それと前話で兄上への感想下さった皆様本当にありがとうございます。ここ最近忙殺されてますが読者の皆様のご感想読む度に元気貰ってます。完結までもう数話だと思いますが最後まで楽しんでもらえるよう書き切っていこうと思います。
「狛治殿・・・俺よりもさなえを・・・!! あいつは上弦の壱に両足を切断されて・・・!!」
「わかった。ならお前は傷口を自分で縫え。俺はさなえ殿の延命治療に移る。」
そう言って狛治殿はすぐさま周囲を確認し、さなえの傍へと駆け寄った。代わりに鱗滝殿と桑島殿が俺を庇うように前に出る。
「随分遠くまで吹っ飛んでいったな。上弦の壱は。」
「うむ・・・しかし桑島。油断するな。匂いからして奴は尋常ならざる敵だ。さっきから喉の奥が痺れて痛い。」
「鱗滝もか。奴め、恐ろしく静かで冷たい音を奏でておるわい。逆に静かすぎて震えが走るわ。」
二人は嗅覚や聴覚が優れていると聞く。その超感覚のおかげで相手の強さがわかるとも。この二人なら俺のように迂闊な攻めをして返り討ちに遭うこともなさそうだと俺は少しだけ安堵する。
「長寿郎・・・私たちはここを移動し奴をここに近づけないようにする。その間に傷を縫合し止血薬を塗って追いかけてこい。恐らく私と桑島だけでは勝てん。」
「そうだぞ長寿郎!! お前に早く復帰してもらわねば俺らの命などいくつ有っても足りんわい!! そう言えば颯太と寧子はどうしたのだ!? あいつらめ、まさか先に逃げよったのではあるまいな!?」
「颯太は上弦の壱に無理矢理血を飲まされて酩酊したように動けなくなってたので避難させました。寧子の方はそう言えば見てませんね・・・後で颯太に確認しておきます。」
「頼んだぞ! あいつら俺達を置いて逃げたとして可笑しくないからな? もしそうなら後で拳骨かましてやるわい!!」
「桑島よ。そろそろ奴が動き出した。こっちから仕掛けるぞ。無駄口叩いてないで付いてこい。」
「おおう!? 無駄口とはなんだ!! 聞き捨てならんぞ鱗滝!! あ、待て!! 一人で先走るな!!!」
二人は口論したのち、遥か遠くに蹴り飛ばされた上弦の壱のいる方へと歩き出した。
俺は手早く傷口の縫合を済ませ、止血薬を塗りながらさなえの方へと歩み寄った。
「狛治殿!! さなえの容体は!?」
「かなりまずいな。今すぐ出血を止めねばいつ死んでも可笑しくない。特に切断された両足の傷口を塞ぐのが厄介だ。」
「な、ならどうするのですか!?」
すると狛治殿は苦い顔をしながら、突如両手の手甲を胸元の前で打ち付け合う。その瞬間、火花が散ると共に、瞬く間に手甲が赤熱し周囲に熱気が立ち込める。
「ま、まさか!?」
「ああ。不本意だが赫刀の熱で傷口を灼き塞ぐ。長寿郎。舌を噛まないようさなえ殿に猿ぐつわをつけるぞ。申し訳ないが止血が終わるまでは火傷の痛みに耐えてもらうしかない。」
俺は驚愕したが、それ以外にさなえを生かす術がないと悟り、言われた通りにする他なかった。そして狛治殿は赫刀で止血作業に移る。
闇夜にさなえの悲痛な呻き声が響き渡り、俺はそれを聞く度に自身の胸を抉られるような心境だった。
やがて処置が終わり、さなえはぐったりと意識を失う。俺は大慌てでさなえに駆け寄る。
「さなえっ!! しっかりしろ!!! さなえっ!!!!」
「落ち着け長寿郎。後は他の傷口の止血だ。縫合は先に済ませてあるからお前は止血薬をありったけ塗れ。俺は今すぐにでも上弦の壱、黒死牟とやらの相手をしてこなければならない。左近次殿と慈悟郎殿を今宵失う訳にはいかぬ。お前はさなえ殿の延命措置を済ませたらすぐに颯太と寧子の二人と合流して増援に来い。今夜で確実に十二鬼月最強の鬼を屠るぞ。」
「わ、わかりました!!」
すると狛治殿はすぐさま立ち上がりその場を去った。彼の背中が夜の闇の中へと消えゆく中、赫刀の光が一層鋭く見えた。
俺はさなえの治療を済ませたのち、すぐに戻ると言い残して早川兄妹との合流を急いだ。
私と桑島は上弦の壱と正対していた。周囲倒壊した長屋の瓦礫だらけだが視界はそう悪くない。
「先程私に一撃入れた男が・・・あの御方が気にかけていた岩柱か・・・面白い・・・」
「ああ!! 狛治殿が来るまでの間、俺らがお前の相手をしてやる!! そう簡単にやられる気はないぞ!!! 援護は任せた鱗滝!!!」
「ああ。攻め手は任せるぞ桑島よ。思う存分やれ。」
なんでもこの黒死牟という鬼は狛治殿と同じ透き通る世界が見えるそうで、遮蔽物の有るところでは絶対戦うなと、以前狛治殿は口酸っぱく言っていた。
狛治殿も透き通る世界が見えるので、柱稽古の時はその恐ろしさを嫌と言うほど体感した。森の中だろうと建物の中だろうと狛治殿は潜伏する私たちをすぐさま発見し不意打ちなど一切させてくれなかった。
恐らくこの鬼もそうなのだ。この鬼とまともに戦おうと思ったら、寧ろ物陰に隠れての不意打ちなど悪手でしかない。ならいっそ、真正面から勝負を挑んだ方が得策と言える。
ー雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃ー
初手で桑島は雷の呼吸最速の型を放つ。狛治殿が駆け付けた際に蹴り飛ばしてくれたおかげで奴は刀を取り落とし今は無手だった。全身から刀が数本生えてはいるが、今のうちに可能な限り削る方がいいと桑島も判断したのだろう。
案の定、黒死牟は横跳びに回避に移った。もしこれを素手で防がれるようであれば、私と桑島の全ての型は通用しないと判断してよいだろう。私は奴が回避した事実にほんの僅かばかり安堵した。
「速いな・・・成る程・・・雷の剣士か・・・流石に今の居合を指で摘まみ・・・受け止めるのは無理であろうな・・・」
「取り敢えず削りまくるぞ!! 合わせろ鱗滝!!!」
「うむ!!」
ー雷の呼吸 参ノ型 聚蚊成雷ー
ー水の呼吸 参ノ型 流流舞いー
柱合会議の交流会で、早川兄妹を瞬く間に打ちのめした時と同じ段取り。私と桑島が連携で相手に飽和攻撃を叩き込む際の常套手段だった。
黒死牟も無手では成す術ないのか、頸を両手で守ることに徹し、斬撃をそのまま受け続ける。瞬く間に全身より突き出た刀の数々は砕け散り、全身より血飛沫が絶えず上がった。
一旦私達は連撃を辞め、距離を取り様子を見ることにした。
妙だった。なぜか奴は一切の反撃をする素振りを見せない。私も桑島も五感に秀でているので、攻撃が来る直前は動作予知で概ね察知することができる。
しかしこの鬼は私たちがいくら連撃を重ねてもそのような動作の予兆を見せなかった。それが逆に不気味で私たちは反射的に距離を取ったのだ。
「どうした・・・なぜ連携をやめる・・・」
「お前の方こそ何を考えている。なぜ私たちに攻撃してこない?」
「ふむ・・・雷に水か・・・異なる呼吸の使い手同士で・・・さらにはこの速度の戦いで・・・連携してくるとは・・・実に興味深い・・・」
すると奴は全身の折れた刀を体の中に引っ込めた。加えて一振りの刀を掌から生成する。
「なっ・・・! 自身の肉体から新たな刀を・・・!?」
「驚くほどのことではない・・・鬼ならば・・・自身の肉と骨で武器を生み出すことなど・・・造作もない・・・下弦ですら・・・当然のようにやっていること・・・」
すると奴は一本の刀を両手で握り自然体に構える。程よく脱力しいつでも迎撃できるように。
「折角の・・・雷と水の柱との戦いなのだ・・・元柱として・・・武家の出として・・・純粋な剣術で勝負をつけたい・・・」
「おおう!? 鬼の癖に正々堂々戦うつもりか!? 言っておくがな!! 貴様ら鬼は頸以外斬られても立ちどころに治るであろうが!! それで尚真剣勝負のつもりでいるなど笑わせてくれるわ!!!」
「であるならば・・・これより貴様ら二人との戦いにおいてのみ・・・一切の再生を自身に禁ずるとしよう・・・もし私自らこれを破れば・・・潔く頸を差し出すこととする・・・」
「なっ!? なんじゃそれは!! お前俺らのことを舐め腐っておるのか!? 馬鹿にするでない!!!」
「待て! 桑島よ。向こうがこちらに戦い方を合わせると言っているのだ。寧ろこちらとしては好都合。」
「む・・・むう・・・確かにそれはそうだが・・・鬼の言うことなど信じられるのか?」
「もし仮に今の宣言を奴が反故にしたとしても、狛治殿が到着するまでの時間稼ぎにはなる。乗ってやる価値は充分にあるだろう。勿論、こちらはどちらに転んでも充分対応できるように戦うのみだが・・・」
「わ、わかった!! 純粋な剣技のみでの勝負だな!? 上弦の壱め!! 大層なことを言ったことを後悔させてやるぞ!!!」
「御託はいい・・・来るがいい・・・」
私と桑島は目配せだけをし意思疎通を図る。そして即座に左右から斬りかかった。
ー水の呼吸 壱ノ型 水面斬りー
ー雷の呼吸 肆ノ型 遠雷ー
左右から鏡合わせのように、私たちは鬼目掛けて水平斬りを放つ。私よりも桑島の方が初速は速いので、いい塩梅で時間差攻撃となる。
どちらか一方の太刀だけでも入れば奴の動揺を誘い戦い易くなるかと思ったが、その考えは寧ろ真逆となる。
なんと奴は僅かな時間差で交互に私たちの水平斬りを捌いたどころか、続けざまに交互に一太刀ずつ浴びせて来たのだ。
「うおっ!?」
「なんと・・・!!」
奴は再び元の脱力した構えへと移る。私と桑島は剣圧で押し下げられてしまい、綺麗に元の立ち位置へと押し戻されてしまう。
「な・・・なんという剣速だ・・・目で追えんかった・・・!!」
「・・・これは・・・!!」
「驚いた・・・お前達は視覚以外で・・・私の動きに反応し防御できるのだな・・・今まで殺してきた雷と水の柱達とは違う・・・興味深い・・・」
桑島は奴の剣速に驚愕していたが、私はそれ以上に、攻める前の立ち位置に現在三人とも戻っている事実に凄まじい
奴は恐らく狙ってこれをやってのけたのだ。剣速だけでなく剣圧すらも調整し、私達を元の位置まで押し下げるという一見無駄でしかない神業を。
しかし私にとっては格の違いを思い知らされるのには充分な芸当だった。恐らくもう一度同じように斬りかかれば、私たちはなんの変哲もない一太刀で絶命する。
「どうした・・・雷ならいざ知れず・・・水の呼吸の型は多彩のはず・・・折角なら全てを出し尽くして私に見せたらどうだ・・・」
「成る程・・・確かに桑島の言う通り舐め腐っておるな・・・」
迂闊な攻めはできないと私は桑島に視線を送る。あいつはこちらの意図を察して一瞬はっとするが、その後ぐっと堪えて了承の意を伝えて来た。このまま当初の予定で攻めても無駄だとあいつも理解したのだろう。
私はその場を軽く複数回蹴って日輪刀を構え直す。
ー水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱ー
私は周囲を可能な限り不規則に軽やかに翻弄することを意識して駆け回る。
その間、奴の六つの目がぎょろぎょろと動いているのが確認できた。
ー雷の呼吸 弐ノ型 稲魂ー
そしてすぐさま私の意図を汲み取った桑島が打って出る。あいつは瞬きする間に五連撃浴びせすぐに離脱した。
「ほう・・・面白い・・・先ほどと戦い方が違う・・・」
そう。私たちは連携の仕方を変えた。普段は桑島が攻めで私が守り。もしくは主攻と助攻。止め役と陽動。前衛と後衛を務める。要は桑島に伸び伸び戦ってもらい私は援護や補助に回るのだ。
そして時折、桑島の呼吸や呼びかけに合わせて連続技を畳みかける。大概これでどんな鬼とも戦えて来た。上弦の肆、半天狗との戦いもそうだった。
だが今回は私が前に出る。前衛で在り、盾であり、浴びせる攻撃の量も手数も増やす。しかし普段と完全に真逆な訳ではない。
やはりどこまで行っても一瞬の速さや決着力の高さは桑島の方が上なのだ。隙ができる度に接近と回避で桑島には奴の頸を絶えず狙ってもらう。その間私は常に絶え間なく攻撃しながら防御も一人で引き受ける。
つまり私は今回において、矢面に立つ潰れ役と言っていい。
桑島が堪えるように頷いたのもそのためだ。だがこの鬼を相手取るならば、現状これが一番の最善策であると私たちは判断したのだ。
ー水の呼吸 捌ノ型 滝壺ー
私は宙に飛んだ後ありったけの斬撃を上段より打ち付ける。奴は反撃する訳でもなく、全ての攻撃を不動とも言うべき頑強な防御で受け続ける。
「凄まじい重さだ・・・水の呼吸の剣士の中では随一の威力・・・膂力だけに頼らない力の伝達と体重移動を駆使した技・・・見事なり・・・」
「まだ褒めるには早いぞ。黒死牟とやら!!」
ー水の呼吸 弐ノ型 水車ー
私は宙で刀を打ち付けた後、すぐさま重心をずらし自身を高速で回転させる。この回転切りで奴の刀を更に削りあわよくば両断するつもりだった。しかしその思惑はそううまくはいかなかった。
「不安定な宙に浮いた状態で・・・これほどの回転速度が出せるとは・・・器用なり・・・」
ー水の呼吸 漆の型 雫波紋突きー
回転が治まった後、間髪入れず宙に浮いたままの状態で、私は奴の顔面に突き技を放つ。しかし黒死牟は頸を傾けるだけでこれを躱してしまう。
「ちっ・・・油断してる隙を突いたつもりだったのだがな・・・!!」
「隙など・・・初めから見せた覚えはない・・・多少の様子見はしているが・・・」
私は奴の剣に斬撃を放ち、その反動で自身を後方へと弾き距離を取る。
そして大地へ降り立つと同時に再び奴へと突進する。
ー水の呼吸 肆ノ型 打ち潮ー
うねる様な連続切りを放つも、黒死牟は捌いてやり過ごす。更に距離を詰め連続斬りを絶え間なく打ち込むがこれも同様に防がれた。
ー水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦ー
私は更に踏み込み、自身を捻じるようにして溜めを造ってそれを一気に解放する。渦のような回転切りを繰り出すがこれも不動の岩山の如く受け止められてしまう。
「・・・惜しかったな・・・」
「まだだっ!!!」
私はねじれ渦の勢いが残ったまま更に回転をかけ続け、斬撃を繰り出し打ち込み続ける。奴は最初こそその場から一歩も動かず受けるだけだったが、徐々に防御がぶれ、僅かに後ろへと下がっていく。
ー水の呼吸 拾ノ型 生生流転ー
水の呼吸最後にして最強の型。それは水の呼吸の特性である流麗さと柔軟さを一切捨て、慣性と力の伝達にのみ全てを注ぎ込み、その回数数と共に斬撃の威力を上げ続ける最大威力の剛剣だ。
この型を一度放つと、次の型へと切り替えづらい。呼吸も動きも乱れやすくなる。しかし私に残された手は既にこれしかなく、もう一歩も後には引けないと私は判断したのだ。
やがて黒死牟がついに反撃に打って出る。私の剣撃を受けるだけでなく、自身の斬撃をぶつけてくるようになった。
しかし今の私の回転速度は最高到達点へと達していた。私は一歩も引かず、奴の周囲を駆け回りながら攻撃を絶えず打ち放っていく。
黒死牟はそれでも揺らがない。的確に私の剣に自身の剣を合わせて跳ね返そうとする。しかし私はうまく刀の向きを調整し、斬撃に対し刃を滑らせ回転を止めずに奮闘する。
最高速度の回転の連続で、私の視界が揺らぎ、平衡感覚が支障をきたし掛けた次の瞬間、私の日輪刀は突如踏みつけられ、地面に埋まる。
「見事・・・これほどの水の呼吸の使い手は初めてだった・・・最後の方は私も殺すつもりで迎撃したが・・・それも見事に捌き攻撃を止めなかった・・・賞賛に値する・・・最期に・・・名を聞いておこう。」
「・・・鱗滝・・・左近次だ・・・」
「天晴れだ鱗滝左近次・・・生涯貴様を忘れることはないだろう・・・」
日輪刀ごと大地に固定された私は、既に力を使い果たしふら付くばかりで、とても回避など間に合いそうもなかった。その瞬間死を悟る。
ー雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・神速ー
不意に私への刺すような視線が途切れた。落雷のような凄まじい音すら置き去りにして、桑島が私と黒死牟の間を刹那で通り過ぎた。その瞬間私の視界に鮮血が飛び散った。
「見事・・・まさかこれ程の速さとは・・・戦国の鳴柱ですら今の貴様の前では立つ瀬などないであろう・・・驚嘆する他なし・・・」
「うぐっ・・・!!!」
桑島が遠くで痛みに呻く声を漏らし、そのままの勢いで地面を滑り、遠くまで転がっていく。やがて宙より切断された桑島の片足が地面へと落下した。
「桑島・・・」
私は眩暈と平衡感覚が戻って来たので倒れる桑島の方へと視線を移す。あいつは必死に痛みに耐えながらも、すぐさま帯で足を縛り止血処置を自身に施して、片足のまま立ち上がり剣を構えていた。
「素晴らしい・・・足を失ってすぐに止血・・・その上で尚戦い続けようとする気概・・・見事という他ない・・・」
私も必死に日輪刀を取り返そうと両手で引っ張るものの微動だにしない事実に歯ぎしりする。やがて黒死牟は私に対し落ち着いた声で話しかける。
「鱗滝に桑島よ・・・お前達も鬼になれ・・・今宵其方らの剣技と肉体が失われるのは余りに惜しむべきこと・・・あの御方にお前達二人を・・・鬼として使って戴く・・・」
私はそれを聞き視界が真っ赤に染まる。とてつもない憤りに血が沸騰しそうだった。即座に私は押さえつけられている自身の日輪刀の腹を片足で思いっきり蹴り折って、背後へと退避し距離を取った。
「甚だしい侮辱!!
「おうよ!! 貴様の甘言に乗せられ鬼になる位なら!! 即座に腹を切り自身の喉と胸を突き果てて死ぬ方が本望よ!! そもそも生半可な覚悟で柱になる者などおらんわ!!!!」
私達の返答に対し、黒死牟は顎を撫で始める。
「そうか・・・だが霞の呼吸を使うあの柱は・・・自身の命欲しさに主君の居場所を話そうとしていたぞ・・・とは言え何も知らぬようだったがな・・・」
「あ、あいつは例外だわい!! 俺らをあんなチンピラと一緒にするでないわ!!!」
「それに・・・風の呼吸の柱は・・・一度仲間を置き去りにして・・・私の前から逃げ去った・・・」
「あ、あいつも颯太と同じようなもんよ!! あんな例外共と一緒にするな!! 正直同じ柱として恥ずかしいわ!!!」
「そうか・・・だがまあ・・・確かに・・・霞は最後には私の鬼の誘いを断って啖呵を切り・・・風の方も味方を助けに一度戻って来たか・・・だがそのせいで・・・私に無残にも切り刻まれて血煙と変わったが・・・」
「なっ!! ね、寧子が・・・!?」
「・・・・・・」
黒死牟の独白に対し、桑島は驚愕の声を上げ、私は閉口する他なかった。やはり寧子は既に殺されていたか。私たちが駆け付けた際、やたらと寧子の血の匂いが辺りに立ち込めていたためもしやとは思っていたが・・・
「ね・・・寧子・・・」
桑島は日輪刀を杖代わりにして、倒れないように自身を支え始めた。仲間の死の知らせを聞いて、流石の桑島もさっきまでの威勢を保てはしないようだった。
私も力なく日輪刀の切っ先を地面へと下げる。
「ふむ・・・それでお前たちはどうするのだ・・・鬼になるのか・・・それとも私に殺されるのか・・・だがここまで剣技を高めた者は今後そう現れないであろう・・・実力者達の喪失は・・・私としては嘆くばかりだが・・・」
私は静かに瞼を閉じる。私たちは敗北したことを悟った。
だが、結果としてそれなりの時間は稼げたはずだ。残りの日の出までの時間で、最悪狛治殿だけでも生き残ってくれればお館様と共に鬼殺隊は何度でも立て直せる。
暫く柱の人数が激減するが致し方なし。時代が移ろい、やがて時がくれば更なる才覚の有る柱達が台頭してくるだろう。私が遺した継子たちだっているのだから。
そもそも私達はそう大層なものではない。長い長い鬼殺の歴史のほんの一欠片。
私達の才覚を超える者が今この瞬間にも産声を上げている。彼らがまた同じ柱となって同じ使命を担ってくれるだろう。
私は不意に気の抜けた笑い声を漏らし顔を上げ言い返す。
「何の心配もいらぬ・・・私たちは・・・いつでも安心して人生の幕を引けば良いのだ・・・私達程度の喪失など・・・これからの剣士たちの待望を思えば・・・浮き立つ気持ちになれど嘆くことなどない!!」
その瞬間、黒死牟がピクリと反応する。表情こそ変わらないものの、明らかな動揺が見て取れた。
丁度いいと思い、私はこの隙に自身の喉を割いて自害を試みようとするが・・・
「これは今・・・どういう状況ですか?」
気が付けば夜の闇の中、赤熱した光を両の拳に纏った狛治殿が駆け付けていた。
続く
鱗滝さんと桑島さんのタッグを兄上にぶつける構想は本小説書き始めくらいから思い浮かべてました。うまく文章化できてたかはわかりませんが形にできて良かったです。
それと宜しければご感想下さい。励みになります。特に兄上周りの感想は元気出ます(なんで?)。本作を読んで楽しんで頂けてたら幸いです。