「おお! この子が狛治殿の愛娘か! なんと可愛らしい赤子なのだ!」
「うむ・・・狛治殿と恋雪殿に似て聡明そうな良い子だ。きっとこの子は賢い子に育つだろう。」
柱合会議が終わり、慈悟郎殿並びに左近次殿をはじめ、柱全員が俺と恋雪の子を一目見たいと集まった。柱七人もいれば中々に大所帯だ。流石の螢子も恋雪の腕の中で面喰らっている様子だった。
「しかし狛治さんの子どもならよオ、将来は滅茶苦茶強ぇ柱になるんじゃねぇかァ!? 今後が楽しみだぜェ!!」
「中々にめんこい子じゃ! きっと強くて美形な剣士に育つに違いない! まあそれでもわしの方がきっと可愛いと思うがのう。ガハハハッ!」
早川兄妹の大声をきっかけについに螢子が泣き始めてしまう。慌てて恋雪が泣き止ませようと宥める。
「おい。お前らもう少し声を下げろ。赤ん坊相手にいつもの調子で話しかけるな。びっくりさせるだろうが。」
俺が不機嫌な声を出してそう注意した矢先、さなえ殿が何やら日輪刀の鍔を親指ではじき柄に手を掛ける。
「螢子ちゃんを泣かせるなんて許せない。二人とも静かにできないの?」
「で、できるっ!」
「できまァす!」
さなえ殿が冷たい声音と視線を颯太と寧子に向けたところで二人は大慌てで大人しくなる。正直俺の代わりに黙らせてくれるのは有難いのだが、少々殺気立ち過ぎではないだろうか・・・
「こら。さなえったら。赤ちゃんが泣くのはよくあることなのよ? そんなに眉間に皺を寄せるんじゃありません。」
「師範・・・しかし私は・・・」
「まあまあさなえ。そう目くじらを立てるもんじゃない。寧ろお前の殺気の方がこの子を怖がらせてしまうかもしれんぞ? だから一旦落ち着くんだ。」
「っ! 申し訳ございません。私が迂闊でした・・・」
さやか殿と長寿郎に宥められ私憤を納めるさなえ殿。一時はどうなるものかと思ったがどうやら落ち着いてくれたようだ。
しかしさなえ殿も螢子と会うようになってから随分と感情が豊かになったものだ。時々度が過ぎてる気もするが。
「一旦私、奥の部屋でこの子を寝かしつけてきますね? 狛治さんは暫く柱の人達の相手をしててください。」
「ああ、済まないな恋雪。」
そう言って恋雪は螢子を抱えたまま奥の部屋へと戻りふすまを閉めた。すると慈悟郎殿がやれやれとため息を溢す。
「全くお前らは。折角狛治殿の子を見に来たというのに。もう少し穏やかに喋れんのか?」
「だってよオ、俺赤ん坊の面倒なんて見たことねぇし、どうやって話しかけたらいいかなんてわかんねぇよ!」
「そうじゃそうじゃ! 第一桑島だって声大きかろうが! ウヌもわしらと同罪じゃ!」
「な、なぜそうなるのだ!?」
やがて三人はやいやいと言い合いを続ける。なんと言うか、いつも通りの光景過ぎて逆に俺は安心感を覚える。
「狛治殿。話は変わるが少しよいか?」
すると不意に左近次殿が俺の傍に寄り小声で確認を取ってくる。
「どうされた左近次殿?」
やがて左近次殿は長寿郎も手招きして本題に入る。
「先ほどの柱合会議で議題に挙がった『六つ目の侍鬼』の話について狛治殿はどう思う?」
「・・・最近やたらと隊士を狩っている例の鬼ですか・・・」
俺はふと半刻前の柱合会議の様子を思い起こしていた。
ー半刻前ー
「お館様におかれましてもご壮健で何よりです。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます。」
「ありがとう。左近次。」
「早速ではございますが、近日多数報告が上がっている『六つ目の侍鬼』について議論を重ねたいのですがよろしいですか?」
枯山水庭園で一列に跪いたまま、俺たちは
「うん。まずはそこから話そうか。最近任務先で鬼を討伐すると突如として現れる例の鬼のことだよね? 正直私も悩んでいる。」
織哉様は困ったようにそう打ち明ける。左近次殿が引き続き話を続ける。
「最初『六つ目の侍鬼』は姿を現した後、瞬く間に隊士を葬っていたそうですが、暫くして隊士が何の呼吸の使い手かを確認するようになりました。
とはいえほとんどの者が即座に斬り掛かり討伐を試みるのですが、全員瞬きせぬうちに一刀両断され命を絶たれています。
そして興味深いことに、岩の呼吸の使い手だと分かるや否や、更に質問してくるのです。『今代の岩柱と面識はあるか?』と・・・」
全員が左近次殿の報告を静かに聞いている。やがて織哉様は顎に手を当て確認を取る。
「つまり・・・狛治を探しているんだね? その鬼は。」
「はい。間違いないかと。しかし狛治殿は既に上弦二体を討伐しております。奴らとて狛治殿の実力は痛い程わかっているはず。それなのに接触を試みようとするのであれば・・・」
「うん。左近次の予想通りで間違いないと思うよ?」
織哉様は頷く。柱の全員も察しがついたのか皆息を飲む。左近次殿は続ける。
「その『六つ目の侍鬼』は『上弦の壱』でほぼ間違いがないかと・・・」
「うん。狛治に会いたがっている鬼なんて、上弦しか考えられない。加えて狛治の実力を考えるのならその線が妥当だろうね。」
俺は敢えて二人のやり取りを静観する。やがて口を開き話を再開したのは左近次殿の方であった。
「いずれは私達柱も奴と対面する日が来るでしょう。しかし一般隊士のように瞬殺されてやる気は毛頭ございません。
その上で予め確認を取っておきたいのですが、もし今後上弦と遭遇した場合、狛治殿の派遣はどうされるつもりですか? お館様。」
「ん? どうとは?」
「本当に今後派遣されるおつもりですか? 下手をすれば狛治殿が鬼にされる可能性もあるかと進言致しますが・・・」
左近次殿はそのように織哉様に物申す。少なくとも左近次殿は俺がその時駆け付けることに反対しているのだ。最悪の事態を想定するのであればその際襲われた柱は見殺しにするのが妥当だろうと。しかし織哉様は・・・
「私の方針は変わらない。上弦出現時は可及的速やかに狛治を遊撃隊士として派遣し、鬼を滅す。例えその相手が上弦の壱であったとしてもだ。」
「・・・正気ですか?」
左近次殿は驚いている。彼は比較的保守的な性格で、いざという時は最悪を想定して作戦を立案し立ち回ることが多い。それ故に織哉様の決定には賛成しかねるのだろう。
「左近次。君が心配する理由もわかる。なにせ上弦の壱の実力は未知数。例え狛治と他数名の柱で力を合わせたとしても敗れる可能性だってある。しかし私は柱の君たちを見殺しにはしたくない。」
「いえ、そこは見殺しにすべきです。鬼殺隊当主であるならば。それが合理的な選択かと。」
「いいや。私はそうは思わない。」
「っ!」
左近次殿はずっと顔を伏せていたがすぐに顔を上げる。織哉様の返答が意外だったのだろう。
「仮にその場で狛治を温存し奴らの魔の手から庇えたとしても、その『六つ目の侍鬼』が現れ続ける以上いずれは戦わなければならない。
戦いを避けることが出来ないのであれば、こちらの戦力が残っているうちに奴らの最大戦力を叩いておくべきだ。私はそう思う。」
「しかし・・・それでもし我らが敗れれば・・・!」
「大丈夫だよ左近次。何も心配いらない。」
「っ!?」
左近次殿は勿論、その他の柱一同も皆反射的に織哉様に顔を向ける。織哉様は優しい声音で皆に対し語り掛ける。
「狛治は鬼殺隊の中で最も強い子だ。例え相手が上弦の壱でも負けたりなんかしない。」
「な、なぜそう言い切れるのですか・・・!?」
左近次殿の驚愕の色を含んだ問いに、織哉様は静かに笑い声を漏らして返答する。
「なあに、ただの勘だよ?」
それだけで左近次殿は納得したのか押し黙りやがては頷いた。同様に古株の慈悟郎殿も不敵に笑みを浮かべていた。長寿郎も神妙な顔ではあったが納得している様子だった。
流石に柱になって間もないさなえ殿、早川兄妹は面食らっていたが。
しかし古株の俺たちは知っている。産屋敷一族はこの未来予知とも言える先見の明により、財を富み、家を発展させ、千年もの間、鬼に滅ぼされず抗い続けてきたのだから。
そんな先を見通す天才が負けないと断言しているのだ。俺はそれだけで上弦の壱が相手でも充分勝算があると思えた。
「とは言え、流石に狛治一人で戦うのは分が悪いだろうからね。君たちもその場に居合わせたのなら是非力になってあげて欲しい。これは私からの切実な頼みだよ。どうか聞き入れてくれるかい?」
「「「御意。」」」
「「「っ! ・・・御意。」」」
俺と左近次殿、慈悟郎殿、長寿郎がそう返答するや否や、他の新米柱の者も釣られて了承する。織哉様はにこやかな笑顔を見せる。
「良し。じゃあもし上弦と相対したらすぐに知らせを送るように。その場合狛治をすぐさま出動させるから、例え負けそうになっても挫けず抗戦するようにね? 今後ともよろしく頼むよ?」
そうしてその他の小さな議題について議論したのち、柱合会議はお開きとなった。
そうして今に至る。
「上弦の壱がどれ程強いか知らないが・・・それでも関係ありません。俺たちは俺達の責務を全うすればいいのですから。織哉様の勘も働いてることだしそう悲観する必要もないでしょう。」
「そうか・・・しかし狛治殿は思いの他楽観主義なのだな・・・私にはそこまではっきりと自信をもって宣言することはできぬ。」
「そうでもないですよ。ただ俺は是が非でも生きて帰ると恋雪に誓いを立てていますので。なので死ぬ気など毛頭ないというだけです。
それに人は、守る者がいると、時として信じられないような力を発揮するものですよ?」
「ははは・・・まあそうだな・・・とは言え引き続き隊士たちからの報告は吸い上げるようにしておこう。もしかしたら奴の実力の一端が垣間見えるかもしれんしな。そこから奴の攻略の糸口がわかるやもしれぬ。」
「そうですね。そう言えば俺が以前討伐した童磨の証言によれば、上弦の壱はどうやら『透き通る世界』が見えるらしいです。なので恐らく武人寄りの戦い方をするとは思うのですが・・・」
「それは厄介極まりないな・・・狛治殿が鬼になったようなものではないか・・・正直勝てる気がせん・・・」
「まあまあ、もしかしたら今後左近次殿も見えるようになるかもしれないのでそう悲観しなくても良いのでは? 俺の経験則だと、五感に秀でた者は『透き通る世界』が見えやすい気がしますし・・・」
「そうか。そこまで言ってくれるのなら丁度この後手合わせをしてくれぬか? 一人の稽古だと中々その域に踏み入れる気がしないのでな。」
「勿論です。気が済むまで付き合いますよ。長寿郎もどうだ?」
「はい! 是非ともお願いします! 桑島殿も如何ですか? この後狛治殿と稽古をするのは!」
「おおう!? 狛治殿と稽古かぁ・・・中々にしんどそうだなそれは・・・」
「お、俺は遠慮しとくぜ! スケスケ習得しなくても遊郭行けば姉ちゃんたちの裸見放題だもんな!」
「おうおう! そのスケスケで丁半を見破れるようになるなら考えてやらんこともない! 気が向いたら付き合ってやるわ!」
こいつら・・・『透き通る世界』のことを何だと思っているんだ・・・仮にも至高の領域だというのにそんな使い方されたら教え手としてはたまったものではない。
「まあいい・・・やる気がない奴らは帰れ・・・上弦と戦って死ぬことになっても俺は知らん・・・」
「ま、待て狛治殿! 俺はなにも稽古に参加せんとは言っとらんだろう!? この馬鹿二人と一緒にするでない!」
「はっ!? わしら頭いいが!?」
「ひでぇな、桑島のおっさん。俺達こう見えて滅茶苦茶頭良いってのによ~。まあいいや。今日だけは狛治さんに付き合ってもいいぜ? 既に俺と寧子は二人で最強だけどよ!」
「ガハハハッ! わしらが組めばそのスケスケにも負けんわ! この後の稽古で思い知らせてくれる!」
「なんだ? 結局参加するのか? まあいい。なら鍛錬用の広場に移るぞ。ついてこい。」
そうしてその日、柱全員で稽古することになった。俺が左近次殿、慈悟郎殿、長寿郎の相手をし、さなえ殿に早川兄妹を任せた。
夕刻に差し当たる頃には、左近次殿の三人は肩を上下させ息をついており、颯太と寧子は反吐をぶちまけて死体の様に地べたに這いつくばっていた。
続く
よくよく考えたら原作で兄上戦離脱者がむい君だけって凄い戦果な気がする・・・大正組ってマジで強かったんだなぁって改めて思います。