【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート   作:バブ辻オギャン

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 大胆な時飛ばしは女の子の特権。


20.風の道しるべ

 鬼殺隊に休みはない。

 正確には、新人もいいところである『(みずのと)』は例外だろうが、肝心なのはそこではない。

 

 全集中の呼吸。

 

 人間が鬼と戦うそれは、使えるようになって終わりではなく、まだまだ極める先がある。

 その一つこそ、朝も昼も、それこそ寝る間も常に全集中の呼吸を続ける技術である『常中』。

 それができるようになってから、本当の意味で鬼殺の剣士としての成長が始まるのだから。

 

 まだ、自分が鬼殺隊も日輪刀も知らない少年だった頃。

 山ほどの刃で武装して、鬼を陽光で焼き殺す自殺行為を続けていた頃から、あっという間だったと思う。

 

 血と筋肉の躍動を感じる。

 鬼を自分の手で、自分の膂力でねじ伏せる現実。

 血反吐を対価に練り上げた技と、鍛え上げた肉体。

 今までと違って、簡単に鬼を殺せるようになってから、その身に着けた力に自惚れるよりも。

 強く、より強く。鬼への怒りは強くなる。

 

 あの日。

 母を殺め、擦り切れた色の世を、夜を藻掻き回る日々。

 

 あの時に出会ったものより、より醜悪なそれを前にして、怒りはより深い憎しみを孕む。

 嫌悪し、憎悪し。

 人間は鬼と違って、手軽に強くなれたりはしない。

 遅く、鈍間に亀のような一歩を進み続けて、ようやく前より強くなれる。

 

 だから、自分に甘えはいらない。

 

 かつての母を、母だった鬼を殺めたその瞬間から、自分の人生は変わったのだ。

 自分に『楽しむ人生』を選ぶ資格なんて、あの日からないと断言しよう。

 一日。

 たった一日の間に、一体どれだけの人が鬼の犠牲になる?

 その時間を使って強くなれば、一体どれだけの人を助けられる?

 

 ――せめて。

 何よりせめて、たった一人生き残った弟の幸福を守れるのなら。

 

 たとえこの身体が首だけになろうとも。

 その首で、鬼の身体に食らいついてやる。

 ――だと言うのに。

 

「今度、久しぶりに食事処に行かないか?」

 

 そう、自分に『育手』を紹介した男は言う。

 その笑みがうざったく思い、語気を荒げて。

 

「行かねェ」

「まぁいいだろ?強い身体を作るのは良質な食事から、だ」

「……」

 

 ずっと前からこうだった。

 こんな生業で、何を甘い事をと思う。

 何より、こんな男でも立派な鬼殺隊の剣士である事。

 経歴だけなら、自分より優れた『兄弟子』である事も、全てが納得いかない。

 

「話しかけるんじゃねェよ」

 

 そういうのは、同じく浮ついた者同士でやればいい。

 強さの象徴、憧れであると時偶に話す『柱』なるものも、心底どうでもいい。

 一体でも多く、醜い鬼を殲滅する。

 それ以外の生き方は、自分以外がやればいい。

 そう、不死川実弥は強く思う。

 

「……そうか」

 

 だが、その言葉とは裏腹に。

 男は無理やりこちらの肩を組んできて、したり顔で言った。

 

「よし、今から食いに行こう」

「……はァ?」

「ささ、こっち来い」

 

 そう言って無理やり、身体を引き摺って外に出ようとした。

 当然、こちらも抵抗して足腰に力を入れるが、僅かに向こうの力が、こちらの力を上回る。

 

 ふざけた野郎だ。

 

 こんなのが兄弟子である事も。

 何よりこの男のおかげで、自分は鬼殺隊の存在を知れた事も。

 時折こうして、顔を合わせた途端にいらない世話を焼いてくる男の全てが癪に障る。

 粂野(くめの)匡近(まさちか)

 彼はこちらがどれだけ拒否しようとも、決してブレない男だった。

 

「おいィ!手ぇ離せ!」

「いやだね、いい機会だから兄弟子に付き合えよっ、な?」

「だからァ、お断りだっつゥの……!」

「いいから……来いよっ」

 

 そんなこんなで。

 ズルズルと引っ張られ続け、抵抗してを繰り返し。

 結局は根負けして、実弥は彼と一緒に食事をしに行く事になった。

 

 ――なったのだが。

 

 匡近によると、その時の自分の顔は、道行く人が後退りする程のしかめっ面だったらしい。

 その事を告げる彼の顔は、それはもう見事な笑顔だった。

 それを見て、実弥は思わず殴りそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修練用に借り上げた道場の、いつもの光景。

 それは無駄に暑苦しい、男たちの汗と叫びで満ちたものだったと、そう不死川実弥は記憶していた。

 当然の話ではあるが、鬼殺隊には男が多い。

 正確には剣士が多いのだが、それの理由は単純明快、性別による筋力量の差だ。

 

 男と女。

 そこには、努力では決して超えられない壁がある。

 

 その為、鬼への憎しみを胸に抱きつつも。

 実際は呼吸や剣士としての才能に恵まれなかった者、もしくは途中で折れてしまった者に混じり、『隠』のような事務処理班の所属を希望する女性はそれなりにいる。

 ……で、だ。

 

「無駄に静かだなァ……」

 

 話題は冒頭に戻る。

 実弥が妙に感じたのは、目の前の建物から感じる気配とも言うべきそれ。

 当然の話だが、例え大きい建物の中だろうと、そこに何人も人間がいて、それぞれが『修練』をしているのなら、それなりに大きな気配を感じて然るべきなのだ。

 何より『最終選別』に参加するより前から、実弥は鬼との戦いを繰り返し続けてきた経験がある。

 視界がろくに作用しない夜の闇で。

 いつ、どこから鬼が来るのかを警戒し続けたあの時の経験が、実弥に同期の剣士を凌駕する気配感知の力を与えた。

 その上で、もう一度。

 実弥は目前の道場から感じる気配に、一層強く全身の感覚を向けた。

 

「……――」

 

 聴覚が告げる、中を動き回る誰かの足音を。

 触覚が告げる、中にいるおおよその人間の数を。

 道場の中には約二〇程の人間がいる。

 というのに、その中で『修練』をしているであろう人間、それを証明する動きの音は二人分。

 

「……サボりでもしてんのかァ?」

 

 だとすれば、今回の合同修練は立派な『外れ』だ。

 期待値の下がった道場を前に、せめてその『外れ』の予感こそ外れて欲しいと願いながら、実弥は道場の扉を開ける。

 同時に、吹きこんで来た旋風。

 道場の真ん中で、二人の男女が戦っていた。

 

「……アァ?」

 

 その大気を裂くような呼吸音と、対峙する者の放つ呼吸音には聞き覚えがあった。

 前者は、自分と同じ風の呼吸。

 そして後者は、共同任務でよく耳にする音。

 鬼殺隊において、最も使用者の多い呼吸である、水の呼吸だった。

 

 戦っている二人の内、片方の男は実弥も知っている男だった。

 風の呼吸を使用し、木刀を振るうのは粂野匡近。

 

 実弥と同じ『育手』を師範に持つ、無駄に世話を焼いてくる兄弟子。

 だが、それの相手は実弥も知らない、小柄な体躯の少女だった。

 こちらも匡近と同じく木刀を持ち、水の呼吸を使用して道場内を駆け回っている。

 

「すげぇよなぁ……」

「あぁ、本当に凄いわ」

 

 ふと、周囲から聞こえる男たちの声。

 そこに視線を向ければ、匡近以外の隊士たちが座っているのが見える。

 彼らは匡近の戦いを、瞳から零す事なく観察し、賞賛の声を洩らしていた。

 

「すっげぇ力強い技だ……俺と同じ風の呼吸とは思えねぇ」

「だよなぁ、あれ確か参ノ型だろ?すっげぇよなぁ」

「あぁ、すっげ~」

 

 語彙力の溶けた有り様であるが、それを聞いても悪くは思わない。

 むしろ実弥からすれば、こっちは勝手に『修練をサボっていたのではないか?』と疑いを抱いていたのに対し、彼らは真面目に『見る』稽古に徹していたのだから。

 実弥が僅かな罪悪感を自覚すると同時。

 

「でも、あの子もすげぇ」

「あぁ、すげぇなぁ」

「…………」

 

 名も知らない男のその言葉に、実弥は静かに腕を組んで同意した。

 実際、目の前で繰り広げられる修練の練度は見事なものだ。

 普段の癪に障る言葉や絡みによる苦手意識を差し引いても、やはり目の前の戦いは、見ているだけでもためになる。

 

「水の呼吸」

「風の呼吸」

 

 周りの賞賛。そして実弥の視線の先では。

 匡近と対峙する少女が、丁度その時、再び動きを変えた所だった。

 

「――参ノ型 流流(りゅうりゅう)()い」

「――捌ノ型 初烈風斬(しょれつかざき)り」

 

 少女がまるで、舞を踊るかのように軽やかな動きを見せる。

 それを追い、匡近は渦のような斬撃を放ちながら素早く動く。

 まるで流れる水の如く、少女の動きには規則性がなく。

 それを追う匡近の動きもまた、吹き荒れる嵐の如くだった。

 

 その動きの速度を見て、匡近は少なくとも全力に近い動きを出しているのだと分かる。

 

 ある程度余力を残した状態。そして当然だが、手を抜いている訳でもない。

 限りなく実戦に近い力を、そして気迫を纏いながら、木刀を手に風を纏って駆け回る。

 実弥はまだ目で追えるが、他の隊士はそうはいかないらしい。

 暫くすると、周りから再び声が聞こえてくる。

 

「やっぱ凄いよなぁ、粂野先輩」

「てか、それに追いつけてるあの子もやっぱ凄いって。俺の方が先輩なのに……」

「でもすげぇよなぁ」

「あぁ、本当に凄い」

 

 名も知らぬ男たちが、手をわきわきとさせる。

 

「めっちゃ可愛いよな」

「あぁ可愛い」

「すっげぇ可愛いよな」

「あぁ!凄く可愛い」

「凄く結婚したい」

 

 実弥の視線が絶対零度に変化した。

 

「…………」

 

 先ほどまでの、僅かな罪悪感は見事に消え失せ、代わりに生ごみを見るそれへと進化する。

 真面目に戦いを観察していたんだなと、少しでも感心してしまった過去の自分をなかった事にしたい。

 が、それはさておき。

 

「おい粂野ォ」

 

 非常に癪だが、匡近の実力は間違いなく本物だ。

 それに追いつくどころか、ここまで互角の動きができる者など、然う然う出会えるものではない。

 周りに散らかる生ごみ(男たち)の言い分からして、相手が少女である事は確定。

 女だろうが子供だろうが、鬼殺隊に身を置き、刀を握る以上実弥は特別扱いしない。

 

 強くなる。

 その為なら、何にだって食らいつく。

 

 そうして声をかけた先。

 匡近の背中に隠れる位置にいた件の少女が、匡近より先に反応する。

 

「もしかして、君が実弥くん?」

「――――」

 

 ()()()()()

 それ以外の既視感はない。

 たった一つだけ、()()()()()()()少女の姿を見て、一瞬。

 脳裏に、かつての日常が甦った――。

 

「……アァ、そうだァ」

 

 だが、それだけだ。

 髪型も、声も、目の色も全て違う。

 何よりあの、溢れるような慈しみとは違う、強く固まった決意の瞳。

 

 ――それを別の誰かに見立てるのは。

 ――他ならぬ、この少女に対する冒涜だ。

 

 実弥は一瞬で内心を切り替え、答えた。

 思い出の中で生きる母を、再び心の最奥に押し込めて。

 

「匡近くんから聞いてるよ、手のかかる弟弟子だって」

「……おい粂野ォ」

「ハハハ、ならもっと可愛げを増やすんだな」

「……チッ」

 

 やはり、こいつにはこれ以上言っても無駄だ。

 数え切れない程、この馬鹿な兄弟子と会話をしてきたが、この扱いだけはどうしたものかと思う。

 そのせいで、共同任務先で必要以上に他隊士から距離を詰められる事もあった。

 そんな実弥の内心も知らず、匡近はいつものような笑顔で。

 

「いやぁ、こんなに修練で全力を出したのは久しぶりだった。前に実弥とやり合ったのは二ヶ月以上前だったろ?」

「……そりゃあ、なァ」

 

 階級が上がれば、それ相応に広くなった範囲の警備も含め、後輩の世話とやらにも本格的に関わる。

 鬼殺隊はいつだって命がけだ。生半可な実力を持った剣士は鬼に喰われ、鬼を無駄に強くする無駄駒でしかなく、それによってより多くの人間が犠牲となる。

 許されるのはただ一つ、鬼を倒す、殺す。

 悪鬼滅殺の下、一体でも多くの鬼を屠り続ける事こそが、鬼殺隊に求められる要素なのだから。

 即ち、それ相応に長く生きた者、実績を多く積み重ねた者の教え。

 それはすぐに傷を治せない、失った手足は戻らない、亀の歩みに他ならぬ人間にとって、とても重要な存在なのだ。

 

「俺も最近、本格的に若手の教育?ってやつを経験したしな。まぁ『(みずのと)』のだけど」

「……そうかよ」

「実弥はどうなんだ?気になる若手とかいないか?」

「知らねぇよォ」

 

 心底どうでもよかった。

 自分より弱い人間を世話するくらいなら、その分自分を強くした方がいいに決まってるだろうに。

 匡近はにこりと、やはりいつもと同じ笑顔のまま。

 

「折角なら、実弥もこの子と戦ってみたらどうだ?」

「アァ?」

「流石にさっき俺との試合が終わったばかりだから、少し休憩を挟んでからだけど」

「……ちげぇよ、むしろ都合がいい」

 

 一瞬見ただけで分かる。

 自分より遥かに小さいこの女は、その分重ねた『蓄』がある。

 性別、体躯、数ある不利を跳ね除ける程の技術を持ったそれは、まさに対戦相手として不足はない。

 

「お前ぇ名前は?」

「真菰だよ、よろしく」

 

 そう言って、手を差し伸べられた真菰の手を、実弥は握らなかった。

 背を向けると、背後から『うちの実弥が悪いな』という、また兄弟子面をしている匡近の声が聞こえて、実弥はイライラした。

 

「……――」

 

 一瞬、目に映った手。

 真菰が差し出した小さな手。

 

「……フン」

 

 その手を握るには、自分よりよっぽど相応しい人間がいるだろうと思う。

 ()()()()()は、お前たちでやればいい。

 それは、まだ自分の『人生』を見つける事ができていない、悲しい男の選択。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が、その手をようやく握れるようになったのは。

 ――十二鬼月、下弦の壱を()()()討伐した時だった。




 昨日までの話があまりにも読者の反応が良かったので、実は昨晩の内にVS兄上のプロットを爆速で組み終わってしまいました。

主人公の将来的な身長はどれがいいか

  • 166cm
  • 172cm
  • 184cm
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