ノリノリで書いたので、読者の皆様にも楽しんで頂けたら幸いです。
追記:
折角のバレンタインデーなので本当は狛治と恋雪のラブラブ番外編書きたかったのですが、ここ最近仕事で忙殺されて止む無く断念しました。てか休日出勤多すぎる。今日も例に漏れず。社長もしかして無惨様が化けてたりする? 助けて縁壱・・・
「来たか・・・待ちわびたぞ・・・岩柱よ・・・名は確か・・・狛治と・・・言ったか・・・」
俺がさなえ殿に延命措置を施した後、駆け付けた先には上弦の壱である黒死牟らしき鬼がいた。
奴は上半身の着物を全て裂かれ、一見多大に攻め立てられた後のようにも見えるが、その肉体には傷一つ付いていなかった。当然だが、鬼ならば斬られても瞬きする間に治る。そんなもの鬼ならばかすり傷だからだ。
ただ、不可解なのは奴と左近次殿たちが会話を交わしていたことだ。当然左近次殿たちは明確な拒否反応を示しているように見えるが、黒死牟はなぜか彼らの命を取ろうとしないのか。
そこで俺は童磨との戦いを思い出し、一瞬嫌な想像を思い浮かべ冷や汗を流す。すると黒死牟は俺に向き直り、今度は俺に対し語り掛け始めた。
「今代の柱達は・・・一部を除いて・・・皆見込みがある・・・故に・・・私と共に永劫の武の研鑽を続けないかと・・・提案していたところだ・・・」
「要は鬼の勧誘だろう? 応じる訳ないだろう。そんなものを。俺たちは何があろうとも鬼にはならない。」
黒死牟は顎を撫でる。やや考え事をしているようにも見える。
「なぜ・・・其方らのような武の才に恵まれた者達でさえ・・・技の保存・・・肉体の保存に関心を示さぬのだ・・・武を極めようとするものとして・・・理解しかねる・・・」
「当り前だ。俺たちは柱なんだ。柱としての責務を背負っていながらどうして鬼などになれる? そもそも俺たちの武は自己満足や自己陶酔の為に磨き上げているのではない。
武を磨いているのは弱き者を守るため。そして、大切な者を助け守るために行っている。主君を、恩師を、仲間を、そして家族を、生涯かけて守り通すそのために技を振るっているのだ。
目的無き研鑽などいくら積み重ねたところで時間の無駄だ。どうやら俺とお前とで価値観は違うようだ。」
「そうか・・・素晴らしい提案だと・・・思ったのだがな・・・致し方なし・・・だが・・・」
奴は俺との交渉が決裂したことを悟り、一振りの刀を構え直す。
「どの道お前は・・・力ずくで鬼にする・・・逃がすつもりもない・・・夜明けまで一刻を過ぎた・・・今宵貴様を取り逃がせば・・・あの御方もさぞやお怒りになるだろう・・・」
「そう言えば黒死牟。実はずっと前から聞きたいことがあったんだ。鬼舞辻無惨はなぜ俺を・・・」
ー月の呼吸 弐ノ型 珠華の弄月ー
突如俺の問いを遮るかのように、黒死牟は突進技を仕掛けて斬りかかって来る。だが、俺も奴と同じ透き通る世界が見える身故、事前の動作を察知して、完璧な迎撃に打って出ることなど造作もなかった。
ー素流体術 鬼芯八重芯ー
奴の剣撃を全て左右交互の突きで撃ち落とす。そのつもりだった。だが・・・
「ちぃ・・・これは・・・血鬼術か?」
「これは・・・私が生み出した月の呼吸を・・・更に血鬼術で強化し・・・練り上げたものだ・・・水と雷の柱達には・・・拘り故使わなかったが・・・よく捌いた・・・」
俺と奴は互いに距離を取る。俺は体中のあちこちに切り傷を負ったが、皮膚が裂かれただけなので呼吸で即座に止血する。
対して黒死牟も、得物が赫刀との衝突で使い物にならなくなったと判断したのか、即座にそれを放り投げ、新たな刀を掌より生成する。
「成る程。血肉と骨で武器を造るのか。報告にあった下弦の壱 妓夫太郎と似たようなものか。」
「確かに・・・奴は見込みがある者だが・・・私は奴の様に・・・毒に頼る様な無粋な戦い方はしない・・・故に剣技でのみ戦う・・・」
「ふっ・・・はははっ!」
俺は奴の弁明にふと笑いがこみ上げる。奴はそれに対し眉を寄せる。
「何が・・・可笑しい・・・」
「可笑しいさ。無限の体力、再生力、人智を超えた膂力、速力。加えて理不尽な能力を発揮する血鬼術。それだけの手札を十全に駆使しておきながら、未だに俺達と真剣勝負をしてると言わんばかりのその面構え。これが笑わずにいられるか。」
「・・・なん・・・だと・・・」
俺は拳を手前で握り、堂々と宣言する。
「俺は侍じゃない。刀を持たない。しかし心に太刀を持っている。使うのは己の拳のみ。この俺に対し正々堂々戦いたいと言うのなら、今一度人間に生まれ直して純粋な剣技のみで挑んでこい・・・!!」
「・・・貴様も・・・手甲や分銅・・・呼吸を・・・用いているではないか・・・」
「それを言うならお前も刀と呼吸を使っているだろう? その上で血鬼術で斬撃を強化までしている始末。そのような紛い物の力を借りておきながら、無粋な戦い方をしないなどとは笑わせる。」
「それは・・・私が鬼で・・・お前が人のままだからだ・・・」
「そうだ。お前の言う通り。そもそも鬼と人とでは戦う前提条件が違うのだ。故にこの戦いは正々堂々などという大層な決闘なんかじゃない。純粋な殺し合いだ。
であるにも関わらず、そのようなことも理解できずに未だ侍気取りなのが一層滑稽だ。黒死牟とやらよ、自身の弱さを棚に上げて置きながら、あまつさえ鬼となり生き恥を晒し続けて何が侍か。これは妄言極まれりだな。」
「き、貴様っ・・・!!」
奴は周囲の空気が揺らぐほどに怒りをあらわにした。
俺は意図的に奴の動揺を誘い、剣筋が乱れて戦い易くなることを期待したが、さてどうだろうか。
加えて時間稼ぎも目的だった。夜明けが近づけば奴は逃げの一手を打つしかない。だがもし仮にうまく行けば、俺はそんな奴の背を討って今宵倒すことができるやもしれぬのだ。
これは正々堂々とした戦いじゃない。純粋な殺し合いだ。所謂人と鬼との生存競争だ。故に情け容赦など微塵も必要ない。
仮にこのようなことを豪語したとしても、奴に卑怯だと指図される筋合いはないだろう。
俺がそのように思考を進めていると、やがて奴は捻り出すかのように恨み言を吐いた。
「私が・・・貴様を鬼にすると言った故・・・命は保証されているのだと・・・少々高を括っているようだが・・・調子に乗るなよ・・・刀も握れぬ鬼狩り風情が・・・!!」
「ほう? では、素手でしか戦えぬ猿同然な俺相手に手こずっている今のお前は果たしてどうなのだ? その程度の器量で上弦の壱とは聞いて呆れるな、黒死牟。」
「・・・・・・」
奴は押し黙り怒気を鎮める。しまった。逆に怒らせ過ぎて冷静にさせてしまったようだ。少々悪手だったかもしれない。なら別の切り口で丸め込むまで。
「少しは落ち着いたようで何よりだ。なら先程の質問の続きをさせてくれ。なぜ鬼舞辻無惨は俺にそこまで拘っているのだ? 童磨の口からは終ぞ聞きだすことはできなかったのでな。折角ならここで教えてくれないか?」
奴は終始沈黙を貫いていたが、やがて口を開くに至った。
「良いだろう・・・どの道貴様は私に敗れ・・・鬼になる他ないのだ・・・冥途の土産とは少々違うが・・・特別に教えておいてやろう・・・」
うまく俺の口車に乗って来た。口論で言い負かされた後、言い返す口実を差し向けてやれば誘いに乗って来るとは思っていたが、存外この男は単純な気質のようだ。本当に扱いやすくて有難い。
「そもそも・・・十二鬼月の結成は・・・狛治・・・あの御方がお前に・・・関心を持ち始めてから行われたこと・・・」
「・・・は?」
俺は予想外の回答に変な声が出る。思わずこちらが動揺してしまいそうになった。俺はすぐに自身を落ち着かせる。
「戦国の世より・・・あの御方の取り巻きは既にいた・・・だがあの御方は苛立っていた・・・その者共が停滞を受け入れていることに・・・」
「・・・」
「鬼になった後・・・その者がどれ程強くなるかは・・・その者の気質と努力次第・・・それが成されぬ現状に不満を感じている中・・・気が付けば時代は江戸の太平の世と移り変わっていた・・・そこである日・・・お前の存在がきっかけとなったのだ・・・」
「どういう意味だ?」
「あの御方は・・・鬼を配置した覚えのない場所で・・・鬼が出たとの知らせを聞き・・・その時すぐさま駆け付けた・・・そして騒ぎを起こした者は人間で・・・加えて呼吸も使えない身でありながら・・・差し向けた鬼を返り討ちにしたと知り・・・あの御方はお前の生物としての強さに・・・一層の興味を抱いたのだ・・・」
「・・・」
「そしてあの御方は思いついた・・・お前のような見込みある者を鬼にして・・・更には鬼同士で競わせることを・・・明確な序列を与え・・・互いにより強さを誇示させ高め合うことを促そうとした・・・」
「成る程、道理には適っている。まあ千年近く生きている割には平凡な考えだと言わざるを得ないが・・・」
「加えて私も貴様の話を聞き・・・その時あの御方に提案したのだ・・・お前が鬼になれば・・・鬼狩り共は今以上に壊滅的な被害を・・・被るはずだと・・・」
「何?」
再び予想外の話だった。鬼の首領がそこまで俺に拘るようになったのは、暗に目の前の男が進言し唆したからだと俺にはそう聞こえたからだ。
「あの御方は・・・貴様の人外とも言うべき暴力を買っていたが・・・私はそれ以上に・・・貴様が道場の剣士数十名を相手に・・・真剣で囲まれる中・・・素手で返り討ちにしたことを高く評価した・・・」
「素手で戦う鬼が欲しかったのか? よくわからん話だな。」
「そうではない・・・素手で『真剣を持った剣士数十名を返り討ちにしたこと』・・・それを私は高く買ったのだ・・・」
「・・・まさか・・・お前は・・・」
「その通りだ・・・」
奴は刀を構え直す。もうすべき話は終わりだと言わんばかりに。
「剣士を打ち負かす術を極め抜いた者が・・・鬼となり・・・上弦に加われば・・・貴様らが戦い方を変えぬ限りは・・・鬼狩り相手に不敗の手駒と化すであろうと・・・私はそう進言した・・・」
俺は冷や汗を流し、奴に応じるように素流の構えを取った。
「それに貴様は・・・既に上弦を屠れるほどの・・・鬼狩りへと成長した・・・貴様が鬼になったなら・・・鬼狩り共にとって・・・私以上の脅威となろう・・・あの御方も・・・それを心待ちにしているはず・・・」
ー素流体術 脚式 飛遊星千輪ー
俺は即座に飛び蹴りを放つ。凄まじい威力で繰り出したはずだが、黒死牟はそれを受けても尚微動だにしなかった。
「ならば一層・・・俺が鬼になる訳にはいかないな!!」
「詮方なき事・・・それに・・・既にその技は・・・見切った・・・!!」
ー月の呼吸 参ノ型 厭忌月・鎖りー
俺の蹴りを完璧に受け止めた後、奴は即座に左右交互の切り払いを放つ。加えて、周囲に三日月状の斬撃が出現する。
「速いな。この世界が見えていなければ確実に喰らっていた。」
「よく避けた・・・だがまだ終わりではない・・・」
俺は奴の刀を蹴って再び後方へと距離を空けて退避し着地していた。やはりと言うべきか、赫刀が発現できない足袋の蹴りでは奴の刀身にキズ一つ付かないようだ。
ー月の呼吸 陸ノ型 常世弧月・無間ー
奴は俺へと距離を詰め、先程の型より数段激しい斬撃の弾幕を打ち放ってくる。これを全て回避し捌き続けるのは容易ではない。生半可は技では迎撃できぬ。よって俺は大地を踏みしめ構え直した。
ー素流体術 奥義 終式 青銀乱残光ー
俺は出し惜しみなく、素流の奥義で迎撃した。
ほぼ同時に百発以上の乱れ打ち。俺の撃ち出した赫刀の拳は、奴の三日月状の血鬼術にぶつかりそれらを全て消し飛ばした。やはり血鬼術の類であれば、赫刀はそれら全てを灼き尽くす。
「ぐっ・・・見事・・・!」
加えて数発奴にも被弾する。赫刀の拳打は鬼の細胞を灼き壊し、内部にまでその威力を伝える。奴は苦しそうに押し下がり、自身の打たれた部位を庇っていた。
「打撃の痛みがいつまでも残るなど・・・鬼になってから久しく感じていなかったこと・・・わかっていたとは言え・・・受けると一瞬身体が硬直する・・・」
「硬直するのは赫刀の副次効果みたいなものだ。まあ鬼が打撃の痛みに慣れていないのは当然だとは思うが・・・」
俺が応えると、奴は刀を構え直す。
「奥義と言うだけあって・・・凄まじい数の連撃だった・・・しかし・・・今の技は迎撃にしか使えないのだろう・・・攻め手に欠けることは・・・依然として変わりあるまい・・・」
「そういう貴様こそ再び俺の間合いに踏み込んでこれるのか? もしまた突っ込んでくれば次こそ止めを刺してやる。」
俺はそう言い返し、素流の迎撃の構えを取り続ける。
正直今以上の型が奴から繰り出されればどうなるかわからないが、下手にこちらから攻め込んで深手を負う方が悪手だろう。よって俺は待ちに徹する。
暫く互いに睨み合っていると、奴は刀を掲げる。すると突然、奴の持つ刀の刀身が六尺以上に伸び切った。
「なっ!?」
「ならば近づかないまで・・・」
ー月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映えー
突如として大地を伝い、俺めがけて奴の斬撃が地を這い襲ってくる。俺は拳で打ち払おうとするも、僅かに被弾し鮮血が散る。
「ぐっ!!!」
「狛治殿っ!!!」
遠くから左近次殿の声が聞こえてきた。どうやら二人は俺が戦っている間に距離を取れたようだが、今考えねばならないのは奴の間合いが倍以上に伸びたことだった。
ー月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾ー
「何と言う間合いと範囲の広さ!!! これでは近づけん!!!」
「この間合いなら・・・貴様の分銅を用いた攻撃も届かないはず・・・それに・・・まだ終わりではない・・・」
ー月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面ー
頭上より雨あられの如く不定形の血鬼術の斬撃が降り注ぐ。俺は拳を引き、代わりに連続蹴りを放つ。
ー素流体術 脚式 流閃群光ー
「ぐあっ!!!」
やはりと言うべきか、赫刀無しにこの血鬼術の弾幕を受け続けるのは無謀としか言えないようだ。却ってこちらの身体が切り刻まれてしまう。
「愚かな・・・」
ー月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月ー
俺が切り傷の痛みで動きが止まった瞬間、円盤状に渦を巻いた血鬼術の斬撃の塊が俺めがけて放たれる。
かなりの速さだ。加えて受けられるような密度の斬撃ではない。迎え撃てば立ちどころに全身削られて行ってしまうだろう。俺は横跳びに回避する。
ー月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月ー
先ほどの雨あられのような型を遥かに超えるような斬撃が、滝のように俺の頭上から振り落とされる。俺は必死に駆け回り、受けに回るのではなく回避に全力を注ぐ。
「何とかして・・・奴の間合いに・・・!!!」
俺は賭けに出るしかないと思った。一瞬の隙を突いて奴へと突進する。距離が十間以上離れているが、俺の足なら一瞬だ。即座に間合いに入り接近戦を挑もうとするが・・・
ー月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満纎月ー
「ぐぅうあああああああっ!!!???」
今度は辺り一帯を根こそぎ薙ぎ払うかのような、台風を彷彿とさせるような斬撃の渦が広範囲に展開される。
俺はそれに見事に巻き込まれ、そのまま全身を切り刻まれ吹き飛ばされる。
「随分堪えたが・・・ここまで・・・」
辺りの長屋は悉く巻き込まれ、瓦礫の山と化していた。やがて土煙が治まり、視界が広がる。そんなのを待たなくても、奴は視界が透けて見えるので、本当は畳みかけることもできたはずだが・・・
「勝負あった・・・今の攻撃で・・・内臓の深手や四肢の欠損を防いだのは驚きだが・・・それでも敗北を悟るには充分だったはず・・・」
俺は地面に這いつくばりながらも、手持ちの縫合糸で深めの傷を片っ端から縫っていく。日中さやか殿が受け持つ隊士達の治療を何度も手伝った経験がここで功を奏し、土煙が晴れる直前までには最低限の縫合を済ませることができた。
俺は残りの浅い傷を呼吸で止血し、震えながら立ち上がる。俺は自身の有様を確認した。
折角恋雪が丹精込めて仕立ててくれた羽織も、前田殿が準備してくれた特別耐久性の隊服も、既にバラバラに切り刻まれてしまっていた。
「まだ立つか・・・威勢がいいのは口先だけではなかったのだな・・・」
「・・・・・・」
俺は何も言い返せない。俺は切り刻まれ千切れかけた隊服と鎖かたびらを破り捨て、黒死牟みたく上裸になる。
俺は現状を俯瞰した。
まず、奴の間合いは少なく見積もって十間以上。分銅で遠距離合戦を仕掛けられる距離ではない。
加えて絶えずこちらが絶命しても可笑しくない程の密度と範囲の飽和攻撃を、奴は軽々と連発することができる。
終式で迎撃すれば一時的には身を守れるが、いずれは削り切られてこちらが敗北するだろう。
ならばやはり勝機は接近戦のみ。近づかなければ俺に一切の勝ち目はない。だが、俺の移動速度では奴の攻撃の合間を縫って距離を詰めるなど夢のまた夢だ。せめて今より倍速で動ければ・・・
「痣者ですらない身で・・・良くここまで持ち堪えたものだ・・・だが私には遠く及ばず・・・今一度問うが・・・鬼となり・・・更なる武の研鑽と鍛錬を積む気はないか?」
奴はそう言い、遠くで俺に手を差し伸べるような仕草をしている。だが奴の発言を聞き、ふと俺の脳内にこの状況を打開できる唯一の方法が思い浮かぶ。
やはり・・・生き残るにはこれしか手はないか・・・恋雪と螢子の為にも・・・できれば実行したくはなかったが・・・仕方ない。
「・・・何を・・・する気だ・・・?」
俺は黒死牟に回答することなく、自身の鎖分銅、籠手、すね当て一式を取り外す。
「漸く・・・観念したか・・・」
「観念? 違うな。これは俺にとっての最後の奥の手だ。本当は発現させたくなかったが・・・ここで死んでしまえば元の木阿弥・・・ここで使うのも致し方なし!!!」
そうして俺は手甲をぶつけ、再度赫刀を発現させる。
「・・・発現させたくなかったのは・・・赫刀のことなのか? 先程までずっと使っていたはずだが・・・」
「いいや違う。まあ見ていろ。」
俺は呼吸の仕方を切り替えた。今までは『わざと心拍が上がらないよう血流をなるべく抑える』ための呼吸を意識していた。
以前ならそんなことをしてしまえば、赫刀を使う際に両手が焼け落ちてしまっていただろうが、今は前田殿の耐熱性手袋のおかげで、血液循環で手を熱から守る必要がなくなっていたのだ。
ではなぜ急に以前のように血液循環を増やし、心拍数を上げるような真似をし始めたのか。
事情を知らないものが聞けば不可解に感じるだろう。しかしこの場での答えなどただ一つ。それは・・・
「そうか・・・お前も・・・」
俺の手首から肘にかけて、地割れの罅のような紋様が浮き上がる。俺の体温は赫刀によりとっくに限界まで上がり切っていた。だから後は心拍数を上げるのみだったのだ。
そうだ。俺は上弦の壱を打ち滅ぼすために、自身の寿命を前借りして、痣を発現させる道を選んだのだ。
続く
「えぇっ!? 痣発現したら恋雪ちゃんどうするの!? あらすじ詐欺じゃん!! ふざけんな作者!!」と思ったそこの貴方。大丈夫です。ネタバレになりますが狛治は二十五程度では死にません。次回その理由を書きます。今話とセットで一番書きたかったエピソードなので是非来週も読んで見てください。
『次回!! 兄上死す!! デュエルスタンバイ!!!』