【RTA】鬼滅の刃RPG『長い長い人の歴史のほんの一欠片』獲得チャート   作:バブ辻オギャン

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 近い内に主人公のイラスト依頼も考えようかな。


23.「それはださい」

 下弦の壱・姑獲鳥の血鬼術。

 それの正体はやはり、実弥が屋敷に入ってすぐに嗅いだ、あの甘ったるい匂いだった。

 もしも、あと少しでも匡近が姑獲鳥の血鬼術を破るのが遅れていれば、実弥も真菰も『遊び』をやめた姑獲鳥によって、為す術なくやられていただろう。

 幻惑、思考の強制。

 それは単純だからこそ恐ろしく、そして厄介な力だ。

 だからこそ、術を破ってすぐに『稀血』に頼ったのは、間違いではないと思う。

 ――思うのだが。

 

「また、自分で自分の身体を傷つけたのね」

「…………」

 

 こうして向かい合うのは、一体何ヶ月ぶりだろうか。

 蝶屋敷の診療室にて、消毒液を手にした彼女を見やり。

 

「……うるせェ」

「もう……」

 

 言いたい事は分かる。

 動いて蓄積される肉体の疲労とは違って、血液は一度出血して失われれば、それの補充は一昼夜では利かない。

 特に実弥の『稀血』は、ただでさえ稀少な存在の中で更に希少な代物でもあるのだから、他に替えは存在しない。

 鬼殺隊に入る前はともかく、今の実弥の階級は『(きのえ)』だ。

 下手に倒れて動けなくなれば、鬼殺隊という組織の視点からしても、決して少なくはない影響がある。

 ただでさえ、日々脅威を増す鬼の対処が間に合わず、『柱』が何とか鬼殺隊を支えている現状。

 『柱』より下の隊士であろうと、無理をしないで欲しい。

 それは、『柱』としての冷静な視点と、何より本人の善性からの本音なのだろう。

 

「ケッ……今回ぐらいは大目に見てくれてもいいだろォが」

 

 いつもなら、適当に話を終わらせようとしただろう。

 だが、実弥は今回だけは、少しだけ苛立ちを込めた声で。

 目の前の、花柱・胡蝶カナエの言葉に反論した。

 

「十二鬼月だぜ?それも下弦の壱だァ、むしろ()()()()()()()()のが奇跡だろうが」

 

 自分を傷つけるな、身体を大切に。

 時折、嘔吐きそうになる程に優しすぎる言葉は、彼女の容姿に釣り合った、美しい心根そのものなのだろう。

 尊いものなのだろう、多くの隊士たちが、彼女たち姉妹を心の拠り所にするのも理解できる。

 だからこそだろう、頭では分かっていても、実弥は稀にどうしようもなく、彼女の言葉に強い苛立ちを覚える時がある。

 

 その辺に湧く、有象無象の鬼とは違う。

 実弥が三人で屠ったのは、あの下弦の壱なのだ。

 

 あの、吐き気を覚える醜悪な性格。

 後に合流した匡近からの話で、あの姑獲鳥なる鬼は、生前からどうしようもないクズだった事が判明した。

 人間の頃から、自分の娘すらも手にかけ、鬼に堕ちてからは、亡き娘の死骸を貪る。

 鬼は基本、人間だった頃の自我や記憶が薄くなるか、もしくは完全に消失する傾向があるが、あの鬼は楽しそうに人間時代の過去を語っていた。

 その事から、やはりあれは人間の頃から()()だったのだろう。

 

 殺せて良かった。

 

 それどころか、行方不明になっていた隊士の浦賀も、何とか一命を取り留めたのだ。

 極度の栄養失調により、復帰には相応の時間が必要だろうが、そんな事はどうでもいい。

 

 恋人が生きて帰って来た。その報告を聞き、彼女は全力で駆け出したのだろう。

 蝶屋敷の寝台にて、痩せこけた姿の浦賀は、蝶屋敷にやって来た恋人と抱き合い、嬉しそうに泣いていた。

 ――それを見た時、実弥は心の中に、今まで感じた事のない感情を自覚したのだ。

 

 今までも、実弥は数え切れない数の、鬼に襲われる人を助け、そして醜い鬼を殺してきた。

 しかしその度に、傷だらけの自分の風貌によって、助けられた人たちに怯えられた。

 純粋な感謝を向けられた数は、一体何回あるだろう。

 

 ――と、こんな事すら、昔の自分なら考えられなかった。

 

 これも全て、あの馬鹿な兄弟子の存在のせいだろう。

 あの男が、しつこく何度も、何度も自分と向き合おうとして、屈託のない笑顔を向けるから。

 彼がいたから、自分は血に濡れた人生の中で、一つの安寧を見つけられた。

 何より、彼がいたからこそ、実弥は躊躇する事なく自傷し、稀血の効果をぶつける事ができたのだ。

 だから――。

 

()()がいなけりゃ、してねぇよ」

「…………」

 

 カナエは何も言わなかった。

 ただ、少しだけ、実弥の何かが意外だったのか、僅かに両目を見開き。

 

「……そっか」

 

 実弥の手を両手で包み、カナエは笑った。

 

「不死川くん、粂野くんと仲良くなれたのね」

「……ハァ、何を……」

「だって、今『粂野』じゃなくて、『匡近』って呼んでたでしょう?前は上の名前で呼んでたのに」

「…………」

 

 そういえば、最後に会った時はまだ……

 そこまで考えると、カナエは微笑ましいものを見るような顔で。

 

「傷の処置はすぐに終わるから、あと気を付ける事は……そうね、これ以上傷を作らない事かしら?」

「……文句は言わねェのかよ、さっきの続きはいいのかァ?」

「いいわ。だって、あなたを悲しませたくないもの」

「ハァ?」

 

 困惑のままに、実弥は思わず大きな声を出した。

 

「あなたの身体は心配だし、本当なら自傷なんて肯定したくないわ。でも、あなたが『粂野くんの為にやった』事実を誇らしく思うのなら、私は我慢する」

「何言ってんだァ?」

「だって、さっき少しだけ怒ってたでしょう?それって、粂野くんがいたからこそできた自分の行動を、否定されたみたいで嫌だったから……じゃない?」

「……――」

 

 そう、なのだろうか。

 あの時、カナエの言葉に苛立ちを覚えたのは、自分とは違う、鬼すら憐れむこの女に対する忌避に近い感情。

 もしくは、いつものように向けられる心配の感情に、純粋にしつこいと、鬱陶しいと感じたからではなかったのか。

 だが、仮にそうだとしても、何だというのだ?

 実弥は自分の事である筈なのに、自分が余計に分からなくなってきた。

 

「……知らねェよ」

 

 そっけなくそう返すも、カナエは相変わらず笑みを浮かべたまま。

 それどころか、一層強い力で、彼女は両手を包んでくる。

 その、男とは違う手の柔らかさ。

 消毒液の香りに混じった、藤の花の香りがする――。

 

「やっぱり、あなたは優しい人よ」

「…………」

 

 前にも、こんな事を言われたような気がする。

 もっと前、そうだ。まだ実弥が匡近の事を『粂野』と呼び捨てにしていた、とにかく生きる事だけに必死だった頃。

 あの時もこうして、カナエは自分を優しいと――。

 

「――――ハッ」

 

 あの時は。

 自分を『優しい』、なんて評するカナエの事も、しつこく纏わりつく匡近の事も、本気で鬱陶しいと思っていたのに。

 

「馬ァ鹿」

 

 実弥はカナエの言葉を笑い飛ばす。

 だがそれは、以前の時とは違い、強く否定し、全てを拒否する姿勢故のものではない。

 まるで、仕方がないと言わんばかりの、()()()()()()()を見る目。

 

「俺は優しくなんかねェよ、それは匡近に言ってやれ」

「…………」

 

 カナエは肩をすくめて、また笑った。

 さっきからずっと笑っているのに、その笑顔に天井はなく、花が咲いたような笑顔に終わりはない。

 呼吸の使い手は時に、その呼吸由来の現象(エフェクト)が目に見える様になるとは聞くが、それはどうやら『花の呼吸』の使い手も例外ではないのだろうか?

 というより、いつまでカナエは自分の手を握ったままなのだろう。

 言った方がいいだろうか、それとも、それを機にまた新しい話が始まるのを防ぐ為にも、向こうの反応を待つ姿勢の方がいいだろうか。

 そんな事を考えているうちに。

 

「姉さーん?」

 

 ドッキーン!

 言葉にして表すと、その時のカナエの動揺っぷりはそんな風だった。

 扉の向こうから聞こえる、妹の声に対しカナエは。

 

「な、何かしら?」

「いや、大分長いなって思って。……もしかして、結構傷が深いの?手伝おうか?」

「だ、だだ大丈夫よ?うん、全然深くないわ!私すっごく大丈夫!」

「……(大丈夫なのは俺だろォが)」

 

 一体何を見せられているのか。

 何より、こうしている間もずっと、カナエは実弥の手を包むように握ったままであった。

 

(ハァ……)

 

 今までとは別の意味で、実弥は自分が分からなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女の鬼狩りは隊内でも珍しく、自然と皆の視線が集中する。

 この『蝶屋敷』の主であり花柱・胡蝶カナエとその妹、しのぶはそんな女隊士の括りでも更に希少な、姉妹での鬼狩りだ。

 最初こそ、彼女たちに注がれる視線はかなりのものであったが、後にカナエは凄まじい勢いで出世し、若くして『柱』に上り詰めた。

 それに付け加え、妹も恵まれない体躯の恩恵とも言えばいいのか、医学薬学の分野で姉以上の力を身につけていた。

 

 自分たちとは違う、正に別格の象徴である『柱』である事。

 怪我の治療という、鬼殺隊にとっては高頻度で起こるそれを、蝶屋敷でしてもらう事による、顔を合わせる機会の増加。

 

 かつては、偶像崇拝に近い邪な感情が多く向けられる事が多かった胡蝶姉妹が、今では純粋な尊敬と敬愛の割合が多くなったのは、これらの要因が大きい。

 が、その上で一つの疑問。

 前述した二つの理由、それが存在しない他女隊士の場合、果たしてどうなるか?

 

「見られてるねぇ」

「見られてるなあ」

 

 その答えが今の状態。

 寝たきりの浦賀を心配し、病室に寄った匡近が見たのは、ある意味で予想出来た光景。

 他の患者たちが皆、浦賀の傍にいる真菰の姿をじーっと見ているのだ。

 頭に包帯を巻いた者、頭どころか全身を包帯でぐるぐる巻きにされた者。

 全員が等しく、真菰をじっと見つめていたのだ。

 正直気味が悪い。

 

「そういえば、真菰は大丈夫なのか?」

「うん、怪我一つないよ。一番の重傷はある意味、不死川くんじゃない?」

「だな」

 

 いつもなら無茶をするなと、そう強く言いたい所だ。

 しかし今回に限って、匡近は今までとは違って強く、実弥の事を責める事ができなかった。

 相手は下弦。しかもその頂点である壱で、あの場には合計で三人の人質がいた。

 

 もしも、真菰がいなければ。

 

 匡近はそれを考える。

 もしもあの時、真菰が浦賀と子供たちの保護に徹していなければどうなっていたか。

 

 頸を斬られる前、姑獲鳥が言おうとした言葉を思い出す。確かあの時、姑獲鳥は『たす――』と言いながら、子供たちの方を見ていた。

 ――()()()()()()をだ。

 

 真菰が抑えていなければ。

 それどころか、自分たちがもしもあの時、人質を気にしながら戦っていれば。

 その時は、きっと――。

 

「が、それとこれは別だ」

 

 だが、しかしだ。

 たとえ戦法としては正しく、速戦即決で被害者を増やす事なく、完璧に任務を終わらせられたとしても。

 可愛い弟弟子が自分の身体を大切にしない、それだけは許容できないのだ。

 馬鹿な兄弟子。なんて実弥には鬱陶しがられるだろうが、それでも。

 それで下弦を倒せたから良し。……で終わらせるつもりは、匡近にはない。

 

「そういえば、どうなるんだろうね」

「……?どうって?」

 

 真菰の言葉に、匡近が首をひねる。

 

「ほら、私たちって『(きのえ)』だし、三人がかりとはいえ、十二鬼月を倒したから」

「……!そっか、もう『柱』の条件は……いや、それだと真菰は……」

「私は除外かなぁ、だってもういるでしょ?『水柱』」

「……うーん」

 

 確かに、『資格』だけで見れば、真菰は充分『柱』に相応しいだろう。

 だが、問題は現在の水柱の実力の高さ。

 匡近はまだ見た事がないが、どうやら話によると、その『冨岡義勇』なる男は、ただでさえ十種類存在する水の呼吸に、新たに十一番目の型を作ったとも聞く。

 時代によっては、同じ呼吸の『柱』が複数いた……なんて事も、匡近は師範と慕う『育手』から聞いた。

 その話を踏まえて、真菰が『柱』になる可能性を改めて匡近は考える。

 だが残念ながら、知り合い故の色眼鏡を加味しても、真菰の今の実力では、今の『水柱』の双柱には成り得ないだろうと思う。

 それ程までに――冨岡義勇の実力を示す逸話の数々が凄まじいのだ。

 

 そうなると、論争は必然的に空席の呼吸――即ち『風柱』だ。

 真菰が言いたいのはそこで、仮にこの任務結果が『お館様』の耳に入り、認められたのなら。

 ――匡近と実弥、どちらが柱に選ばれるのか?

 

 実弥本人にはまだ言っていないが、匡近は仮に自分が『柱』として認められても、辞退するつもりだ。

 もう既に、実弥との実力差は離れすぎている。

 兄弟子として悔しく、寂しくもあるが。

 匡近はそれ以上に、誇らしくもあった。

 

「そういえば、十二鬼月で思い出したんだが……」

「うん?」

 

 匡近は疑問。

 

「あの姑獲鳥って鬼は、匂いで相手に幻覚を見せたり、思考を強制するものだっただろ?」

 

 あの、白濁した目をした子供たち。

 何より、それなりの腕を持った鬼狩りの浦賀ですら、あのように『されるがまま』な有り様だったのだから、その恐ろしさは言うまでもない。

 

「それに、あの鬼は何度も浦賀に死んでくれって『命令』してた。……浦賀の様子が一層おかしくなったのも、多分それだ」

「うん、それで合ってると思うな。多分私が暗示をかけなかったら、あのまま自殺してたかも……」

「……暗示?」

 

 思っていたのとは違う単語が出てきて、思わず匡近は固まった。

 真菰は少しだけ、得意げに。

 

「そう、暗示。……私の『育手』が教えてくれたの。ただ、暗示って言っても本当に軽い効果しか出ないよ?『()()()()()()()()()()()()()って感じ」

「……なるほどなぁ」

 

 ――『()()()()()()()()()な事』。

 あの時、真菰は姑獲鳥にそう言っていたが、匡近は今やっと、あの言葉に納得できた。

 要は、姑獲鳥は真の意味で負けたのだ。

 

 姑獲鳥が与えた、母親擬きの思考強制。

 ――それを、浦賀の『恋人に生きて再会したい』という、暗示で強化された思考によって上書きされた。

 

 愛が最強、とはよく言ったものだ。

 この事を考えても、やはり真菰の存在は、あの任務には欠かせないものだったのだろう。

 

「にしても凄いな、真菰の『育手』。鬼にも通用する暗示って……もしかして結構強い人なのか?」

「うん、鱗滝さんは元水柱だよ」

「……本当に強い人だ」

 

 自然と笑みが零れる。

 

「それのおかげで浦賀も助かったんだし、()()に感謝だな?」

「ふふん、じゃあついでに。私の事も『先生』って呼んでもいいよ?」

「じゃあ先生、俺にその暗示術を教えてください……なんて」

「あはは、じゃあ……」

 

 匡近に負けない笑みで、真菰は堂々と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早速この『鱗滝式暗示術』を……」

「それはださいからやめよう?」

 

 その時の匡近の顔は、今までにない凄まじい真顔であった。




Q.しかしなに故真菰を姑獲鳥戦に……?
A.『鱗滝式暗示術による浦賀救済』という、ハーメルンで誰も成し得なかったルートを構築する為です。

主人公の将来的な身長はどれがいいか

  • 166cm
  • 172cm
  • 184cm
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