【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート 作:バブ辻オギャン
一位.うっかり赫刀(58)
二位.兄上ver記憶の遺伝(51)
皆兄上好きすぎでは……?まぁ私も大好きなんですが。
人の為にする事は、巡り巡って自分の為になるのだと。
そして人は、自分ではない誰かの為に、信じられないような力を引き出す生き物なんだと。
父はそう言い、それを聞いた弟も母も、まるで疑いを持つ事なくそれを肯定する。
父は変わらず、赤い瞳を得意げに細めて、話を聞いてくれた事を喜び、頬を緩ませる。
違う。
そんな綺麗事を吐けるのは、
見た事がないだけだ。
知らないから言えるだけだ。
全てを照らす程、純然で鮮烈な。
――星々のような存在を。
『山に潜む鬼を見つけるまで』と。
彼女はそう言って、暫くこの山に滞在すると言った。
父も母も、それを肯定し、良ければ家を使ってくれと、そう返す。
『人の為にする事は、巡り巡って自分の為になる』。
いつか自分にも聞かせた、中身の伴わない戯言を二言目に発して。
弟、無一郎は有一郎の隣で。
生まれて初めて見る剣士、そして刀なる存在に興味津々だったから、両親の提案を他の誰よりも喜んでいた。
ただそこにいるだけで。
空気が、周りにいる全ての生き物が、彼女を中心に動くのが分かる。
今までの生活に紛れ込む『異物』。その形容し難い不快感を吐き出す術も、許される時間もなく、有一郎は己の
まるで最初から、この女が我が家にいたかのような空気の流れ。それに、胃液が喉までせり上がる。
朝起きて、母の仕事を手伝う。
昼は木を切りに行く。時折、父が山を下りる時はそれも手伝う。
朝起きる、夜に寝る。
そんな今までの景色の隅に、これからあの女がでしゃばるのだ。
今まで山の中で繰り返し続けたそれを、苦痛と感じた事はない。
他の生き方は知らないし、他の生き方を知ろうとも思わなかった。
なのに、そこに知らない誰かがいるというだけで、こんなにも心がざわつくのか。
――
杣人の毎日は長閑やかで、単調な作業の繰り返し。
だが、有一郎はこれで良かった。
山の下には何があるとか、町で今流行りのものは、とか。
それを知りたいとも、不明瞭な憧れを持ったりもしない。
これ以上は欲しくなかったし、そんな未来を想像するのも疲れるからだ。
なのに――。
花柳麗。
思えばこの女を一目見た時から、
退屈で、しかし愛おしい長閑やかな時間が、彼女によって一転する。
彼女は隠す事なく、己の特徴的な息の仕方を教えた。
純粋無垢な『教えて』という、無一郎の言葉に『いいよ』と、二つ返事で。
父と母は当然として、弟と自分にもそれを教えようとする。
しかしそれは、鬼狩りが使う『全集中の呼吸』とは違うと言った。
彼女が教えたのはただ、肉体を健康にする為の、何百倍にも希釈した特別な息の仕方。
長く動いても疲れにくくなる。
空気の薄い山頂付近でも、苦しむ事なく動き続けられるようになる。
そんな、日々の生活を僅かに楽にする程度の技術。
しかし、なんて事のないように教えるそれが、一体どれ程の価値を持った技術なのか。
杣人の子でしかない有一郎でも理解できるのに。その異常性に触れるものは、自分以外誰もいない。
父も母も、弟も。皆が『凄い』だの『便利だ』のと、頭の軽さを疑う感想しか吐き出さない。
そもそも彼女の言う『全集中の呼吸』、それ自体が一体何なのか、それを自分たちが知らない事を、彼女は知っているのだろうか。
ズレているのだ、彼女は。
得体が知れない。
何を考えているのか分からない。
何より、
その全てが、気味が悪い。
息の仕方を教えるのも、手にした力をひけらかす目的ならまだしも。
不本意にも、花柳麗はそんな些細な顕示欲すら見せない、素朴な性格であるのだと。
彼女は純粋な親切心で、その廉価版の呼吸を教えているであろう事。
有一郎はそれが、
それぞれの者が得意な事とできる事に合わせて、自分で息の仕方を調整し、教える。
医者でも何でもない、人外を屠るだけの存在が何故、そんな事をできるのか。
この時だけは、有一郎の疑問に家族が同意した。
「どうして教えるのが上手なの?」
縁側に座り、茶を飲んでいた麗。
その隣に腰かけた無一郎は、キラキラとした瞳で話しかけた。
そうすると麗は、不可解な事を言いだした。
「肺の大きさは人それぞれだ。体格に見合った血管の収縮と、筋肉の膨張の癖、それに合わせて息の種類を変えればいい」
この女は、生き物の身体が透けて見えるのだと。
有一郎は理解するのに、暫くかかった。
「……肺が見える?」
「見えるよ。……今も、君の小さい心臓が必死に動いて、血を巡らせてるのが見える」
「へぇ、凄いなぁ」
――
その言葉で、ようやく理解した。
この女の違和感は、得体の知れない何かの、
有一郎は酷く納得すると共に、それを未だに理解していない、目の前の弟に強く呆れた。
何が凄いと言うのか。
何を、
その特別な視覚と、今まで吐いてきた言葉を、本当に理解しているのか?
人より特別強く作られた。
恵まれ、生まれてきた事を自覚しておきながら、肝心な所で真に人の心を労われない。
現にこうして、有一郎のこの胸の内に気づけない。
もしくは気づいても尚、何も解決できてない時点で、それは明らかだろう。
強者は弱者の気持ちを理解できず。
その逆も然りで、弱者は生まれついての強者の懊悩を理解できない。
誇るべきだろう、尊敬するべきだろう。
人外を容易く屠り、周りを見下せる肉体を持ちながらも、自分以外の全てを愛する。
それがどれ程尊い事で。
そして、どこまで酷いものか。彼女は気づいていない。
愛されて育ったのだろう。
愛を注がれ、愛を教える術を教えられ、実践してきたのだろう。
しかしそれは、普通の人間にのみ許された生き方だ。
――神々の寵愛を一身に受けた、
傲慢であるべきだった。
自分以外を全て蹴落とし、見下す事ができる。それが許される存在として生まれたのなら、その身の丈にあった生き方を選ぶべきだった。
そうだ、お前は傲慢であるべきだ。
――
「――ッ……!?」
ぐらりと、視界が強く揺れた。
思わず息が乱れ、何も持っていない手を強く握り。
有一郎は咄嗟にその場から離れ、走った。
「はぁっ……はあっ……!!」
誰だ?
今の今まで、違和感すら抱かなかった自分と、それまでの思考に冷や汗が止まらない。
――なんだ?
――
さっきまで感じていた、花柳麗に対する吐き気は全て。
自分自身への恐怖に変わる。
あの夢だ。
今まで何度も見た、遥か遠い記憶の一つ。
「クソ……!」
気味の悪さに怖気が走る。
自分ではない何かが、自分の
今まで見た夢は、ただ夢に過ぎなかったというのに。
「クソッ……!」
だが、それが今日ここまで変わったのは。
間違いなく、あの女がここにやって来てからだった。
あの顔を、有一郎は知らない。
名前も知らない、知っている筈がない。
初対面、全てが初見で満ちた存在である筈なのに。
――だが、
気の遠くなるような、遥か遠い昔の記憶。
そこに、確かにあったものは――既視感の正体は、今までの自分の当たり前を、『日常』を酷く破壊する姿。
――剣の道を邪魔する神童。
――普段の生活に混じる異物。
憧れて手を伸ばし、消し炭になるまで焦がれていく。
何故か、自分はそれを知っている。
知っているから、自分はあれが気味悪く思い、そして――。
「有一郎?」
声が聞こえた。
花柳麗が、背後にいた。
「……なんだよ」
「気になったから、追いかけてきた」
「……あっそ」
そうやって、お前は堂々と人の心に踏み入って来る。
その苛立ちだけは、誰の記憶でもない、間違いなく有一郎個人の感情だった。
「あいつと話してたんだろ、さっさと行けよ」
「脈が乱れてる。神経の反応もおかしい」
「……気色悪い、何でもお見通しかよ」
そうやって、人の事を分かった気でいる姿も。
こちらを心配するように見つめておきながら、実際は自分の姿ではなく、透けた肉体の内側を見ているに過ぎないそれも。
本当に――。
「本当に気色悪いんだよ、お前」
「…………」
父も母も、優しすぎる人だから。
自分たちを気遣って、無理をしてしまうような人だから。
自分がその分しっかりして、弟を守らないといけないのだ。
昔、目を離した時に転んで泣いて、自分に手を握って欲しいと強請った弟。
まだ、自分が守らないといけない存在を。
「ずかずかと入って来るなよ、さっさと消えろよ。今すぐにでもいなくなれよ」
「…………」
変わっていく。
「……あいつに、危ない道を見せるなよ」
この女が来たあの日から、無一郎は変わっていく。
父と母が零した鬼殺隊、鬼という存在を知ってから。
無一郎の目には、今までとは違う光が灯ったのを。
その『才能』が覚醒し始めたのを、有一郎は気づいていた。
麗が教えた息の仕方。
それは、ただ身体を疲れにくくするだけの、本当に弱いものだった筈。
しかし無一郎は既に、希釈する前の『本来の息の仕方』を見つけようとしていた。
有一郎がそれに気づいたのは、いつの間にか無一郎が、有一郎より長く仕事を手伝えるようになった時だった。
自分より多くの木を運ぶようになった、力強さが増していた。
それが一体『何の才能』なのか、言葉で表す必要はない。
そんな事しなくてもいいのに。
今のまま、長閑やかで単調な日々では駄目だと言うのか?
人を助ける事ができるのは特別な存在だけで。
同じく、人に優しくできるのも、やっぱり選ばれた人間だけなのだ。
ならば無一郎はどうか。
彼はまさしく特別で、そして選ばれた人間だからこそ。
人を助ける鬼殺隊の存在に、瞳を輝かせていたのだろう。
その間、麗は何も返さなかった。
まるで有一郎の、その先の言葉を待っているかのようだった。
「……」
長い沈黙が両者の間に降りた。
そして、その十数秒の空白は、有一郎の本音を引き摺り出すには充分過ぎた。
一言。
「…………分かってた」
――自分は、無一郎とは違う。
その一言を発し、己の葛藤を自覚するのに、有一郎はまるでこの一瞬で、数年経ったと錯覚する程だった。
ただ、その日を生きるだけで手一杯で、家族以外を気遣う余裕なんてなかった。
気遣う必要がないとか、父の『情けは人の為ならず』という言葉に自分が嫌悪感を示していたのは、ただ自分を誤魔化していただけだ。
誰だって、人に誇れる生き方を選べるのなら、それを選びたいものなのに。
弟が、他ならぬ自分の意思で、それを選ぼうとするのなら、背中を押して応援するべきだったのに。
心配だった。
自分の傍から離れないで欲しかっただけだ。
だが、それと同じ位に。
自分を置いて、先に成長して進んでいく弟に――自分は形容し難い感情を抱いたのだ。
花柳麗への悪感情は。
謎の夢の影響を差し引いても尚、確かにあったもの、それは――。
「……焦り?」
「――――」
「それとも、嫉妬?」
今までの、形だけとはいえ相手を思いやる姿勢を捨てた。
空気の読めない一言に思わず、有一郎は呆けてしまった。
焦りは否定しない。
自分の手を離れて、特別な存在に成ろうとしている弟の背中に、一抹の寂しさとそれを覚えたのは確かだ。
だが、嫉妬の方は分からない。
昔、心の中で作った言葉『無一郎の「無」は無限の「無」』を思い出す。
そして改めて、有一郎は『嫉妬』という言葉について考えた。
嫉妬。
『無限』に見合う成長を遂げる無一郎に。
弟に、果たして自分は嫉妬していたのだろうか?
「…………」
――
「
麗が零した言葉。
しかしそれが不本意にも、有一郎の内心を吐露する為の確かな切っ掛けとなった。
無一郎は特別だ。
人を優しく思える、助けられる才能と思いを持った、特別な弟。
特別に生まれた弟なら、天才の人間であるのなら。
凡才に過ぎない兄を超えるのは必然で、それは心から喜ばしい事だと有一郎は確信する。
だが、その才能の覚醒を。
その切っ掛けを与えたのが自分ではない事。
兄として、弟の成長の切っ掛けになれなかった事が。
たったそれだけが、有一郎は悔しかったのだ。
「無一郎が使おうとしてるもの……俺にも教えられるんだろ」
「うん」
「……俺も、あいつみたいに使えるか」
「うん。当然」
「なら」
自分は、自分ではない誰かに優しくできる程、できた人間じゃない。
こうしている間にも、どこかで誰かが傷ついている事実に、心を痛める程優しくはない。
だが、弟が人を救いたいと言うのなら。
その道を進む事を決意するのなら、自分が
正道を進むなら、その背中を追わせればいい。
自分が間違えたのなら、それ以外の道を進ませる。
それが、兄なのだから。
「俺にも教えてくれよ」
その時にはもう。
――
兄上「私の意思を継げ……(記憶の遺伝)」
有一郎「俺はお前とは違う(生き恥思考払拭)」
兄上曇らせの下準備が止まらない今日この頃。
主人公の将来的な身長はどれがいいか
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166cm
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172cm
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184cm