであれば、一日でも早く鬼舞辻無惨を葬らなければ鬼殺隊の存亡も危ういかと。」

 

「焦ってはいけないよ狛治。奴は千年生き続けた鬼。加えてその姿すらごく限られた者にしか割れていないんだ。君一人の頑張りだけで滅することができる男なら、当の昔に私たちの悲願は達成されている。」

 

「・・・」

 

「それにね狛治。君はもっと身近な幸せに目を向けるべきだ。不惜身命の思いで戦ってくれる君の献身は鬼殺隊当主として嬉しく思うばかりだが、それでも私は君達夫婦二人には幸せに生き抜いて欲しいと思っているよ?

 お産を予定しているのも来月じゃないか。せめて今月一杯くらいは家族との繋がりを第一優先にして欲しい。無事第一子が生まれることを祈っているからね?」

 

「身に余る御言葉・・・かたじけなく・・・」

 

 

そうだ。恋雪の臨月も間もなくのことだ。俺は今後、良き亭主として以上に、父親として、一家の大黒柱として家庭を守り育む使命も同時に背負うのだ。

 

どうか恋雪が安心して笑っていられるように、そして生まれ来る子どもが元気に健やかに育つように、俺は奮闘せねばならない。

 

 

「ふふっ。狛治も父親になるんだね。私も数年経ったら縁談の準備を始めなければならないから、その時はいろいろと相談させてもらうよ?」

 

「織哉様・・・貴方まだ十歳ですよね? 少々気が早いのでは・・・」

 

「何を言っているんだい狛治。産屋敷家の当主はこの歳で既に成人してるも同然なんだよ? 何せどんなに長くても三十まで生きられない身だからね。」

 

「・・・失言でした・・・謝罪致します・・・」

 

「ふふっ。別に気にしてないよ。そんなことより狛治たちの赤ん坊の顔を見るのが楽しみだなぁ。きっと玉の様に可愛い子なんだろうね。」

 

 

織哉様はそう上機嫌に笑っている。この人は俺達鬼殺隊士の身の上のことを我が事のように喜んでくれるのだ。この御方がいるからこそ、鬼殺隊は回っているのだとそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊郭騒動からひと月経った。気が付けば初夏の季節となり、蝉の鳴き声も聞こえる日差しの強い日が増えた。

 

そんな中、俺たちは天より授かりし我が子の誕生に心底心を震わせた。

 

 

「恋雪、ありがとう。俺を父親にしてくれて。本当によく頑張ったな。」

 

「はい・・・狛治さん・・・私・・・本当に嬉しいです・・・!!」

 

 

恋雪はおくるみに包まれた我が子を抱いて目尻に涙を溜めてそう感無量に呟く。俺はそんな恋雪を包み込むように優しく抱きしめる。

 

 

「何だか夢見たいです。本当に。私が狛治さんの子を抱いてるなんて。今でも実感が湧かないです。」

 

「これから徐々に実感できるさ。この伝わってくる温もりは紛れもなく本物だろう?」

 

「はい・・・!!」

 

 

それから数日で、俺達夫婦の間に子どもが生まれた知らせは鬼殺隊全体に行き渡った。

 

産屋敷邸を訪れる者たちから祝いの言葉や品を雨あられのように贈られ、俺達は戸惑うも嬉しく思う日々。何より、初孫と対面した師範を宥めるのに俺は大層苦労した。

 

 

「おおお!! ついに恋雪に子どもが・・・!! うおぉおおおん!!!」

 

「お父さん声大きいですよ? この子が目を覚ましてしまいます。」

 

「ううっ・・・すまんな・・・もうこれ以上ない位嬉しくて・・・うっ・・・うっ・・・うおぉおおおん!!!」

 

「師範、いい加減泣き止んで下さい。本当に声大きいです。」

 

 

結果漸く寝かしつけた我が子もびっくりして泣き出す始末。恋雪が必死にあやして落ち着かせようと奮闘する。

 

俺は一向に泣き止まない師範を一旦離れた縁側へと連れて行った。

 

 

「いや~、しかしあれだけ病弱だった恋雪に子どもができるなんて、父親としてこんなに嬉しいことはないぞぉ。これも全て狛治のおかげだ。本当にありがとうなぁ。」

 

「いえ、寧ろ感謝しなければならないのは俺の方です。江戸の罪人だった俺を迎え入れて育ててくれたのは他ならぬ師範でしたから。貴方がいなければ今の俺はいません。本当にありがとうございます。」

 

 

本当に今の状況は奇跡の上に成り立っている。何か一つが間違っていれば俺は死んでいたか、罪人のままだったか、空虚に生きていたか、下手をすれば鬼になっていたかしただろう。

 

それでも今の俺は愛する妻と我が子、恩師に囲まれ生きている。神仏がいるのなら、俺は一生手を合わせ礼を尽くして生きていかねばならんなと思う。

 

それから暫く師範と語らいを続けるうちに、当然とも言うべき疑問を投げかけられた。

 

 

「そう言えば狛治! 子どもの名は何と言うんだ!? そう言えばまだ聞いていなかったからな!」

 

「ええ。実は恋雪と話し合ってある程度決めてはいました。ただやはり本決めは師範に許可を頂いてからの方がいいかと思っていまして・・・」

 

「何を言うか! お前ら二人が納得して決めた名なら文句など出る訳がないだろう! もったいぶらずに早く教えてくれ狛治!」

 

 

俺は不意に振り返り奥の部屋にいる恋雪を眺める。我が子を愛おしそうに抱きしめ身体を揺らすその姿に俺は笑みを浮かべ、再度師範に向き直って答える。

 

 

「あの子の名は螢子(けいこ)と・・・そう決めました。」

 

「ほほう! 名の由来はあったりするのか!?」

 

「はい。『蛍雪の功』という故事を由来にしたんです。

 以前岩柱邸で何度も眺めた雪景色と、ここ数ヶ月この産屋敷邸で眺めた蛍の舞う景色を見て、あの子には苦難に負けず報われる人生を歩んで欲しいという願いを込めてそう名付けました。

 丁度恋雪の名と対になっていていいなと考えまして。師範はこの名をどう思いますか?」

 

「おお! いい名じゃないか! なるほどなぁ。恋雪の『雪』と対になる『螢』の字をなぁ。しかし狛治たちが故事を由来にした名をつけるとは正直意外だったぞ!?」

 

「そう思われるかもしれませんね。ただ、実は産屋敷邸に住まわせてもらってる間、織哉様から様々な書物をお借りしまして、学を少しだけ身に着けたんです。今更かもしれませんが・・・」

 

「何を言う! 勉学に励むことは何歳から始めようとも遅すぎることなどないぞ! それにしても狛治は努力家だなぁ。てっきり産屋敷邸ではずっと鍛錬ばかりしてると思っていたが・・・」

 

「まあ最初はそうだったんですけどね。ただ織哉様から苦言を呈されまして、折角時間があるなら学問にも触れるべきだと促されたのです。書物を読み漁るのも存外苦にならずこれが思いの他楽しくて・・・」

 

「そうかそうか! いや良いことじゃないか! いずれは螢子も大きくなって勉学に勤しむかもしれんのだし、狛治が良き父親として手本となってやることもあるやもしれんしな!」

 

「はい。とは言え恋雪の方がその辺はしっかりしてそうなので心配はいらないと思いますけどね。」

 

 

それから師範と取り留めもない語らいをする。恩師にここまで喜んでもらえたなら弟子冥利に尽きる。話がひと段落したのち、師範は初孫の顔をどうしても眺めたくて再び声を抑えて恋雪の下に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狛治殿!! ご無沙汰してます!!」

 

「狛治さん。お久しぶりです。第一子ご誕生おめでとうございます。」

 

「二人とも元気そうで何よりだな。さやか殿は出歩いても平気なのか?」

 

「はい。もう安定期入っているので幾分楽になりました。一時はつわりが酷くてご飯三杯しか食べれず困ってしまいましたが・・・」

 

「普通つわりを迎えた女性はご飯の匂いすら嗅ぐのもしんどいはずなのだが・・・流石だなさやか殿は・・・」

 

 

数日後、長寿郎とさやか殿が産屋敷邸を訪れた。なんでもさなえ殿が任務先でたまたま鉢合わせた玉壺と名乗る上弦を瞬殺したのでその報告に赴いたのことだった。

 

確か以前俺が戦った時の奴は上弦の伍だったはず。当時凍三郎殿と二人掛かりで戦ったほどの鬼だが、まさかさなえ殿一人で倒してしまうとは。

 

その時同伴していた長寿郎はそのあまりの手際の良さに度肝を抜かれたという。話を聞いた限りだと、長寿郎はさなえ殿の腕っぷしを目の当たりにして、日に日に自信を無くしているらしい。

 

 

「さなえがお館様に報告している間、私たちは狛治さんのお子さんに会いに来たという訳です。因みに男の子ですか? 女の子ですか?」

 

「女の子だな。それも恋雪に似て可愛らしい容姿をしている。是非思う存分眺めていってくれ。」

 

「あらあら。狛治さんもすっかりお父さんですね。やっぱり愛娘は可愛いですか?」

 

「ああ、日本一可愛いと思っている。」

 

「狛治殿! それを世間一般では親馬鹿って言うんですよ!? まあお気持ちは分かりますけどね!」

 

 

俺は長寿郎にツッコミを受けて苦笑いするも、悪い気はしないのでそのまま恋雪がいる部屋まで案内する。

 

廊下を進み、ふすまを開けると、我が子をあやす恋雪がこちらを振り返っていた。

 

 

「あ、お二人ともお久しぶりです! 因みにさやかさんはもう出歩いて平気なのですか?」

 

「ええ、もう安定期に入ったから平気よ。心配してくれてありがとう、恋雪ちゃん。」

 

「その子が狛治殿がべた惚れしてる愛娘ですね! おお! 確かに丸々ふよふよもちもちでとても可愛らしい!」

 

 

長寿郎はそう感激している。俺はその様子を見て得意げに笑う。

 

 

「そうだろうそうだろう。もっと褒めてもいいんだぞ長寿郎。」

 

「狛治さん。あまり皆さんの前で親馬鹿振り見せつけないで下さい。恥ずかしいです。」

 

「うっ・・・すまない・・・」

 

 

恋雪から苦言を呈され俺はバツが悪くなる。確かに少々我が子を褒められて舞い上がっていたのかもしれない。俺は一度冷静になる。

 

やがてさやか殿が恋雪の傍に包みを置く。

 

 

「これ、体温が上がりやすくなる生姜茶です。折角なので持ってきました。」

 

「あ! ありがとうございます! これのおかげで私だいぶ平熱上がったんですよ? もしかしたらそのおかげで狛治さんの子を授かれたのかも。さやかさんには感謝してもしきれません!」

 

「いえいえ。私も恋雪ちゃんには色々な相談乗ってもらったからほんのお礼ということで。ただそうね、体温が高い方が身籠りやすいのは事実だと思うけれど・・・」

 

「それであれか。さやか殿は嫁入り後すぐ子を孕んだのか。確かひと月も経たずに懐妊の知らせを聞いた気がするが・・・」

 

「そうです狛治殿! 俺も僅か半月でさやかから身籠ったことを教えられた時は驚きました! どうやらさやかは柱としてだけでなく母体としての才能にも恵まれていたみたいです! 特段苦労することもなく子を授かれて本当によかったですよ!」

 

「あー・・・ええ・・・そうね長寿郎君・・・私が孕みやすい女で本当に良かったわね・・・人の気も知らないで・・・」

 

「おい長寿郎そこになおれ。お前にはこの後説教だ。覚悟しろ。」

 

「な、なぜ!?」

 

 

全くこの鈍助は。子を授かるのに何の苦労もないと思っているのかこの大馬鹿者が。そもそもお前のような鈍助相手にさやか殿がどれだけ努力して子を授かれるよう奮闘したか。想像しなくても目に浮かぶようだ。

 

これは人の親の先輩として、俺がきっちり性根を叩き直してやらねばならんようだ。

 

 

「そ、そんなことより! 狛治殿の娘さんの名は何というのですか!? 是非教えて欲しいです!」

 

 

長寿郎が必死に話題を変えようとしているのを見て俺は溜息をつきそうになるが抑える。やがて恋雪が長寿郎の問いかけに応える。

 

 

「はい。この子の名は螢子です。」

 

「なんと! てっきり雪の字が入っているとばかり・・・」

 

「雪と蛍は故事で比類されてたりするからな。恋雪の名と全く関係がない訳じゃないぞ?」

 

「そうなのですか! いや狛治殿は博識ですね!」

 

 

するとさやか殿は静かに螢子の傍に寄り、穏やかに声を掛ける。

 

 

「こんにちは。はじめまして螢子ちゃん。私は貴方のお父さんとお母さんの後輩のさやかです。私のお腹の子が生まれたら仲良くしてね?」

 

「あー、うー。」

 

 

螢子は人見知りもせずそう返事する。まだ生後三ヶ月くらいだけどもしかして言葉がわかっているのだろうか。

 

 

「俺はさやかの旦那の長寿郎だ! これからよろしくな螢子!」

 

「う!」

 

 

螢子はそう元気に返事をする。え、待ってくれ。本当に言葉わかってるんじゃないか? 我が子ながら早熟過ぎて怖い。

 

 

「ふふっ。賢い子ですね? お返事できて偉いです。」

 

 

恋雪は気にせず螢子の頭を撫でる。螢子は嬉しそうにしている。

 

 

「因みに他の柱で狛治さんに挨拶しに来た人はいるのですか? 例えば鱗滝殿とか。」

 

 

ふと長寿郎が気になったのかそのように俺に問いかけてくる。

 

 

「いや、左近次殿は孤児や継子たちの育成で忙しいからな。産屋敷邸に訪ねる機会があれば会いに来てくれるかもしれないが、まあ祝いの手紙と品は既にもらってるし別にいいだろう。」

 

「それもそうですね。因みに桑島殿は・・・」

 

「ああ。あの人はまあ・・・うん・・・別にいいだろう・・・どうせ今頃賭場にでも入り浸ってるだろうし・・・」

 

「アハハ・・・まあ早川兄妹の妹の方が熱心ですからね・・・付き合いで行ってるのかもしれませんし・・・」

 

 

長寿郎は苦笑いする。まあ正直次の柱合会議も来月だし別にいいとは思う。最悪そこで娘の顔見せをすればそれで充分だろう。

 

暫く俺たちが談笑していると突如足音が聞こえふすまが開く。そこにはさなえ殿が一人立っていた。

 

 

「お待たせしました。師範。長寿郎兄さん。」

 

「おお、さなえ! お館様への報告は終わったか!」

 

 

長寿郎の問いに対し、さなえ殿はコクッと頷く。

 

 

「さなえ。折角だから狛治さんの娘さんと挨拶していきなさい。とっても可愛いわよ?」

 

「はい。師範。」

 

 

するとさなえ殿は恋雪が胸に抱く螢子に近づき丁寧にお辞儀する。

 

 

「お初にお目にかかります。狛治さんの後輩のさなえと申します。現在鬼殺隊で花柱をしています。柱の中では一番の若輩者ですが以後お見知りおき下さい。」

 

「固い固い! さなえ、相手は赤ちゃんなのよ? もっと普通に接してもいいんじゃないかしら?」

 

「普通・・・」

 

 

するとさなえ殿は無表情でじっと螢子のことを見つめ始める。螢子も何事かと見つめ返す。暫く奇妙な沈黙が続いた中、ふいにさなえ殿が疑問を口にする。

 

 

「赤ん坊ってどうやったら授かれるのですか?」

 

 

成人一同絶句する。さなえ殿は曇りなき眼で俺達を見渡す。

 

 

「皆さんもご存じないのですか?」

 

 

ふいにさやか殿が顔を赤らめて返答する。

 

 

「えっと・・・それは・・・さなえにはまだ早いと思うわ・・・時が来ればわかるはずだから今は知らなくも平気じゃないかしら・・・」

 

「それっていつですか? 私も赤ん坊欲しいです。どうやったらお腹にできますか? 教えて下さい師範。」

 

「さなえ・・・お願い・・・それ以上は勘弁して///」

 

 

居た堪れなくなったさやか殿。すると助け船のつもりなのか長寿郎が口を開く。

 

 

「さなえ! 俺が代わりに教えてやるぞ! 実は赤ん坊はな! 男女が・・・」

 

「おい待て長寿郎。今すぐその軽い口を閉じろ。」

 

 

俺は大惨事になる前に釘を刺す。こいつはまだ十三半ばのさなえ殿に一体何を吹き込むつもりだ?

 

冗談じゃない。俺と恋雪、さやか殿のメンツのためにもこの鈍助には大人しくしてもらわなければ。

 

 

「狛治さんはご存じのようですね。教えて頂けませんか?」

 

 

すると見事俺に流れ弾が被弾する。俺は焦った。今も尚曇りなき眼でさなえ殿が視線を注いでくる。俺は苦し紛れに返答するしかなかった。

 

 

「それは・・・まだ教えられないな・・・わかっていると思うが子どもを産み育てることはとても大変なことなのだ。一人でできることではない。

 お前がもし仮に人生を共にしてもいいと思える意中の男性を見つけたその暁には改めて教えてやるとしよう。それまで悪いが我慢するんだな。」

 

「・・・わかりました・・・そういうことであれば・・・」

 

 

さなえ殿はがっかりしたようにしゅんとする。正直罪悪感を覚えるが仕方ない。

 

 

「そ、それにしても意外。さなえって子どもが欲しいって気持ちあるのね?」

 

 

事態の収束に安堵したのかさやか殿が不意にそう漏らす。それに対しさなえ殿は視線を螢子に移して答える。

 

 

「はい・・・この子を見てたら・・・何だか胸の奥が締め付けられるようで・・・不快ではない気持ちでここまで自身が揺り動かされたのは生まれて初めてのことだったんです・・・おかしいでしょうか・・・」

 

「そ、そんなことないわ! よかったわ、さなえ。貴方が以前よりも感情が豊かになっていることが知れて私嬉しいわ・・・!!」

 

「・・・そうですね・・・両親から虐待を受けてた時には考えもしなかったもので・・・師範が育ててくれたおかげかもしれませんね・・・」

 

 

さなえ殿はそう力なく呟いた後微笑を浮かべていた。以前見た時、いや今さっきまでずっと無表情だった彼女が笑みを浮かべる。その事実にその場にいた者全員が微笑ましく思ったものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな最中、恋雪の腕の中で螢子がキョロキョロと周囲を眺めて、つぶらな瞳をパチクリさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




赤ちゃんの名前は某作品のヒロインから名付けました。因みに第二子が幽助になる予定はありません。
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