【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート   作:バブ辻オギャン

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 夢の中でもレックスウィリーに轢殺された、訴訟。


22.VS姑獲鳥・後編

 二人消えた。

 隣を歩いていた実弥と真菰はまるで、煙のように消えていた。

 

「…………」

 

 人のいない屋敷の中には、依然として甘ったるい匂いが充満している。

 調度品の類は置き忘れたかのように点在していて、それらは余計、匡近に屋敷の寒々しさを突き付けてくる。

 

 『誰もいなかった』。

 

 屋敷の中には、消えた子供と隊士が誰一人いなかった。

 図らずとも、任務前に聞いたその話が、こうして現実になった。

 その時点でもう、()()()()()()()()()()のだと否が応でも理解できる。

 

 消えた。

 実弥と真菰、両者には()()()()()()()()()()、行方不明者と同じように、彼らも()()()()()()()()

 

 つまり、もう戦いは始まっている。

 こうしてる間にも、きっと――。

 

「ッ、落ち着け!しっかりしろ匡近……!」

 

 自分で自分の頬を叩き、匡近は屋敷の捜索を開始する。

 部屋の鑑台、空っぽの紫檀の飾り棚。

 台所や納戸、厠に風呂場と、匡近は考えつく範囲全てを捜索した。

 それでも、実弥たちは見つからない。

 何より、この頭痛がする程に甘い匂いの中では頭も回らない。

 一度冷静になるべきだと、匡近は屋敷の外に出て、新鮮な無味無臭の空気を肺に吸い込んだ。

 

(こういう時こそ冷静に……基本中の基本だ。昔の俺ならまだしも、今の俺が焦ってどうする!)

 

 と、その時。

 

「これ、小僧」

「――!」

 

 背後から声をかけられ、匡近は慌てて振り返る。

 門の外に立っていた声の主は、雪のように真っ白な頭髪の男だった。

 当然だが、その目にはこちらに向けて不審の感情が宿っている。

 どう誤魔化そうか、と考える匡近にとって幸運だったのは、鬼殺隊の隊服が一般に流通しているそれとは違う、特殊な見た目と素材でできている所だった。

 老人は最初こそ、匡近を不審者なのではと疑う視線を隠していなかったが、隊服を一目見て、『警官か、それにしては若いな』と勝手に勘違いをしてくれた。

 匡近はそれに話を合わせ、情報収集を開始する。

 

 結果、分かったのは。

 やはりこの家は現在、空き家である事。

 昔は『弥栄(やえ)』という名の女性が、数名の使用人と一緒に過ごしていた事。

 

 寂しさからか、若いうちに結婚し、一人娘が誕生したはいいものの。

 その瞬間から、夫が本性を表した事も。

 

 役者のような容姿の夫は、常に母子に暴行を振い、母子はいつも傷だらけになっていた事。

 更には、弥栄が屋敷と共に両親から譲り受けた掛け軸や骨董品を売り払っては、賭け事や酒に湯水の如くその金を使った事。

 しばらく経って、ある大雨の日に川で溺死している所が見つかった事と。

 当然、村の誰もが彼の死を悲しまなかった事を、匡近は老人から聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だがそれは。

 

「なん、だ……?」

 

 鏡台の引き出しの奥、そこに隠されたざら紙。

 そこに記されていたのは、どす黒く変色した血文字。

 

 ――たすけて。

 ――()()()()()()()()()()()()()

 

 今まで信じていたものが瓦解する感覚。

 真実だと思い込んだ話が、全て虚像であったと突き付けられる様。

 

 確かに、この屋敷には鬼がいる。

 

 だがそれはもっと、もっと昔からの――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異様。

 それ以外に何も言い表せない光景を前に、実弥と真菰は眉をひそめた。

 真っ白な寝具の上には、それぞれ四人の子供と二人の隊士が寝かされていた。

 

 ()()()()()

 

 合わせて六人。――間違いない、行方不明になっていた子供と隊士は、()()だ。

 しかし、そのうち子供二人と隊士一人は、息が既にない。

 眼球に蠅が止まり、腐る肉体には蛆が湧いている。

 まだ、何とか生きている子供と隊士を、一人の女が世話をしていた。

 長い黒髪を、玉結びにした小柄な女だ。

 

 ――だが、女は人ではなかった。

 

 その両目は血のように赤く。

 聞くだけで、嫌悪で鳥肌の立つ甘言を垂れ流す口の中には、人外の者である証明、鋭い牙があり。

 何気なく髪をかき上げる仕草と共に、露わになった左目には。

 

「そうだわ。今日は新しい子が来たの」

 

 ――『下壱』と刻まれていた。

 

「十二、鬼月……」

「…………」

 

 鬼舞辻無惨直属の配下である証明。

 それを見て、真菰は緊張でごくりと唾を飲み込み、実弥は燃え上がる憎悪で目を剥いた。

 憎悪と興奮で、今にも実弥は畳を蹴り、この醜い鬼を殺そうと動き出――。

 

「テメェ、匡近はどこにやったァ?」

 

 ――()()()()()()()

 代わりに、言った自分に自分で驚く程、震えのない声色での問い。

 肌が粟立つ程の怒りを自覚しながら、実弥は冷静さを失わない。

 自分一人だけならまだしも、今は真菰という仲間がいる事が、彼の突発的な行動を抑制していた。

 鬼は笑顔で返した。

 

「あぁ、あの子はいらないの。どうせ、そのうち諦めて帰るんじゃないかしら?私が欲しいのはあなた達だけなの」

「……アァ?」

 

 ――可愛そうに。

 その一言と共に、鬼は細く長い指を、いつの間にか実弥の頬にすっと伸ばし。

 

「親に虐げられたのでしょう?分かるわ、あなたはそういう目をしてる。……父親から?それとも母親?あるいは両方かしら?」

「テメェ……!」

 

 母を侮辱された怒りから、実弥は言葉より先に刃を振るう。

 

「死にやがれェ!」

「あらあら」

 

 鬼は危な気なく回避し、次の標的を真菰に定める。

 

「あなたは寂しいのね。捨てられた子の目だわ、家族からいらないものとして扱われた、そんな過去……」

「…………」

「大丈夫よ、私はあなたを見捨てない。これからはずっと幸せに――」

 

 ヒュンッ、と空気が裂かれる音。

 再び、軽やかに跳躍した鬼は、真菰の振るった刃を避けて笑う。

 

「駄目じゃない、子供が親に刀を向けちゃ」

「生憎だけど」

 

 艶然と笑う鬼の笑みとは違う。

 固く、強い意志を感じる、勇敢な笑みを浮かべたまま。

 

「私、もうとっくに幸せになれてるから」

「――風の呼吸」

 

 そう告げる真菰に続き、実弥は鬼の頸を穿ち、抉り切る突進技を放つ。

 螺旋状に、竜巻の如く日輪の刃を振るう。

 その隙に、真菰はまだ何とか息のある隊士の下に向かい、目を見る。

 

「大丈夫?」

「あ、ぁ……」

 

 枝のように細くなってしまった腕。

 背の高さを見るに、元は幹のように太かったであろう腕。

 小柄な体躯である真菰の腕より、一回り小さいそれは、彼の命の灯が限界に近い事の証明でもあった。

 

「恋人が、待ってるんだ……」

「……っ」

「頼む、頼……む。恥を承知で、俺は……まだ……!」

「大丈夫、大丈夫だよ」

 

 この状態では、助かるかは五分五分といった所だ。

 仮に命は助かったとしても、ここから後遺症なしに復帰できる確率は、もっと低い。

 大の男とは思えない程、男の身体は軽かった。

 だが、そこに乗せられた命の重さは、自分より重い。

 彼は絶対に、ここから助け出さないといけない。

 

「大丈夫、――ゆっくり息を吸って、()()を見て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 手ごたえがない。

 何度、何度刀を振っても、こちらの攻撃は軽くあしらわれる。

 獲った。そう確信して技を放っても、いつの間にかあの鬼は実弥の背後にいる。

 自分がまだ生きているのは、ひとえにあの鬼が、今も尚自分の事を『可愛がろう』と考えているから。

 

(畜生がァ……完全に遊んでやがる)

 

 気色の悪さと自分への不甲斐なさで、頭がどうにかなりそうだった。

 壱ノ型による突進、捌ノ型による奇襲。

 どれもが掠りもせず、一向に効果がない。

 しかし、実弥が例え徒労にしかならずとも、攻撃を連続してやめない理由は一つ。

 生き残った子供と隊士、その存在だった。

 

(せめてガキと()()だけでも外へ……だが)

 

 ――だが、どうやって?

 いつの間にか、目が痛い程に真っ白な寝具は全て、ぶよぶよの醜い肉塊に変化しており、出口は依然として、どこにも見当たらない。

 特に二人の子供のうち、片方の少年は先ほどから様子がおかしい。

 熱が高いのか、しきりに身体を震わせていて、医学に乏しい実弥であっても、それが異常である事は理解できる。

 少女の方は、今はまだ大丈夫そうだが、それでも時は一刻を争うだろう。

 と、その時。

 

「どうして死なないの?」

 

 鬼の口元から、薄っすらとした作り物の笑みが消える。

 

「母さんを捨てた癖に、裏切った癖に。どうして今も生きてるの?――ねぇ、要らないんだから。さっさと死んでよ、ねぇ?死んで」

「ッ――が。ぁ……あっ、――ッ」

「ねぇ、死んで」

 

 死ねと、鬼が視線を向けて『命令』するのは、行方不明になった隊士。

 真菰と違い、実弥はその男の事を知っていた。

 浦賀。かつて『最終選別』を共に突破した、いわば同期の存在。

 彼の身体が、鬼の呪いの言葉が紡がれる度に、強く震える。

 

「ご、ごめんな――」

「ねぇ、死んでよ。裏切るくらいなら、今、ここで死んで。ねぇ」

「ぁぁぁぁ――!お。おぉ……か、さ――」

()()()()?」

 

 浦賀の身体は強く震える。

 まるで、親に叱られる子供のように、ぶるぶると身体を震わせて、両手で頭を抱え。

 そのまま、涙を流しながら。

 ――身体を震わせ続けた。

 

()()()()()()()()()?」

「…………」

()()()()()()()()()()()?」

 

 そこで、ようやく鬼の視線が浦賀から――彼の身体を支えている真菰に移る。

 

「その子はね、私を悪者に仕立て上げようとしたのよ?」

「……」

「さっきからお願いしてるのに、言ってるのに。死んで当然なのに、なのに――どうして?どうして死なないのよ」

「……さぁ、ね」

 

 真菰は氷のように冷たい目で、鬼の咎める視線と向き合った。

 浦賀の隊服、その懐にあった万が一の懸念である短刀を抜き取りながら。

 

「少なくとも、()()()()()()()()()な事なのは確か」

「……そう、あなたも私を裏切るのね。二人揃ってどうしようもない子」

「生憎だけど、この世の中で私が父親と呼べるのは、たった一人だけだよ」

「…………」

 

 何もかも、上手くいかない。

 鬼が――十二鬼月・下弦の壱『姑獲鳥(うぶめ)』が苛立ちを加速させる要因は、それだけではなかった。

 

「――どうして」

 

 その言葉は、真菰に対してでも、ましてや実弥に向けてのものではない。

 姑獲鳥の両目は、ここではない別の所に向けられていた。

 

「あの子――見えていない筈なのに」

 

 その直後、屋敷のどこかで、陶器が割れるような音が響く。

 何の音だと、実弥が眉をひそめると同時に、辺りの景色ががらりと変わった。

 

 赤黒い、ぶよぶよとした醜い肉の塊はさっぱり消えて。

 今、実弥の目の前にいた筈の鬼は、実弥にとっては斜め後ろ。

 真菰にとっては、前方からすぐ左隣の位置にいた。

 

 すぐさま、真菰は浦賀の身体を抱え跳躍。

 実弥も振り向きざまに飛びすさり、距離をとる。

 

「んだァ、これは……」

「幻覚、って感じかな?それが解けたのなら、それは……」

 

 その答えは、一つだけ。

 

「実弥――っ!!」

 

 慌ただしく廊下を駆ける音。

 次に、開け放たれた襖から匡近が飛び込み、安堵の笑みを浮かべるまでの時間は、正に一瞬だった。

 実弥の中から焦り、怒りが急速に消えていく。

 互いの姿が見えなくとも、自分の知らない場所で、見えない世界で、彼は共に戦ってくれた。

 自然と、口元に笑みが浮かぶ。

 

「匡近ァ!」

「――あぁ……!分かってる」

 

 三対一。

 

「真菰ォ!」

「大丈夫!」

 

 子供二人を抱え、浦賀を背負った真菰は、実弥の背後に避難しながら、強い言葉を返す。

 人質、こちらの攻撃による()()()()()()()()()()()()()()のなら。

 後はより、勝率を高める為に――。

 

「おい、馬鹿兄弟子よォ」

「……なんだ?」

「説教は後でやれェ」

 

 ――ザシュッ!と、実弥は日輪刀で自身の腕を斬りつけた。

 決して浅くはない傷を負い、それなりの量の鮮血が飛び散り、部屋に充満していた血の匂いが、実弥の血の匂いに上書きされた。

 

 ――ドクンッ。

 

 変化は、一瞬だった。

 

「稀、血……?でも、これは……!」

 

 本来は歓喜するべき筈のそれに、姑獲鳥は両目を見開いて驚愕した。

 鬼にとって、数十人分の栄養に匹敵するご馳走、それが稀血。

 しかもこの香り。姑獲鳥は実弥の血が、稀血の中でも更に希少な、それこそ百人分の栄養に匹敵する濃厚なものだと確信した。

 

「あ、が……っ」

 

 ――が、しかし。

 

「な、にこ……れ……?」

 

 姑獲鳥は膝から崩れ、息を荒くして地面に手をついた。

 

 ――視界が歪む、意識が朦朧とする。

 下弦の頂点に立つ鬼でさえ、まともに動けない程の誘惑。

 

 本来、鬼に対し得しか与えない筈の稀血。

 血の一滴でも、鬼にとっては何人分もの栄養になる稀血は、鬼狩りを続けるにあたって致命的な筈。

 しかし、実弥の稀血は、そんな鬼狩りとしての弱点を無視できる程の、強い酩酊を与える代物。

 戦場における、あまりにも大きすぎる隙。その代価は直ぐに支払われる事となる。

 

『風の呼吸』

 

 実弥が、匡近が。

 互いに今、最も大きい力を与えられる技。

 最高練度の型を構え、同時に動く。

 

「壱ノ型 塵旋風(じんせんぷう)()ぎ」

「参ノ型 晴嵐風樹(せいらんふうじゅ)

 

 ――死。

 長く、本当に永く感じなかったそれを前に。

 姑獲鳥が選んだ行動は、逃げるでも、ましてや迎え撃つ事ではなく。

 真菰が守る衰弱した子供たち、それに縋るような目を向け。

 

「――たす」

 

 その言葉が紡がれるよりも疾走(はや)く。

 姑獲鳥の頸は、二つの風により断絶された。 




鱗滝「暗示の術は儂が作った それに合った用途もな… 弟子に教えるのは初めてだが」
真菰「出るか…!鱗滝さん考案の…!!」

主人公の将来的な身長はどれがいいか

  • 166cm
  • 172cm
  • 184cm
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